白くて、何故かウマ娘のオッスに転生してしまった俺の話 作:沼りぴょい
「兄さま兄さま!」
「ん? どーしたアーモンドアイ」
「私! 新しいお友達が出来ましたの!」
「へぇ、そうなんだ。お名前、なんて言うのかな?」
「グランアレグリアです!」
「………………ゑ」
5月26日。東京優駿、又の名を日本ダービー。世代の頂点を決めるレースであり、クラシック二冠目。
────そのレースで勝てれば、やめてもいいと言うウマ娘がいる。
────そのレースで勝ったことで、燃え尽きてしまったウマ娘もいる。
そして今日。そんなレースに、トウカイテイオーが出走する。
「テイオーさん、勝てるかな……」
隣で心配そうにつぶやくキタ。それもそうだろう。日本ダービーは『最も運のあるウマ娘が勝つ』とも言われており、一般的には内枠有利とされている。
『8枠16番』それが今回のトウカイテイオーの枠番。スタートしてすぐにカーブがあるこのレース。大外は一般的に
俺が心配しているのは、このレースが終わったあとに発症する足の骨折……果たして一体どうなるか……。
『国民的スポーツエンターテインメント、トゥインクルシリーズ! 実況は私赤坂と、解説は細江さんでお送りします』
『よろしくお願いします』
お、この声細江さんじゃん。アニメ見た時は知らなかったけどあの人元ジョッキーってことを知った時はびっくりした。ちなみに、伝説ジョッキーである武豊さんも出演している。
いやほんと……C○gamesまじすげえな……。
『本日のメインレースは日本ダービーです! なんと入場規制が敷かれるほど多くの人がここ、東京レース場に押し寄せています! 会場にお越しになれないファンの方のためにここ、東京レース場の様子は全世界に生配信されております。八枠、最後に登場するのは一番人気、トウカイテイオーです!』
パドックのカーテンが開き、そこから白の勝負服を着たトウカイテイオーが現れる。横を向いたまま足踏みをして前に出てくるトウカイテイオー。
あれが噂のテイオーステップか? とか思いながら見ていると、肩に掛けてあるマントはバサリ! と投げ飛ばす。すると、観客の大きな声援が響く。
……ふむ。やはりと言うべきかいい仕上がりをしている。そんな風にトウカイテイオーの足をじっとみてたらダイヤから脇をつつかれた。
「テイオーさーん!」
隣にいるキタがテイオーに声をかける。流石に最前列でもこの歓声の中に埋もれるかと思ったが、意外にもちゃんと反応した。
……やっぱり、ウマ娘って聴力もいいのな。
「頑張ってくださーい!」
「ありがとー!」
キタにブイサインを見せてからマント拾い、帰っていく。これから地下バ道に移動してターフに入っていくのだろう。
「よし、それじゃあ移動するか」
「その前にドンナーくん。テイオーさんの足をずっと見ていたのは何故ですか?」
そりゃあダイヤお前……純粋にいい仕上がりだなと思って見てただけだよ。
観客席の方に移動し、今回もホームストレッチがよく見える真ん中を確保出来た。
隣ではキタがまだかなまだかなと落ち着かない様子で、目の前にある柵に手を置いてぴょんぴょん跳ねている。可愛い。
トウカイテイオーがターフに現れ、ゲートへ向かっていき、暫くするとファンファーレが鳴り響く。
『枠入りが始まっております。各ウマ娘、順調にゲートに入っていきます。さぁ、最後のトウカイテイオー、落ち着いております。悠然とした表情でゲートに入ります。無敗の2冠のウマ娘が期待されているトウカイテイオー。皐月賞に続き、このレースを制することが出来るのか! 大きな歓声、大きな期待に包まれて、東京優駿日本ダービ────―』
世代のウマ娘達の夢と希望をのせ、世代の頂点を決める至高のレースが今────
『──―スタートしました!』
「よしっ! いいスタート!」
ガコン! と開かれたゲートから飛び出たトウカイテイオーを見て思わずガッツポーズ。
