帰還から数週間が過ぎた頃。
大森林の一角に築かれた村では、カイジンたちの指導により、ゴブリンたちの生活は一変していた。
衣服は布で縫われ、保存の利く食糧が備蓄され、木と石で組まれた住居が整然と並ぶ。
文化水準は一気に引き上げられ、中世ヨーロッパに近い段階へと到達していた。
セリオス(綾音)「基礎はだいたい行き渡ったかな。このあと段階的にクデュックの技術体系を教えてもいいかも」
カエデ「現状ではまだ早いですね。この世界の受容能力を超える恐れがあります」
セリオス(綾音)「だよね。焦らず、まずは足場を固めよう」
その時、村の入口から慌ただしい足音が響いた。
リグルド「リムル様ー!」
セリオス(綾音)「どうしたの?」
リグルド「警備班より報告です。村から五キロ離れた地点で、不審な人間を四名確認しました」
セリオス(綾音)「了解。第三種警戒態勢。目標から五百メートル距離を保って監視。私が直接コンタクトする」
リグルド「承知しました」
森を抜け、指定地点へ向かうと、異様な光景が広がっていた。
体長十メートルはある巨大なアリ、ジャイアントアントが、人間たちを囲み今にも襲いかかろうとしている。
セリオス(綾音)「あー、よりによってそれか」
一瞬で距離を詰め、魔力刃が閃く。
外殻を断ち割られたジャイアントアントは悲鳴を上げる間もなく倒れた。
旅人(ガバル)「……スライム?」
セリオス(綾音)「スライムですが?」
ガバル「スライムがしゃべったぞ……」
エレン「信じられない……」
セリオス(綾音)「人工声帯だから、ちょっと音が違うんだよね」
視線が一人の女性に向く。
黒髪の女性は、どこか懐かしさと疲労を滲ませていた。
セリオス(綾音)「そのお面、黒髪の人のだよね。落ちてたから返すよ」
シズ「……ありがとう」
その夜、村の簡素な宿泊施設。
旅人たちは与えられた部屋で落ち着かない様子だった。
セリオス(綾音)「今日来た旅人たちは?」
リグルド「それが……」
奥から三人の言い争う声が聞こえてくる。
綾音は記憶を辿り、確信する。
この面々は、村に来る前に洞窟で遭遇した人間たちだ。
リグルド「大したもてなしはできませんが、くつろいでいただけていますかな」
リグルド「改めて紹介しましょう。我が主、リムル・セリオス様です」
セリオス(綾音)「リムル・セリオスです。前世の名前で、綾音って呼んでもらってもいいよ」
旅人全員「主!?」
セリオス(綾音)「まあまあ。それより、何の目的でここへ?」
旅人たちは順に名乗り、ブルムンド王国のギルドから調査依頼を受け、この森に来たことを説明した。
セリオス(綾音)「国際的な手続きを踏まずに建国してるけど、大丈夫かな?」
ギド「その辺は俺たちじゃ判断できやせん。ギルドに報告して確認してもらいましょう」
セリオス(綾音)「だよね。とりあえず今日は休んで」
夕方。
宿の外で、シズとセリオス(綾音)は並んで座っていた。
シズ「スライムさん、日本から来たんでしょ」
セリオス(綾音)「うん。かなり未来の日本だけど」
シズ「それでも……会えてよかった」
シズ「でも、どうしてこっちに?」
セリオス(綾音)「ミサイルが宿舎に直撃して爆死。気づいたら転生してた」
シズ「……大変だったね」
セリオス(綾音)「シズさんは違うの?」
シズ「私は召喚者。ずっと昔、街が燃えて、空から爆弾が降ってきて……母と手を離してしまって」
セリオス(綾音)「ごめん。思い出させちゃったね」
シズ「ううん、大丈夫」
セリオス(綾音)「じゃあ、ちょっと面白いもの見せるよ」
思念が繋がり、映像が流れ込む。
戦後の日本、復興、三度の大震災、それでも立ち上がる人々。
さらに転生後に見たクデュック、ネルフ、ピースギアの世界。
シズ「……すごい」
セリオス(綾音)「戦争が終わっても、災害があっても、人は復興した。だから私は、誰も殺さない国を作りたい」
シズ「素敵だね。そうなるといいな」
その時、シズの身体がふらついた。
セリオス(綾音)「大丈夫!?」
シズ「ええ……たぶん」
セリオス(綾音)「今日はもう休もう。また明日」
シズ「ええ、また」
夜が更け、別区画ではカイジンたちによる会議が静かに始まっていた。