作者は基本的に、物語のエピローグには「エピローグ」以上の名前を付けません。
それは名前を考える手間が省けるからという理由もありますが、何よりタイトルでごちゃごちゃさせないためです。
『片翼の撃墜王~イカロスの黎明~エピローグ~片翼の撃墜王~』
なんて表記されるとかっこ悪いですよね?
だからこそ、悩んだのですが、今回の話のタイトルはあくまで「エピローグ」です。
しかしそれでも、自身のそんなこだわりを度外視してでもこの話に裏の名前を付けるとしたら…その名前は「オールブルー」
果てしなく広がる青い海と青い空、
その境界線が白い朝焼けに照らされて消滅する光景。
…『蒼の彼方の〇ォーリズム』の真白ルートで、
彼女が主人公に見せようとした景色の名前です。
…もちろんあれとは秘められた意味合いは全く違いますが、
それでも、このお話はそんなお話です。
どうぞ
※キャッスルキャップのトレーナー
まだトレセンに入ってきたばかりの新人トレーナー。
男勝りで、細かいことは気にしない豪胆な性格。結構体育会系な人物であり、それ故にウマ娘達への指導は割りと厳しめなタイプだが、それでもその根底には自身の担当に対する期待と信頼があるため、担当であるキャッスルキャップからはちゃんと好かれている。
ちなみに、無駄に男らしい立ち振舞いから、男よりもイケメンと校内のウマ娘達からキャーキャー言われているが、実は料理などの生活スキルは壊滅的で、私生活は意外とだらしない。その為、たまにキャッスルキャップが家に押し掛けて掃除なんかをしている。
ビジュアルイメージ的には〇ス永遠の美晴みたいな感じ
…あの人がもっとフレンドリーな性格になったのを想像していただければ…
マヤノトップガンside
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
…目の前を、景色が高速で流れていく
マヤ達ウマ娘の、走る時の最高速度は、大体時速6~70㎞くらいって言われてるけど、流石にそれでも、今乗っている電車には敵わない。
だからこそ、普段のマヤ達が走る世界よりも、更に速い速度で流れる景色を、マヤも目で追いきることはできない。
まだ電車が走ってるのが田舎だからか、客席に乗っている人はほとんどいない。がらがらの車両には、暖かな日差しが差し込み、どこか眠たくなるような、のんびりとした空気がながれている。
そして窓の外、何にもない地平線まで続くような田園風景にしてもそうで、そこにもほとんど人がいないし、それ以上に何もものがない。だからこそ、都会のような窮屈な雰囲気は皆無であり、どこまでものびのびと田園風景が広がっているけど、そんな光景も瞬く間に視界の端から端へと流れていく。
光陰矢の如し。残像を残し、流れていくその景色はまるで、走馬灯のように、脆く儚い光景のように思えたから…
(…キャルちゃんは…)
ちゃんと未来に帰れたかな?
そんなことを、ぼーっと外を眺めながらマヤは思う
そう、結局あの子にマヤの手助けなんて必要なかった。
何故なら、もうあの子は多分この時代にはいないから。
あの後墓参りが終わり、いよいよキャルちゃんのこれからについて話し合おうと、取り敢えずトレセンに帰るために、一番最初に会った駅に戻った時だ。
突然、ずっとキャルちゃんと一緒にいた猫が、狭い路地に飛び込んだのだ。
そして、それを追ってキャルちゃんもその路地に入っていったんだけど…
(…結局)
猫も、そしてキャルちゃんも帰ってこなかった。
あの路地の先は、袋小路だったのに、しばらくしてマヤが覗いた時には、あの子達はもうどこにもいなかったのだ…
そんなことを考えていると、ふと自分が船をこぎかけているのに気が付く。そして、それを自覚すると共に、急激な眠気が襲ってくる。
まぁ、それも仕方がないことではある。今日はお墓参りの為に、結構早起きしていたし、キャルちゃんがらみで色々あった。それに、こんなにも暖かくてのんびりとした空気の中でぼーっとしていたら…
(眠くなるのも…)
…当然だよね?
