数週間後。
資材調達に出ていたリグルドから、切迫した救援要請が届いた。
綾音は即座に状況を把握し、現場へ急行する。
現地では、ランガとヴォルフが前線に立ち、六人のオーガと激しく対峙していた。
しかし力の差は明白で、押し切られつつある。
地面には血が飛び、仲間たちの呼吸も荒い。
セリオス(綾音)「全員、下がって」
即座にフルポーションを配布し、負傷者を後方へ退避させる。
同時にテンペストへ第一種戦闘態勢の発令を指示した。
この数週間で、綾音は密かに近代兵器の開発を進めていた。
催眠ガス爆弾。
スタングレネード。
催眠グレネード。
麻酔弾とゴム弾を使用するマシンガンとライフル。
そして、電気魔法技術によって戦車サイズまで小型化したレールガン式ICBM。
すべて非殺傷を前提とした制圧用兵装だ。
セリオス(綾音)「さて……この状況」
戦場を一瞥し、思考を巡らせる。
交戦権を行使するか。
それとも交渉か。
セリオス(綾音)「……ショーコさんなら、交渉するよね」
一歩前に出て、静かに声を張る。
セリオス(綾音)「うちの者が、ご迷惑をおかけしました。
交渉の場を設けてもらえませんか?」
オーガたちの視線が一斉に集まる。
赤いオーガ「正体を現せ、邪悪な魔人め」
セリオス(綾音)「邪悪な魔人?」
赤いオーガ「魔物を使役するなど、普通の人間にできる芸当ではない」
赤いオーガ「見た目を偽り、オーラを抑えているようだが……甘いわ!」
白髪の老いたオーガ「正体を表すがいい」
青のオーガ「黒幕自ら出向くとは、好都合というものだ」
セリオス(綾音)「私は――」
赤いオーガ「黙れ。
貴様の言葉など聞く価値はない」
赤いオーガ「その仮面が、すべてを物語っている」
セリオス(綾音)「これは誤解です。この仮面は、シズさんの形見で――」
赤いオーガ「同胞の無念、その身をもって贖ってもらおう」
赤いオーガ「邪悪なる豚どもの仲間め」
セリオス(綾音)「……交渉決裂、か」
セリオス(綾音)「ただし、交戦はします。
非殺傷で」
瞬間、綾音の動きが変わる。
ハンマーを構えたオーガに催眠グレネードを投擲。
地面に転がると同時に、巨体が崩れ落ちる。
続けて青い女性オーガを拘束。
青のオーガにはスタングレネードを投げ、意識を刈り取った。
一連の動きは、あまりにも静かで正確だった。
桃色の女性オーガ「あんなに……簡単に……」
セリオス(綾音)「残存戦力での戦闘継続は不可能だと思われますが。
それでも、続行しますか?」
赤いオーガ「黙れ、邪悪な魔人め!」
赤いオーガ「貴様は奴らの仲間だ。たかがオークごときに、我らオーガが負けるはずがない!」
セリオス(綾音)「……これは、別件がありそうね」
白髪の老いたオーガが一気に距離を詰め、斬りかかる。
だが刃は空を切った。
白髪の老いたオーガ「……わしも、もうろくしたか」
白髪の老いたオーガ「首を刎ねたと思ったのだがな」
次の瞬間、赤いオーガが日本刀に炎を纏わせて斬りかかる。
しかしその一撃は、不可視の壁に阻まれ、霧散した。
赤いオーガ「なに……!?」
セリオス(綾音)「さて……スキルを使いますか」
イフリート由来の炎系スキルと、黒稲妻を統合。
黒炎が立ち上り、続けざまに黒稲妻が威嚇射撃として地面を穿つ。
圧倒的な威圧。
戦意が、明確に削がれていく。
桃色のオーガ「……もう、やめて」
その一言が引き金となり、場の緊張が切れた。
やがて赤いオーガは膝をつき、深く頭を下げた。
誤解と早計を詫び、テンペストへと案内される。
宴が開かれ、酒と料理が並ぶ中、彼らは仲間となった。
語られたのは、オークの背後に仮面の魔人がいるという情報。
それを聞いた綾音は、静かに次の一手を思案する。
セリオス(綾音)「……やっぱり、来たか」
戦いは、まだ始まったばかりだった。