それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅39調停者

──それは、胸の奥を強く揺さぶる懐かしい響きだった。

情報管制塔の中枢に展開されたホログラムに、ひとつの識別信号が浮かび上がる。

それはかつてセリオス(綾音)が深く関わり、理論と未来を語り合い、そして忽然と消えた人物のものだった。

いや、もはや人物ではない。

世界線を超えて存在し続ける、“存在”そのものの痕跡だった。

 

セリオス(綾音)「このIDコード……まさか……“イズモ”……?」

 

思わず声が震える。

知っているはずの未来には、彼はいなかった。

それなのに、確かにここにいるという事実が、思考を乱す。

 

カエデ「えっ、イズモさん!?」

 

セリオス(綾音)「間違いない!」

 

その瞬間、管制塔の巨大な窓の向こうを、銀色の閃光が貫いた。

空間そのものが裂けるように歪み、時空の底から引き上げられるように一隻の艦が姿を現す。

重厚でありながら洗練された艦影。

その船体には、明確な意志を持つ名が刻まれていた。

 

ピースギア。

数多の世界線を横断し、均衡と調停を司るパラレルワールド組織。

 

艦の先頭、転送フィールドの中に人影が立つ。

かつて地球で、セリオス(綾音)と共に境界理論を構築し、未来を語り、そして姿を消した男。

 

イズモ「久しぶりだな、綾音」

 

セリオス(綾音)「転生してからは、はじめましてね」

 

イズモ「どちらの形態でもいい。とりあえず、これでよろしく」

 

軽い調子とは裏腹に、その眼差しは世界の深層を見据えていた。

 

イズモ「元はな。だが今やピースギアは、数千の世界線にまたがる調停組織となった。君たちの音霊研究……それが起爆点だったんだよ、綾音」

 

セリオス(綾音)「……それで、“なぜ今、コンタクトしてきたの”」

 

言葉の裏に、嫌な予感が広がる。

この世界は、彼女の知る流れから既に外れている。

 

イズモ「音霊が“目覚め”始めている。しかも、制御不能なほどにな。君たちの手には、いずれ負えなくなる」

 

背後で、低く抑えた声が響いた。

 

ディアブロ「それは、我々の技術を侮る言い方にも聞こえるぞ、イズモ」

 

イズモ「ディアブロ。君の研究は高く評価している。ただ、これは“技術”の問題じゃない。“意志”の問題だ」

 

その直後、情報管制塔全体が大きく揺れた。

警告音が重なり、大魔法陣の映像が乱れる。

予兆もなく、魔法陣が“逆共鳴”を起こし始めていた。

 

カリストス「音霊が……この空間に、意思を投影している……!」

 

術式制御を試みたシュナの表情が歪む。

魔素の流れが制御を拒み、暴走する。

 

シュナ「防壁が……崩れるっ!」

 

次の瞬間、音霊の咆哮のような重低音が都市全域に響き渡った。

空気そのものが震え、人々の心を直接揺さぶる。

 

その中心。

大魔法陣の上空に、淡く揺らめく存在が浮かび上がる。

それはかつて、セリオス(綾音)が亡き家族へ想いを届けるために作り上げた、未完成の音霊だった。

 

セリオス(綾音)「……これは、私の“祈り”だった……!」

 

胸を締めつける後悔と、消えない想い。

知らぬ間に、それが世界を揺るがす核へと変質していた。

 

イズモ「それが今や、世界の“扉”になろうとしている」

 

音霊(残響)「わたしは、こえ。こえは、つながり。つながりは、せかいを、ゆらす。」

 

次の瞬間、ピースギア艦隊から複数の転送装置が展開される。

重なり合う光の中、巨大な多次元封印陣が起動した。

 

カリストス「セリオス(綾音)、決断を。音霊を“封印”するか、ピースギアの意思で“共鳴制御”に移行するか――これは、君の選択だ」

 

一瞬の沈黙。

セリオス(綾音)は、揺れる光の中心を見据えた。

予測できない未来。

それでも、逃げることはできない。

 

セリオス(綾音)「……私は、あなたたちを信じる。イズモ、カリストス、お願い。音霊と共に、未来へ繋いで……!」

 

イズモは静かに目を細め、わずかに笑った。

 

イズモ「了解した。君が未来を恐れぬ限り、我々はその道を共に歩む」

 

──激しい音と光の奔流の中、

世界は再び、“調和”へ向かって歩み出していた。

 

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