「以上が横須賀鎮守府からの提案書です」
ここは浜名海兵団の司令室。
訓練生から校長室と呼ばれる部屋で秘書席から香取が書類に目を通しながら目を上げた。
「命令ではないのかな?」
と司令が返す。
五十代で大佐。分屯基地司令研艦娘教育分隊隊長と書けば響きは良いが、はっきり言って閑職である。
戦線に居た頃は、まだ白露型が新型であり、本人も特型駆逐隊を指揮してそれなりに任務をこなしていたが、ただそれだけ。
今は輸送護衛や近海警備どころか、地方の分隊司令官である。
まだ香取、白露、時雨が居るだけマシではあるが、それだけにたまに無茶というか予想の斜め上を行く司令が横須賀から来るのである。
「武山の駆逐隊と合同演習…いや、イベントかな?」
「白露型6人による…このゲーム。きっと、企画者は相当なヲタですね。」
「レース好き、もしくはプロレス好きかもしれんぞ。」
「司令、楽しそうですね?」
「そう見えるか?」
「司令、プロレス好きですしね…」
と言いつつ香取は諦めたように立ち上がる。
「では私は白露さんと時雨さんに話をして来ますね。司令は武山の第二駆逐隊にご連絡をお願いします。」
と退室していった。
二日後。
「はいはい、道行く人!ちょーっと聞いてこう!」
辺鄙な港町の駅前を繋ぐ旧国道をスピーカーを付けた軽1BOXが走る。
地元の軽自動車生産販売にかけてはトップシュアを誇るメーカーの車体にはデカデカと『浜名海兵団壱号』と書かれており、後部には白露と時雨が乗っている。
そしてマイクを離さないのは勿論白露である。
「来る○月○日。浜名湖競艇場にて浜名海兵団主催、横須賀鎮守府協賛の『梅雨時の白露型イベント(仮)が開催されるよ!武山海兵団より来る第二駆逐隊を、このイッチバーンな白露とその妹分の時雨迎え撃つ!これは見に来ない手はない!」
「誰が妹分なのさ」
流暢に話す白露に、相変わらずの時雨のツッコミが飛ぶ。
「いーの、いーの、呼び込みはおねーちゃんに任せなさい!」
「マイク、オンのままだよ。」
「あ、あ、あ、テステス。いっつふぁいんとぅでぃはわゆ?」
「誤魔化し効いてないみたいよ。」
と、向こうから幼稚園児たちが手を振りながら「がんがれー」と叫ぶ。
「おー!白露のイッチバーン見せちゃうからね!」
「まったく。まあ白露らしくて良いけどさ」
二日前に香取から第二駆逐隊が来ると聞かされて心躍るのは白露だけじゃない。
村雨、夕立、春雨、五月雨の四人は同じ白露型の中でも雨の名を持ち、白露と時雨と合わせて『雨の六姉妹』と形容された六人である。
第一線に居た頃は本当の姉妹のように息が合い、姉貴分の軽巡由良と共に駆け抜けた仲だ。
今は由良は引退してしまい、六人も同じ横須賀管轄ながら違う地に赴任して、二度と交流は無いと諦めていたのである。
なんだかんだと今切口の港湾一帯を回って宣伝しまくった白露と時雨は帰投報告を済ませにもどる。
「あ、時雨さんにメール入ってますよ。職務規定により検閲されましたが、きっと嬉しい相手かと。」
と香取が時雨に報告した。
そして足早に自分のデスクに戻るとメールを確認する。
「あ!これでみんな揃う!」
と嬉しそうな声を上げた。
「誰々?」
「由良だよ!イベント来れそうだって!」
「やっりー!」
と二人は手をハイタッチした。
翌日。
「横須賀から送られて来たイベントのルールはこちらです。」
ミーティングルームにて司令、白露、時雨の三人が、香取の提示したルールを閲覧する。
【ルール】
●競艇場のプールにて行われる球技。
●ボールは安全を考慮して、水に浮くラグビーボールを使用する。
●ボールがコースを五周した時点でボールを保持していた艦娘が勝利。
●参加艦娘はゼッケンを着用し、観客はゼッケンに対して勝ち投票をする。
●艤装は火砲魚雷を取り外した物とする。
●ボールを奪取するに火砲魚雷を使用した場合は即時退場。
●コースを逆走するのは反則。繰り返すものは退場。
●勝敗の打ち合わせ等の不正行為は失格とする。
●外部への体調等の情報流布は失格とする。
●走行不能状態になった者は退場し修復剤を用いる。
●優勝艦娘には特別賞与として、勝ち投票に準じた報奨金を出す。
「てかさ、これ〇〇ってのに出てなかった?」
と白露がつぶやく。
「ハリウッド映画にもなってたよね」
と時雨。
「だから企画者はヲタなんじゃないかと…で、武山はどうでした?」
と香取。
「うむ、明日には立つそうだから明後日には来るだろ。」
と司令が答える。
「なら調整に二日有りますね。」
と香取が応答すると
「あのー、二日間四人はどこに泊まるんですか?」
と白露が聞いた。
「ふふ、ここの寮の空き部屋ですよ。」
「やったー!」
思わず白露が叫ぶ。
「久々に一緒に過ごせるね。」
と時雨も嬉しそうだ。
「あと気になることが」
香取が切り出す。
「このルールを見る限り、ボールを奪い合うゲームになると思いますが、火砲魚雷の使用以外は特に規制が無いのですよね。」
一緒、和やかな空気が止まる。
「そういえば修復材も用意されてるよね。」
と時雨。
「名目も演習だからな。」
と司令。
「あ、つまり…」
「そう。あの夕立とガチ肉弾戦になるかもね…」
時雨の言葉で空気が止まった。
続く。
一話でまとまらなかった(汗)