agglescent ―アグレセント―   作:にっぱち/たそがれ

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第一章第7話 【最近の子は早い】

「――本当に何もないぞ?」

 

 部屋の前で再度四人に向けて念押しする悠馬。渋い顔の悠馬から、四人は悠馬がこの部屋に自分たちを入れたくない理由があるのではないかと勘繰った。稔莉はそんな悠馬に対して、笑顔で

 

「そんなこと言ってもここまで来た時点で逃げる術はないわよ」

 

 と答える。その笑顔を見て諦めた方がいいと悟った悠馬は、人差し指をドアノブにあるタッチパネルに押し当て、鍵を開けた。

 

 悠馬たちが今いるのは、学園の生徒寮。生徒には一人につき、この寮の一部屋が与えられる。寮は普通のアパートと殆ど同じような構造で、2DKと一人暮らしには余りあるスペースと部屋数。一階には24時間営業のコンビニエンスストアが設置されている。

 1~3年生の全員が同じ寮に住んでいて男女で寮が分けられているという、学生に対しては考えられないほどの好待遇となっている。

 

「…………どうぞ」

 

 扉を開くと、一人用のアパートにしては少し広めの玄関が五人を出迎える。昨日越してきたばかりという話の通り、玄関から見える部屋には最初から設置されているデスクトップのPCがちらりと顔を覗かせるだけで、それ以外には何も見えない。

 

「「お邪魔しま~す!」」

 

 我先にと部屋に入っていく雲雀と稔莉。一応履物を揃えるくらいの常識はあるが、家主よりも後に入るという遠慮は持ち合わせてはいなかった。

 

「同じ部屋なのに、なんでそんなに楽しそうなんだあいつら……?」

 

 全ての部屋の構造は同じはずなのに何が二人を駆り立てるのか、悠馬にはてんで理解できなかった。

 

「自分以外の人が住んでるところだと、生活感とか出るでしょ。やっぱり『人の家』だから、二人ともワクワクしてるんじゃない?」

 

 脱いだ履物をきちんと揃えながら話す鈴。

 

「……そういうもんか?」

 

「そういうもんよ」

 

 そう言って、リビングの方へと向かって行く鈴。そんな鈴の後ろ姿も、どこかワクワクしているように悠馬には見えた。

 

「……あの、本当に大丈夫でしたか? いきなりお邪魔して」

 

 最後に入ってきた雫が、悠馬に向けて申し訳なさそうに言う。

 

「ああ、別にいいよ。正直見られて困るようなものとか何もないし、大体俺持ってきたものとか殆どないし」

 

 研究所暮らしが長かった悠馬にとって、私物らしい私物は殆どない。大体のものは社外秘のものばかりなので研究所に置きっぱなしにしてあり、尚且つ研究漬けだった悠馬にとって趣味らしい趣味もないのが原因ではあるが。

 

「でも悠馬さ……悠馬、にもやっぱりプライベートとか……」

 

「――ぷっ、あはは。呼び捨てが無理そうならさっきみたいにさん付けでいいよ。呼びやすいように呼んでくれ」

 

 『悠馬さん』と言いかけてわざわざ言い直す雫に、思わず吹き出してしまう悠馬。そんな律儀すぎる雫の性格が、年上の変わり者とばかり接していた悠馬にとってはとても新鮮だった。

 

「それじゃあすいません、悠馬さんで……」

 

「うん。それで俺のプライベートだっけ? 本当にないから気にしなくて大丈夫よ」

 

「……そう言ってもらえると助かります。なんだかんだ鈴ちゃんも楽しそうですし」

 

「あ、やっぱり?」

 

 さっきの自分の考えが当たっていたことに、また面白くなって笑ってしまう悠馬。そんな悠馬を見た雫もまた、頬を綻ばせる。

 

「よく笑いますね、悠馬さん」

 

「そう? 面白いと思ったらそりゃ笑うけど」

 

「それって、私たちと一緒にいるのが面白いと思ってくれてるってことですか?」

 

 どこか悪戯っぽい笑みを浮かべる雫。小首を傾げて、見上げるように悠馬へと問いかける。

 

「……まだ会って間もないけど、俺は楽しいと思ってるよ」

 

「それなら良かったです」

 

 年下の何気ない仕草に若干ドキッとしながらも、なんとかそれを表に出さずに答える悠馬。それを聞いた雫は満足そうに笑うと、リビングの方へと歩いて行った。

 

「今どきなのか……?」

 

 最近の子どもの成長ぶりに驚きつつ、悠馬もリビングへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠馬、エロ本どこ?」

 

「あるわけねーだろバカか!」

 

 リビングに着いて早々、悠馬は四人を――正確には稔莉を部屋に入れたことを後悔した。

 

 先にリビングに行った雲雀と稔莉は、悠馬の私物が入った段ボールを勝手に開けて中身を確認していた。

 雲雀は取り出したものを自分なりに整理しようと、棚に置いたりクローゼットに閉まったりしていたが、稔莉は引っ張り出してそれが面白くないと思うや否やぽいと後ろに放り出していた。

 

「一応、引っ越しの手伝いっていう名目で来てるんだからそれはやってくれませんかね稔莉さん?」

 

「あんなの方便に決まってるでしょ」

 

「だとしても散らかしてんじゃねーって言ってんだよ! あまつさえエロ本って何だよ! そんなもん持ち込むわけねーだろ!?」

 

