書いているとどうしてもシリアス寄りになってしまう。
あれでしょうか、作者はシリアスしか書けない病気なんでしょうか?
ネイチャは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のトレーナーを除かねばならぬと決意した。
ネイチャには男は分からぬ。
ネイチャはとあるバーの生まれである。
そのため、生まれたときから常連の酔っぱらい達に可愛がられて育った。故にそんな彼らと違い、比較的若い男性であるトレーナーの趣味など皆目分からない。
無論彼女とて義務教育は履修している。そのため、男友達がいなかったわけではない。
だが、それでも彼らはネイチャにとってクラスメイト以上の何者でなく、よって若い男のことなど、ネイチャには検討も付かない。
だが…
「お、落ち着いて!ネイチャ!ほら、たまたま会っただけかもしれないでしょ!?」
隠れている木の影から出ようとするアタシを、テイオーが必死で羽交い締めにする。
「そ、そうそうネイチャ!
ほ、ほらこういう時こそマーベラス☆にならないと!
マ、マーベラス★」
そういってアタシの前にいるマーベラスも必死でアタシが前に出ようとするのを止める。
だがそれでも…
「ごめんね、急に呼び出して」
「いいえ、こちらこそ少し遅れてしまい申し訳ありません。ネイチャさんのトレーナーさん」
アタシが達が隠れている木のすぐ近く、公園の時計の下で親しげに言葉を交わすアタシのトレーナーさんとマックイーンさんは、どう見ても待ち合わせをしていたようにしか見えなかったから…
「う、うわっ!ダ、ダメだよネイチャ!!
こんなところで出ていったら!!
まだ二人がそういう関係だって決まったわけじゃないでしょ!!
きっと何かの間違いだよ!!」
「そ、そうだよネイチャ!
ほ、ほらマーベラス☆マーベラス★」
故に、アタシを止めるテイオーとマーベラスは顔を真っ青にして油汗をだらだら流している。今ここで頑張らなければ、とんでもないことになると言わんばかりに死力を尽くして、アタシが進むのを必死に食い止めている。
…それは一重に、今のアタシを好きにさせたら、まさしく怒りの日がここに発現することを、この子達はよく分かっているからで…
「それじゃあ行こうか、マックイーンさん」
「えぇ、よろしくお願いしますわね。
ネイチャさんのトレーナーさん」
「ははっ、それはこちらの台詞だよ。マックイーンさん」
なんて会話をしながら、公園から出ていく二人を見ながら…
「…どうして」
ゴゴゴゴゴゴゴ…
「うわぁっ!また力が強くなった!!
もう良い加減ボクじゃ無理だよ!キミホントにウマ娘なの?ネイチャ!!
ワケワカンナイヨー!!」
「ム、ムリ…も、もう…ダメ…
…お願いだから…マヤちんも…良い加減手伝って…」
「…」
アタシは…
「…どうしてアタシじゃなくてマックイーンさんと会ってるのよぉぉぉ!
トレーナーさんっっっっっ!!」
そう叫ばずにはいられない。
可能なら、今すぐにでもトレーナーさんのところに走っていって、黄金の右ストレートを叩き込みたいところなんだけど、テイオーやマーベラスが邪魔でそれも叶わない。
だからアタシは怒りのままに叫ぶしか出来ない。幸か不幸か、トレーナーさん達はもうかなり先に行っているため、この場にはもうアタシ達しかいない。だからこそ、アタシは天に向かって吠える
「うがぁぁぁぁぁぁぁああっっっ!!」
そうしていると、そもそもこんなどうして木陰の隅で、アタシがテイオーとマーベラスから必死に飛び出すのを押さえられているのかが思い出されてくる…
・・・・・・
「どえぇぇぇぇぇっっっ!?こ、ここここ、告白ぅっっ!?」
「マーベラス☆マーベラス★マーベラス☆!!」
「…二人とも、シッ!」
アタシの言葉にテイオーとマーベラスは仰天する。
マヤノも目を見開くが、意外にも一番早く復活して、二人をいさめる。
…まぁ、考えてみれば意外でも何でもないのか、とふと思う。
