結果的に食堂にテイオーが置いていったかつ丼は、
タマ先輩がシングレ顔で食べ切りました。
体力が70回復した
スタミナが30上がった
パワーが30上がった
根性が100上がった
賢さが300下がった
「超太り気味」になってしまった
※完治には保健室か神社、トレーニングでのダイエット判定が2回必要
基本は通常の太り気味と同じだが、
10%の確率でトレーニング自動失敗
「…――さぁ、レースも終盤!各ウマ娘達が、一斉に前に上がってきます!!」
「…はぁっ…はあっ」
走る。
ただ、前だけを見据えてボクは走る。
「勝利の栄光を掴むのは、果たしてどのウマ娘なのか!!」
「…はぁっ…はあっ!」
走る。
大地を蹴り砕き、風を切ってボクは走る。
「一番争いは■■■■■■選手に■■■■■選手!凄まじいデッドヒートです!これはどちらが勝つのでしょうか!?」
「…はぁっ!…はあっ!!」
走る。
スピードの向こう側、その先にあるものを目指してボクは加速する。それはまさに流星。流れる星のごとき勢いでボクは加速する。
だけど
「…~っ!!」
唇を噛み締める
(…なんで)
肺が破裂するまで息を吸い、筋繊維が千切れるまで足を高く上げる。そうして振り下ろした足で、反作用で体がくだけ散る程の力で大地を蹴る。それでも
(……どうして)
それでも、ボクのスピードは上がらない。いや、むしろそうやって加速しようとすればするほどに、どんどん速度が落ちていくから…
(………どうして!?)
だからこそ、それは必然。
目の前を走るウマ娘達はどんどん遠ざかっていって…
「どうして!?」
そんなあんまりな状況に、たまらず叫んだ瞬間だった。
「…だってキミ、無敗でも三冠でもないでしょ?」
「…うわぁぁぁぁぁああああっっっ!?」
思わずあげた絶叫と共にボクは我に帰る。そして
「はぁっ!…はぁっ!…はぁっ!…」
ものすごい勢いで脈動する心臓を押さえながら見回した周囲は、しかし、歓声が沸き起こるレース場ではなく、見慣れた自分の部屋だったから
「…ゆ、夢?」
その事実に気付くと共に、一気に体の力が抜ける。それと同時に自身の体が冷や汗でびっしょりなことに気がつく。でも…
(まぁ、あんな夢見たら…)
仕方ないよね
そう思いながら、ボクは改めて周りを見回す。すると、当然ながら目に入ってくるのは、見慣れた自身の部屋の景色。
夜の帳が完全に降りたその景色には、普段と違い暗闇のフィルターがかかってるせいで、どこに何があるのかがかなり見えにくいけど、それでも目が慣れてくるとそれも直に見えるようになる。
まずは自身のそばの壁にかけられたコルクボード、それにデカデカと貼り付けられたカイチョーのポスター。そして、反対側を見ると、それに対抗するかのごとく、これまたデカデカと壁に貼り付けられた戦闘機のポスター。そして、その下のベッドに寝ているのは我が同居人であるマヤノなのだが…
(…起こしちゃっては…)
いないみたいだ。
悲鳴と共に飛び起きた自分の声で、もしかしたら起こしてしまったかもしれないと、少し心配していたけど、いつも通りヨダレを垂らしながら、「もうたべられないよ~」と寝言を言ってるマヤノの呑気な寝顔を見て、ボクは内心ちょっとほっとする。
そう、ここは自分とマヤノが一緒に生活しているトレセン内の寮の一室。間違ってもターフの上ではない。だからこそ…
「…だからこそ、なに?」
続く思考を理性が断ち切る。と同時にボクは先の夢を思い出す。
まだはっきりと覚えている。
走っても走っても、それでも追い付けないみんなの背中に叫んだボクの前に現れたのは、まごうことなきボク自身。
だからこそ、その言葉は普段は表に出さない自身の深層意識の言葉に他ならなくて…
「…っ」
ボクは拳を握りしめる
…あぁ、そうだ。だれがなんと言おうとも、ボクはもう無敗のウマ娘ではないし、ましてや三冠ウマ娘でもない。
最強無敵の東海帝王
その幻想はすでに砕け散り、夢の欠片は風に吹かれて飛んでいった。
ここにいるのは、そんな空っぽの幻想の残滓を握りしめ立ち竦む、ただのウマ娘…魔法が溶けて単なる召し使いに戻った、哀れな灰被りだ。
(そんなこと…)
わかってる。わかってるはずなのに…
(…それに)
それに、だ。
仮に例えそうでなかったとしても…
(…)
ボクは自分のかけ布団をそっと捲る。
すると、当然ながらそれまで布団に隠れていた自身の下半身が見える。
だけど
(…)
左足。
寝巻きのズボンで大部分が隠れている右足と違い、そこには白いギプスが、重りのように鎮座している。それはまるで、ボクをもうここから一歩も動かさないために嵌められた拘束器具のようで…
(…)
手で触れたそれは、当然のごとく人体よりも固く冷たく…そして重い感触がしたから…
(…)
ボクはそれを見つめる。ただ、静かに。
…そう…
例えもし仮にボクが無敗であったとしても、三冠であったとしても、ボクはもう走れない。
二度とあの舞台に立つことが出来ない。
そして、そうでないボクなら尚更だ。それはとりもなおさず、今までボクが信じてきたもの、大事にしてきたものが、全て自身の手のひらからこぼれ落ちてしまったということで…
捲った掛け布団の隙間から入ってくる風が、体を冷やす。でも、白々しいほどに白いギプスに覆われた左足だけは少し暖かい。それがまるで、自分の体じゃないみたいだったから…
(…あれ?)
