ここは日本のど真ん中。
ちょっぴり寂しい漁港にある、我らが浜名海兵団は午後から何やら慌ただしい。
「さぁーて、今夜は久々の合同訓練だね。」
と白露が時雨に声をかける。
「うん。ここのところ練習生の訓練ばかりで沖に出てなかったから楽しみだね。」
二人が話している通り、今夜は合同演習である。
と言っても本家の横須賀鎮守府ではなく、浜松にある空軍の救難隊との合同訓練。
艦娘は艦娘や候補生同士の演習には事欠かないが他の兵種、それも海軍ではない空軍との演習ってのは滅多に無い。
普段から施設内に籠りがちな艦娘にとっては良い刺激となるらしく、白露も時雨もどこか浮ついてる。
「はいはい、夜間訓練なんだから、気を引き締めないと事故するわよ。」
と釘を刺してきたのは、一応二人の上官となる香取である。
ちなみに香取は大尉相当官、白露と時雨は中尉相当官である。
あくまでも相当官なので海軍以外には階級適応は無いのだが、何だかんだと軍事機密の艦娘なので士官って訳である。
「ではおさらいしますね。白露、時雨の両名は本日1800に当基地を出港。1850に遠州灘沖合にて行われる、空軍浜松救難隊による夜間訓練に合流し海上支援を行います。何か質問は?」
「はい。」
「白露さん、どうぞ。」
「はい、海上支援に関してですが、どこまで介入して良いのですか?」
「本訓練においては、浜名海兵団駆逐隊はあくまでも支援。当該目標周辺の警備、並びに投下物の回収を行います。」
「僕も良いかな?」
「はい、時雨さんどうぞ。」
「装備を見ると、一通りの装備を着ける上に実弾装填となってるけど、仮想脅威が有るということですか?」
「装備については、あくまでも実戦に準じた物としているだけです。よって、浜名海兵団の訓練装備で有る12.7cm連装砲、61cm四連装魚雷に加え、夜間ということで探照灯を装備とします。また、お二人の増設装備スロットに関しては自由としますね。」
香取の言葉を聞いて、白露は書類を食い入るように見始め、時雨はやや怪訝そうな顔でそれを覗き込む。
「まあ、使わないに越したことは有りませんが、まだ深海棲艦との戦いは曖昧なままですから、充分に気を付けてください。それと、夜間訓練終了後、翌々日の朝まではお二人は非番とします。これは司令からの指示です。」
と香取が締めくくると、白露は非番と聞いて思わず笑みが溢れた。
1700。
候補生達が講義を終える。
今夜の合同訓練では、候補生四人に対して待機訓練と言う名目で司令室でモニター越しに見学と言う形になる。
そのために、白露や時雨たちと共に早目の夕食となった。
「さあて、装備の調整に行くわよ!」
と早目に食べ終わった白露が立ち上がる。
「もうちょっとゆっくり食べなよ。」
と時雨が注意をするが、なんだかんだと食べ終わり、白露に着いていく。
「はぁー、余裕よね。」
「お二人共実戦経験者ですからね。」
「まぁ、流石って事よね。」
「しっかり見学させてもらいましょう。」
四人の候補生も、なにやら羨望に彩られた目で見ている。
「ふーむ、久々の実弾。ちょっと緊張するわね。」
工廠で白露が呟く。
「この装備を想定した訓練、もしくはこの装備が必要な自体が起きうるってだけじゃないかな?」
時雨がちょっと不穏なことを言う。
「裏の事情は上に任せれば良いのさ。僕たちは指令書とおりに、与えられた装備で結果を出すだけさ。」
と時雨が締めくくる。
「出来るだけ被害を出さずにね。」
と白露が補足する。
実際、現場なんてのは時雨が言うとおりに、自分達に与えられた任務以上の事を知る必要はない。
逆に知ることで余分な選択肢を増やしてしまい、それで失敗することもあるのだ。
そこを理解せずに、緊急事態に余計な知識を振りかざしても全く役に立たない。