そう、今のマヤノは、昔のキスと聞いただけで顔を真っ赤にするようなマヤノではない。
…恐らくは初恋であっただろう人の死を、悲しみと嘆きの果てに彼女は乗り越え、今ここにいる。
それがどれほどの苦難の道のりだったのかは、アタシには推し量ることしかできないけど…間違いなく今のマヤノはそうして一皮向けたオトナのオンナなのだ。
(…あのマヤノがね…)
そう思うと、少しだけおかしい。
びっくりするくらいの天才で、なんでも出来るのに、誰よりもウブだったマヤノ。そんな彼女がこんなにたくましくなったのを、嬉しく思うと共に、少しだけ寂しく思う。
だが…
「…それで?その告白の返事はどうだったの?」
そうこちらの目をまっすぐに見つめるマヤノを見て、アタシは気持ちを切り替える。
そう、今は感傷に浸っている時ではない。
自分の様子がおかしい、それを心配に思ってわざわざ訪ねてきてくれた友達がいるのだ。
だからこそ…
「…返事を待って欲しいって言われたんだ」
アタシは本当のことを話す。
「…それはネイチャちゃんがまだ学生だから?」
そう問いかけるマヤノに、
「…わからない」
アタシもそう答える。
そう、それこそがアタシの悩みだったのだ。
「先週のお休みの日にね、アタシとトレーナーさんはお出かけに行ったんだ。なかなか忙しくてできなかった有マ記念のお祝いを、今度こそ二人っきりでしようって…」
そう、実はまだあの段階まで、アタシとトレーナーさんは年末の有マ記念のお祝いをちゃんとしていなかった。
お互いになかなか予定が合わなかったのと、マヤノの天皇賞に向けての過酷なトレーニングに全力で付き合っていたから、時間がとれなかったのだ。
「…えっと、それは…」
「あ~、そこに関してはマヤノは気にしないで良いんだよ?
アタシがやりたくてやったことだし、トレーナーさんも乗り気だったしね!」
それを聞いて申し訳なさそうな顔をするマヤノに、アタシは慌てて手を振る。
そう、これに関してはアタシがやりたいからやったこと。
実際あの有マ記念の後は、しばらくアタシも調子が戻らなかったから時間があったし、トレーナーさんにしても、友人の愛バの様子が気になっていたみたいだったから、マヤノが協力してくれてと頭を下げた時にはとてもやる気を見せていた。
「やっとあの人に恩返しが出来る」、なんて言ってたあたり、実はただの友人以上の関係だったのかもしれないけど…とにかく
「そういうわけで、そこに関してはあんたが気にする必要はないよ、マヤノ」
そう言うと、マヤノは渋い顔をしながらも頷いてくれる。
そう、これに関しては本当にマヤノに非はない。単にタイミングの問題なのだ。
…ただでさえ、アタシのトレーナーさん不幸体質だしね…
そう思っていると…
「それでそれで?二人で出かけてどうなったの?」
「ネイチャ、早く早く!」
バツが悪そうな顔をして黙ってしまったマヤノに変わり、今度はテイオーとマーベラスがアタシに話しかけてくる。
その目には、確かにアタシへの心配は浮かんでいたけど、それ以上に押さえきれない好奇心に溢れていたから…
「はぁ…」
なぜか肩の力が抜けてしまう。人が真剣に悩んでるのに、あんたらって奴は…
怒りを通り越して、呆れが浮かんでくる。
でも、だからこそアタシは、そこから冷静に話を続ける。
「…それで一日色々と遊んで、どこかのお高いレストランで二人っきりでお祝いをした帰り道に、アタシから告白したの。
…好きですっ、付き合って下さい、って」
そう告げると
「おぉっ!すごい!ネイチャなんかスッゴい大人だ!!」
「マーベラス☆」
再び二人が騒ぎ始めたからもんだから…
ダンッ!!
突然の音に何事かと振り向くテイオーとマーベラスに、近くの机を叩いたマヤノはニッコリと微笑み…
「…テイオーちゃん、マベちん…」
「ひょえっ!」
「ひゃっ、ひゃい!」
いつかのような怖すぎる殺気を放ちながら、穏やかにマヤノは言った。
「…ちょっと静かにしててくれない?
