片翼の撃墜王 外伝集   作:DX鶏がらスープ

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黎明はまだ…

※一応ウマ娘化されていない馬なので、
名前を少しいじっています。
ご了承ください。


王宮の黎明 それでも

 

 

.........................

 

 

 

 

 

.................

 

 

 

 

.........

 

 

 

 

 

「…おーい!…おーい!!」

 

「…!!」

 

気が付くと、また目の前にトレーナーさんの顔があって

 

「…本当に大丈夫?」

 

そうますます心配そうな顔で、こちらを覗き込んでくるものだから

 

「…だ、大丈夫だよ!トレーナーさん!!」

 

慌てて距離を取るけど

 

「………本当に?」

 

と、そう真面目な顔でトレーナーさんが聞いてくるから

 

「………うん」

 

そう頷くと

 

「………まぁ、それなら良いけどね」

 

と、一応トレーナーさんは納得してくれる

 

随分長い間ぼーっとしてしまったと思ったけど、実際にはそんなことはなくて、せいぜい数秒程度。

 

だからこそ、地下バ道の様子は変わらない。相変わらずわたしとトレーナーさんしかいないこの場所は、無機質な沈黙に包まれている。

 

でも、そろそろわたしも地上に上がらなければいけない。

故に、今いる地下バ道の先を見据えたわたしは…

 

「…」

 

思わずごくり、と生唾を飲んでしまう。

 

…そう、ここから先はまごうことなき戦場。

選び抜かれた精鋭のウマ娘達が、たった一つの栄光を奪い合う、死地なのだ。故に

 

「…」

 

わたしは思わず立ちすくんでしまう。

…果たして、わたしは勝つことができるのだろうか?

ここから先の戦場で、他のウマ娘達との闘争の末に、望む栄光を手にすることが出来るのだろうか?

 

「…」

 

ツゥー、と冷や汗が背中を流れるのを感じる。

恐怖と緊張で、足が動かない。

たった一歩、しかしそんな僅かな一歩をどうしても踏み出すことが出来ない。

 

(…わたしは)

 

だからこそ、わたしはそんな自分の不甲斐なさが憎い。

自分の臆病さが憎い。

 

…分かってる。

レースが1か0かの世界だなんてこと、最初からわたしは分かってたはずだ。でも、今はそれが怖い。たまらなく怖い。

 

だからこそ、わたしは最後の一歩が踏み出せない。戦場への最後の一歩、決定的な一歩をどうしても踏み出すことが出来ない!

 

(…わたしは!!)

 

そんな自分の弱さに、わたしが思わず自身の拳を握りしめた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ、キャル」

 

 

 

 

 

 

 

その声と共に感じたのは

 

「…!!」

 

握りしめた拳、それをそっと包むトレーナーさんの手の暖かさで…

 

「…アタシは知ってるよ。

ここに来るまでに、あんたが今までどれだけの涙を流してきたのか。

そして、どれだけ頑張ってきたのか。全部をね」

 

だから…

 

そう言いながら、ガッチガッチに握りしめたわたしの指を、一本ずつ優しく外すトレーナーさんの顔は

 

「アタシは信じてるよ、あんたの勝利を

そして…」

 

泣きたくなるほどに優しい笑顔で…

 

「アンタの夢が、叶うことを…ね?」

 

その手は、びっくりするほど暖かかったから…

 

「…~!!」

 

不意に脳裏を過るのは、まだたったの一年しか一緒にいなくて、それでも一年もわたしと一緒にいてくれた、かけがえのないトレーナーさんとの思い出

 

 

 

 

 

 

 

(「はい!それじゃあ次はグラウンド100周!!」)

(「ト、トレーナーさんのおに~!!」)

(「鬼で結構。ほら、さっさと走る!!」)

(「そんなんだから、彼氏の一人もできないんだ~!!」)

(「…今日は天気が良いわね?こんなに運動日和なんだから、1000本くらいはいけるわよね?」)

(「ひぇ~!ごめんなさ~い!!」)

 

 

 

 

…あぁ、それは本当に、本当に些細な思い出

 

 

 

 

(「へぇ、あんたこんなに美味しいもの作れたのね?」)

(「ふふん、おばぁちゃん仕込みですから!トレーナーさんとは違うんですよ♪」)

(「失礼な…アタシだって料理くらいできるわよ」)

(「…トレーナーさん、カップラーメンは料理とは言わないんだよ?」)

 

 

 

 

記憶にすら残らない、

ささやかな日常の、ありふれた一ページ

 

 

 

 

(「…キャル?」)

(「え、え~と…」)

(「この点数は何?」)

(「で、でもほら!赤点は一つもないよ!!」)

(「確かにそうね?

