ここは日本のど真ん中。
浜名湖西岸に有る小さな漁港。
その漁港周辺にはかつて造船工場や観光施設等が有り、(地方にしては)そこそこ知名度が有る地区であったが、5年間の深海棲艦との戦いにより施設機能は軒並み停止し、その広さと港や船渠を備えた立地を利用して浜名海兵団が創設された。
名前はかつてこの地に有った旧海軍の教育隊にあやかり、横須賀鎮守府隷下の艦娘教育隊として発足する事になった。
本来の教育隊は横須賀、呉、舞鶴、佐世保、大湊にあったのだが、駆逐艦適正の艦娘候補生の増加に伴い、各教育隊の分校的な駆逐艦教育隊としての設立に至る。
そして現在。
適正者の減少により規模は少なくなっており、教育主任の香取と支援駆逐隊の白露と時雨以下、4人の艦娘候補生を中心に少佐を司令とする教育分隊として機能していた。
ヒトキューマルマル。
夜である。
「はー、ようやく終わったー」
と食堂兼レストルームで白露がテーブルに突っ伏しながら叫んだ。
「門限までまだ有るから、コンビニでも行く?」
と時雨が提案する。
浜名海兵団の訓練はヒトナナマルマルで終了だが、訓練生の食事や入浴時間等を監督し、更に事務仕事を終わらせると大体2時間は経過してしまう。
ここからフタマルマルマルまでは、教官や訓練支援艦娘に取っては外出出来るチャンスなのだが、元々は漁港のこの基地。近所には公園と球技場と釣具屋とコンビニしかない。
他にはガソリンスタンドと油槽所くらいで、釣り人と警務隊の巡視員が巡回してるくらいである。
「まー気分転換にはいっかー」
と白露が立ち上がり、時雨もよし来たといった趣で立ち上がる。
実際、年頃の娘が常駐する割には何にもないのは酷だが、ある意味悪い事にならないだけは利点なのが田舎の漁港。
「あれ?香取さん?」
コンビニに着くなり二人は教育主任の香取に出会った。
「あら二人共買い出し?」
と香取は返答する。
香取は見た目二十代のメガネ美人で、世が世でかつ都心なら遣り手のキャリアにも見えなくはない。
「うん、実は買い出しを兼ねた息抜きなんだよ」
と時雨は答えた。
「まー、一日中籠もってたら息が詰まるしね」
と白露。
「私も似たようなもんかな」
と香取は買い物かごにチューハイを入れてる。
「そっかー、大人は大変だ」
と白露は香取の買い物かごの中にある、二本のチューハイを見て呟いた。
「ホント、訓練生教育と司令の秘書艦業務だもんね」
と時雨も答える。
「秘書艦交代制にしよっか?」
「大丈夫ですよ。秘書艦業務は事務仕事多いから白露さんにはキツイでしょ?」
白露の提案に香取は即答し、軽く手を振ってからレジを済ませて店を出た。
「白露、空気読まないと」
「あ、そっかあ」
時雨にツッコまれた白露が答える。
要するに香取は秘書艦業務、つまりは司令の秘書のポジションだけは譲りたく無いのである。
「しかしさあ」
「なんだい白露?」
「やっぱ香取さんは大変だなあ」
「たしかに…」
多分ダメンズに引っ掛るタイプだなあと二人はしみじみ感じたのだった。
「ありがとうございました♪」
ヒトキューヨンゴ
「さーて、戻りますかー」
「白露さあ、そんな脂っこいもんばかり食べると太るよ」
白露の持参したエコバッグにはコンビニに良くある100円スナックが5袋入ってた。
「時雨はいつも和菓子よね」
時雨は大福やら団子やら。
はっきり言って寝る前に食べるものではない。
「香取さんにお裾分けしよっか?」
「僕の予想だと部屋に居ないんじゃないかな?」
「なんでよ?」
「だってチューハイ2本だったじゃないか」
と言われると白露もピーンと来る。
「あー、あー、あー」
「つまりそういう事さ。だからレストルームで食べよう」
「なんでレストルーム?」
「訓練生が来たら分ければ良いのさ」
「おー、流石は教官様。実は甘いのね」
「僕はいつも普通だよ」
「演習だと容赦ないじゃない」
「本気でやらないと成長しないしね」
等と駄弁りながら、二人は基地へと戻る。
そして消灯のフタフタマルマルまでレストルームで訓練生達に御裾分けしながら一日を終わらせたのだった。
続くかもしれない。