…ユーコピー?」
「「ア、アイコピー!!」」
満面の笑顔なのに、全く笑っていないマヤノの目に気圧された二人は、ガタガタ震えながら抱き合い、口をつぐむ。
それをしばらくジト目で見ていたマヤノは、ため息をついてからアタシに促した。
「…それで?具体的にはなんて言われたの?」
だから…
「来週末…つまり今週の日曜日の夕方まで待って欲しいって…」
そう返す。
そうなのだ。トレーナーさんはアタシの告白を聞いた後にしばらく硬直し、何か覚悟を決めたような顔をした後に、そう言ったのだ。
仮にだ、もし受け入れてくれていたなら、アタシは有頂天になっていただろうし、
…………もし断られたとしても、…まぁ、多分死ぬほど凹むとは思うが、こうはならなかっただろう。
保留。
そう言われたからこそ、アタシは不安で不安で仕方がない。
もう期日までは3日を切っている。
果たしてトレーナーさんはOKと言ってくれるのか、それとも断られるのか、それが気になって気になってしょうがない。
だから、今はまともにトレーナーさんと向き合えないし、日常生活でもどこかボーッとしてしまう。
もし受け入れてくれたなら、と考えると天にも舞い上がるほどに嬉しくなるし、もし断わられたらと思うと、本気で泣きそうになる。
それでも、全部は結局想像に過ぎないから、堂々巡り。だからこそ…
「…告白の答えが気になって仕方がなくて、ネイチャちゃんは最近不調なんだね」
そう纏めるマヤノの言葉に頷く。
要するにそういうことなのだ。
だからこそ…
「じゃあ、今度の土曜日にネイチャちゃんのトレーナーさんの後をつけてみよっか 」
そうマヤノが言い出すものだから…
「えぇ!?なんで!?」
困惑する。あまりにも突拍子が無さすぎてどう返したら良いか分からない。でも…
「だってネイチャちゃんは、トレーナーさんがどう思ってるのか気になるんでしょ?
だったらその行動を追えば、ネイチャちゃんのトレーナーさんが何をしようとしてるのか、本当は何をしようとしてるのか分かるよ?」
「そ、それは…」
確かにそうだ。
「それに、わざわざ日曜日の夕方なんて言うくらいなら、きっとそこには何か意味がある。
なら、その為の準備に動ける時間って、忙しいトレーナー業務のことを考えるなら、平日はムリ。
だからといって、当日だと遅すぎるし、動くならきっと土曜日だよ。
ネイチャちゃんは、何かトレーナーさんの土曜日の予定について聞いたりしてないの?」
「…そう言えば」
昨日たまたまトレーナー室に早く来たときに、その前の日にトレーナーさんが忘れていったらしい手帳を見つけたんだけど、その手帳の今週の土曜日のところに何か印があったような…
「なら決まりだね。
ネイチャちゃんのトレーナーさんは、そこで何かするつもりだよ。
だったらそれについていって、ネイチャちゃんのトレーナーさんが本当は何を考えてるのか、一緒に暴きに行こう!
…二人も良いよね?」
そうマヤノが二人を振り替えると…
「ボクはもちろん賛成だよ!なんか探偵みたいでワクワクするよね!!」
「マーベラス☆
マーベラスも行く行く!!」
さっきまでの怯えはどこへやら、
ドキドキ 秘密の尾行ミッションにすっかり魅了されて、
目をキラキラさせている。
だから…
「ちょっ、ちょっと待ってよ皆!!」
アタシは話が纏まりかけているみんなに叫ぶ。
「日曜日の夕方には結果は出るんだよ!
ならわざわざそんなことする必要はないじゃない!!」
それに…もし…
「…もし、それでトレーナーさんが…アタシのこと…」
…もし、もしトレーナーさんが、アタシのことを…何とも思っていなかったと分かったら…
「…アタシ…アタシは…」
続きを言おうと口を動かすんだけど、声が出ない。
なんだが目の前がぼやけてきて、アタシはその場に膝をつく。
目元を拭うと、そこは確かに濡れていて…
「…ネイチャ…」
「…えっと…」
気がつくと、さっきまで賑やかだった室内がお通夜のように静まり返っている。
友達の新鮮な恋バナにテンションが上がり、その渦中の人であるトレーナーさんの尾行なんていう、飛びっきりの青春イベントに浮き足立っていたテイオーとマーベラスも、正気に戻ったのかバツが悪そうな顔をしてる。
そう、マヤノの言ってることは多分合ってる。
今週の日曜日がなんの日なのかは分からないけど、それが特別な日で、その準備に動くとしたら、それは確かに土曜日しかない。
アタシの記憶という物証まであるならそれは多分間違いない。
だから、仮にマヤノの作戦を遂行したとしたら、それは成功するだろう。アタシ達は、トレーナーさんが考えている本当のことを、知ることが出来るだろう。
でも、それでもし、トレーナーさんがアタシの告白を断るための準備をしていたとしたら?
