…まさか書き終えるのに一か月近く掛るとは思いませんでしたが、
それでもようやく書き終わったので、
短編集3作目(ゴルシ編はお蔵入りなので例外)スタートです!!
※なお、今回の短編は本編の方でいただいた、
とある感想から着想を得て書いた本編後のIFストーリーです。
その感想の方でも書いた通り、
エピローグに登場したあるウマ娘の孫に関しては、
特に何の設定もないので、
もしかしたらこんな未来があるのかもしれない、
という程度でお読みください。
ゲートが開くと共に、わたしは駆け出す。
しかと大地を踏みしめ、韋駄天のごとく疾走する。
それはまさに流星。
他のウマ娘達をはるか後ろに残して、わたしはレース場を吹き抜ける、一陣の風と化す。
(…あぁ)
頬を撫でる風がなんと気持ちが良いことだろう。
自分の前に誰もいない景色の、なんと広いことだろう。
わたしの前に道はなく、わたしの走った轍こそが、道となる。
それは、一種の全能感
誰も私に追い付けない
誰も私についてこれない
世界は今、わたしの手の中にある!
だからこそ…
(…え?)
急にわたしのスピードが、がくっと落ちる。
そして、必然そうなれば後ろにいたはずのウマ娘達は、わたしを追い抜かしていくわけで…
(…ま、待って!)
わたしは必死に手を伸ばす。
だけど、届かない。
他のウマ娘達はどんどんわたしを追い抜かしていく。
今までわたしのものだったレース場の歓声が、もう別のウマ娘達のものになる。
…あぁ、そうだ。
だからこそ、わたしは怖い。
せっかく手に入れた一番。
それを失うのが怖い。
「…お願い」
頑張って頑張って、
それでもみんなの期待に応えられなくて…
そんな中でようやく掴んだチャンスを、やっと勝ち取った栄光へのチケットを…
「…おいてかないで!!」
ふいにしてしまうのが、
怖くて、悲しくて、情けなくて…
伸ばした手は…
「………はっ!!」
…特に何も掴まなかったことをこの目で確認できたのは、一重に朝だったからだ。
.........................
.................
.........
トレセン学園
数多くの名だたるウマ娘達を排出してきた実績を持つこの学園は、レースを志す日本のウマ娘達にとって、まさに日本一の名門校である。
そして、それ故にその中での生徒達の競争率は非常に高く、だからこそ今日も生徒達は互いに鎬を削りあう。
すべては自分の夢を叶えるため、憧れの舞台に立つため、今日も彼女達の研鑽は絶え間なく続く。
そして、そんなトレセン学園の生徒の一人たるわたしが、今何をしているかというと…
「…うぅ、迷った」
…絶賛迷子だった。
何処とも知らない路地裏で、絶望感に浸りながら、orzのポーズを取るわたしの周囲は、本当にまったく見たことも聞いたこともないような場所で、いかに自分がなりふり構わず、無茶苦茶なルートを辿ってきてしまったのかが良く分かる。
そして
「…スマホもダメか…」
こんな時に限ってスマホも充電切れ。うっかり昨日充電し損ねたのを後悔しても、もう遅い。
だからこそ、わたしは項垂れる。
空は気持ち良いほどに青々と澄み渡っており、ぽかぽかとした陽気があたりを包んでいる。周囲も静かで、のんびりとした空気が漂っている。
そこだけ切り取れば、「穏やかな休日」とでも題名を付けて、額縁に飾れそうなほどに、暖かな光景だが…悲しいかな、帰り道がまったくわからない今のわたしにとっては、その穏やかさこそが恨めしい。
だからこそ
「にゃ~ん…」
大地に手をつき、これ以上ないほどに悲しみと絶望をアピールするわたしの頭上からするその声は、びっくりするほど優しく聞こえたから…
「…そんな声を出すくらいなら、素直にモフられてよ…ばかぁ…」
と呻きながらも、さりげなく伸ばしたわたしの手を、さっとかわす目の前の猫を、わたしはちょっと涙目で睨む。
…そう、そんな端的に言って、詰みの状況の私が陥ったのには、深い深い、それこそマリアナ海溝よりも深い、聞くも涙、語るも涙な驚天動地の理由があるのだが...
