魔盾の魔法使い 作:匿名希望
ジャック・ラカン襲撃事件から暫くの間、事あるごとにラカンは俺たちを襲い、そしてナギと激闘を繰り返して引き分けて行った。
鬱屈とした戦時下の中で何のしがらみも無く戦える事が余程気に入ったのか、段々と二人は仲良くなって行き、勝負が終わった後に一緒に飯を食ったり、夜の街を遊び回ったりする様になり、案の定ジャック・ラカンも紅き翼へ加入し、名実共に紅き翼は無敵の集団になったと思う。てか誰が勝てるんだこんなバグ集団。
そんな事を連合の上層部も思ったのか、とある大規模な作戦に駆り出される事になった。
『グレート=ブリッジ奪還作戦』
ヘラス帝国の侵攻力はその国力も相まって圧倒的で、二度のオスティア攻略戦こそ失敗したものの、大勢的にはメセンブリーナ連合の劣勢であり、連合側で無敵の活躍をしている紅き翼の力こそあれど、それは状況を覆す程の物では無かった。……当時は紅き翼とは敵同士だったから、コイツらの影響力がそこまでって事にめちゃくちゃ疑問に思ったけど。
実際、戦力としての紅き翼はAAAクラス以上は硬い。その制圧力はやり合ったから肌身で分かってる。並の戦力じゃ返り討ちに合うし、絶望的な数の暴力を質で捩じ伏せる事が出来る連中だ、積極登用していれば絶対に戦局に影響を与えられる筈。
俺が紅き翼に加入するきっかけになった戦場は
そう考えると以前ナギが言っていたらしい『この戦争の違和感』が何となく実感として湧いてくる。
今回の作戦も、元はと言えばヘラス帝国の大規模転移魔法による戦力投入によって戦線をすり抜け、首都であるメガロメセンブリアの喉元であるグレート=ブリッジが陥落した為の物だ。
確かに大陸間の連絡通路である此処を落とされると、
いや、既に失陥している以上ほぼ詰みとも言える。だからこそこの作戦に紅き翼を投入するのは分かる、分かるんだけど……。
「どうしたんだ? 難しい顔をして」
「ん? ああ、ガトウか。ちょっと……な」
作戦前に輸送艦の艦橋から外を眺めて居たら背後から声を掛けられた。
その声の主はガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ。グレート=ブリッジが陥落した辺りで前線に戻された俺たちの仲間になった連合の元捜査官だ。
前線に戻された俺たちは辺境で干された鬱憤晴らしと言わんばかりの活躍をして、その最中に出会った男だ。彼だけじゃなく、彼の連れている少年探偵団も仲間になって、紅き翼も賑やかになったとナギは笑ってたっけか。
「なぁガトウ、この情勢は連合側の完全敗北って言ってもいい状況だと思わないか? 普通なら厭戦派が騒いで講和まで持って行かれる。連合だって一枚岩じゃ無い筈だ。正直に言ってこの戦争、本気で勝つ気があるのかな?」
「…………鋭いな」
元捜査官であり、紅き翼の頭脳担当組になったガトウに薄々感じていた疑問を投げかけると、彼はタバコを吸いながら険しい表情を浮かべている。どうやら、何かを知っているらしい。
「……情報の裏付けがまだ取れていないから確信は無いが、予想通り何かしらの作意がこの戦争の裏で働いている」
「…………そっか」
俺の感じてる疑問はあたりだったのかと、何故だか確信に近い納得を伴って胸の中へと落ちる。水平線の向こうに立つ、まだ見えないグレート=ブリッジを睨む様に俺は口を開く。思わず出てきたのは––––––亡き両親の事だった。
「…………別にさ、俺は特別父さんや母さんと仲が良かった訳じゃ無いんだ。普通の家庭と同じ様な距離感だったし、別に話さない訳じゃ無かった」
