魔盾の魔法使い 作:匿名希望
––––大分裂戦争。些細な辺境の争いに端を発するヘラス帝国によるアルギュレー・シルシチス亜大陸侵攻。
正に大戦争と呼べるこの世界大戦の真っ只中、オスティア回復作戦の主戦場に彼……キュアヌス・オルニスは居る。
理由は酷くシンプル。父と母が魔法使いであり、だからこそこの大戦で名を挙げようとしたのか––––純粋に正義に燃えていたのか。定かでは無いが、兎角その両親と共にこの世界に渡ってきた。
それがきっかけ、それ以上でも以下でも無い。戦地に息子を連れてくるバカが両親だったと言う不幸と、その上で子を残してヴァルハラへ旅立たれたと言う不幸が重なっただけ。
天涯孤独。戦地では戦える者なら年齢を問わずに人手としてカウントされたから死に物狂いで戦った。幸い、魔術障壁に関しては才能とやらはあったらしいから生き残る事は充分に可能だった。
と言いつつも、だ。物事を正確に伝えるならば
走馬灯の様に脳裏に駆け巡る己の半生に半ば現実逃避の様な感情と共に苦笑いを浮かべつつも、彼は
否、受け流すと言う表現は正しく無い。何重にも重ねた障壁を食い破る様に破壊を進めるソレに対して瞬間的に障壁を展開し続け、可能な限り威力を減衰させながら気と魔力の反発を利用し、魔法のみを弾くオリジナルの障壁で弾いている。それでも尚、十数枚の障壁を喰わせて威力を削いだにも関わらず、受け流しが限度。彼の魔力や気の総量的に完全反射は不可能だろう。
彼の才能は両親に言わせれば臆病者の才能––––障壁特化の完全防御型。昔は理屈抜きの直感で新しい障壁を作ったりしていたが、このバグキャラと何度かやり合って何度も死線を彷徨ってる内に理論と理屈を取り入れて、最速化や最適化を繰り返して生存能力に特化している。お陰でこのバグキャラとやり合っても五体満足で帰れる様にはなった。––––尤も、そのせいで今相対している連中が戦場に来ると抑えとして投入される様になったが。
「またテメェか!! ガッチガチに固めやがって!!」
「それはこっちのセリフだあんちょこ野郎!!」
「あんちょこ使って何が悪いんだよ!! こちとら魔法学校中退だ!! 恐れ入ったか!!」
「んな自慢してんじゃねぇよ!! てか何を恐れりゃ良いんだ!?」
と言いつつも、あんちょこ片手に大魔法をポンポン撃つ化け物、名前はナギ・スプリングフィールド。彼は自他共に認めるバグキャラであり、一撃一撃が規格外の威力を誇る。現に弾かれた筈の雷の暴風が着弾した場所には巨大なクレーターが出来上がっている。
キュアヌスはその一撃を横目で見ながら冷や汗を流しつつ、背後の殺気に対してほぼ反射的に反応する。
「斬魔剣・弐の太刀!!」
真後ろから障壁無視の斬撃が容赦無く放たれる。彼はその一撃を防ぐ為に彼の手元に障壁を展開し、刀身そのものでは無くその握る手を受け止める。
京都神鳴流、サムライマスター・青山詠春。何故彼の刀身を止めなかったか? それは障壁を素通りして人間を斬り捨てる技を放つ男であり、刀身に障壁を展開したのならば骸を晒していただろう。
「あっち行けむっつりメガネ!! お前とやるよりそこのあんちょこ野郎とやり合った方がまだマシだ!! 寝る間も惜しんで作った障壁素通りしやがって!!」
「誰がむっつりだ!! そもそも戦場で敵を斬るのは当然だろうがッ!!」
敵同士でありながら軽口の応酬、それは幾度も戦場で戦い、その度に最低限の働きをして生き延びるキュアヌスに対して彼ら−–––
高火力の魔法と、対応を間違えれば一刀両断の斬撃、この二つを必死の表情で同時に捌きながら対応するキュアヌスを遠巻きで眺めている二人もまた紅き翼の一員であり、彼は二人の方をチラチラと見ている。と言っても警戒心などでは無く…………。
「四対一は無理!! 四対一は無理!! 四対一は無理だから!! 見逃して!! マジで!! 俺とお前らの仲だろ!?」
涙目の命乞いに似たような物だが。
そもそも、既にナギ・スプリングフィールドとの一対一でギリギリだったところに青山詠春の介入である、実力のキャパシティはとうに越えており、肝心の声を掛けられた二人––––アルビレオ・イマとゼクトはと言うと。
「ふーむ、しかしな。ワシらは一つ賭けをしておってな」
「今日の夕飯を貴方に一撃入れた者に全員で奢ると言う物でしてね?」
だから諦めろ。そんな笑顔に『神は死んだッ!!』と彼が叫んだ瞬間だった。
ナギ・スプリングフィールドから放たれた
その光景は今作戦の主戦力へ対する大打撃であり、引いては戦場の主導権の喪失に近く−–––勝敗が決定的となった瞬間である。
キュアヌスはその光景を見るや否や、即座に転移符を使用する事で戦線を離脱する。元々フリーの傭兵で、かつ生存に特化したからこそ戦機に敏感であり、この一撃で今作戦の趨勢が決したのを悟ったのだ。
–––––彼の人生の転機はある意味此処であり、この直後にアリアドネーなどに身を寄せて居れば、平和に暮らせたであろう。
だが、彼は既に魅せられていた。
ナギ・スプリングフィールドと呼ばれる男が軽々と振るう圧倒的な力と、戦場で豪胆に笑うそのカリスマ性に。
それはある意味必然とも呼べる巡り合わせであり、運命の歯車に組み込まれるかの如く、その後何処かの戦場で味方として出会い、そのまま紅き翼のその一翼としてその鉄壁を張り巡らせる様になる。
そして––––その出会いこそが彼の人生を短い生涯に変える物でもあった。