片翼の撃墜王 外伝集   作:DX鶏がらスープ

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マヤちゃんがトレーナーちゃんからもらったプレゼント

それは…




~SSRマヤノ実装記念特別編~有マの前に 明日へ 

レース前、控え室で準備をしていたマヤは、ふと時計を見る。

 

すると、その長針が示す数字は、ちょうどマヤが予想していたものと同じものだったから…

 

(…そろそろかな?)

 

そう思ったマヤは立ち上がる。

 

…と

 

「…あ」

 

部屋を出ていこうとした瞬間にそれに気づいたマヤは、慌てて自身のカバンの元へと戻り、中身を漁る。

すると、出てきたのは勝負服を着る時に、首にかけているドックタグ。

だからこそ…

 

「危ない危ない…」

 

そう言いながら、マヤはそれを首にかける。

 

…別にそれをかけていないからどう、ってことはない。

確かに、勝負服はウマ娘の魂を補助し、力を引き出す機能があるけど、だからと言って首にかけているドックタグを外した位でその機能が低下する...ってことはない。

 

…まぁ、正確には多少は低下してるんだろうけど、それは多分ほんの微々たる差。

取り敢えずちゃんと着ておけば、多少パーツがなくても勝負服は機能するのだ。

 

(…最も)

 

レースの世界は本当に何が起こるか分からない。

だからこそ、そんなほんの小さな差違でも、何かしらの影響をもたらすことなんてざらにある。

それを考えれば、ああは言っても勝負服のパーツを一つでもつけ忘れる子なんて中々いないし、それは当然マヤもそう。

 

そう言うわけで、マヤは自身のドックタグがちゃんとしっかりつけられているか、鏡で確認すると

 

「…うん!大丈夫!!」

 

と頷く。

 

鏡の中で、それはしっかりとメタルシルバーの輝きを放っている。これなら大丈夫だろう。

 

 

「…」

 

そんなドックタグを見ていると、ふと思い出すことがある。

それはとあるクリスマス、あの有マ記念の前日のことで…

 

 

 

 

.......................

 

 

 

 

 

.................

 

 

 

 

.........

 

 

 

 

 

トレーナーちゃんにサプライズを仕掛けたつもりで、まさかの逆サプライズをされたマヤはビックリする。

 

だって、カッコつけなくせに、いつも全然それがキマッてない、そんな普段のトレーナーちゃんを知っているだけに、まさかそんなことをされるだなんて想像さえ出来なかったからだ。

 

だから

 

「あ、開けても良い?トレーナーちゃん?」

 

そう聞くと、トレーナーちゃんは快く承諾してくれる。

 

だから、ドキドキしながらトレーナーちゃんからもらった袋を開ける。

 

一体何が入っているのかな?

 

全く予想できないだけに、期待は膨らみ、そして…

 

「…これって…」

 

出てきたのは、手の平に収まる程度の大きさの、2枚の小さな金属のプレート。

 

首にかけられるように、糸や鎖を通すための小さな穴が空いたそれは、

マヤにとってスゴく見覚えがあるもので…

 

「…ドックタグ?」

 

そう聞くと、トレーナーちゃんは頷いて

 

「あぁ。こういうの、マヤ好きだろ?」

 

と、ちょっと照れ臭そうに頭をかく。

だから

 

「うん!ありがとうトレーナーちゃん!!」

 

マヤも素直にお礼を言う。そして、改めてもらったドックタグを空にかざして眺めると、星空にかざした金属のプレートはキラリと光る。

 

ドックタグ…軍隊において、個人の識別用として使われる、小さな金属のプレートだ。

その見た目は実用重視で、楕円形のプレートに文字が刻印されているという、ただそれだけのもの。

装飾性なんて欠片も考えてない、まさに実用一辺倒の品物だ。

だから、多分普通の子にそれを渡しても、ちょっと微妙な顔をされるだけかもしれないけど…

 

(…マヤにとっては)

 

…結構好み♪

だからこそ、普段のトレーナーちゃんのセンスを考えると、ビックリするほどマヤの好みにあったものなだけに、正直内心かなり嬉しい。

 

頭上には満天の星空。

空が落ちてきそうな位のたくさんの星が瞬く…まるでこの世のすべてのキラキラを濃縮したような、そんな聖なる夜の特別な星空。

そんな、これからの人生でもう一度見られるかどうか、って位の最高の夜空に輝く星達に比べると、マヤの手の中にあるドックタグの輝きは、ほんの小さなものだ。

それでも、そのほんの小さな光が、トレーナーちゃんがくれたドックタグの輝きが、今確かにこの手の中にあったから…

 

「♪」

 

マヤは上機嫌で手の中のそれを眺める。

 

そう、もとから飛行機が好きで、それが転じてミリタリー系統のデザインも好みであるマヤにとって、こういう類いのプレゼントはもらって嬉しいものだ。

 

そして…

 

「ん?これって…」

 

貰ったドックタグを眺めていたマヤは、そこで違和感に気付く。

 

何気なく見つめていたドックタグの表面。

そこに刻印された文字をなんとなく見つめていたマヤがそれを見つけると同時に…

 

「…気付いたか」

 

まるでイタズラが成功した子供のような笑みを、トレーナーちゃんが浮かべる。

 

だからマヤは…

 

 

 

 

 

......................

