空き教室に入ったテイオー
そこで彼女が見たものとは?
※大切なお知らせはあとがきにあります。
物語が終わったのちにお読みください。
◇月★日
■■■■■■■は、本格的に落ち込んでる。
前の骨折の時もすごく落ち込んでたけど、今度はもっと落ち込んでる。
こういう時は、多分そっとしておいた方が良いと思うから、あえて気付かないふりをしてるけど、夜中にうなされて起きたり、物陰で泣いたりしてるみたい。
…しばらくは、様子を見ようと思う
◇月○日
…■■■■■■■のためにマヤに出来ることってないのかな?
確かにマヤには■■■■■■■の怪我は治せない。
だけど、■■■■■■■はマヤのルームメイトで大切なお友だち。
そんな子が苦しんでいるのを、ただ黙ってみてるなんて、マヤにはできない。
…だけど、それでもマヤにできることは今のところないのは事実で…
…ううん、そんなことない。きっとマヤにも何か、■■■■■■■のために出来ることはあるはず。トレーナーちゃんにも相談してみよう!
がんばれ、テイオーちゃん!
マヤも応援してるからね!!
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.................
.........
「こ、これって…」
黒板に書かれていた予想外の一文を見たボクは絶句する。
自分の処理能力を越えた出来事に出会った時、人間は動くことが出来なくなるというけれど、まさにそれを自身の体で実体験する。
でも、何度見てもそこに書かれている文字は、明らかにボクのことを祝福する文言だったから…
(い、一体…)
これはどういうことなんだろう?
そんな戸惑いで思考が空転する。
…そうだ、ボクはマヤノやマーベラス、ネイチャ達が、こっそりパーティーを開こうとしていると思っていた。それも、ボクを意図的にそこから排除して。
だからこそ、ボクはその会場であるはずのこの教室で、ボクへの祝福の言葉なんてものを見るなんて、夢にも思ってなかったんだ。
それに…
「…これ…」
教室の中に入って、中を見て回っていたボクが見つけたのは、綺麗に包装された大きな花束と一枚の台紙。そしてその台紙に書かれていたのは...
テイオーちゃん復活おめでとう!信じてたよ!!
マヤノ
テイオーおめでとう!テイオーにこれからももっとマーベラス★なことがありますように!!
マーベラス
本当に良かったね、テイオー
おめでとう。そして、お帰り
ネイチャ
そんな沢山の心の籠った、ボクへの寄せ書きだったから…
(これじゃあ、まるで…)
このパーティーは…
そこまで考えた瞬間だった
「…!」
近くから誰かの足音が聞こえる。
そして、それは徐々にこちらに近づいてきたから…
(ど、どうしよう!?)
慌てたボクが咄嗟に取った行動は、昼にゴルシに付き合った影響からか、教室内のロッカーに隠れるというもので、だからこそ…
「?ドア開けてたっけ?」
ボクはロッカーの隙間から、教室に入ってきた人物を見据える。
一人は黒いスーツに黒いサングラス、黒い中折れ帽子の男の人。そしてもう一人は…
「…ねぇ、トレーナーちゃん。鍵かけた?」
「あっ、やべ!そう言えば…」
「もうっ!きっとそれが原因だよ!!