頬を濡らす暖かい感触に気付かなかったのは、きっとその気持ち悪い暖かさに集中しすぎていたせいで…
(…なんで)
体が小刻みに震えているのは、きっと布団を被ってなくて、外の冷気でさっきの大量の冷や汗が蒸発しているからに違いなくて…
(…っ!!)
だからボクは、掌をさらに強く握り締める。奥歯を食い縛り、必死に自分の中から溢れてくるものを押し止めようとする。
…だけど、それでも視界はぼやけていくのは止められない。そして、頬を何か暖かいものが伝って落ちていくのも、止められなかったから…
(…こんな…こんなことって!)
三冠には届かなかった。無敗にもなれなかった。
それだけでも、ボクにとっては自らのアイデンティティーを揺さぶるほどの衝撃だったと言うのに、おまけに今度は走れないときた。
走ることこそが存在意義と言っても良いウマ娘が、走ることさえできなくなるのだ。
それなら…
(ボクは…ボクは…!!)
今まで一体何のために!!…ううん、それならボクは、一体どうして生まれてきたと言うんだ!?
そんな血を吐くような慟哭を、ボクは必死に圧し殺す。隣で寝ているマヤノを起こさないように、と言うのもあるが、何より声に出してそれを叫んでしまったら、何かが壊れるような気がして、ボクはそれを必死に圧し殺す。
そしてそれ故に、優しい夜の闇のカーテンは、いまだその静寂で部屋を包み込んでいる。
それはまるで、ボクがどうなろうとも、それでも世界は周り続けるという残酷な真理を体現しているかのようで…
「…~っ!!」
それが悔しくて、悲しくて、腹立たしくて…それでも、もうどうしようもなくて…
「~っ!!~っ!!」
流した涙も圧し殺した慟哭も、全部全部がただただ虚しくて…
「~~~~~~~~~~っっっ!!」
それでも、胸の内でくすぶり続けているものを、もう我慢できなかったから…
…草木も眠る丑三つ時。
暗黒と静寂に包まれた部屋の中で、
ボクは静かに慟哭し続けたのだった…
「…」
......................
.................
.........
ガタッ
「!?待ちぃ、テイオー!!」
意外なことに、一番早く我に返ったのは、思わず席を立ってしまったボクでも、ましてやその音に気がつきこちらを見て、顔を青くしたネイチャ達でもなく、タマ先輩だった。
岡目八目とでも言うのだろうか?
これまでの逃走劇の経緯は一応話していたが、それでも一連のボクの友人達の怪しい動きについては一切話してなかったタマ先輩の動きは、皮肉にも食堂にいた誰よりも早かった。
だけど、かつて白い稲妻と称された、その神速の動きをもってしてさえも
「…っ!!」
その手は、ボクの身体に触れることが出来ない。
紙一重。その差でタマ先輩の手を振り切ったボクは
「て、テイオー!!」
そう叫ぶネイチャの声も完全に無視して、食堂の外へと飛び出す。でも、行くあてなんてどこにも無かったから…
「~っ!!」
ボクは出鱈目な方向に走り出す。
ともかく、そこにいたくなかったから、全力で適当な方向に向かって駆け出す。だって…だって!
(ヒドイよ皆!!)
