白くて、何故かウマ娘のオッスに転生してしまった俺の話 作:沼りぴょい
ですが、未成年なので馬券は買えませんでした。ちくせう
翌日、トウカイテイオーが骨折したことが全国的なニュースになっていた。
「嘘!? 入院!」
それを見たキタが信じられないと言った声を出した。
「レースもライブも完璧だったのに!」
「……いや、それは違う」
キタの言葉に、俺は静かに首を横に振った。俺の言葉に、ダイヤとキタが俺を見た。
「……ライブの時、彼女の足は確かに折れていた。注視していれば、すぐ分かった」
脳裏に浮かぶのは、左足を庇いながらダンスを踊るトウカイテイオーの姿。確かに、ライブは完璧だったが、見る人が見れば分かっただろう。
「そんな……っ」
「キタちゃん……」
キタの両目に涙が浮かぶ。ダイヤがキタに寄り添い、俺はポケットからハンカチを出して彼女の涙を拭うのだった。
……うーん、トウカイテイオーのことも気になるが、今は別のことに意識を置かなければ。
夕方、ウマ娘達がよくジョギングに利用している河川敷コースにて、俺は走りやすそうな服装に着替えてストレッチをしている。すぐ横には、俺の真似をしているアーモンドアイの姿もいる。
彼女の骨折はものすごく残念である。ただし、あのレースを見て俺の心が震え上がったのも事実だ。
いつか、俺もあのレースに出たい。そう魂が叫んでいる。
あのレースにだけは、絶対に出ねばならないと、そう言っている。
「よし、軽く行くぞアーモンドアイ。キツかったらすぐに言えよ」
「はい! 兄さま!」
夕日を受けてキラキラと光る茶色の髪を撫でる。そうすると、彼女の尻尾が嬉しそうに横に揺れた。
うむ、今日も我が妹分は可愛いのである。
「行くぞー!」
「はい! 兄さま!」
そして、俺たちはゆっくりとジョギングを開始するのであった。
今日はアーモンドアイが行ける所までジョギングをする予定だ。横目で彼女の事をしっかりと見つつ、俺の走り方を分析してみる。
俺の走り方は忍者走り。別にあの走り方に憧れていた訳では無い。断じてないのだ。なんか気付いたらこんな走りになってたの。信じて。
歩幅は、ほかのウマ娘と比べ、かなり大きなストライド走法。一歩一歩、強く地面を踏みしめて加速する。そんな感じ。後でアーモンドアイに頼んで自分の走りを動画で撮ってもらうか。
そして、これが一番大事な事だが俺は加速力がかなりある。50mに限って言えば、俺は6秒を切れる。しかし、素の速さや運動持続能力はそこまでないため、先行、逃げはこの時点で消える。
となると後は差しか追込のどちらかなのだが……なんとなく、俺は追込が向いているのかと思う。
皐月賞行く時も思ったが、俺は人混みが苦手だ。だから差しや先行でバ群に呑まれたら、上手く走れない可能性が高い。だから、追込で後方で待機しつつレースしていくという展開が────
「に、兄さまー!! 」
「…………あ」
まず、アーモンドアイと距離めっちゃ離れてる。涙目で走ってくるアーモンドアイをしっかりと抱きしめ、今日はそのまま帰るのであった。
10月。菊花賞の日になった。トウカイテイオーが出ないということで、今回はキタとダイヤはお留守番……というよりも、キタの元気がないからいけないという理由がデカいだろう。
キタ、トウカイテイオーが骨折してから露骨に元気なくなったもんなぁ……。まぁ仕方ないと思うけど。
と、言うことで今回は俺一人で菊花賞が行われる京都レース場に足を運んでいた。
トウカイテイオーは出ないがクラシック最後の冠を賭けたレースだ。人は一杯……だが、やはり日本ダービーの時よりかは少ないような気がする。疎らに間隔があるし。
「…………あれは」
何とかレースが見やすい位置に移動していくと、視界に見たことがあるポニーテールが揺れる。そういえば、トウカイテイオーは沖野トレーナーと見に来てたんだっけな。今一人だけど。
……これ、声掛けれるか?