多分知らない人がうっかり開けちゃってそのままにしたんだよ!」
そう言って急いで一通り教室の中を確認するウマ娘は、紛れもなくボクのルームメイトであるマヤノだったから…
(…)
ボクは出ていこうにも出ていけず、そのままそこで様子を見守る。
すると、一通り部屋の様子を見て、特に何も壊れたりしていないことを確認したらしいマヤノに、男の人、彼女のトレーナーが謝り始めた。
「あ~…すまんな、マヤ」
「ホントだよ!これで大切なパーティー会場に何かあったらどうするのトレーナーちゃん!!」
そう尻尾を逆立てながら、ぷりぷり怒るマヤノに、普段の言動はどこへやら、流石に自分に落ち度があることは分かっているからか、彼女のトレーナーは平身低頭である。
だからこそ
(…なんか意外な姿だな)
普段から奇天烈な言動のマヤノのトレーナー、その珍しい姿をこっそり見ているボクは、そんな感想を抱く。
とは言え、実際に何かあったわけじゃない以上、マヤノもトレーナーへのお説教を早々に打ちきる。
だから、二人の間に漂う空気はそこまで悪くならず
「…それにしても、随分と大掛かりなものになったな」
そう話しかけるトレーナーに応えるマヤノの声は自然体で
「あったり前だよトレーナーちゃん!なんせ…」
特に嘘などついていないことがはっきり分かるものだったから
「これはテイオーちゃんのためのパーティーだからね!」
続くその言葉に、ボクは内心驚く。
もしかしたら…
この部屋を見てそうは思っていたけど、実際にそれが当たっているとなると、流石に思うこともある。
すなわち
(…じゃあボクに黙ってたのって…)
てっきりボクは、みんなが悪意をもってボクに隠していると思い込んでいたんだけど、実際はそうじゃなくて…
(…単にサプライズにしたかったんだとしたら…)
そう考えると、みんなの行動も納得が行く。そして、今更ながら喜びが胸の中に溢れてくるから…
(…みんな)
教室の角のロッカー
そんな狭い場所の中で、ボクはじっと黙って外の様子を見つめる。
すると、見えてくるのはさっきの台紙だけじゃない。
…あぁ、恐らく教室を飾り付けるあの紙飾りや折り紙で作った装飾品は、さっきの買い物リストを考えるに、マーベラスが作ったものなのだろう。
普段のマーベラスな言動とは裏腹に、こういうところはちゃんと真面目にこなすあたり、本当にあの子は律儀な良い子だ。
また、きっと机にひいてあるテーブル掛けや、角においてあるジュースのペットボトルや紙コップ、お菓子なんかは恐らくネイチャの用意したもの。
さっき食堂で料理作ってたから、多分その関係はネイチャの管轄なんだろうし、あの子はすごく気が利く子だから、自身の好きなお菓子やジュースに走りがちなマヤノやマーベラスよりも、バランスよく皆が楽しめるようなものを揃えてくれたのだろう。
他にも他にも他にも…見ていると、たくさんのウマ娘達がこのパーティー会場の設営に協力してくれたのが分かる。そしてそこからは、今回のパーティーに対するみんなの溢れんばかりの祝福の気持ちが伝わってきたから…
(…)
視界が歪む。ロッカーの隙間から見える教室の光景が、何だかぼやけて見える。
そして胸の奥から、感情が後から後から溢れてくる。それは、ボクには止めようがなくて…でもそれは、決して不快なものじゃなく、むしろ嬉しいものだったから…
(…ありがとう)
心に浮かぶのは本当に、そんな感謝の念しかない。
…こんなものを見せられたら、それしか言えない
ボクは人知れず、それを口の中でつぶやく
そして、そんな風に、一人ボクが感傷に浸っている間にも、二人は動き続ける。
持ってきた買い物袋から色々なものを取り出し、教室を鮮やかに飾り付けていく。それによって教室はますます華やかになっていく。
そんな、恐らくは準備の仕上げに来たのであろう二人を、ボクはじっと見つめる。
そしてその間に思うのは、直前の食堂のやり取りで
(…だとしたら)
…ネイチャには悪いことをしたかもしれない。
別に罵声を浴びせたりしたわけではないけれど、誤解していたボクの態度は、間違いなくネイチャに最悪の想像をさせたに違いない。
そして、ボクは彼女がその弁解をする暇もなく逃げてしまった。それを考えるなら
(…後で謝っとかなきゃね)
そんなことを考えていた時だった