「にゃ~ん…」
詰まるところそれは、この猫、出会ってから一度もわたしにモフらさせてくれない癖に、何度もわたしを誘惑するこの思わせ振りな猫にある。
…あぁ、そうだ。
わたしはこの猫と初めて出会った時から今に至るまで、数々の激戦を繰り広げてきた。
ある時はトレセンの敷地内で、またある時は近くの商店街で、わたしはおばぁちゃんの代から続く生粋の猫好き一族として、あまたの猫を墜としてきた(らしい)一子相伝の技術のすべてを遺憾なく発揮し、この猫をモフらんとしてきた。
しかし、この猫もただものではない。
わたしの、世界そのものと同一化することにより、存在するだけでその猫に触れることが出来る奥義も。
猫をモフることができるという可能性未来を先んじて確定させることにより、猫をモフるという結果ありきですべての因果を望む未来へと収束させる秘技も。
すべてこの猫には破られた。
そう、わたしが猫モフりのスペシャリスト(自称)であるとするならば、この猫はまさにその反対の道を行く猫。
あまたの猫モフりの達人たちの手をすり抜け、いまだその身体に誰の手も許さぬ孤高の野良猫。
だからこそ、レース前日に気晴らしで街を歩いていた時に、偶然その因縁のライバルの姿を見つけたわたしは、今日こそは決着を付けてやる、と路地裏に飛び込み…
「…にゃあ~」
…その生涯のライバルの、どこか同情するような鳴き声を聴きながら、今こんな状態となっているのだ。
でも…
「…ふっふっふっ!!」
それでも、そんな控えめに言って、本気でお巡りさんに泣きつかなきゃいけないレベルの状態でも、わたしの辞書に不可能の文字はない!
なぜなら!!
「よ~し!こっちだ!!」
そう言ってすくっと立ち上がったわたしは、適当な方向に向き直って歩き出す。そんなわたしに、「ねぇねぇ、本当に大丈夫?」とでも言いたげな目で件の猫ちゃんが問いかけてくるけど…
「大丈夫大丈夫!わたしの勘が、こっちに進めって言ってるから!!」
軽く笑って、わたしはズンズン歩いていく。
そう、わたしは昔から恐ろしく勘が鋭い。
具体的に言うなら、毎回の学校のテストは、記号問題だけで赤点による補習を免れている位には、わたしの勘は良く当たる。
だからこそ、わたしは自分の勘には絶対の自信を持っている。
なんかよく分かんないけど、こっちに行った方が良い…むしろ、行かなければならないという、謎の直感に導かれ、路地裏をズンズン歩いていく。
…そして、わたしは出会う
路地裏を抜けた先、
どこかの駅の前の道に飛び出したわたしは…
「…きゃっ!!」
「わっ!!」
その勢いで、目の前にいたウマ娘をうっかり突き飛ばしてしまう。
カランカラン…
怪我でもしていたのか、そのウマ娘は体勢を崩してその場に倒れこみ、彼女の持っていた松葉杖が道に転がる
「ごごご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄るわたしの目に写ったのは
「…いてて」
明るいオレンジの髪をなびかせるウマ娘で
「…もう!誰だか知らないけど、気を付けてよね!!」
そう言って頬をぷくっと膨らませるそのウマ娘を…
「………え?」
わたしは知っている気がしたから…
思わず足を止め、まじまじとそのウマ娘を眺める
まず印象に残るのは、鮮やかなオレンジの髪の毛。太陽のような暖かさを宿した、美しい長髪。
そして、幼い容姿。
こちらを不機嫌そうに睨むその顔の造形は、幼い女の子そのものであり、また地面に座り込んでいるからというのもあるが、本人の体が小さいのも相まって、ちっとも怖くない。
そして、右耳に付けられた黒いリボン。シンプルなそれは、それでも先の二つの特徴を踏まえた上なら、別の意味を持ってくる。
…あぁ、そうだ。
わたしがこの人を見間違えるなんてあり得ない。
今はあの有名な勝負服ではなく私服みたいだけど、その程度でわたしが惑わされることなんて、絶対にない。
なぜならこの人は、このウマ娘は、わたしが幼い頃に憧れた人だから…
「…」
何度も、何度も、写真で、映像でその姿を見た、わたしにとっての英雄そのものだったから…
「…?どうしたの?」
俯き、何も言わなくなったわたしに、目の前のウマ娘は怪訝な顔を浮かべる。しかし…
「……」
「…え?え?ホントにどうしたの?」
それでも答えず、ふるふると震えだしたわたしの姿に、やがて心配そうな顔をし始める
「も、もしかしてキミ、どこか変なところ打っちゃったの?
