年末も最終週になると、教育隊所属の候補生も一週間の帰省が許可される。
元々、四人しかいない候補生とはいえ、居なければ居ないで宿舎が閑散とした雰囲気になるのは致し方ない。
特に夜には遠州の空っ風の音が響き、結構な冷え込みとなるのだ。
「ふぅ…」
窓から見える舞阪灯台の光を眺めつつ、ようやく人心地ついた香取がため息を吐いた。
「今年もご苦労さん。」
と対面に居るのは浜名海兵団の司令。
五十男で階級は大佐。この年齢で艦娘教育隊と警備駆逐隊の司令を兼任していると言えば聞こえは良いが、教育隊も所謂分隊、学校で言うなら分校だし、駆逐隊も二人しか居ない教育支援駆逐艦。
更には横須賀鎮守府に所属する地方部隊で、しかも後方分屯地である。
会社で言うなら、定年間近の地方の支店長ってやつだ。
本部で使うには難があり、前線で使うほど信用もない。
こんな司令だが、香取とは浜名海兵団設立以前からの付き合いになる。
「はい提督も、お疲れ様でした。」
と香取はグラスに注いだ琥珀色の液体を差し出す。
「お、サンクス♪」
対外的にはガチガチの香取と司令だが、二人きりなら割と砕けている。
「彼女はお休みですか?」
「彼女じゃないっつーの。」
「はいはい、娘さんですね。」
と軽口のやり取りをする。
司令は退役した駆逐艦娘を一人引き取っている。
色々有って身寄りが無くなり、更に作戦行動中に香取を護り、遂には艦娘に必要な竜骨を破損した為に艦娘を退役した娘である。
「ああ、もう寝てるみたいだな。」
彼女は特例として官舎に一室与えられている。
司令と別室なのは、対外的なモラルと香取への配慮であった。
彼女はここから見た目相応の「人間の学校」に通い、一応兵長待遇の人間として扱われている。
「なら安心ですね。明日は久々に二人して非番ですから、多少はね。」
と香取も司令と同じ琥珀色の飲物を口に運びながら話す。
「司令部も少佐と白露と時雨が詰めるから何も心配いらんしな。」
二人は軽く微笑みながらグラスをチビチビと飲む。
グラスの中の氷が縁に当たり、冷たい響きを奏でる。
喉に通る液体は熱く喉を焼き、胸に広がる。
普段はコンビ二の缶チューハイだが、特別な日にはロックを飲み交わす。
香取と司令の恒例行事みたいな物である。
「候補生達も、帰隊すれば実地訓練ですね。」
「まあ、俺たちに出切ることと言えば、あの娘たちが無事に帰れるように、少しでも多くの事を教えるくらいしか出来んがな。」
「二度と娘さんみたいなのは見たくないですしね。」
二人きりで飲んでても、あまり色気がないのがこの二人らしいと言えばらしい。
薄暗い部屋に、たまに差し込む灯台の灯りと風の音。暖房を効かせていてもやや寒く感じるが、それを酒が温めてくれる。
二人は仕事を交えた他愛ない話を夜半まで続け、朝まで一緒にいたのである。
ここは日本のど真ん中、太平洋岸のへその辺りにある小さな教育隊。
そこの要は、何だかんだとこの二人なのである。