死 ぬ が よ い (直球)
全ての作戦が終わり、途方に暮れるマーベラス
そんな彼女のもとに現れる、一人のウマ娘とは!?
ザザーン…ザザーン…
夕焼けの空に、さざ波の音が響く。
ここはとある海辺の街道。
都内有数のデートスポットの一つでもあるここには、一般の人達だけでなく、カップルも多く訪れる。
だからこそ、夕方のここにも普段と変わらず多くの人々が訪れ、思い思いの時間を過ごしているんだけど…
ザザーン…ザザーン…
そんな情緒あふれる、海辺の街道の、片隅のベンチで、アタシは黄昏ている。
昼間はあれほど勢いのあった太陽も、夕方になった今はすっかり勢いがなくなり、水平線の向こうに沈もうとしている。
そして、そんな沈み行く太陽の輝きを受けて、周囲は黄金に輝いている。
ゴールデンタイム。海面で反射する光も合わせて、まさにそう形容するしかないほどの輝きがあたりを覆う。
そして、そんな美しい光景を前にして、誰もが息を飲む。今この瞬間は、まさにそんな時間。
なるほど、たしかにそれは非常に荘厳で神秘的で、だからこそ、この場所がデートスポットとしても人気なのも納得できるわけで…
「…はぁ…」
そんな100万ドルの絶景を前にして、しかしアタシはため息をつく。
と言うのも…
「…結局何一つ上手く行かなかったな…」
そう、結局今回のアタシの計画は全てが失敗に終わった。
協力してくれた三人には感謝してる。
だけど、それでも彼女達の出す課題は、ちょっとマーベラスには過酷すぎるものばかりで…
(…ひとつも上手く行かなかった…)
だからこそ、アタシはなんだか悲しくなってくる。
せっかく三人がアタシのためを思って用意してくれた課題を、アタシは何一つクリア出来なかった。
それはつまり…
(…やっぱり、マーベラスは…)
…結局存在感の薄いキャラで終わってしまうのだろうか?
…マヤノやテイオー、ネイチャみたいには、もう目立てないのだろうか?
そう思って悲しくなってきたその時だった
「…うん?マーベラスか?
なんやこんなところで、どないしたんや?」
ふいにそんな声がして、その方向を振り向くと…
「…た、タマ先輩?」
そこにいたのは、今まで直接話したことがあまりなかった先輩で…
「おう!うちや!!
…それにしても、ほんとどないしたんや?その顔?
うちで良ければ話聞くで?」
それでも、こっちを見るその顔は、とても心配そうな表情をしていたから…
「…聞いてくれますか?」
「もちろんや!
後輩の悩みを聞くのも先輩の仕事やからな!!」
そう笑ってくれるタマ先輩に、アタシは事の発端から話し始める。
........................
.................
.........
「はーん…マーベラス、あんたも大変やったんやな~」
隣に座って、アタシの話を黙って聞いてくれたタマ先輩は、話が終わるとそう言った。
時刻はもうすっかり夜だ。
日没なんかとうに過ぎて、
あたりにはもう完全に夜の帳が降りている。
周囲にはぽつぽつと街灯が付いていて、
その頼りない明かりだけが、
この場の唯一の光源だ。
そんな薄暗い闇の中で、
アタシ達の座っているベンチの上にもまた街灯が付いていて、ここだけは明るい。
それはまるで、夜の闇から切り離された特異点、世界の外側にある誰も知らない場所のようだったから…
「…やっぱり」
と口をつくのは
「…やっぱりマーベラスは…」
影が薄いままなんですかね?
そう弱音が漏れそうになった瞬間だった。
「…やめとき、マーベラス。
そこから先はゆうたらあかんで」
そう言われてはっとして顔をあげると、タマ先輩はマーベラスの方を見ずに真っ直ぐ前を見つめている。
でも、その瞳に映る色はとても真剣なもので…
「…そうゆうことはな、ゆうたら負けや。
例え本心でなくとも、それをゆうた瞬間に、それは本当になってしまうもんや。
なんせ、お天道様がみてはるさかい。
…だからな、ゆうたらあかん。」
それにな、そう先輩は続ける
「…確かに努力は実らへんやったかもしれん。
それでもあんたは本気で挑もうとはしたんやし、何よりそれをまわりのみんなも手伝ってくれたんやろ?それなら…」
そう言って先輩はこちらを向くと、優しく微笑んでくれる。
「…それだけでもあんたは立派や。
それに、それだけみんなが協力してくれるんなら、あんたは十分にそいつらから慕われとる。だから…」
そして先輩はアタシの頭に手を置くと
「…安心しんさい。
あんたは十分にそのみんなにとっては大事な存在や。
少なくとも、影が薄くて忘れ去られるなんてことだけは絶対にないから、そこは安心しんさい」
そう言って先輩はアタシの頭を撫でてくれる。
だから…
「…ありがとう、ございます」
ちょっと涙目でアタシはお礼を言う。すると
「ええって!ええって!
