ハイスクール・フリート 菊の艦隊   作:梅輪メンコ

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消えた艦隊

10月15日 大本営

 

それは日が昇るかどうかの時間。大本営通信課から届いた情報に役員達は大慌てであった。ただでさえ、五日前にサイバー攻撃を受け、責任者の首が飛び、ようやく後任が決まった時にこの情報である。

 

「艦隊の位置は掴めたか?」

 

「いえ、依然として強力な通信妨害により遠水平線レーダーは真っ白です」

 

それは北朝鮮軍の艦隊が威興市から消えたと言う情報省からの連絡であった。情報を受け取り捜索に入ろうとしたところで突如遠水平線レーダーが真っ白になり、情報が錯綜していた。

 

「情報省につなげ。出来るだけ情報をかき集めろ!」

 

「佐渡島飛行場に連絡。仙空を発進させ、索敵を開始。対馬要塞の菊花艦隊に連絡。警戒機を飛ばせ」

 

通信課は多忙を極めた。通信妨害に役に立たないレーダー。索敵にも時間がかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対馬要塞で艦隊が消えた事を聞いた静は海図を見ていた。

 

「レーダーが使えないという事は・・・」

 

「はい、実質目を封じられたという事です」

 

香織が隣でそう呟くと静は海図を見て小さく唸る。

 

「うむ・・・星鵬はどう?」

 

「はい、以前妨害がひどく・・・索敵は困難を極めています」

 

「・・・」

 

静はもう一度海図を見る。

 

「星鵬に通信。今から言う座標に向かって飛んでくれ」

 

「はっ!」

 

そして静が座標を教えるとすぐさまそれは星鵬に伝えられた。

 

「司令。どうしてその場所を?」

 

「海図を見てみな」

 

「・・・あぁ、成程」

 

香織は海流図を見て納得する。その隣で静は説明をした。

 

「同盟軍艦隊は燃料が乏しい。少しでも燃料の節約をしたいと思うはずだ。だから対馬暖流に乗るはずだ」

 

「成程、対馬海流ですか・・・しかし、本当にいるでしょうか・・・?」

 

「いるはずだ。ただでさえ現状北中国は幾つも油田を抑えられている。確保している油田も数は知れている」

 

静の目には次の作戦が浮かんでいるようにも見えた。香織は静の考えている事を想像していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上では隠れるように航行する艦隊があった。

 

「こうして隠れながら脱出する事になるとは。世も末だな」

 

艦隊司令はそう呟きながら他の艦艇を見る。どれも満足な整備ができず、燃料の質が悪いのも相まって速力も通常の半分以下であった。

そして艦隊は燃料の節約のために海流に乗って航行をしていた。

艦隊は十六隻。それぞれ駆逐艦二隻、フリゲート艦三隻、コルベット艦三隻、ミサイル艇四隻、魚雷艇四隻。いずれも旧式艦で、兵装も満足ではなかった。

 

「日本海軍に見つかればその時は俺たちの終焉だ」

 

艦隊司令はそう呟くと真っ暗な空を見ていた。司令は日本の所有する唯一の技術、航空機を必要以上に恐れていた。

 

「(航空機は脅威だ。たとえこの戦争が終わっても、日本は列強を相手にせねばいけなくなるかもな・・・)」

 

司令はそんな未来を予想しながら通信員に聞く。

 

「レーダーはどうだ」

 

「はっ!以前、本国の通信妨害が強く、我々も現在位置を割り出すのがやっとです・・・」

 

「警戒をおこたるなよ」

 

「はっ!」

 

全員が真っ黒な空や海を双眼鏡越しに目を皿にして見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月19日 午前4時34分 日本海海上

 

佐渡島飛行場より北朝鮮海軍の捜索を行なっている星鵬は日の出に映る多数の影を確認した。

 

「敵艦隊発見。方位240。速度8ノットにて北東方面に航行中」

 

「了解。直ちに佐渡島飛行場に連絡します」

 

この情報は直ちに佐渡島から海軍省に送られ、日本海を航行する第五艦隊と太平洋から増援に駆けつけた第九艦隊に通達された。

第五艦隊、第九艦隊の陣営はほぼ同じで、陣営は

 

まや型イージス巡洋艦 一隻

あさひ型対潜駆逐艦 一隻

あきづき型対空駆逐艦 一隻

もがみ型フリゲート艦 二隻

そうりゅう型潜水艦もしくははつなみ型潜水艦 二隻

 