その場で告白を断るとアタシが傷つくから、何か少しでもアタシを傷つけないための準備をしていたとしたら?
もしそうだったとしたら、アタシは…
そう考えていた時だった。
「…大丈夫だよ」
「…マヤノ?」
床にしゃがみこむアタシの頭に、マヤノは身を屈めてそっと手をおく。
小さな、だけど暖かい手がアタシの頭をなでる。それはまるで、幼い頃泣きじゃくるアタシをあやしてくれた、お母さんの手みたいで…
「ネイチャちゃんのトレーナーさんは、そんなヒドイことするような人じゃない。それはネイチャちゃんが一番知ってるでしょ?」
「…マヤノ」
「それにね?」
マヤノはアタシにウインクする。
「マヤね、何となくだけどわかるんだ。きっとうまく行くって。
…今までマヤがこう行って、何とかならなかったことってあった?」
そう、アタシに微笑みかけるから…
・・・・・・
「…信じて作戦を決行したのに!初っ端から大失敗じゃないマヤノ!!
どうしてくれるのよ!!」
そう言いながら、アタシはマヤノに詰め寄る。
正直今のアタシは本気で怒っている。
それは勿論、アタシの告白を保留しながら、別のウマ娘と会う約束をしていたトレーナーさんや、呼ばれたからと言ってほいほい会いに来たマックイーンさんに対してもだけど…
「こんなことなら知らないほうが良かった!知らない、方が…」
そう言いながら、涙が溢れてくる。
そう、確かにあの二人にもアタシは怒っている。
だけど、今アタシはそんな二人の残酷な現実を、知らなければ幸せでいられたも知れない真実をアタシの目の前に突きつけた張本人であるマヤノにこそ怒っていて…
「…離しなさい!
テイオー!マーベラス!」
「絶対に嫌だ!離したら今のネイチャ、なにするかわかんないもん!!」
「喧嘩しちゃダメだよ二人とも!!」
そんなアタシを二人は必死に抑える。
さっきまでとは比べ物にならないほどの力で、二人はアタシがマヤノに掴みかかるのをなんとか食い止めている。
だからこそ…
「なんとか言いなさいよっ!マヤノぉぉっっ!!」
この現状にも関わらず、一切表情を変えずに、トレーナーさん達が歩き去った方向をじっと見つめるマヤノに、アタシは絶叫し…
「…うん、マヤ多分わかっちゃったと思う」
そうあまりにも落ち着いた口調で、マヤノがアタシ達の方を静かに見ながら言うものだから…
「…へ?」
興奮していたアタシも、なぜかそれが収まってしまう。そして…
「…でもこれは、多分マヤが直接言うより、ネイチャちゃんが自分で気がつく方が良いと思うから…」
そう言って、何事もなかったような顔で歩き出すと、
「行こう、皆。あの二人の後をもう少しだけつけてみよう?」
そう言ってニッコリと笑うものだから…
「「「…」」」
思わず三人で顔を見合わせる。
マヤノが天才であることは知っているけど、この状況から一体何を理解したのかが、アタシ達には全然わからない。だからこそ…
「?どうしたのみんな?置いていくよ?」
そう、不思議そうな顔をしてこちらを振り返る小さな天才少女の後を、アタシ達は追う。追わざるを得ない。
土曜日の空には、休日でも勤勉な太陽が、静かに輝いている。
どこか浮かれたような陽気の中を、アタシ達はトレーナーさんを追って歩き出すのだった。
マヤノの発言に宇宙ネコ状態の3人
ちなみに最初ネイチャに押されていたのに、
なんだかんだ言ってテイオー達がネイチャを抑えきれたのは、
やっぱり空気の違い。
そりゃ、ギャグ補正がシリアスシーンで適用されるはずはないですからね
…やはりシリアス、シリアスはすべてを解決する…
(なお、作者と読者のメンタルにSAN値チェック)