それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

4 / 41
∅3 帰還

ドワーフの鍛治部屋。

赤熱した炉が唸り、鉄と魔鉱石の匂いが充満している。

 

カイジン「客人か。少し待ってくれ」

 

槌を振るう音が止み、屈強なドワーフが振り返る。

 

セリオス(綾音)「お邪魔します」

 

ドワーフ1「カイジン。俺の兄貴だ」

 

ガルム「カイジンさん。このスライムですよ。俺たちにポーションをくれた」

 

カイジン「おお、そうだったのか」

カイジン「命を救ってくれた恩は忘れん。感謝する」

 

カイジンは深く頭を下げ、すぐに職人の顔に戻る。

 

カイジン「それで、今日は何の用だ?」

 

セリオス(綾音)は、テンペストの現状と技術者を求めている事情を簡潔に説明した。

 

カイジン「なるほどな。話は分かった」

カイジン「だが、すまん。今は立て込んでいる」

 

カイジン「どこぞの馬鹿大臣がな、無理な注文を押し付けてきやがった」

カイジン「ロングソードを二十本。今週中だ」

 

カイジンは歯噛みする。

 

カイジン「材料が足りなくてな。まだ一本しか出来ていない」

 

セリオス(綾音)「材料があれば、どれくらいで完成しますか?」

 

カイジン「魔鉱石という特殊な鉱石が必要だ」

カイジン「あっても通常なら二週間」

カイジン「だが、王への納品期限はあと五日だ」

 

セリオス(綾音)「なるほど」

セリオス(綾音)「では、取引しませんか?」

 

カイジン「取引?」

 

セリオス(綾音)「ロングソード二十本を量産します」

セリオス(綾音)「その対価として、技術指導をお願いします」

 

カイジン「俺の剣を量産だと?」

カイジン「どうやる?」

 

セリオス(綾音)「オリジナルを解析し、同一物資で生成します」

セリオス(綾音)「品質はわずかに劣りますが、戦争用途なら十分です」

 

カイジン「……面白い」

カイジン「試すだけならいい」

カイジン「だが、オリジナルは壊すなよ」

 

セリオス(綾音)「もちろんです」

 

解析が始まり、淡く光る魔法陣からロングソードが次々と吐き出される。

 

カイジン「嘘だろ……」

カイジン「俺の剣と、ほとんど同じじゃねえか」

 

セリオス(綾音)「細部は違います」

セリオス(綾音)「魔鉱石の純度と加工法の差で、耐久性は少し落ちます」

 

カイジン「だが、この出来なら問題ない」

カイジン「全部納品できる」

 

カイジンは剣を抱え、王城へ向かった。

 

その夜。

 

セリオス(綾音)「……お祝い?」

 

カイジン「リムルの旦那がいないと始まらねえ」

 

セリオス(綾音)「分かりました」

 

ガールズバー風の居酒屋。

華やかな照明と酒の香り、笑い声が満ちている。

 

セリオス(綾音)「まあ、そうなるよね……」

セリオス(綾音)「元女の私から見ても、綺麗な人が多い……」

セリオス(綾音)「ああ、こういう魅力的な女性になりたかったな」

 

エルフ1「あー、かわいいーー!」

エルフ2「私が先に目を付けてたんだからね!」

 

セリオス(綾音)「え、ちょっと待って私……」

 

エルフ3「ぽよぽよしてて気持ちいいー」

 

セリオス(綾音)「女の私でも……これは……」

 

ママさん「さあ、飲みましょ」

 

カイジン「しかし恐れ入った」

カイジン「あんな短時間で量産するとはな」

 

セリオス(綾音)「オリジナルには敵いませんよ」

 

カイジン「正直、思うところはある」

カイジン「だが次は、真似できないものを作ってやる」

 

ママさん「スライムさん、味は分かるの?」

 

セリオス(綾音)「人工味蕾を搭載しています」

セリオス(綾音)「人間より劣りますが」

 

ママさん「すごいわね」

 

セリオス(綾音)「綺麗な人に注がれて飲むお酒は、美味しいです」

 

ママさん「まあ、お上手」

 

そこへ扉が開く。

 

ベスター「いいのですかな、カイジン殿」

ベスター「こんな所でのんびりしていて」

 

カイジン「ベスター……」

 

ベスター「確か、ロングソードの納期は――」

 

セリオス(綾音)「先程、納品は完了しています」

セリオス(綾音)「王城に確認なさっては?」

 

ベスター「なに?」

 

ベスターは視線を歪め、セリオス(綾音)を睨む。

 

ベスター「それに、その騒がしいスライム」

ベスター「この上品な店に、下等な魔物とは不快だ」

 

ベスター「魔物には、こうするのがお似合いだ」

 

ビールがセリオス(綾音)に浴びせられる。

 

エルフ1「きゃっ」

 

セリオス(綾音)「大丈夫?」

セリオス(綾音)「ドレスにかからなかった?」

 

エルフ1「ええ、大丈夫です」

 

次の瞬間、カイジンの拳がベスターを殴り飛ばした。

 

カイジン「ベスター!」

カイジン「俺の客に何してくれてんだ!」

 

ベスター「貴様……!」

 

セリオス(綾音)「ストップ」

 

場が凍りつく。

 

セリオス(綾音)「ここでは裁判があるはずです」

セリオス(綾音)「証拠を集め、法廷で争いましょう」

 

カイジン「……分かった」

ベスター「望むところだ」

 

セリオス(綾音)「ママさん、皆さんの証言をお願いします」

 

ママさん「ええ」

 

翌日、法廷。

 

騎士「ガゼル・ドワルゴ国王陛下のご入場である」

 

裁判長「これより裁判を始める。一同起立」

 

弁護人の不在を確認し、セリオス(綾音)が一歩前に出る。

 

セリオス(綾音)「国王様、発言を」

 

ドワルゴ「ああ、許可する」

 

裁判長「発言を認める」

 

セリオス(綾音)「先ほどからの証言には矛盾があります」

セリオス(綾音)「却下された証拠を、再提出させてください」

 

ドワルゴ「見せてみよ」

 

ママさんの証言記録が提出される。

 

セリオス(綾音)「第三者の証言です」

セリオス(綾音)「ベスターが先に暴言を吐き、酒をかけた」

セリオス(綾音)「その後、カイジンが二発殴った」

 

セリオス(綾音)「しかし、ベスターの証言では順序が逆です」

 

ドワルゴ「それは事実か?」

 

セリオス(綾音)「さらに、本来中立であるべき弁護がベスターのみを擁護しています」

セリオス(綾音)「これは買収の疑いがあります」

 

裁判長「……判決を言い渡す」

裁判長「主犯カイジン、強制労働二十年」

裁判長「共犯者、強制労働十年」

 

裁判長「閉廷」

 

ドワルゴ「待て」

 

場が静まり返る。

 

ドワルゴ「久しいな、カイジン」

ドワルゴ「余の元に戻る気はないか?」

 

カイジン「恐れながら王よ」

カイジン「私は主を得ました」

カイジン「この契は、我が宝」

 

騎士「無礼な!」

 

ドワルゴ「やめい」

 

ドワルゴ「判決を変更する」

ドワルゴ「カイジン及びその仲間」

ドワルゴ「そしてベスターを国外追放とする」

 

ドワルゴ「余の前から消えよ」

 

こうして一行は追放され、テンペストへと帰還することとなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。