ドワーフの鍛治部屋。
赤熱した炉が唸り、鉄と魔鉱石の匂いが充満している。
カイジン「客人か。少し待ってくれ」
槌を振るう音が止み、屈強なドワーフが振り返る。
セリオス(綾音)「お邪魔します」
ドワーフ1「カイジン。俺の兄貴だ」
ガルム「カイジンさん。このスライムですよ。俺たちにポーションをくれた」
カイジン「おお、そうだったのか」
カイジン「命を救ってくれた恩は忘れん。感謝する」
カイジンは深く頭を下げ、すぐに職人の顔に戻る。
カイジン「それで、今日は何の用だ?」
セリオス(綾音)は、テンペストの現状と技術者を求めている事情を簡潔に説明した。
カイジン「なるほどな。話は分かった」
カイジン「だが、すまん。今は立て込んでいる」
カイジン「どこぞの馬鹿大臣がな、無理な注文を押し付けてきやがった」
カイジン「ロングソードを二十本。今週中だ」
カイジンは歯噛みする。
カイジン「材料が足りなくてな。まだ一本しか出来ていない」
セリオス(綾音)「材料があれば、どれくらいで完成しますか?」
カイジン「魔鉱石という特殊な鉱石が必要だ」
カイジン「あっても通常なら二週間」
カイジン「だが、王への納品期限はあと五日だ」
セリオス(綾音)「なるほど」
セリオス(綾音)「では、取引しませんか?」
カイジン「取引?」
セリオス(綾音)「ロングソード二十本を量産します」
セリオス(綾音)「その対価として、技術指導をお願いします」
カイジン「俺の剣を量産だと?」
カイジン「どうやる?」
セリオス(綾音)「オリジナルを解析し、同一物資で生成します」
セリオス(綾音)「品質はわずかに劣りますが、戦争用途なら十分です」
カイジン「……面白い」
カイジン「試すだけならいい」
カイジン「だが、オリジナルは壊すなよ」
セリオス(綾音)「もちろんです」
解析が始まり、淡く光る魔法陣からロングソードが次々と吐き出される。
カイジン「嘘だろ……」
カイジン「俺の剣と、ほとんど同じじゃねえか」
セリオス(綾音)「細部は違います」
セリオス(綾音)「魔鉱石の純度と加工法の差で、耐久性は少し落ちます」
カイジン「だが、この出来なら問題ない」
カイジン「全部納品できる」
カイジンは剣を抱え、王城へ向かった。
その夜。
セリオス(綾音)「……お祝い?」
カイジン「リムルの旦那がいないと始まらねえ」
セリオス(綾音)「分かりました」
ガールズバー風の居酒屋。
華やかな照明と酒の香り、笑い声が満ちている。
セリオス(綾音)「まあ、そうなるよね……」
セリオス(綾音)「元女の私から見ても、綺麗な人が多い……」
セリオス(綾音)「ああ、こういう魅力的な女性になりたかったな」
エルフ1「あー、かわいいーー!」
エルフ2「私が先に目を付けてたんだからね!」
セリオス(綾音)「え、ちょっと待って私……」
エルフ3「ぽよぽよしてて気持ちいいー」
セリオス(綾音)「女の私でも……これは……」
ママさん「さあ、飲みましょ」
カイジン「しかし恐れ入った」
カイジン「あんな短時間で量産するとはな」
セリオス(綾音)「オリジナルには敵いませんよ」
カイジン「正直、思うところはある」
カイジン「だが次は、真似できないものを作ってやる」
ママさん「スライムさん、味は分かるの?」
セリオス(綾音)「人工味蕾を搭載しています」
セリオス(綾音)「人間より劣りますが」
ママさん「すごいわね」
セリオス(綾音)「綺麗な人に注がれて飲むお酒は、美味しいです」
ママさん「まあ、お上手」
そこへ扉が開く。
ベスター「いいのですかな、カイジン殿」
ベスター「こんな所でのんびりしていて」
カイジン「ベスター……」
ベスター「確か、ロングソードの納期は――」
セリオス(綾音)「先程、納品は完了しています」
セリオス(綾音)「王城に確認なさっては?」
ベスター「なに?」
ベスターは視線を歪め、セリオス(綾音)を睨む。
ベスター「それに、その騒がしいスライム」
ベスター「この上品な店に、下等な魔物とは不快だ」
ベスター「魔物には、こうするのがお似合いだ」
ビールがセリオス(綾音)に浴びせられる。
エルフ1「きゃっ」
セリオス(綾音)「大丈夫?」
セリオス(綾音)「ドレスにかからなかった?」
エルフ1「ええ、大丈夫です」
次の瞬間、カイジンの拳がベスターを殴り飛ばした。
カイジン「ベスター!」
カイジン「俺の客に何してくれてんだ!」
ベスター「貴様……!」
セリオス(綾音)「ストップ」
場が凍りつく。
セリオス(綾音)「ここでは裁判があるはずです」
セリオス(綾音)「証拠を集め、法廷で争いましょう」
カイジン「……分かった」
ベスター「望むところだ」
セリオス(綾音)「ママさん、皆さんの証言をお願いします」
ママさん「ええ」
翌日、法廷。
騎士「ガゼル・ドワルゴ国王陛下のご入場である」
裁判長「これより裁判を始める。一同起立」
弁護人の不在を確認し、セリオス(綾音)が一歩前に出る。
セリオス(綾音)「国王様、発言を」
ドワルゴ「ああ、許可する」
裁判長「発言を認める」
セリオス(綾音)「先ほどからの証言には矛盾があります」
セリオス(綾音)「却下された証拠を、再提出させてください」
ドワルゴ「見せてみよ」
ママさんの証言記録が提出される。
セリオス(綾音)「第三者の証言です」
セリオス(綾音)「ベスターが先に暴言を吐き、酒をかけた」
セリオス(綾音)「その後、カイジンが二発殴った」
セリオス(綾音)「しかし、ベスターの証言では順序が逆です」
ドワルゴ「それは事実か?」
セリオス(綾音)「さらに、本来中立であるべき弁護がベスターのみを擁護しています」
セリオス(綾音)「これは買収の疑いがあります」
裁判長「……判決を言い渡す」
裁判長「主犯カイジン、強制労働二十年」
裁判長「共犯者、強制労働十年」
裁判長「閉廷」
ドワルゴ「待て」
場が静まり返る。
ドワルゴ「久しいな、カイジン」
ドワルゴ「余の元に戻る気はないか?」
カイジン「恐れながら王よ」
カイジン「私は主を得ました」
カイジン「この契は、我が宝」
騎士「無礼な!」
ドワルゴ「やめい」
ドワルゴ「判決を変更する」
ドワルゴ「カイジン及びその仲間」
ドワルゴ「そしてベスターを国外追放とする」
ドワルゴ「余の前から消えよ」
こうして一行は追放され、テンペストへと帰還することとなった。