…わかっちゃったから。
マヤノじゃないけど、それでもこれだけ材料を並べられれば嫌でも気付く。
何故か空き教室の利用申請なんか出してたマヤノに、折り紙や色鉛筆、すなわち装飾品をつくるための道具を買い込んでいたマーベラス。
そして、普通はそもそも学園の生徒は入らないし、そもそも入れない食堂の調理場をネイチャが借りる理由なんて、個人では作りきれない量の料理を作るために決まってる。
それらの点と点を繋いでいけば、自ずと見えてくるものがある。すなわち、何かのパーティーでもあの子達は企画していたんだろう。
…それだけなら別に何も思わない。そして、たんにそれに呼ばれないだけでもボクは特に何も思わない。
確かにボク達は友だちだけど、何も四六時中一緒にいるわけでもない。
そりゃ一緒に楽しめるならそれが一番だけど、例えば特定クラスの同窓会のように、そもそもの参加資格が要求される集まりだってある。だからこそ、別にそれから漏れただけという話なら、不満こそあってもここまで心乱されたりしない。
そう、単にパーティーに誘われないだけなら、こんなにも傷つかない。でも…
(こんなのヒドイよ!!)
そう思いながら、ボクは走る。
時間帯が夕方だからか、校舎には幸いにも誰もいない。
だから、特に誰とも会うことなくボクは走るけど
「~!!」
誰もいない校舎は、あまりにも静かで、そして沈みゆく太陽に照らされて伸びる廊下の柱の影は、ただただ不気味に黒く、長くその背丈を伸ばしている。
それがまるで、世界からボクだけが疎外されていることを暗示しているようで、ボクはますますいたたまれない気持ちになる。
そう、問題なのは、わざわざボクにその情報を知らせないことにし、その為に明確に情報隠蔽の手段を講じていることだ。
それは、一重に意図的にボクを自分達の集まりから省いているということに他ならず、ではそれが何故なのかと言うことを考えるなら、その集まりにボクを呼びたくないからということに他ならなくて…
(ヒドイ!ヒドイよ!!)
だからこそ、ボクは悲しくて悲しくて、辛くて辛くて仕方がない。
ボクは彼女達のことを、かけがえのない友達だと思ってた。大切な人達だと考えていた。それなのに!!
(「…――本当、テイオーが来なくて助かったわ!台無しになっちゃうところだったからね!!」)
「~!!」
視界が歪む
(みんなボクのことを…)
そんな風に見ていなかったというのなら、それって…それって!!
…気が付けば、ボクはとある教室の前にいた。
あれだけ無防備に走り回ったというのに、幸運にもマックイーン達と鉢合わせなかったのは、果たして喜んで良いのか悪いのか…
だけど、重要なのはそこではなく…
「………ここって」
教室のネームプレート。
そこに記されていた教室の名前は、偶然にもボクが生徒会室で見た紙に書いてあった空き教室の名前。
それはすなわち、今日マヤノが利用申請を出してた空き教室のものだったから…
「…」
何だか、ボクは無性に悲しくなる。
なんと言うことはないドアが、まるで決して開かない地天国への扉のように思える。お前に入る資格はない。そう無言で拒絶しているように思える。
…そして、同時に何だかボクは、全部どうにでもなっちゃえと、やけくそな気持ちになってしまったから…
「…」
ボクはドアに手を掛ける。
誰もいない廊下の片隅、そこにある扉は、とっても冷たかったけど
「…」
ボクは、それに力を込める。
…あぁ、きっとボクはこの中の様子を見て傷つくだろう。
状況証拠的に確定とは言え、ボクはまだ正確にはここで何が行われるのか知っているわけではない。
だからこそ、今引き返すならボクは本当はここで何が行われるのか、それを知らなくてすむ。
自身が皆に避けられていたという疑惑、それを限りなく黒に近いグレーで済ますことができるだろう。
だけど、自棄になっていたボクには、もうそんな選択は出来なかったから…
「~!!」
ドアを思いっきり横に引く。
どうせなら、この部屋で何が行われるのか、それを見なければもう気が済まない!そんな思いで、ボクはドアを引く。
…だからこそ、ボクはこの目でしっかりと見た。
恐らくまだ準備中なのだろう、折り紙やテープで作られた、色鮮やかな飾りで彩られた、そんな空き教室の内装を
多分ジュースや料理を置くためなのだろう、元の位置から動かされた椅子と机の数々を
…そして、教室の黒板にコミカルなイラストと共に書かれていた、とある一文を
すなわち
「………え?」
テイオー復活おめでとう!!
教室の黒板の真ん中には、デカデカとそんな一文が書かれていた。
次回、真相編
…そして、大切なお知らせがあります。