年度が変わる。
年度末に艦娘候補生を現任にまで育てて送り出した浜名海兵団は、新年度に入り新たに艦娘候補生たちを受け入れた。
本年度の静岡県、愛知県、長野県南部の駆逐艦候補生は全部で16名。
「みんな初々しいねぇ。」
「今年は何人残るかな?」
白露の軽口に対して時雨が答える。
昨年も16名いたが、無事に課程を修了させたのは4名。
この16名に選抜されるにも志願者を中心に3県だけでも50名近く居るわけで、そこから適性と身体能力で選抜された16名が入隊するのだが、そのうち半分以上は最初の3ヶ月の基礎訓練課程でふるい落とされてしまう。
どちらかと言えばフィジカルとメンタルのエリート層の候補生でも、艦娘としての基礎を叩き込まれる課程とはそれだけキツイのである。
「では諸君に期待する。」
団長の訓示が終わり、候補生たちが不揃いな敬礼をする。
「では昼食後、ヒトサンマルマルに講堂に集合して下さい。」
と教育主任の香取が伝えて解散。
候補生たちは真新しい制服のまま、その場で解散した。
「今回、期待の新人居るみたいね」
と白露がつぶやく。
「たしか不知火候補生だっけ?」
艦娘候補生は候補生になった時に本名ではなく、適正のある艦娘型で呼ばれるようになる。
「地元実業団の陸上部を蹴って艦娘志願とは気合入ってるね。」
「白露だって、元国体選手だったじゃない。」
「可能性としては、こっちの方がイチバンになり甲斐があったしね。」
「なら彼女もそうなんじゃないかな?」
「フィジカルエリートでメンタルエリートなだけじゃ勤まらないのは実感したけどね。」
「でも元エースじゃないか。」
「相棒次第だよ。」
とさり気なく時雨を立てる白露。
「あれは霞候補生か。」
「体格小さいから目立つわね。」
「白露、そういうのは良くないよ。」
「ごっめーん、反省する。」
体格が小さいから朝潮型なのか、朝潮型だから体格が小さいのかと良く分からない事を考えながら白露と時雨も食堂に向かう。
ヒトサンマルマル。
「気を付け!」
講堂に香取の声が響く。
「今日より貴女達候補生は軍属となります。よって軍隊生活に必要な知識と礼法、そして体力が必要となります。白露、時雨、前へ。」
淡々としながらもはっきりとした香取に呼ばれ、白露と時雨が前に立つ。
「浜名海兵団警備隊の白露です。」
「同、時雨です。」
と二人は敬礼をする。
流石に普段の砕けた感じはない。
「では二人に続いて礼法の基本動作をしてもらいます。」
香取が通達する。
礼法基本動作とは、気を付け、敬礼、直れ、右向け右、左向け左、回れ右の事である。
教育課程最初はこれが16人、一糸乱れぬ様になるまで延々と続くのである。
これがなかなか難しく、かつ基本教育なだけに妥協がない。
香取の厳しい目の中、約1時間に渡り白露と時雨も含めた候補生たちは延々と基本動作を続ける。
「はい、そこまで。全員休め。」
香取の言葉で終了。
「それでは白露、時雨は退出。不知火候補生は号令を。」
「総員、敬礼!」
不知火の声で16人が敬礼し、白露と時雨が退出しようとする。
「はい、敬礼が揃ってない。もう一度。」
不知火候補生は戸惑いながらももう一度最初から始める。
「気を付け!総員敬礼!」
「駄目。もう一度。」
半ば毎年恒例の洗礼のようなものだが、これで気を抜いたら今後の課程には着いて行けないので白露と時雨も妥協なし。
ヒトサンマルマルより始まった礼法基本動作は、結局ヒトゴーマルマルまで2時間かかったのである。
「では15分休憩します。それまでに次の準備をして下さい。」
と香取の声で候補生たちがようやくため息をつく。
「(もう、馬鹿ばっかり)」
と霞候補生は内心毒ついてから用足しついでに軽く外の空気を吸っていた。
不知火候補生は黙々と次の準備をしている。
初日の2限目は艦娘関連の法案と、成り立ちの座学となる。
「(さあて、何人残るかな)」
と団長は執務室で珈琲を飲みながら考えていた。
新年度らしい話を書いてみました。