ぽつりと、溢れた言葉をガトウは無言で聞いてくれる。こんな話が出てきたのは紅き翼に入って日が浅いガトウだから話しやすかったのかも知れない。
「…………父さんは爺さんが日本人で、そこに伝わる『紋字流』って技を使う剣士で、母さんは典型的な固定砲台型の魔法使いでさ、俺と全然タイプが違うのよ」
俺は攻撃魔法が苦手だ。性格云々以前に気力と魔力量的に魔法剣士型も固定砲台型も難しい中途半端な才能で、だからそれも障壁展開に特化しなきゃいけなかった理由だった。
「母さんは色々魔法を教えてくれたし、父さんも全部の技を教えてくれたんだけどさぁ、なっかなか上達しなくって『臆病者の才能』なんて言われて大喧嘩したんだよ、あの時は本当に頭に来た。『精一杯俺なりにやってんのにっ!!』て思ってよ」
でも、そんな恨み言はもう言えない。
「なのに、俺をこっちに連れて来た癖にあっさり死ぬなんてさー。しかも、戦争の裏にはなんかしらない陰謀が渦巻いてるとかさー。–––––ほんっと、報われないって」
茶化す様な独白をガトウは無言で聞いて、最後に俺の頭を乱暴に撫でてくれた。タバコの煙が目に沁みたのか、思わず涙が出て来たが、これはきっとガトウのせいだろう。
–––––暫くして、作戦時間になった。
俺たちは既に甲板に並んでおり、目の前に展開する帝国の大群と睨み合って居る。
「うっへぇ、鬼神兵までいるよ。面倒くせぇ」
「へっ、上等じゃねぇか!! 俺たちは無敵の紅き翼だ!! 返り討ちにして一番槍と洒落込もうぜ!!」
ナギのその言葉に俺たちは呆れながらもほぼ全員同意見だった為か、作戦開始と同時に戦場に向かって飛び出して行った。
その直後に大規模殲滅魔法を含む無数の雨が俺たち目掛けて降り注ぐが、今日までゼクトとアルの授業と修行を受けて来たからか派手ではあるけど圧がない。
これなら行けると確信した俺は、可能な限り認識している魔法に対して障壁を展開して衝突させて勢いを最大限に散らせると同時に、拡散した余波を全てもう一つの障壁で反射してそのまま帝国側へ返す。
「俺が居る戦場で考え無しの魔法が通ると思うなよ!!」
上手く全カウンターが決まったから思わずそう返し、全員の足元に反射障壁を展開すると、そこを足場に虚空瞬動を行う。
こうする事で障壁の性質による反発力と瞬動時の加速力が合わさり、通常の瞬動術とは比べ物にならない速さと距離で向こう岸まで渡る事が出来る。
そして、城壁に取り付いてる連中は迎撃が目的の固定砲台型、魔法剣士の連中は開戦と共に出撃してしまっており、魔法では止める事が出来ない。つまるところだ––––俺たち紅き翼の一番槍が確定だ!!
「っしゃあッ!! 無敵のサウザンドマスター!! ナギ・スプリングフィールド様一番乗り!!」
「っらぁッ!! 千の刃のジャック・ラカン様!! 一番乗りぃ!!」
「は? 俺の方が早かったろうが?」
「あん? 俺様の方が早かっただろ、足のデカさ考えろ」
「敵前で喧嘩するな!! 馬鹿者共!!」
「やれやれ、バカ共は緊張感が無いのじゃ」
「それは私達もですよ、ゼクト」
初手の魔法反射によって外壁に空いた大穴に突入した俺たちは、混乱する帝国兵達の前で余裕を見せている……いや、俺はそんな胆力無いけどさ。
「れ、連合の赤毛の悪魔だと!? ならば貴様らは紅き翼か!? だ、だが貴様らとは言え突出した一部隊!! この数の中に切り込んで来るなど死にに来た様なものだ!! 此処で討ち取ってくれるッ!!」
「はっ、面白ぇ!! 俺たち無敵の紅き翼に勝てるんなら勝ってみやがれッ!!」