 

 

 

 

 

.................

 

 

 

 

.........

 

 

 

 

 

カツン…

 

「…」

 

立ち止まる

 

太陽の光に溢れ、レース前の熱狂とざわめきに溢れる地上とは逆に、地下バ道は暗く冷たい沈黙に満たされている。

 

それはさながら、嵐の前の静けさ。

静謐な静けさに包まれたこの場所は、暴風雨が吹き荒れる台風、その中心において何の雨風もない特異点、すなわち台風の目に近いところがある。

 

そう、つまりここはすでに戦場。

表面が凪いでいるからといって、その下の海が平和であるかと言うと、そうじゃない。

…事実として、マヤがあと一歩でもここから足を踏み出せば、戦いは始まる。

 

「…」

 

だからこそ、マヤは立ち止まる。

目の前の戦い、それに赴くその前に、一度だけマヤはその場で足を止める。

 

…別に怖くなったってわけじゃない。

それは単に、自分の気持ちを落ち着けるため。高ぶる鼓動を抑え、冷静に目の前の戦いに臨むため。

これはそんな一種の儀式。

そして…

 

チャリッ…

 

マヤは首から下げたネックレスを改めて手に取る。

そこには3枚・・のドックタグが掛かっている。

だから…

 

「…」

 

元から勝負服の装飾品として組み込まれている2枚、それらと共に掛けられている3枚目を見つめる。

 

と共に思うのは…

 

(トレーナーちゃん…)

 

ドックタグを見つめる

 

それは、あの日トレーナーちゃんがくれた2枚のドックタグの内の1枚。

 

レースを走るマヤと、一緒に走ることが出来ないトレーナーちゃんが、せめて、とプレゼントしてくれた1枚

 

そして、

 

だったらトレーナーちゃんにもマヤの分を持っていて欲しい

きっとトレーナーちゃんのもとに勝利を手に入れて帰ってくる

そのための道標として、マヤの分を持っていて欲しい

 

そう言ってトレーナーちゃんに押し付けた、マヤの名前が刻印されたドックタグと、対になる1枚だったから…

 

 

 

わあぁぁぁぁぁぁぁあああ…

 

 

 

今日のレース場の熱狂も最高潮。

それは、ここ地下バ道にさえ伝わってくる。

 

だから

 

「…見てて、トレーナーちゃん」

 

マヤは一歩を踏み出す。

地下バ道の先の光へ

熾烈極まる、マヤの戦いの場所へ

 

だけど…

 

「…マヤ、頑張るから」

 

それでも、きっとマヤは一人じゃない。

だから、頑張れる。走り抜いて見せる。

 

 

カツン…カツン…カツン…

 

少女は光の中へ歩いていく

それは、まさに蕀の道

誰もが膝を折り、諦めたくなるような、そんな長く、過酷な道のり。

 

それでも…

 

カツン…カツン…カツン…

 

少女は足を止めない

むしろその顔には闘志があふれている。

何故なら彼女は知っているから

自分は一人じゃないと、決してひとりぼっちではないんだと、知っているから

そして…

 

カツン…カツン…カツン…

 

信じているから

走り抜いたその果てで、きっともう一度大切な人に会えると、そう信じているから…

 

カツン…カツン…カツン…

 

蹄鉄の音が地下バ道に響く

 

そして、彼女は光の中へ消えていく

 

 

 

『お前の最高にカッコいいトレーナー!■■■■■』

 

 

 

そんな刻印が刻まれたドックタグを光らせながら、彼女は光の先へと歩んでいくのだった。

 

 

 




はい!
それではこれで短編集6作品目は完結
つまり、この短編集も無事終了です。
皆様お疲れ様でした!

一応まだ少し書きたいネタはありますし、
今後またマヤちゃん関連で何かあれば追加することもあるかもしれませんが、
とりあえずは当初書きたかったもの、
すなわち物語の裏設定や後日談にあたるネイチャ編とマヤノ編、完全なギャグ回であるマーベラス編を描き切ることができたので、ひとまずは完結とさせていただきます(なお、テイオー編と王宮の黎明シリーズは完全に途中追加の話でしたので、予定外と言えばそうですが、それでもこれらもしっかりと書き切れたと思います)。

本編のあとがきなどでも軽く触れましたが、
作者はこの一連の『片翼の撃墜王』という作品群が処女作です。ですから書き上げるのは大変でしたが、それでもここまで来れたのは、一重に偉大なるマヤちゃんと、ここまで読んでくださった皆様のおかげです。

重ね重ねありがとうございます!

それでは、今度こそお別れです。

いつか、またどこかで!!



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