…でも、全部赤点ギリギリじゃない!今日は夜まで勉強会よ!!」)

(「いや~!?勘弁して、トレーナーさ~ん!!」)

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

(「あぁぁぁぁあああっっ!?」)

(「ふふん!またわたしの勝ちだね?トレーナーさん!!」)

(「くっ!?あんたなんでそんなに、このゲーム強いのよ!!」)

(「昔からアクションゲームとか、シューティングゲームは得意なんだ♪」)

(「も、もう一回!もう一回よ!!」)

(「また~?本当にトレーナーさんは負けず嫌いだね?」)

 

 

 

 

それでも

 

 

 

 

(「はい。じゃあ、これが今月のトレーニングメニューね」)

(「了解!

…それにしても、本当に毎回ハードなメニューだね?」)

(「…それでも、これはあんたが勝つために必要なことよ。だから…」)

(「大丈夫!分かってるよ、トレーナーさん♪」)

(「…そうね。それじゃあ今日も始めましょっか!!」)

 

 

 

 

それは間違いなく

 

 

 

 

(「遊園地の昼御飯ってのも、案外バカにしたものじゃないわね」)

(「そうだね!午後は何に乗る?」)

(「…少なくとも、すぐにジェットコースターとかコーヒーカップは勘弁してね?」)

(「本当トレーナーさん、乗り物系統弱いよね~」)

(「うっさい!

そもそも、昼御飯食べてからすぐにああいうのに乗ろうとする方がおかしいのよ!!

…まぁ、それにしても」)

(「?」)

(「…たまにはこんなのも良いわね?キャル」)

(「…うん!!」)

 

 

 

 

確かに、これまでわたし達が一緒に歩いてきた道のりだったから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァーーー…

 

記憶の中で、雨が降る。

重く、冷たい雨が、座り込むわたしに容赦なく叩きつけられる。

 

だけど

 

(「…大丈夫」)

 

ふと、それまで降り注いでいた雨が、突然止まる。

それを怪訝に思い、見上げた先には

 

(「…トレーナー…さん…?」)

 

赤い傘。

それを掲げたトレーナーさんがいて

 

(「大丈夫だから、キャル」)

 

勝てない。

それでも…それでもわたしを見捨てず、励ましてくれる、そんなわたしのトレーナーさんが優しげな顔で立っていたから…

 

(「…っ」)

 

頬を水が滴り落ちる。

だけどそれは、

いまだやまない冷たい雨よりも、

もっと温かいものだったから…

 

(「次は…次はきっと勝てる。だから…」)

 

そう言ってしゃがみこみ、

わたしを抱き締めるトレーナーさんの体が、冷えきったわたしにはあまりにも暖かかったから…

 

(「…トレーナー…さん…」)

 

冷たい雨にうたれ続けて

 

(「…わたし…」)

 

それでも変わらなかったわたしの表情が、次第に崩れていくのが分かる

 

(「…わた…し…」)

 

胸の奥から、

嬉しさと後悔、愛しさと罪悪感、

ありとあらゆる感情が渦を巻いて急速に湧いてくるから…

 

(「また…一緒に頑張りましょ?」)

 

そう、優しく微笑むトレーナーさんの声を聞いた瞬間に、もう耐えきれなくなって…

 

(「………ぅああああぁぁぁぁああぁぁぁああっっ!!」)

 

叫ぶ

わたしは体の底から溢れてくる感情を、ただただ叫ぶ

 

(「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」)

 

(「…」)

 

(「勝てなくて!勝てなくてごめんなさい!トレーナーさんっ!!」)

 

(「…」)

 

降りしきる雨の中、

わたしはトレーナーさんに謝り続ける。

あぁそうだ、わたしはこんなにも優しくしてくれるこの人に、まだ何も返せてない!いつもわたしのことを考えてくれるこの人に、まだ何のお礼も出来てない!!

それがあまりにも申し訳なくて、苦しくて、辛くて…

 

それでも

 

(「…大丈夫」)

 

そう言ってはらはらと涙を流し続けるわたしを、抱き締め続けるトレーナーさんの体は

 

(「…大丈夫」)

 

本当に、本当に暖かくて…

 

ザァーーー…

 

あの雨の日のレース場で、

結局トレーナーさんは、

わたしが泣き止むまで、

ずっとそうしてわたしを抱き締めてくれたから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ありがとう、トレーナーさん」

 

そう言って、わたしはトレーナーさんの握ってくれた手を握り返す

 

その手は、豪胆な性格ではあっても、女性であるトレーナーさんのその手は、思ったよりも意外な程に、華奢で小さな手で…

 

「…でも、大丈夫」

 

だからこそ、わたしはそっとその手を離す。そして、今度こそ地上へ向けて歩き出す。力強く、この先へ進むための一歩を踏み出す。

 

…気が付くともう、体の強張りはなくなっていた。

どころか、今のわたしの体には力が溢れ、胸の内にも程よい緊張感が満ちている。

そう、今のわたしはもう先ほどのわたしではない。敗北に怯え、一歩を踏み出すことを躊躇していたわたしはすでにいなく、そこにいるのは単に一人のウマ娘。

走る、ただそれだけのために生まれ、そしてそれを果たさんと、武者震いに震える、そんなウマ娘が一人いるだけ。

 

……だからこそ、わたしは立ち止まる。

 

戦場はもう、目と鼻の先。しかし、一度だけ、一度だけわたしは、トレーナーさんの方を振り返る。

 

そして…

 

 

 

 

 

.........................