「トウカイテイオーさん」
「ん? ……あ、ドンナーくん」
「日本ダービー以来、ですね……言葉は交わしてないですけど……あ、隣いいですか?」
「そうだね、あの時はボクの応援ありがと……こっち側なら大丈夫だよ。もう片方はトレーナーだから」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えてトウカイテイオーの隣に立ち、ゲート前に並んでいるウマ娘の姿を見る。
その過程で、チラリとトウカイテイオーの横顔を盗み見る。やはり、哀愁が漂っていて話しかけれる雰囲気ではない。
『晴天の京都レース場。はたして、菊の勲章を手に入れるのはどのウマ娘か』
実況の声が聞こえ、ファンファーレが鳴り響く。
ゲートに入る姿を見ていると、隣から息を吸う音が聞こえた。
『全てのウマ娘がゲートに入りました。菊花賞────スタートしました』
「……始まっちゃった」
うわ言のように呟く声が耳に入ってくる。彼女は一体、どんな気持ちでこのレースを眺めているのだろうか。
「ボクだったら、ここで中団につく。そこで様子を見る。横にはダービーで競ったあの子がいる。ネイチャは後ろから追ってくる」
ターフの中に、勝負服を着た彼女の姿を幻視し、目を見開かせた。
「ここまでは我慢。この次のコーナーで仕掛ける」
ターフで競っている18人が一塊になろうとしている。その中で、トウカイテイオーが沈んだ。
「ここからぎゅーんって追い上げる! 先頭に立つ!」
トウカイテイオーの幻が、一バ身、二バ身と差が広がる。
「誰もボクに……追いつけない……っ」
「……っ」
泣いている。目の前の柵を強く握りしめ、悔しさを全面に押し出している。
咄嗟に、ポケットに手を伸ばしてハンカチを出そうとしたが────辞めた。
きっと、今の彼女にはこの涙が必要だと思ったから。でも、隣で泣かれるともらい泣きしそうだからちょっと目が潤んできた。
「うっ……えぐっ……カイチョー」
「…………」
もう俺の目にレースは映っていない。シンボリルドルフに憧れ、ずっと夢だった無敗の三冠ウマ娘を目標が目の前で折れて……彼女は今、心が不安定な状態になっている。
……ほんと、虚しいよなコレ。アニメ見て知っててもめちゃくちゃキツイ。泣きそうになる。
「……トウカイテイオーさん」
あまりにも見ていられなくてハンカチを出そうとした瞬間、突如として耳に聞こえる足音に、自然とターフを見ていた。
『言わせない言わせない言わせない言わせない!』
「っ!」
言葉に出していない。だけど、ゴールだけを見つめている彼女達の顔や足音から、思いが直接伝わってくる。
トウカイテイオーの幻が、ゆっくりと消えた。
『テイオーが出ていればなんて絶っったいに言わせない!』
『テイオーに負けるもんかぁぁ!!』
『私達の方が上だ! 』
『上だ!』
『上なんだぁぁぁぁぁ!!』
その熱意に、心から込み上げくる物を感じる。自然と、応援したいと、そう思ってしまう。
「行け……行けー!!!! 走れぇぇぇぇ!!!」
「頑張れ! 頑張れー!!!」
『ゴォォォル! リオナタール一着!!』
そして、今年の菊花賞も、これで幕が閉じた。なんかどこかから「4着! 頑張った!」という声が聞こえたような気がした。
「……ずるいよ、皆あんなにかっこよくなっちゃってさ」
「随分、吹っ切れましたね。トウカイテイオーさん」
「ふふ、そう?」
「はい。大分。やはりあなたは元気な姿が一番似合う」
「なにそれ」
「テイオー。お待たせ」
「ん?」
向こうからやってきたのは手に色んな食べ物を持った────ってこの人沖野トレーナーやないですか!? うわっ! 生沖野さんだ!! 後でサイン貰えないかな……。
「もう、遅いよ!」
「ははっ、すまんすまん……んでテイオー。その子は?」
「あ、この子はね、ホワイトドンナーくん! オープンキャンパスの時に知り合ったんだ!」
「どうも」
ぺこりと頭を下げる。いつもの癖で目を閉じてお辞儀をしたら────足の方から身の毛がよだつ程の不快感と寒気に襲われ、全身の毛並みがピーン! と立った。
恐る恐る目を開けると、そこには屈んだ状態で俺の足を触っている沖野さんが────
「ほぼー! これはこれはなかなかいい足をしている! トモの張りも充分で実に素晴らし────」
「ぎゃああああああ!!!」
本能でついつい足を後ろに────って後ろに沖野さんいねぇよ!?
「こぉぉぉらぁぁぁ!!」
「ぶへっ!?」
あ、代わりにトウカイテイオーが蹴ってくれた。それよりも足! うっわぁぁ……舐め回されるように触られた……気持ち悪ぃこれ……。
「ちょっとトレーナー! 小学生にまでそんなことしないでよ!」
「足……足……気持ち悪ぃ……」
「よーしよし、ごめんねードンナーくん。トレーナー、基本的にはいい人だから嫌わないでねー」
その後、五分くらいトウカイテイオーの抱きしめられながら頭を撫でられた俺であった。
カフェ……カフェどこ……?