大切にしましょう
新候補生の入隊から2週間目の金曜日である。
「明日明後日は入隊後初めての外出許可が出ます。通常外出のみですが、外に出たい者は申請するように。また、外出は土曜日午後からとなりますから注意するように。また、日曜日の21時までに帰隊しない者、連絡用の端末を携帯していない者は脱柵者とみなし警務班により捜索、逮捕となりますので充分注意するように。以上。」
香取の通達と共に、不知火の号令の下敬礼となる。
「さぁーて、あたしらも休暇だね。」
と白露。
「僕らはあんまり普段と変わらないけどね。」
新候補生は週末は休みなのだが、最初の週は外出許可が下りない。
それに伴い、教育主任の香取や警備隊所属ながら実技をサポートする白露と時雨も、せいぜい近所に買い物行く程度である。
最初の土曜日は候補生(不知火と霞を除く)に甘い物を懇願されてほぼ買い出し組で有ったが、今週は違うのである。
とは言っても、他の近隣警備隊との調整も有るので日曜日だけだが。
「あぁ神様仏様、この際ルルイエの異形の神様でも良いから、週末に何も起きませんように。」
と白露は今切口に浮かぶ大鳥居に手を合わせた。
ここの鎮守は弁天様なのだが、ルルイエのアレの名前を出すのは良い度胸かもしれない。
「のんびり過ごせたら良いよね。」
と時雨。
艦娘の任務上、何かあれば休みは返上するのは当然である。
努力、熱血、ど根性で乗り切ってきた古強者の顔はやはり違う。
土曜日。
起床時間がマルナナマルマルとなるが、なんだかんだで候補生が普段通りに起きるのは2週間の教育の賜物だろうか。
通常外出のみで外泊なしで門限有りとは言え、シャバの空気を吸えるのは有り難いわけで、候補生達は早速出かける準備をする者や日曜日の計画を立てる者たちで賑やかになる。
大抵は4人部屋のメンバーでのグループ行動だが、中には身内が近所まで来てるパターンも有ったりするのだ。
「アンタは出かけないの?」
と部屋で霞が不知火に問いかけた。
「あまり興味が有りませんので。」
と不知火は答える。学生時代から寮住まいでスポーツ就けになってる者らしい答えである。
ルームメイトの2人は連れ立って映画に行くようで、今日は軽く買い出しの予定らしい。
「やること無いなら付き合いなさいよ。」
「デートですか?」
霞の問いに不知火がズレた答えをする。
「バッカじゃないの?」
と霞は声を荒立てる。
霞的にも不知火とは別の意味で他の候補生とは合わなかったりする。
そんな感じで結局2人はあぶれたわけだが、かと言って教官に相当する白露や時雨に声をかけるのも違うと感じる訳だ。
「ちょっと午後からの買い物に付き合いなさい。」
「命令ですか?」
「そうじゃなくて!」
「まあ、特にやる事も有りませんから良いですけど。」
と何だかんだで話はまとまる。なんとなく引きこもり気味の娘を連れ出す母親に見えないことも無いが、それはオフレコと言うものだろう。
そしてヒトサンマルマル。
昼食が終わり初日の外出許可日のスタートである。
門限はフタヒトマルマルだが、同時刻には清掃が始まるのでなんだかんだと1時間前には戻るのが目処。
しかし近隣の新幹線駅、すなわち繁華街までは4駅はあるし、電車も30分おきなので割とタイトではある。
更にバスだと1時間1本未満と言う僻地なために選択の余地は無い。
「駅に行かないんですか?」
「買い物は歩ける距離よ。」
不知火の問いかけに霞が答える。
「では、霞候補生出ます。」
「不知火候補生、外出します。」
と端末を受け取りながら外出許可を取る2人。
そして2人で歩き出す。
「コンビニとホームセンターはこっちでは?」
「逆よ、逆。」
と霞は不知火を促すと西にかかる旧国道橋架の歩道を歩き出す。
港湾内を横断するこの橋架は途中の島嶼部と埋立地を経由して1437mの長さとなる。
しかも海面上の橋架を新幹線が通過するために鉄ヲタには地味に有名なスポット。
2人は南側の大鳥居を眺めつつ店に来た。
「キャンプ用品店?」
「軽く気分転換する道具買いに来たのよ。大して自由時間が無くても、少しは気分転換出来るからね。」
と霞は説明する。某キャンプアニメ(ドラマ)の聖地だけあり、店頭にはポップがあるし、太陽光発電設備の近くにも何基かのテントが張られてたりする。
「あんた予算は?」
と霞が不知火も購入するのを大前提で問いかける。
「〇〇万円くらいなら。」
「なんでそんな持ってるのよ?」
「大会入賞でスポンサーから報奨金貰ったことが有りまして。」
「それで実業団入りを蹴って海兵団入り?そのままの方が良くなかった?」
「色々と有りまして。でもこれは曲げれません。」
「ま、そういうのは嫌いじゃないけど、無駄遣いしないようにしないとね。」
「霞候補生は予算どのくらいで?」
「まあ、見てなさいな。」
と霞ははぐらかす。
610mlのシェラカップと蓋にポケットストーヴ(固形燃料付)と下に敷くステンレストレー。
あとは水筒とこれらを入れる小さなバッグと洗うための道具一式とアルファ米と乾燥味噌汁で4000円にもならない。
よく分からない不知火は霞に準じて購入する。
さり気なくシェラカップのメーカーが違うのでロゴで判断できるのがミソ。(不知火のほうが高いのもミソ)
「じゃあ、コンビニ寄りながら帰りましょ。」
レジを済ませた霞が声を上げる。
2人は購入した小さめのバッグに、道具一式を入れると来た道を戻りだす。
なんだかんだで往復2kmも無いのだが、橋を渡るだけで遠く思えるから不思議だ。
途中のコンビニでスイーツとカフェ・オ・レを購入して帰隊。
守衛所で確認した後に端末を返却したら初日の外出は終了である。
この時点でヒトゴーサンマル。
やがて他の外出者もパラパラと帰隊し始め、ヒトキューマルマルには全員揃う。
夕食は各自の判断な為、外食してくる者は給食は無しとなる。
「流石にみんな早く帰ってきたね。」
と白露。
「まだ何をしていいか分からないだけさ。」
と時雨。
白露のルルイエの異形の神様への祈りが通じたのか、初日は何事もなく消灯となった。
今回出てきたアウトドアショップさんは実在してます。
そして文字数が多くなり始めたので次回に続きます。