 

 

 

 

 

.................

 

 

 

 

.........

 

 

 

 

 

ゲートが開くと共に、わたしは駆け出す。

 

しかと大地を踏みしめ、韋駄天のごとく疾走する。

 

それはまさに流星。

他のウマ娘達をはるか後ろに残して、わたしはレース場を吹き抜ける、一陣の風と化す。

 

(…あぁ)

 

頬を撫でる風がなんと気持ちが良いことだろう。

自分の前に誰もいない景色の、なんと広いことだろう。

 

わたしの前に道はなく、わたしの走った轍こそが、道となる。

 

それは、一種の全能感

 

誰も私に追い付けない

誰も私についてこれない

世界は今、わたしの手の中にある!

 

 

 

そして、だからこそ…

 

 

 

「頑張れぇ!キャルちゃん!!」

 

「もうちょっとだよ!キャルちゃん!!」

 

「大丈夫だぁ!俺達がついてる!!」

 

 

聞こえてくるのは

 

 

「負けるなぁ!!」

 

「そのままブッち切りなさぁい!!」

 

 

これまでわたしを応援してくれた人々の歓声

 

 

「おいおい!あのウマ娘やるじゃないか!」

 

「あぁ!俺今日はあの娘応援する!!頑張れー!!」

 

 

そして、そんなわたしを見て、新しく応援してくれるみんなの歓声で…

 

 

 

「さぁ、レースも終盤!各ウマ娘、一斉に前を目指して加速する!!」

 

 

 

「…っ!!」

 

 

そう、レースはもう終盤。

逃げをうち、終始先頭を維持してきたわたしを抜かそうと、後方から凄まじい勢いでウマ娘達が上がってくる。そして、その勢いはこれまでわたしが経験してきたレースの中でも最たるもの。

 

ドドドドドッ!!

 

大地を踏み砕く轟音も

 

(…!!)

 

前を行くわたしの背中に刺さるプレッシャーも、

そして何より

 

(…感じる)

 

「勝ちたい!!」

そんなこのレースにかける思いの純粋さも、

これまでわたしが出てきたレースとは比較にならない。

 

これが中央…本当の意味で日本一を目指す場所で戦うウマ娘達の実力…

 

でも

 

(…それでも!!)

 

背後から迫る、特大のプレッシャーに、それでも耐えながらわたしは目の前を、ゴールの先を見据える

 

(…わたしは)

 

そこにはいつだってみんながいる。

こんなわたしを応援してくれる、

みんながいる!

 

(…わたしは!!)

 

そしていつだって、

あの人がいる。

どんなに負けても、挫けそうになっても、それでもわたしのことを支え続けてくれた、あの人がいる!

 

だから!!

 

「…こそ」

 

大地をしかと踏みしめる

 

「…こんどこそ」

 

そして、それを蹴り上げる瞬間に

 

 

 

 

 

「勝つんだぁぁぁぁぁぁああっっ!!」

 

 

 

 

 

叫ぶ。力の限り、わたしは叫ぶ

もうわたしは迷わない!

だって…だって!!

 

 

わたしは加速する。そして、それと共に周囲の景色が流れる速度も加速度的に上がる。

 

あぁ、それはもはや流星という表現すら生ぬるい。

音も、光も、この世のすべてのものを置き去りにして加速するわたしは、もう速さという概念そのものだ。

 

 

 

ワァァァァアアアァァァッッ!!

 

 

 

そして、走って走って、走り抜けたその先に、スピードの向こう側、そんな一瞬にして無限の世界、そこにいたのは

 

 

 

(「…ねぇ、キャルちゃん」)

 

 

 

日溜まりのようなオレンジの長髪をたなびかせる、あのウマ娘で

 

 

 

(「まだ、走るのは怖い?」)

 

 

 

そう、訪ねる彼女にわたしは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャッスルキャップ選手!キャッスルキャップ選手です!!

誰が予想できたでしょうか!?ジャパンダートダービー!このレースを制したのは、12番キャッスルキャップ選手です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見上げた空。

どこまでも高く、どこまでも青いそんな空には、いつかの鳥が飛んでいた気がした。

 

 

 

 





…ここにある

太陽が沈み、また昇る限り、
朝は何度でもやってくる。

だからこそイカロスは目指したのだ、
太陽を。

そして、そのあとに続く者達もまた…

次回エピローグです。


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