魔盾の魔法使い 作:匿名希望
激戦となったグレート=ブリッジ奪還作戦は連合の圧倒的勝利によって幕を閉じる。
その要因の中に俺達紅き翼の活躍も少なからず含まれてはいるだろうけれど、正直に言って勝鬨を上げる周りの兵士と同じ気分にはなれなかった。
感情に浸る訳じゃ無いけれど、大陸間を繋ぐ要塞から見える海岸線には魔法によって沈んだ戦艦が墓標の様に突き刺さっている。その中には俺が魔法や砲撃を反射して沈めた物も含まれていて、戦争の悲惨さを見せつけられている様で気分が悪い。
戦争の勝ち負けが何時までも決まらない不毛な戦争。戦場で戦う者は無限に相手の命を奪い合い、そして俺の様な親を亡くした孤児もまた、戦火に飛び込んで行く。
終わらない争いの無限回廊。何時になったら戦争は終わる? 政治的にも敗北を認める事が出来るこの要衝が落ちても講和が出来ないこの戦争–––––終わりがあるのか?
薄ら寒いそんな感覚に舌打ちをしながら頭を掻いていると、俺と同じ様に水平線を眺めていたナギが口を開いた。
「俺の故郷がある旧世界じゃ強力な科学爆弾が発明されててこんな大戦はもう起こらねえそうだ。戦を始めたが最後、みんなまとめて滅んじまうからだってよ」
「核兵器……だろ? 俺も旧世界出身だから知ってるよ、ナギ。キューバ危機なんてのもあったけど、瀬戸際でなんとかなったって話だね」
ナギは俺と似たような気分の悪さを感じてたのか、似た様な思いを口にし、この戦争への怒りを口にする様に声を荒げて行く。
「ああ、そうだよ。あっちじゃその辺りを分かってた。だがこっちの戦争は何時終わる? 帝都ヘラスを攻め滅ぼすってか? やる気になりゃこの世界にだって旧世界の科学爆弾以上の大魔法だってある!! こんな事続けてどうなる? 意味ねぇぜッ!! まるで……」
「––––まるで誰かがこの世界を滅ぼそうとしている。ですか?」
ナギの言わんとすることを遮る様に放たれたアルの言葉は、荒唐無稽に見えて『そう』なのでは?と考えてしまいそうになる謎の説得力を感じた。
いや、自分でも何故その様な説得力を感じたのかは意味が分からないけど、戦場を生で感じて戦い抜いて来た感性が告げているのだ。
そう考えると帝国側にいた頃、やけにコイツらに当てられた事を思い出す。あの時は生きる事に必死だったし、戦争の裏側とか考える余裕が無かったけど、もしかしたらそういう『役割』を当て嵌められてたのか? あのままもし、帝国側に着いてたのなら、ラカンと一緒に紅き翼討伐に駆り出されてたか、帝国側の『英雄』として祭り上げられたか………見えざる神の手でも働いてるってか?
底知れない『ナニカ』が渦巻いてる様な錯覚、それを打ち切ったのは新しい仲間の声であり––––それは同時にこの戦争の裏を垣間見る物だった。
「––––ある意味、その通りかもしれないぞ?」
「……ガトウ」
「俺とタカミチ少年探偵団の成果が出たぜ。
––––––秘密結社『
自身の尾を噛む竜に鳳凰をあしらった様な紋章が特徴的な謎の集団であり、ガトウの話では帝国・連合の双方の中枢に食い込んでいると言う。
詳しい話は本国首都で……との事なので、俺達紅き翼はMMまで足を運んだのだが、話の前にあって欲しい人物がいるそうだ。
それは我々への協力者。そう言われて奥の通路から現れたのは現元老院議員、マクギル元老院議員…………だったが、この人では無いらしい。
本人の否定と共に紹介されたのは、ウェスペルタティア王国、王都オスティアの姫殿下。アリカ王女。
お忍びの為か白いフードを被ってはいるが、その端正な顔立ちは十二分な覇気を感じさせる。歳の頃は俺達と然程変わりない様に見えて…………まぁ有り体に言えば凄い美人だ。
ナギは珍しく見惚れたのか無言で彼女を見つめており、ラカンがそれを見てニヤついている。多分後で揶揄う気なんだろうけど、俺には正に高嶺の花。後そう言う対象として見るんならもう少し胸元が膨らんでる方が好みだ。
–––––とか考えてたらその考えが見透かされたのか思いっきりビンタを食らった。『不敬な視線を向けるな』だそうだ。…………女性の胸に目が行くのは男のさがじゃないかな?
張り手を食らった頬を撫でていると、どうやら紅き翼のリーダーであるナギと話がしたかったらしく、二人で何やら話している……が、ナギはなんだかんだで口が悪いからなぁ。
「んで? オスティアの姫殿下と秘密結社がどう繋がるんだ? ガトウ」
「ん? ああ、説明がまだだったな」
頬の痛みを誤魔化す様に『協力者』と言うアリカ王女についてを聞くと、どうやら彼女は帝国と連合の双方が無限に潰し合うこの大分裂戦争の中で自ら調停役になろうとしたらしい。
しかし、件の秘密結社の手による物と思われる有形無形の妨害工作や暗殺未遂などにより力及ばず。打開策を模索していたタイミングで戦争の裏側を探っていたガトウが偶々接触し、俺達に助けを求めに来たとの事。
俺はその話を聞き、感心して思わず口笛を吹いてしまった。
孤立無援の状態且つ身内にすらその疑いが掛かる者達が居る中で、命の危険すら顧みずに調停役を買って出ようとした事は勿論、内偵調査中のガトウを信用して俺達に接触する勇気もまた凄い。
俺達は連合側の『英雄』だ。言ってしまえば『完全なる世界』と繋がりを持っている可能性だって十二分に考えられる訳だ。いや、この場合はその方が可能性としては高いかな? 四方手を尽くして八方塞がりになったところへ接触して来た連合の英雄。怪しく無い訳がない。
その疑いを晴らしたガトウの手腕も去る事ながら、命の危険を呑んでまで俺達に接触するなんて––––––良い女じゃん。
が、話の内容を総括するとあまりふざけていられないのが分かった。
完全なる世界。奴等は王都オスティアにすらその勢力を伸ばしており、つまるところ世界情勢的な視点で言うのならばこの魔法世界全てを操っていると言い切っても過言では無い。
アルは珍しく『コレは思ったより根が深い……』と神妙な顔で考え込んでおり、ガトウも同じ結論なのか、紅き翼による独自内偵を提案していた。
それに関しては全員異議が無かったらしく、アル・詠春・ゼクト・俺がガトウ達を手伝う形で内偵を行う事になった。…………壊す担当どもは完全休暇だったけどな。しかもナギなんざ、アリカ王女とデートだとよ。これだからイケメンは……。
–––––ま、しゃーない。頭脳担当組に割り振られたんだし、やるだけやりますか。