だからこそ、マヤも特に抵抗することなく、じんわりと自身を蝕んでいく睡魔に身を明け渡す。
でも、そんな中でも思い出すのは、
キャルちゃんのこと。
走るのが怖い、そう言って怯えていた少女のことだったから…
(…大丈夫だよ)
睡魔に完全におかされ、
目の前が真っ暗になる直前
(…きっと、キャルちゃんなら)
脳裏を過るのは、
自身がキャルちゃんへと向けた言葉。
あのお墓での、最後の一幕の記憶だったから…
(……きっ…と…)
だからこそ、
それはほんの一瞬の回想
意識が夢に落ちる、
その刹那に過った白昼夢のようなもので…
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キャッスルキャップside
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「…ねぇ、キャルちゃん」
…あの後、わたしが思わず泣いてしまい、そんなわたしが泣き止むまで、静かに待ってくれたマヤノは、そう話し始めた。
「…確かに、残念だけどキャルちゃんが怯えていることは…事実だよ」
そして、その内容は決して都合の良い絵空事や、調子の良い無根拠な励ましなんかじゃなくて…
「…世間の人がなんと言おうと、レースの世界では一位以外は皆敗者。
マヤのトレーナーちゃんはそう言ってたし、それをマヤも否定しない」
どこまでも残酷で
「そして、唯一抜きん出て並ぶものなし。…つまり、どんなに努力していても、結果が出なければその努力は無価値。
それも…否定できない」
そして、どこまでも正しい世界の真理で…
「…でもね、キャルちゃん?」
…でも
「それでも、マヤが思うのは――…
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.........
「…――例え無価値なものになったとしても、それはきっと無意味なんかじゃない。なぜなら…」
そう言ってわたしは、
持ってきていた花束をその場に置くと
「きっと誰かが、キャルちゃんの努力を見てくれているから。そしてその姿を応援し、その人達もまた、そんなキャルちゃんの頑張る姿から何かをもらっているから。
きっと世界は、そんな風に皆が支えあってできてるから…か」
手を合わせて目を瞑る。
しばしの沈黙
田舎故に、聞こえるのは風が吹く音くらいで、あたりは静まり返っている。だから、この場に置いてわたしの黙祷を妨げるものは何もない。
あたりには、お線香のにおいが漂うだけ
そうして、しばらくして目を開いたわたしは
「…流石は片翼の撃墜王さま、って感じかな?」
なんて、ちょっと茶化して目前の墓石に微笑みかける。
が、当然ながら墓石は何の反応も返さない。ただ静かにそこにあるのみだ。
そう、ここはとある田舎のお寺裏に広がる墓地の一角。
先日(といって良いのか)、わたしがマヤノと共に、彼女の元トレーナーのお墓参りをしたところであり…
「…それにしても、まさかまたここにくることになるなんてね」
と立ち上がって独り言を言いながら見回すここは、今日わたしがマヤノのお墓参りに来たところだ。
と言うのも…
「…恋する乙女は強い、ってことかな?」
なんてちょっと苦笑しながらちらりと目を向けるマヤノのお墓が、件の彼女の元トレーナーのお墓のすぐ隣にあったからだ。
幼い頃からの憧れのウマ娘だったとは言え、流石にお墓の場所までは調べてなかったわたしは、この時代に帰ってから何気なくそれを調べて驚いた。
だから、久しぶりにおばぁちゃんに聞いてみたところ、何でも死後に遺言書が見つかり、その中にあの場所に埋葬するように書いてあったのだとか。
「きっと、一人でカッコつけて悦に浸っているあのトレーナーさんに、センス悪いよ、って隣で言いたかったんじゃないかしら?」
なんて、おばぁちゃんは苦笑してたけど…
「まだ若かったのに、そんな早々と死後の準備をしてたなんて…」
まさか本人も、自分が早世するとまでは思ってなかっただろうけど、
それでも早すぎる。
それも一重に、彼女のトレーナーさんへの愛なのだとしたら…
「…ちょっと重くない?」
なんてことを小声でつぶやくが、
墓石は特に何も言わない
…まぁ、本人に直接言ったら、冷や汗だらだらで、露骨に目をそらしながら「そ、そ、そ、そんなことないもん!!」位は言いそうだけど…
「...ふふ」
そんな益体もないことを考えていると、短い付き合いだったとは言え、自分が確実にマヤノの人柄を把握していることがよく分かる。
そしてだからこそ、先日の一件が夢や幻の類いではないこともまた、よくわかったから…
「…ねぇ、マヤノ」
わたしは改めて目の前の墓石に向き直る
「………ありがとう」
そして改めて言うのは、お礼の言葉だ
「…わたしね、大切なことを忘れてたよ」
あぁ、そうだ。
ここ一年、負け続きで疲れていたわたしは、すっかり忘れていたんだ
「…どうして自分が走ることを決めたのか」
なぜ自分が走るのか、その原点を。
だからこそ…
「…自分の走る理由…それを見失ってたから…」
わたしは挫けそうになってたんだよね?
