朝の柔らかな光が、村の広場を照らしていた。
昨夜の騒動が嘘のように、空気は静かで澄んでいる。
セリオス(綾音)「ここ、気に入ってもらえた?」
シズ「ええ、とっても」
その微笑みは穏やかだが、どこか儚く見えた。
綾音は理由もなく胸の奥がざわつくのを感じる。
セリオス(綾音)「そういえば、旅の目的……まだちゃんと聞いてなかったよね」
シズ「旅の目的は、私を召喚した人に会いに行くこと」
セリオス(綾音)「そっか」
シズはそれ以上を語らず、視線を伏せた。
言葉を飲み込む仕草に、長い時間を背負ってきた重さが滲む。
セリオス(綾音)「……分かった。
帰り道にでも、また寄ってよ」
シズ「うん」
それからしばらくして、旅立ちの準備が整う。
村人たちが見送りに集まる中、突然、シズが胸を押さえて膝をついた。
セリオス(綾音)「シズさん?」
次の瞬間、爆音とともに熱風が弾ける。
炎が渦を巻き、シズの身体を包み込んだ。
セリオス(綾音)「第一戦闘配置!
非戦闘員は地下シェルターへ!」
リグルド「了解しました!」
炎は意思を持つように膨張し、テントや木造建築に次々と燃え移る。
赤い光の中心で、巨大な炎の魔人が姿を現した。
セリオス(綾音)「……イフリート。
宣戦布告ということでいいですね」
イフリート「……」
セリオス(綾音)「炎属性。
酸欠と冷却が有効……」
円を描くように、イフリートの分身が次々と現れる。
熱と圧が空気を歪ませた。
セリオス(綾音)「冷凍マシンガン、出せる?」
大賢者「氷魔法を応用した冷凍マシンガンを生成しますか?」
セリオス(綾音)「お願い」
氷結弾が放たれ、分身は次々と砕け散る。
本体だけが残り、怒りの炎が綾音を包み込んだ。
だが、ダメージはない。
炎を受け止め、その魔力ごと抱え込む。
セリオス(綾音)「……終わり」
捕食。
炎の魔人は分解され、シズの魂だけが解き放たれる。
同時に解析が進み、炎属性魔法が綾音の中に刻まれた。
翌朝。
テンペストホテルの一室は、静かだった。
シズ「ねえ、スライムさん。
少し、聞いてくれる?」
セリオス(綾音)「うん」
シズはゆっくりと語り始める。
召喚され、イフリートを憑依させられたこと。
制御できず、友を殺してしまったこと。
シズ「私は魔王の側近として使われ続けた」
シズ「でも、勇者に出会ったの」
セリオス(綾音)「うん」
シズ「魔王は城を捨てて、私を殿に残した」
シズ「勇者と戦って……殺されると思った」
シズ「でも話しかけてくれた。
どうしてここにいるのか、どう生きてきたのかって」
シズ「私の話を信じてくれた」
綾音はただ、黙って頷く。
シズ「魔法抵抗を高めて、イフリートを抑える方法を教えてくれて」
シズ「一緒に旅をして、この世界を知った」
シズ「仮面の力で、誰かを助けて戦った」
セリオス(綾音)「……かっこいいよ」
シズ「幸せだった」
シズ「でも、あの人はいなくなった。
私を置いて」
セリオス(綾音)「……なんで?」
シズ「分からない」
シズ「強くなろうと思った。
苦しんでる人を助けようって」
シズ「だから学校の先生になった」
セリオス(綾音)「この世界にも学校があるんだね」
シズ「イングラシア王国で、異世界の子たちを教えてた」
シズ「楽しかったよ。
でも寿命が近づいて、イフリートを抑えられなくなった」
シズ「だから旅に出た。
私を召喚した男を探すために」
セリオス(綾音)「……復讐?」
シズ「分からない。
ただ、確かめたかった」
シズは静かに微笑んだ。
シズ「ねえ、スライムさん。
あなたの名前は?」
セリオス(綾音)「茨波綾音。
こっちでは、リムル・セリオス」
シズ「私は、井沢静江」
しばらく沈黙が流れる。
シズ「……お願いがあるの」
セリオス(綾音)「うん」
シズ「私を食べて」
セリオス(綾音)「……っ」
シズ「呪いを食べてくれた時、嬉しかった」
シズ「この世界、嫌いになれなかった」
シズ「だから……最後は、あなたの中で眠りたい」
セリオス(綾音)「……本当は、治して、もっと話したかった」
セリオス(綾音)「会いたかった人の名前は?」
シズ「レオン・クロムウェル」
セリオス(綾音)「……分かった」
シズ「最強の魔王の一人」
シズ「もし、あの子たちが救われるなら……」
セリオス(綾音)「必ず何とかする。
クデュックの科学技術で」
セリオス(綾音)「そして、レオン・クロムウェルに、あなたの想いを届ける」
シズ「ありがとう」
その言葉を最後に、シズは静かに動かなくなった。
セリオス(綾音)は捕食者を発動し、彼女をその身に取り込んだ。