猿渡は口角を少し上げ、いつの間にか手に持っていたボタンを前に投げ、能力を発動する。
シュルシュルシュルと風切り音とともに、ボタンが変化する。
現れたのは、縄を巻いて編んで作られた、直径190cm近くある大きな円形の盾だった。猿渡を狙っていた矢が全て盾に阻まれる。
すかさず盾を押し倒し、刺さっている矢を折る。地面を蹴り、進みながら体制を整え、鳥羽田に向かい走って行く。
しかし、鳥羽田は宙に浮いていて床から7mくらいは離れている。さらに、シャンデリアを背にしていて直視し辛い。
遠距離攻撃手段を持っていない相手はもちろん、持っていても有利に立ち回れる良い策だ。しかし、猿渡相手には悪手だった。
猿渡は大きく腕を振り被り、ジャケットの袖のボタンが伸び、10mの投げ輪になる。
鞭のようにしなりながら迫る縄を、鳥羽田は難なく避ける。
しかし、猿渡の狙いは鳥羽田ではなかった。
後ろのシャンデリアに縄が掛かる。すかさず縄が縮む。瞬く間に二人の距離は一メートルを切る。
「っ!」
とっさに下がる鳥羽田。縄をボタンに戻し少し上から落ちてきた猿渡のドロップキックが、ほんの一瞬前まで鳥羽田がいたところを通る。
距離を取ろうとする鳥羽田に、先程と同じ縄が伸びる。避けるも、別のシャンデリアに掛かり縮み、すれ違いざまに蹴りが炸裂する。
人間とは思えない動きで天井を縦横無尽に動き回る猿渡に対し、鳥羽田は手も足も出なかった。
高速の縄が飛んで来る。これは速度をつける為か、直前に腕を突いたり振ったりするので、なんとか避けられる。だが、避けたあとには必ず縄はシャンデリアを捉える。
縄に引かれものすごいスピードで猿渡が突撃してくる。近距離でのこれは来ることが分かっていなければ絶対に避けられない。
息をする暇もなく、次の縄が来る。
流れるように畳みかける猿渡の猛攻に反撃できるほど、鳥羽田は戦い慣れていなかった。打開策、いや、取れる手段は一つしか残っていなかった。
地上に降りることだ。
地上に降りれば、状況は悪化するかもしれない。しかし、このまま空中で戦っていても、いずれやられるだけ、そう判断した鳥羽田は重力に従う。
無事着地した鳥羽田だが、休む時間はない。彼の頭上に影が差す。
現在、猿渡は鳥羽田のほぼ真上で落下している。よって、鳥羽田から見るとシャンデリアを背にしていて、姿が捉えずらい。
急いで後ろに飛び衝突を避ける。
猿渡は手から地面に落ち、受け身を取り、転がるように鳥羽田に跳躍する。一瞬で落下のエネルギーの殆どを推進力に変えたのだった。
鳥「グハ!」
この速度のタックルに反応できず、鳥羽田の腹に直撃する。
二人とも倒れる。鳥羽田が急いで猿渡に膝を当て、浮いて距離を置く。
ここで一旦状況を確認する。
猿渡の手にはボクシングのグローブのような縄が巻き付いていて、肘や肩の関節も縄で補強されている。そのため、無茶な動きをしてもある程度ダメージは抑えられている。そして、今までとどこか変わったような違和感がある
一方、鳥羽田はもう体が碌に動かない。彼の能力で服の中に入れている羽を動かして浮いているが、これがなければもう降参していただろう。
半分諦めながら、鳥羽田は弓道着に忍ばせていた二本の矢を飛ばす。
先ほどは10本を捌いていた猿渡だが、10m近くの落下が利いているのか上手く対処しきれていない。たまに掠っている上に、動きや表情から必死さがにじみ出ている。
鳥(これならいけるかもしれない)
そう考え、隠していた最後の矢を放つ。
直後、違和感の正体に気づく。
鳥(こいつ、ジャケットどこやった?)
頭上にあることに気づくも、もう遅い。ジャケットの前のボタン四つが大きな網に変化し、鳥羽田を捕らえる。
網の重みで地面に拘束される。
しかし、矢はまだ残っている。力を振り絞り頭を上げ、絶望する。
目に映ったのは、鎧を着ていて、折れた矢を持っている猿渡の姿だった。
矢を全て折られ、網に掛かり、体力も残っていない。勝ち目はもうないだろう。
鳥「負けだ。」
『勝者、猿渡悟』
アナウンスと同時に、能力が解除され、縄が全てボタンに戻る。
程なくして、猿渡悟と鳥羽田響矢の両方が意識を失った。
《仲介人》
猿渡悟さん
あなたの能力は
「ボタンを縄に
変える能力」
です。