最初にも言ったやろ?後輩の悩みを聞くのも先輩の仕事や!!」
そう言ってカラカラと先輩は笑う
その笑いを見てると、アタシもちょっとだけ元気が出てきたから…
「そ、そうだよね!例えこの小説でアタシの影が薄くても、アタシ達の友情までがなくなるわけじゃないよね!!」
そう言ってアタシは席を立つ。
そうだ、なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう?
確かにアタシの存在感は、この小説では薄いかもしれない。
でもそれは、みんなとの繋がりが薄れるってことでは全くない。
マヤノもテイオーも、そしてネイチャも、アタシの掛け替えのない友達なんだ!
それなら、そんな彼女達との強固な絆さえあれば、それで良いじゃないか!
そう思うと、アタシの体にはこれまで感じなかった力が沸いてきたから…
「ありがとうございます!タマ先輩!!」
そう言ってアタシは先輩の方に向き直り、頭を下げる。そして
「お陰で大切なことに気が付きました!本当に本当にありがとうございました!!」
そう感謝の言葉を述べる。
すると先輩は
「別にアタシは大したことはしとらん。
まっ、あんたが元気になったんならそれで結構や」
そう言って手をヒラヒラふりながら苦笑する。
その姿に、体は小さくてもやっぱりこの人は先輩なんだな~と尊敬の目を向けていると…
「…それにな?あんたの話を聞いとって思うたんやけど、あんたも別に特徴がないわけではないみたいやで?」
そんなことを言ってくるものだから…
「…え?」
思わず顔をあげると、先輩は不敵な笑みを浮かべていて…
「よー考えてみい。
今回あんたはあんたの友達の助けを借りて、存在感を上げようとしたんやな?
で、常識外れの課題を出されて逃げ出した、と。
ここまではあっとるな?」
「う、うん…」
困惑しながらもアタシがそう返すと、先輩は続ける。
「そんで、メタい話やけど、その三回の講義をネタとして、今のオチの話になっとるわけで…
…多分話のコンセプトからして、今回の一連の話は基本ギャグ回やな?」
そこでや、と先輩は人差し指を立ててマーベラスに尋ねる。
「…おかしいとは思わんか、マーベラス?」
そう言われたから
「…え?」
アタシは困惑する。今までの先輩の話は基本合ってる。
でも、それだけに特におかしいところなんてないように思うんだけど…
「…もう一度思い出してみい、マーベラス。
あんたはあんたの友達から常識外れの課題を出されて逃げ出した。これが肝や」
そう言って先輩は続ける
「人間っていうもんはな?基本的には文脈っていうものを意識するもんや。
例えば学校のテストの話をしとるのに、いきなりベーリング海のカニ漁の話をされても困るやろ?」
そう言われてマーベラスはうなずく
「つまり、基本的に人間ってもんは、その時の空気にあってない話を出されると困惑する。
ここまでは分かるな?
…でや
今回の話に戻るけど…あんたは三回共に、明らかに自分の予想を上回るスケールのものを出されて逃げ出した。
…言ってみるとこれだけなんやが、それでも前回までの話はしっかりとひとつの物語として独立しとる。これっておかしくないか?」
「…」
か、考えてみれば確かにおかしいかもしれない…
だって要するに前回までの話って、例えば、昼御飯を食べに行ったら恐竜と宇宙人が、多面並行宇宙の支配権を巡って戦争してました、ちゃんちゃん、ってことに近い。
いきなり文脈上予想出来ないことが現れて、それでも登場人物間の会話を破綻させることなくエンドマークまで持っていってる。
これはおかしいことだ。何故なら突拍子が無さすぎる。急速すぎる話題の転換に、人間はついていけないってのは、さっき先輩が言ったばかりで、それなら、それによって登場人物と読者は混乱の渦に巻き込まれるはず。
でも、前回までの話でそんなことは起きてない。
言ってみれば、いきなり恐竜と宇宙人の戦争が起きても、アタシ達はそれを平然と受容できたし、読者の方々にもそこまで違和感は与えていない(と良いなぁ by作者)。
それどころか、前回までの話はれっきとしたギャグというジャンルの話として成立しているのだ。
それって…
「…気づいたみたいやな?」
そこまで考えた瞬間に声をかけられ、慌ててアタシは先輩の方を向く。
すると、先輩もベンチから立ち上がってその場に仁王立ちしていて…
「…そう、つまり前回までの物語の中には、不自然を自然へと変える機能を持った存在がおったということ。そして、ギャグという分野においてそれを司るのはツッコミ。
つまり…」
そこでビシッと先輩がアタシを指差して言ったのは…
「つまり!あんたのこの小説における最大の役割は、ツッコミ役なんやー!!」
そう言われて
「な、なんだってー!!」
と雷に打たれたような衝撃に襲われるアタシに、さらに先輩は追い討ちをかける