…ね、ねぇ、ホントに、ホントに大丈夫なの?」
そしてついには、突き飛ばされたことも忘れて、本気でわたしの心配をし始める。
だけど
「………な」
「…な?」
だからこそわたしは
「なんでぇぇぇぇえええっっ!?」
そう叫ばざるを得ない。
なぜなら…
(え?え?え?
なんでわたしの前にこの人がいるの!?
この人って確か…)
おばぁちゃんのお友達で
昔ものすごく人気があったウマ娘で、
だけど若くして亡くなったって…
そこまで考えたところで、
わたしは悟る。
…いや
(…ま、まさか…)
その想像を、直感が肯定する。
その事実が、どうしようもなくわかってしまう。
それはつまり…
「タイムスリップしてるぅぅっっ!?」
その可能性に思い当たり、再び絶叫するわたしの周囲の人々はざわめき、件のウマ娘はポカーンとした顔でこちらを見つめている。
そしてそんな中でも相変わらず
「にゃ~ん…」
我が生涯のライバルは、
マイペースに、のんびりとあくびをしている。
それはまさに茶番劇。
神のいたずらとしか思えない巡り合わせで…
…そう、この日わたしは出会ったのだ。
かつて、自身の命が尽きるまで走り続けた、とあるウマ娘に
みんなを笑顔にする、そのためだけに走り続けた、誇り高きウマ娘に
相棒を失い、それでもなお走り続けた、あの片翼の撃墜王に、なぜかわたしは出会ってしまったのだった…
<???>
本作ではあるウマ娘の孫であり、史実の祖父との血縁関係はない。
いつも明るく前向きな子で、学校の成績は悪いが、それでも常に笑顔を絶やさないマイペースな子。
その気質故に、多くの人達に慕われているが、
だからと言って別に能天気でも鈍感でもなく、むしろ本当は感受性が強いために、人一倍落ち込みやすいところがある。
そして、自分の悩みを一人で抱え込みやすいところがあるが、
それでも祖母譲りのど根性で頑張るまっすぐな子。
ちなみに猫が大好きで、猫をモフることが生き甲斐。
その為、道で猫を見ると積極的にモフりにいくのだが、
方向音痴なために、それでよく迷子になる。
ビジュアルイメージ的にはサ〇ポケの紬みたいな感じ
(多分全体的なイメージとしてはア〇永遠の一夏の方が近いが、
顔のイメージは紬が一番近い)
…正直なところこの話を書く際に、
この作品内では血縁関係ないけど大丈夫かな?
と少し心配でしたが、よくよく考えると、
アニメのトウカイテイオーとシンボリルドルフも恐らく血縁関係はないですし、
BNWの誓いでもダイワスカーレットにアグネスタキオンが「君とはなんだか他人の気がしない」と初対面で言ってたのでセーフです。
ノットギルティ!!