「...しかし、本当に今回はよく頑張ったな、マヤ」
そんな声が聞こえたから、ボクは我に返る
なぜなら
「俺や他のみんなも手伝ったとは言え、今回のパーティーの発案者兼一番の功労者はマヤだもんな。お疲れ様」
「わっ!?だから頭撫でないでってばトレーナーちゃん!マヤを子供扱いしないでってば!!」
そう、このトレーナーの言うことが正しければ、今回のパーティーはマヤノの手によるものらしい。
だからこそ、ボクはトレーナーに頭を撫でられて怒るマヤノを思わず見つめる。
自分の為にこんな企画を準備してくれたというマヤノが、一体どうして今回の行動に到ったのか、それを聞きたかったから
そしてボクが見たのは
「まったくトレーナーちゃんは…
でも、別にそんな大したことじゃないよトレーナーちゃん。
…むしろ、マヤにはこれくらいしか出来なかった。それが悔しいんだよ…」
そう言って俯くマヤノの姿
「…同じクラスのクラスメイトなのに。
同じ部屋のルームメイトなのに。
…何より、大切な友だちなのに…
マヤは苦しむテイオーちゃんの為に何も、なんにも出来なかった」
本気で悔しそうな顔で語る
「マヤに出来たのはたった一つだけ。テイオーちゃんが苦しい時、悲しい時、側にいることだけ。
絶対に一人ぼっちにならないように、ずっと一緒にいてあげることだけだった。だからね…」
そんな友だち思いのマヤノの姿で…
「…テイオーちゃんの苦悩に比べれば、この位は何でも無いんだよ、トレーナーちゃん」
だからこそ、そう言いながら悲しげに微笑むマヤノの姿が、なぜか印象的で…
(…マヤノ)
それを見ていると、ボクもまた思い出す。
確かに、マヤノはボクが怪我をしている時も、普段とまったく同じ態度で接してくれた。
それこそ菊花賞に出れなくなった時も、無敗じゃなくなった時も。
…そして、一度走ることを諦めかけた時も。
彼女はまったく変わらなかった。
それこそいつも通りに早寝遅起きし、遅刻寸前に寮を飛び出し、授業中に見事に爆睡する、そんないつも通りのマヤノであり続けた。
そんな本当にいつもと変わらない、それでいて不自然な位にボクに何も言わないマヤノの姿に、少なからず救われていた部分は確かにあったから
(…)
その裏に隠された、ボクには見せないようにしてくれていた、彼女の苦悩を見てしまったボクには、もう何も言えない。
マヤノがどれだけボクのことを思ってくれていたのか、それが痛いほどに分かってしまっただけに、それに対する感謝の念と、迷惑をかけてしまったという後悔の念で、胸がいっぱいになる。
…あぁ、そうだ。だからこそ
「…でもね、トレーナーちゃん」
そう言って顔を上げたマヤノの
「マヤ、信じてたんだ!テイオーちゃんなら、きっともう一度立ち上がってくれるって!!」
そんな弾けるような笑顔が、
とてもまぶしくて…
「だってテイオーちゃんは――…」
なぜか、目を離すことが出来なくて…
「サイキョームテキのテイオーちゃんなんだから!!」
........................
.................
.........
「…?」
あれ?
「ボクは…」
一体何を…?
あたりを見回したボクの目に映るのは、酷い惨状だ。
ズタズタに引き裂かれた掛け布団に、ビリビリになったカーテン、棚から落ちて画面に罅が入った目覚まし時計…。
そしてそんな酷い状態の室内で、ボクの目の前のベッドで寝息をたてているのは…
「…マヤノ」
…懐かしい夢
そこから覚めたボクが呆然と見つめるのは、大切なトレーナーを失い、心が壊れかけている大事な友だちの姿だった。
※大切なお知らせ
結論から言うと、不穏な終わり方からもわかる通り、
今回のお話に限ってはハッピーエンドではありません。
バッドエンド…とまではいかないかもしれませんが、
最低でもビターエンドです。
最初からこれを書くと、
最初の方の部分の明るい雰囲気が崩れるので、
あえてここまでそう書きませんでした。
申し訳ありません。
ですから、どうしてもハッピーエンドしか見たくない。
そう望まれる方は、本当に申し訳ありませんが、
ここから先へは行かないほうが良いかもしれません。
以上の点を考慮したうえで、
次の話を読むか、それとも引き返すかをご検討ください。