そう続けるわたしの言葉に、
やはり墓石は何の反応もしない。
だけど…
「…でもね」
例え何の反応もなかったとしても
「…わたし、思い出したんだ」
わたしは知ってる
「…どうして走りたいって思ったのか、わたしが走る理由は、そもそも何だったのか」
このお墓の下に眠る子が、どんな子だったか。
片翼の撃墜王、そんな大仰な二つ名で呼ばれるあの子が、本当は単に大好きな人に、もう一度会うために頑張る、ただの小さな女の子でしかないことを、わたしは知ってるから…
「…だからね、マヤノ。ありがとう」
きっとどこかで聞いてくれている。
そう確信しながら、わたしは立ち上がる。そして
「…わたしは、これからも走り続ける」
そう言いながら、わたしはお墓に背を向ける。
「…わたしは、自分がなりたかったものになるために…マヤノみたいな、自分を応援してくれる人達みんなを笑顔にできるような、そんなウマ娘になるために走るよ」
だから
「…見守ってくれると、嬉しいな」
最後にそう言い残し、
わたしは丘から降りるべく、石段の方へと向かう。
と
サァァッ…
風が吹く
そして、思わず後ろを振り向いたわたしの目には
(「うん!応援してるよ!!」)
そう、言いながら微笑むウェディング姿のマヤノと、知らない男の人が並んで立ってる姿が映ったから…
「...!?」
気が付くと、そこにはもう何もなかった。
墓石が二つ並んでいるだけの、そんな何の変哲もない風景。
だけど…
「…そっか」
…会えたんだね、マヤノ…
少しの間だけど、それでも友だちになった少女の、心からの幸せそうな笑顔が嬉しくて…
そして何より、彼女が直接応援してくれたのが嬉しくて…
「…よし!わたしも頑張るぞ!!」
体の内側から湧いてきた歓喜を噛み締めながら、わたしは一歩を踏み出す。
そして丘を駆け降り、寺の門を潜り抜けたわたしを待っていたのは
「もう良いの?キャル」
お寺の狭い駐車場に、車を止めて待っていたトレーナーさんは、
わたしが助手席に乗り込むと、
読んでいた新聞から顔を上げてわたしに聞いてくる。
「うん!ありがとね、トレーナーさん!!付き合ってくれて!!」
「まぁ、遠征の帰り道の途中だったからね。この位は別に構わないけど…」
そう言うと、不思議そうにトレーナーさんは、わたしの方を見つめる
「あんた、別にこのあたりに親戚はいないわよね?
一体誰のお墓参りに行ってたの?」
そう聞いてくるから
「…大切な友だちの、ね?」
なんて返すと、
何かを察したのか、
「そう…」と、その話を打ちきる。
そして…
「それじゃあ、帰りましょっか!キャル!!」
と新聞を畳んで車のハンドルを握るトレーナーさんに、わたしも
「うん!!」
と元気よく答える。
そして、そんなわたしの返事を受け、トレーナーさんの運転する車がゆっくりと動き出す。
ピーヒョロロロロロロロロ…
青い空を、気持ち良さそうに鳶が飛んでいく。
恐らくあの鳥はここでしか生きられない。都会の狭い空は、この鳥にはきっと生きづらいに決まってる
(でも…)
もし、あの鳥が都会の空で生きたいと思ったとしても、自分でも分不相応な場所で、それでも生きたいと願ったとしても
(…つらいってことは)
諦める理由にはならない。
例え人が笑おうが、蔑もうが、
それでも本人が頑張るのを止めることなど、できはしない。
そして、そんな風に生きようと必死にもがく姿を、きっと誰かが見ているはずだから…
(だからきっと、わたし達は…)
一人じゃない
辛くても、苦しくても、きっとわたし達は一人じゃない。
だから…
車の助手席から見上げる空は、青く澄み渡っている。
それは地球上どこでも同じ普遍的な光景。
例え北海道でも沖縄でも、はたまたアメリカでもドイツでもロシアでもオーストラリアでも、見上げた空はきっと青いに違いない。
ピーヒョロロロロロロロロ…
そんな万人の頭上に広がる、
どこまでも青く広い空を、
鳶は気持ち良さそうに飛んでいくのだった。
これで今回の短編は終了です。
「片翼の撃墜王」外伝集3作目の短編でしたが、
いかがでしたか?
それから、本編で感想を下さったアーダンさま!
今回の話を書くきっかけをくださり、ありがとうございました!!
正直ゴルシ編がエピローグまで書いてお蔵入りになった際に、
一度心が折れかけたのですが、
それでも外伝「集」なのに短編が二つしかないって詐欺だよな~、
と思ったので頑張りました。
楽しんでいただけたなら幸いです。
…さて、薄々察してらっしゃる方も多いとは思いますが、
作者は基本エタらないように、全部書いてから上げる人です。
そして、これも察してる方は多いと思いますが、
現在完全にストック切れです。
ですので、この外伝集の続きにしろ、
はたまた新作にしろ、
ある程度時間が掛ると思いますが、
ゆっくりとお待ちいただけると幸いです。