それでも、誰も殺さないと決めた   作:最上 イズモ

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∅5 爆炎の支配者

朝の柔らかな光が、村の広場を照らしていた。

昨夜の騒動が嘘のように、空気は静かで澄んでいる。

 

セリオス(綾音)「ここ、気に入ってもらえた?」

 

シズ「ええ、とっても」

 

その微笑みは穏やかだが、どこか儚く見えた。

綾音は理由もなく胸の奥がざわつくのを感じる。

 

セリオス(綾音)「そういえば、旅の目的……まだちゃんと聞いてなかったよね」

 

シズ「旅の目的は、私を召喚した人に会いに行くこと」

 

セリオス(綾音)「そっか」

 

シズはそれ以上を語らず、視線を伏せた。

言葉を飲み込む仕草に、長い時間を背負ってきた重さが滲む。

 

セリオス(綾音)「……分かった。

帰り道にでも、また寄ってよ」

 

シズ「うん」

 

それからしばらくして、旅立ちの準備が整う。

村人たちが見送りに集まる中、突然、シズが胸を押さえて膝をついた。

 

セリオス(綾音)「シズさん?」

 

次の瞬間、爆音とともに熱風が弾ける。

炎が渦を巻き、シズの身体を包み込んだ。

 

セリオス(綾音)「第一戦闘配置!

非戦闘員は地下シェルターへ!」

 

リグルド「了解しました!」

 

炎は意思を持つように膨張し、テントや木造建築に次々と燃え移る。

赤い光の中心で、巨大な炎の魔人が姿を現した。

 

セリオス(綾音)「……イフリート。

宣戦布告ということでいいですね」

 

イフリート「……」

 

セリオス(綾音)「炎属性。

酸欠と冷却が有効……」

 

円を描くように、イフリートの分身が次々と現れる。

熱と圧が空気を歪ませた。

 

セリオス(綾音)「冷凍マシンガン、出せる?」

 

大賢者「氷魔法を応用した冷凍マシンガンを生成しますか?」

 

セリオス(綾音)「お願い」

 

氷結弾が放たれ、分身は次々と砕け散る。

本体だけが残り、怒りの炎が綾音を包み込んだ。

 

だが、ダメージはない。

炎を受け止め、その魔力ごと抱え込む。

 

セリオス(綾音)「……終わり」

 

捕食。

炎の魔人は分解され、シズの魂だけが解き放たれる。

同時に解析が進み、炎属性魔法が綾音の中に刻まれた。

 

翌朝。

テンペストホテルの一室は、静かだった。

 

シズ「ねえ、スライムさん。

少し、聞いてくれる?」

 

セリオス(綾音)「うん」

 

シズはゆっくりと語り始める。

召喚され、イフリートを憑依させられたこと。

制御できず、友を殺してしまったこと。

 

シズ「私は魔王の側近として使われ続けた」

 

シズ「でも、勇者に出会ったの」

 

セリオス(綾音)「うん」

 

シズ「魔王は城を捨てて、私を殿に残した」

 

シズ「勇者と戦って……殺されると思った」

 

シズ「でも話しかけてくれた。

どうしてここにいるのか、どう生きてきたのかって」

 

シズ「私の話を信じてくれた」

 

綾音はただ、黙って頷く。

 

シズ「魔法抵抗を高めて、イフリートを抑える方法を教えてくれて」

 

シズ「一緒に旅をして、この世界を知った」

 

シズ「仮面の力で、誰かを助けて戦った」

 

セリオス(綾音)「……かっこいいよ」

 

シズ「幸せだった」

 

シズ「でも、あの人はいなくなった。

私を置いて」

 

セリオス(綾音)「……なんで?」

 

シズ「分からない」

 

シズ「強くなろうと思った。

苦しんでる人を助けようって」

 

シズ「だから学校の先生になった」

 

セリオス(綾音)「この世界にも学校があるんだね」

 

シズ「イングラシア王国で、異世界の子たちを教えてた」

 

シズ「楽しかったよ。

でも寿命が近づいて、イフリートを抑えられなくなった」

 

シズ「だから旅に出た。

私を召喚した男を探すために」

 

セリオス(綾音)「……復讐?」

 

シズ「分からない。

ただ、確かめたかった」

 

シズは静かに微笑んだ。

 

シズ「ねえ、スライムさん。

あなたの名前は?」

 

セリオス(綾音)「茨波綾音。

こっちでは、リムル・セリオス」

 

シズ「私は、井沢静江」

 

しばらく沈黙が流れる。

 

シズ「……お願いがあるの」

 

セリオス(綾音)「うん」

 

シズ「私を食べて」

 

セリオス(綾音)「……っ」

 

シズ「呪いを食べてくれた時、嬉しかった」

 

シズ「この世界、嫌いになれなかった」

 

シズ「だから……最後は、あなたの中で眠りたい」

 

セリオス(綾音)「……本当は、治して、もっと話したかった」

 

セリオス(綾音)「会いたかった人の名前は?」

 

シズ「レオン・クロムウェル」

 

セリオス(綾音)「……分かった」

 

シズ「最強の魔王の一人」

 

シズ「もし、あの子たちが救われるなら……」

 

セリオス(綾音)「必ず何とかする。

クデュックの科学技術で」

 

セリオス(綾音)「そして、レオン・クロムウェルに、あなたの想いを届ける」

 

シズ「ありがとう」

 

その言葉を最後に、シズは静かに動かなくなった。

セリオス(綾音)は捕食者を発動し、彼女をその身に取り込んだ。

 

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