二人は何だかんだと、最前線で常にそうしてコンビとして生き残ったわけで、その経験に裏打ちされた行動をしているだけである。
司令も香取も、そんな白露と時雨を信頼しているわけである。
1800。
「白露型1番艦白露、出ます!」
「駆逐艦時雨、出撃するね。」
浜名海兵団より二人が出港する。
「二人共、充分に気をつけてくださいね。」
司令室から香取が二人に通信を入れた。
近海の制海権を取り戻してから、灯台を中継した通信網が復活し、各海域での海底ケーブル網も復帰し始めている。
元々、遠州灘海域は東南海地震対策により、これらのネットワークが発達しており、更に空軍の基地やレーダーサイトに加え、地上観測衛星や船舶管制システムが最も早く復帰したため、艦娘達も一種のC4Iの恩恵を受けるに至る。
浜名海兵団も、実質二人の駆逐艦娘で警備が成り立っているのも、これらのシステムによっている訳だ。
1840。浜名海兵団上空を空軍機が飛んでいく。
「時雨、来たわよ。」
「うん、こちらも展開完了だね。」
訓練海域にて白露と時雨は待つ。
やがて、岸から空軍の観測機が飛来する。
U-125A。コードネームはアスコット。
二機のターボファンエンジンが音を立てて旋回する。
そして機体下部からチャフフレアを射出した。
途端に海域が明るくなる。
実のところ、この機体は本来なら救難活動の指揮機となる為に、暗視カメラやチャフフレアを装備し、夜間における地上と海上を観測するのだが、この性能が対深海凄艦の迎撃に一役買っていた。
深部の主力なら兎も角、沿岸に出没する先遣部隊には、夜に空中戦を行える個体が少ない。
確かに深海凄艦には通常兵器は通用しないし、艦娘の艤装は適合者しか扱えない。
しかし、こういった支援作戦なら通常兵器でも行える。
そういった経緯で、日影者だった支援兵器は対深海凄艦においては非常に重要なポジションを担うようになった。
「目標確認だよ。」
時雨が目標である浮漂を見つける。
「さあて、回収するわよ。時雨、サポートね!」
白露が叫ぶと、時雨は周囲を警戒する。
時雨が観測し、白露が行動する。
長年連れ添ったコンビネーションである。
1938、浮標に到達。
元々浮漂は海上観測の為のものだから、浮漂自体は観測できない。
その為に、浮漂にあるチェックを押して、到達したと言う信号を送るわけだ。
「浮標からの信号を確認。任務クリアです。」
司令室に香取の声が響く。
「うむ。では白露と時雨に帰投を指示せよ。」
「了解。」
司令の声に香取が答えた。
何だかんだと、こちらも長いコンビである。
そして、候補生もモニター越しに信号を確認すると安堵の声を上げた。
ただ観測機が夜間に発光弾射出訓練をし、艦娘の隊が目標にタッチする。
たったこれだけだが、前線から遠ざかった部隊に取っては貴重なスクランブルの経験である。
本当に二度とこれの実戦を経験したくないものではあるが。
と香取は考え、司令と目配せした。
2012。白露と時雨が帰投する。
船渠に戻ると、整備班や妖精さんに混じって候補生たちが出迎えて敬礼していた。
彼女らに二人は返礼すると、白露と時雨は艤装を解除し、そのまま司令室に向かう。
艤装はそのまま整備班がチェックを始めた。
この辺は泊まり勤務の班だから、夜間整備も手慣れたものである。
「2018。浜名海兵団駆逐隊。合同訓練より帰投しました。」
白露が代表して報告し、労いの言葉をかけられて退室する。
「さあて、非番だあ!」
「報告書まとめたらね。」
「げ、そうだった。」
「あと質問攻めも覚悟しないとね。」
二人の目の前には興味津々な候補生たちの姿が有った。
「こりゃ、私達も徹夜だな。」
と白露がボヤくと時雨が軽く笑ってた。
軽く世界観とオリジナル設定を出してみました。