日本艦隊は菊花艦隊と第一、第六艦隊以外はほとんどがこの陣営である。

また、再来月に行われる海軍艦隊の統廃合により、第七から第九艦隊そして第四艦隊は解体され、配置転換が行われる予定である。

よって第九艦隊はこれが最後の任務であった。

 

「我ら最後の航海は歴史に名を残す戦いをしようではないか」

 

出航前、艦隊司令がこのような事を話した。

他の全員もそうだ。

どうせなら最後くらい名を残したいと乗組員達もいつも以上にやる気に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月24日 午後8時38分 第九艦隊旗艦『たかお』CIC

 

「司令、微弱ながら推進音を探知したと報告がありました」

 

「了解。方位は?」

 

「はっ!南西南30キロ地点であります」

 

「うむ・・・艦長、見た前」

 

「ここは・・・」

 

「ああ、雷樹司令の予感が的中だな」

 

そういい海流図を日本海の地図と合わせた図を見ると司令官は指を指す。

 

「艦隊をここで待ち伏せる、何もない海域に加え電波妨害がある。恐らく誘導噴進弾や電子系統に期待しすぎるのもダメだ」

 

「では・・・」

 

「まずは偵察機を出す。松花発艦準備!」

 

「了解、松花発艦準備を開始。敵艦隊の位置を探らせます」

 

「誘導噴進弾は松花のレーザー誘導に切り替え。松花との通信は確保しておけ」

 

そしてたかお後部甲板から松花は離陸する。

 

「松花カメラとの同調完了。映像に問題なし」

 

「敵艦隊は必ずいる。噴進弾発射用意!砲雷激戦用意!」

 

「対艦噴進弾発射用意よーし」

 

「主砲発射用意よーし」

 

「魚雷用意よーし」

 

「全武装発射用意よーし」

 

そして全ての準備が整ったところで松花から通信が入った。

 

『敵艦隊を確認!数十五・・・十六!十六隻を確認。駆逐艦二、フリゲート三、コルベット三、ミサイル艇四、魚雷艇四隻です!』

 

「全砲門開け。全艦対艦噴進弾発射。発射後対空、対潜警戒を厳にせよ」

 

「対艦噴進弾発射!弾数二、撃てぇ!」

 

シュゴオォー!シュゴオォー!

 

そして発射された二発の噴進弾は艦隊旗艦に向けて飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾数二。北北西より接近中!ミサイルです!」

 

「やはり気づかれたか・・・対空防御。CIWS発射。迎撃せよ」

 

ブオオオオオォォォォォォォオオオオオオ!!!!

 

ドオォォォン!!ドオォォォン!!

 

発射された機関銃は赤い線を描きながら夜空に二発の花火を上げた。

 

「戦闘用意!対空対潜警戒を厳にせよ!」

 

「直ちに北北西に船を向かわせます」

 

「いや、船は出すな。どうせ日本の潜水艦に返り討ちに遭うだけだ。船を密集させて対空密度をあげたほうがいい」

 

「了解!船を呼び戻せ」

 

こうして戻ってきた魚雷艇を加え、艦隊は日本軍の攻撃を待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この司令の予測は正しかった。日本艦隊には、はつなみ型潜水艦『やまなみ』『たつなみ』が海中に身を潜め、近づいてくるであろう小型艇を待ち構えていた。

 

「魚雷艇。遠ざかっていきます」

 

「向こうさんもこちらの意図に気づいたか?・・・まぁ、なんにせよなかなか面倒そうな相手だ。南波、敵艦の位置は把握しているか?」

 

「はい、逃すことはありません」

 

「よし、アンテナを上げろ。上の船に提案をする」

 

「はっ!」

 

潜水艦艦橋から海上に浮上したアンテナはたかおCICに繋げられた。

 

『こちら深町。司令、俺から提案があるんだが・・・』

 

そしてはくりゅうの艦長は司令官に提案をする。それを聞いた司令官は作戦を許可した。

 

「ああ、良いとも。作戦を許可する」

 

『感謝する』

 

こうして通信を終えた潜水艦二隻は艦隊を離れて行った。

 

「うまく行きますでしょうか」

 

「大丈夫さ。彼らなら上手くやってくれる」

 

司令はそう言うと口角を上げていた。

静の士官学校時代は必要か否か

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