 これ以上散らかされると片づける手間が増えると思った悠馬は、稔莉が持っているものを無理矢理取り上げて適当な棚に放り込む。

 

「ああ~! ……ケチ」

 

「そう言うなら働け」

 

「えー……」

 

 渋る稔莉とは対照的に、他の三人は引っ越し作業をちゃんと手伝っていた。

 

「悠馬、服の類は適当にクローゼットに閉まっちゃったけど大丈夫?」

 

「ちょっと確認してみる。―――うん、俺がやるより完璧だわ、ありがと」

 

「悠馬ー、この変な置物ってどこに置けばいいの?」

 

「あーそれ貰いものだからPCデスクの上あたりに置いておいてくれ。後で俺が直すから」

 

「悠馬さん、この本って棚に置いちゃっていいですか?」

 

「ええと? ―――うん、本自体そんなにないし適当に纏めて入れて大丈夫」

 

 稔莉を他所に、段ボールの中身を片付けていく四人。元々物が無かったということもあり、片づけはあっという間に終了した。

 

「ふぃ~、三人ともありがとな。おかげで大分早く終わったわ」

 

「あれ、私は?」

 

「お前は散らかしただけだよな?」

 

「うっ……」

 

 ジトッとした目を悠馬に向けられ、言葉に詰まる稔莉。

 

「よし、それじゃあ遊ぶか――と言いたいところだけど、時間も結構遅くなっちゃったし腹も減ったし、せっかくだからご飯でも食べるか? ()()()

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて言う悠馬に対して、泣きながら抱き着く稔莉。

 

「ごめんて悠馬! 私が悪かったから! 仲間外れだけはどうか! どうか!!」

 

「……なら買い出し行くぞ。お前も少しは働け」

 

「ははー、仰せのままに」

 

 わざとらしく土下座をする稔莉。そんな稔莉の姿に、笑い出しそうになるのを悠馬は必死に堪える。

 

「まだ17時だし、スーパーは開いてるだろ。何作ろうかな……」

 

「あれ、悠馬料理出来るの?」

 

「それなりにだけどな」

 

 研究所暮らしの時はたまに自炊はしていた悠馬だが、自分が食べられればいい所謂『男飯』しか作っていなかったので誰かに振舞えるほどの料理を作ったことは無い。それでもこの部屋の家主だし、年長者でもある一応自分がやるのが筋かなと思った悠馬は作ったことのある料理の中から比較的マシなものを思い浮かべていた。

 

「せっかくだし、皆で作らない?」

 

 そう提案したのは鈴。それはそれで楽しそうだと思った悠馬は、すぐさま鈴の提案に乗っかった。

 

「それいいな、面白そう」

 

「ならいっそ買い物もみんなで行かない?」

 

「いいですね」

 

「一応買い物は働かない稔莉への罰みたいなもんだったんだけど……まあいいか」

 

 悠馬の一言を聞いた稔莉は、ぱあっと顔を輝かせると膝立ちで鈴へと擦り寄りそのまま腰に抱き着いた。

 

「ありがとぉ鈴~! 危うく悠馬の慰みものにされるところだったよ~」

 

「お前は俺を何だと思ってんだよ!!」

 

 悠馬と稔莉の初めましてとは思えないボケとツッコミに、周りの三人が爆笑し出す。悠馬も悠馬で、稔莉の距離感の詰め方に驚かされながらもそれに順応している自分にも同時に驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「「「「「ご馳走様でした」」」」」

 

 夕食は『友達で集まってやるならタコパでしょ!』という稔莉の発言からたこ焼きになった。危うくロシアンになりかけたが、雲雀と鈴の奮闘もあり何とかそれだけは回避することに成功した。

 

「意外と難しいのね、たこ焼きって」

 

「ね。僕何回も崩しちゃった」

 

「雲雀は下手くそすぎるのよ。それに比べて雫ちゃんの綺麗なピック捌きと言ったら……」

 

「え!? いえ、私はそんな……」

 

「いや、上手かった。正直この中で一番じゃないか?」

 

「そりゃあ悠馬より上手いのは当たり前でしょ。この中じゃワーストじゃない?」

 

「んだと? そういう鈴だってそんなに上手くなかったじゃねえか。双子なのに」

 

「双子だからって何でも同じだと思わないで頂戴」

 

 思い思いにタコパの感想を述べ合う五人。形が崩れたり生焼けだったりと小さなハプニングはあったものの、それも含めて五人とも楽しむことが出来た。

 

「あー、でも良かった。友達ちゃんと出来て」

 

 ふと、稔莉がそんなことを呟く。大きく伸びをする稔莉を見て、隣に座る悠馬が茶化すように言った。

 

「お前のそのノリで友達が出来るか心配だったのか?」

 

「そりゃ心配だよ。好き嫌い別れるからね、私のノリって」

 

 表情は笑顔だが、どこか悲しさが混じる声で話す稔莉。その声色から、過去に色々と苦労することがあっただろうということは四人とも容易に想像が出来た。

 

「良かったな、お前のノリが好きな奴が四人も集まって」

 

 だから悠馬は、あえてまた冗談めかしく稔莉を見ながら言った。他の三人も悠馬の意図を察して、口々に稔莉へと笑いかける。

 

「ほんとほんと。最早奇跡と言ってもいいかもね」

 

「奇跡で収まればいいと思うけど」

 

「奇跡の上って何だろう……神業?」

 

 そんな四人の顔を見た稔莉もまた、安心したように笑って答えた。

 

「そうね、奇跡通り越して神業かもね」

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