司令官らしき男の言葉に返す様にナギが啖呵で切り返し、それを合図に戦闘が始まった。相手の言葉通り、俺たちは突出した一部隊で周囲は四面楚歌、しかし俺たちは遊撃部隊として戦場に斬り込み戦機をこちらに呼び込む作戦であるのでこれで問題ない。
敵の腹の中だから当然四方から魔法が飛んでくるが、味方に誤射しない為に威力が控えめな物しか飛んで来ない。––––その程度じゃ、俺の盾は抜けないよ。
降り注ぐ魔法の軌道上に瞬きする間の瞬間だけ反射障壁を展開する。持続性と障壁の大きさを徹底して削り、その分弾きの性能だけを尖らせた特別性、よっぽど動体視力が良くなけりゃ何が起きたのか分からないだろう。
それを証明するかの如く、放った魔法が全て自分へ返ってくる事に驚き、慌てて障壁を展開するが、それでは手遅れだ。
何故なら、紅き翼の一人一人が特級戦力。つまるところ誰一人ノーマークで居られない相手であり、返ってきた攻撃に注意を割こう物なら彼らの先制攻撃を浴びる事になるのだから。
ナギの魔法とラカンの無茶苦茶な技が包囲を破り、撃ち漏らしをアルとゼクトが殲滅して行く。そして反撃を整えようとした者を詠春が斬り伏せる、毎度毎度思うけど絶対相手にしたくねぇ集団だわ。
と、そんな風に思う存分暴れ回るバグキャラ達に戦慄していると、背後から気配を感じて瞬間的に障壁を展開する。
交通事故でも起きた様な激しい衝突音を聞いて振り向くと、拳を構えた獣人が有り得ない物を見た様な目で俺の目を見ていた。
恐らく点と呼べるサイズの障壁で自分の拳が止められた事に驚いているんだろう、物理的な破壊力が最も乗り辛い一点に置いてるんだから、見た目以上に硬いよ?
「うわっ、背後取られたのかよ。やっぱ近接戦苦手だわ」
「くっ、
「俺、んな二つ名で呼ばれてんのか!?」
驚きながらも親父の遺品である日本刀『紅蓮』を抜き打ちするが、首を狙った一閃は難なく上体を逸らされてしまう。
「貴様さえ倒せば紅き翼の防御力は下がる、近接戦は不得手と見た以上此処で仕留めさせて貰うぞ!!」
「参ったなぁ。お互いに見逃し合いっこしない? マジで近接戦苦手なんだって」
「問答無用!!」
そう言って、獣人の兵士は此方に殴り掛かる。踏み込みの速度が尋常では無い事から瞬動術を使えるのだろう、拳にも気が込められて居て障壁を上から殴り砕く魂胆なのも分かる……が、コイツでは俺には勝てない。
俺は確かに近接戦が苦手だし、まともにやり合ったらそれなりに腕の立つ相手には勝てないのは事実だ。ただし、
障壁の使い方は何も盾としてだけじゃない、物理的な壁としても使えるのだ。だからこそ、そこを念頭においていない相手に負ける訳が無い。
彼の瞬動に合わせ、その進行方向に普段使いしている割らせる障壁を複数枚展開し、突進の威力を削ぎ落とす。
瞬動時の加速が失速した事に驚いた隙を突き、紅蓮を納刀しながら居合斬りの構えを取り、斬撃を警戒させながら彼の背後を囲う様に障壁を展開し、紋字流の技を放つ。こんな時発動媒体が指輪だからマジで便利。
「–––––真空斬!!」
使ったのは鞘内に充填された気を居合い斬りに乗せて抜き放ち、遠距離を斬り裂く技。神鳴流にも似た技があるし、飛ぶ斬撃はみんな考えるんだろうが、この技は斬れ味が非常に鋭く、斬られた後に一呼吸置いて傷口が開く。
だからこそ、回避行動を取ろうとして壁に阻まれた彼は身体を素通りした斬撃に疑問を浮かべながら此方に踏み込み––––真一文字に斬り裂かれた胸元から鮮血を上げて倒れて行った。
「…………近接戦はやっぱ慣れねぇわ、人殺した感覚がダイレクトに来るし」
ボソッと吐き捨てる様に俺はそう呟くと、気持ちを切り替えながら侵入口から殴り掛かって来た鬼神兵の拳を障壁で受け止めるのであった。