「そもそもツッコミってのはな?漫才における均衡を司る役目や。
さっき言った通り、人間っちゅうもんは突発的な話題に弱い。
せやから、いきなりそれを出されると混乱する。自分の常識との解離に混乱が生じて、訳が分からんくなるんや。だから、もしこのままだと何も起きん。変な話をされた、それだけで終わってまう」
せやけどな、そう言って先輩口の端を吊り上げる
「もし、そこにそんな自分の常識を肯定してくれて、世界こそが間違ってくれると言ってくれる存在がおったら…どうや?」
「そ、それは…」
「せや、カオスはコスモスに収束する。非常識をそのまま非常識として、うちらは受け入れられるようになる。
そして、それが出来た瞬間に、うちらは悟るんや。やはりうちらではなく世界の方こそが間違ってると。
そして、その食い違いの狭間に笑いが生まれる。明らかに自分の方があっているのに、それでも間違った変なことを言っとるやつがいる。その認識の誤差から生じる滑稽さの間にこそ、真の笑いが生まれるんやぁぁっっ!!」
そう、「我が人生に一片の悔いなし!」とでも言い出しそうなポーズで力説し終えた先輩は、
また再びアタシに向き合う。
そして…
「…これがツッコミや。
そして、漫才やのうてギャグでも、基本的にこの構造は変わらん。
…そこでや、マーベラス。
最初の前提に戻るで?
…前回まで、あんたは何をしてた?」
そう言われてアタシの脳裏に甦るのは…
(「ごめんマヤちん!でもあれは無理ー!!」)
(「いや、なんでいるのテイオー!!」)
(「いやぁぁぁぁああああっっ!?」
)
前回までの、三人からの逃走劇であり、そして…
(…あぁ)
それに気付いた瞬間に、アタシは自然と力が抜けて、地面に膝立ちになる。
そして…
(…つまり、つまりアタシの役目は…)
今まで閉じていた目を開いたような、底知れぬ解放感と共に、頬を滝のような涙がこぼれ落ちる。
…そう、それは非現実からの逃避。
アタシとしては、単に無茶苦茶なものから逃げてただけなんだけど、それらは間違いなく、突発的に出現した非現実へのカウンター行為、つまりツッコミとして機能していて...
それを肯定するように目の前の先輩は頷く。
「せや、マーベラス。
あんたはツッコミキャラなんや。そしてさらに、それだけやない」
そして告げるのは…
「前回までの話でもそうやけど、あんたのツッコミは物語の最後でエンドマーク代わりに使われることも何回かあった。つまり…」
そう言って先輩は、地面に手をついて感嘆の涙を流し続けるアタシをそっと抱き締める
「...あんたはな、ツッコミ兼オチ担当。
ギャグにおいて絶対になくてはならない重要な役職なんや。せやからな…」
そうアタシの背中を愛おしそうに叩く先輩の姿はまさに…
「...誇りぃ、マーベラス。
あんたはただのモブキャラなんかやない。
ツッコミという重要な役割を持った、立派な登場人物やさかい…」
聖母マリア
キリスト教における、最大の母性の象徴ともされる、その存在そのものだったから…
「...うわぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあん!!」
アタシは涙を流し続ける。
声が枯れるまで、先輩の胸の中でまるで生まれたての赤子のように。
まるで自分はここにいる、それを世界に証明するように、声の限りに泣き続ける。
それは悲しみの涙だろうか?
いや、違う。それはむしろ歓喜の涙。
自分とは何か、人類が生まれて以来すべての人々が探し続けたそれを、ようやく見つけることができたから。
それは、苦難の旅の果てに答えを得た巡礼者の涙だったから…
「うわぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあん!!」
アタシは叫び続ける。
世界はこんなにも美しいと、輝いていると、命の限りにその溢れる涙を流しながら叫び続ける。
そして…
「…ええんやで、いくらでも泣きんさい…」
そんなアタシを先輩はただ、ひたすらにあやし続ける。
それはまさに愛。彼女はツッコミの伝道者として、後から来た後輩が真理に辿り着いたことを、心から祝福し続ける…
その姿はまさしく、子供への愛に満ちた母の姿であり…
「うわぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあん!!」
薄暗い街灯の下で、そんな先輩の暖かさに包まれながら、アタシは泣き続けるのだった…
ナ ア ニ コ レ ?
ちなみにこの話におけるツッコミ理論は、
作者が考えた似非理論なので、
あてにしないでください。
そして書いてて思ったのですが、
意外とタマちゃんのボケも悪くない。
基本オグリと一緒にいて、
彼女専属のツッコミ役という描かれ方をされることが多いタマちゃんですが、
オグリがいない状況だと、ネタ次第ではボケにも回れるものですね。