『各ウマ娘がすぅっと内に切り込んで第一コーナーへと向かいます。トウカイテイオーは1、2、3、4、5、6、7、8番手。外目8番手で第一コーナーへとかかります』
「大外スタートでも関係なし……流石だなぁ」
「大外だといけないの?」
「いけない……というよりかは、断然不利なんだよ。他のウマ娘よりも長い距離走らされるし」
キタの質問に走るトウカイテイオーを見ながら答える。だがしかし、彼女は不利とは全然思っていないだろう。
『向こう正面から第三コーナーへ。トウカイテイオーは外目七番手!』
「ああっ! テイオーさん!」
「大丈夫だ。安心して見ろ」
「ドンナーくんはどうしてそんなに落ち着いてるの!?」
まだ中団にトウカイテイオーがいることを心配したキタが焦る。だけど、レースはまだまだ中盤だ。そもそもそれ以前に────
「だって、トウカイテイオーが負ける姿が想像できない」
「……ドンナーくんはこういう時。物凄い自信を持って言いますよね。それが外れたことも無いですけど」
そりゃ……だって史実知ってるからね。
『第四コーナーを曲がった! トウカイテイオーは六番手五番手へと上がってくる!』
東京レース場の最終直線は長い。具体的な数字は覚えてないけど確か500m以上あるんだっけか。
そして、ここから皆が、ただ一つのゴールを目指して鎬を削る。
その中で、一際強く、トウカイテイオーが沈んだ。
『トウカイテイオースパートをかけた! 外からトウカイテイオーがやってくる! トウカイテイオーがくる! 残り400m! トウカイテイオー突き抜ける! トウカイテイオーが来た! しかし他のウマ娘も来ている!』
「行けー! テイオーさーん!」
「うわぁ強ぇ……」
なんだあのスパートの速度。他のウマ娘とは段違いじゃん。
『トウカイテイオー抜けた! トウカイテイオー抜けた! トウカイテイオー抜けた! 三バ身から四バ身! これは文句なし! これは文句なし! 大外不利もなんのその! トウカイテイオー突き抜けたぁ! トウカイテイオー! 日本ダービー制覇! 』
そして、一番でトウカイテイオーがゴールに駆け抜けた。
「よし──―ぶべっ!?」
「やったー! 勝ったー!」
ゴール板をトウカイテイオーが駆け抜けた瞬間、キタが思いっきり俺の首に抱きついきた。
し、締まる……っ
だ、だが! ここで意識を落とすことは出来ない! トウカイテイオーが足を骨折しているのかどうかを見なければ!
キタに抱きつかれながらトウカイテイオーへ視線を向ける。既に彼女は、天に向かって指を二本掲げていた。
……うーん。分からん!
その後は、ウイニングライブを見るためにサイリウムを持ってからライブ会場に向かう。
この光るやつを持つと前世の血が疼いて、ヲタ芸をやりたくなってしまうが、我慢我慢。家に帰ってからやろう。
今回の曲は『Winning The Soul』。本来なら俺も周りに合わせてサイリウムを振りたいが、やはり足を骨折をしているかどうかが気になる。
折角の最前列なのだ。彼女の左足、存分に観察してやる。
『光の速さで、駆け抜ける衝動は』
今のところ、彼女に何も異変は見られない。杞憂ならばいいんだ。アニメでは、確かこの辺で────
「……っ」
がくん、と足が滑った。周りから見れば些細な変化だが、確かに不自然に滑った。その後も少し注視してみれば、明らかに左脚を庇っていた。
「はぁー! テイオーさんかっこよかったね!」
「そうですね」
ウイニングライブも終わり、帰路に着く俺たち。
前を楽しそうに歩くダイヤとキタ。俺は、トウカイテイオーが骨折していることを言うべきか言わないべきかで迷っていた。
「…………? ドンナーくん?」
「どうかしましたか?」
「え……あ、いや……」
どうやら、考え事をしていて足が止まっていたようだ。慌てて二人に追いついて歩みを進める。
「どうしたの?」
「いや……大丈夫。なんでもないよ、ちょっと疲れが出てきただけ」
……言えるわけが無い。『次も楽しみ!』と、トウカイテイオーの勝利を疑っていない彼女の顔を曇らせることは、俺には出来ない。