長いので分割します
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
息をきらしてその場に座り込む。
あれからずっと走り続けて、ようやくさっき体力が完全に切れた。
どれだけ走ったかなんて流石にわからないけど、もう空が赤くなっているあたり、数十分単位でもきかないだろう。
恐らくは、数時間単位。
もちろん、ずっと走ってたわけじゃない。
走っては、適当なところで休み、また走っては適当なところで休む。
ずっと全力疾走ってわけにもいかないし、休憩を途中途中で挟んでいたとは言え、本格的なものではないから、疲労は確実に体に蓄積される。
結果として、今ここで完全にガス欠状態になって、もう一歩も動けなくなっちゃったけど、普通の人間に比べて持久力が低いウマ娘としては、これでもかなり頑張った方なんじゃないかな、と少し思う。
それだけのことをしたのは、やっぱりそうであっても走りたかったから。
走っている間なら、つらいことも、苦しいことも、全部忘れられるからで…
(…トレーナー…さん…)
逆に言うと、走るのを止めた瞬間に全てを思い出してしまうということ。
だからこそ、その場にヘタリ込んで動けないアタシの中には、ゆっくりと悲しみが満ちてきて…
(…トレーナー…さん…!!)
泣きすぎて、もう涙も枯れたと思っていたはずなのに、それでもまだ涙が溢れてくる。
気が付けば、そこは海辺の街道だった。
正面に見える都会の高層ビルが、夕日を浴びてそのガラス面を黄金色に光らせているし、通行人が落ちないように設置されたポールの向こうには、沈み行く太陽の輝きを受けた海面がキラキラと輝いている。
それを見て思うのは
(…犯人は殺害現場に帰ってくるって言うけど…)
アタシもそう変わらないのかな、などという感傷。
…そう、ここはアタシがトレーナーに告白した場所。
あの日、どこかの高級料理店で食事をした後に、少し腹ごなしに歩かない?って、アタシが誘った都内一押しのデートスポットの一つで…
「…ははっ」
そこで思わず乾いた笑いが出る。
(…もう、トレーナーさんがアタシのことを見てないって、わかったのに…)
それでもこんな場所に戻ってきてしまうあたり、アタシはなんて未練タラタラな女なんだろう。でも…
(…仕方ないよ)
また、涙が溢れそうになる。
…正直マックイーンさんが、トレーナーさんといつから付き合っていたかなんて、知らないし知りたくもない。
それでも、自分の方が長く彼と一緒にいたのは事実だし、だからこそ、トレーナーさんとの思い出の数もきっとマックイーンさんよりも多い。だから…
(…だから…何?)
そこまで考えて、アタシは考えるのを止める。
…そうだ。アタシはトレーナーさんのことが好きだ。大好きだ。
それでも、トレーナーさんが最後に選んだのはマックイーンさんだったなら…
(…受け入れなきゃ…だよね…)
辛くても、苦しくても、悲しくても、それでもアタシは受け入れなきゃいけない。
例え周りからなんと言われようと、それでもアタシはトレーナーさんのことが好きだから。
あの人の幸せのためなら、アタシは自分の心を殺せる。だってアタシはあの人のことが好きだから。迷惑をかけたくないから。だから…
「…だから、マヤノ。
そんなアタシに、今さら何の用?」
そう言ってアタシは振り返る。
するとそこには一人のウマ娘が立っている。
夕日に映えるオレンジの髪をたなびかせるその少女は…
・・・・・・
「…まずは謝らせて、ネイチャちゃん」
街中を探し回って、ようやく見つけたネイチャちゃんに、マヤは頭を下げる。
ネイチャちゃんはひどい状態だった。
靴はボロボロだし、何回かこけたのか、服や体も傷だらけ。
髪にも泥やホコリがついているし、何より泣き腫らした目が赤くなっている。
その姿は、まるで半年と少し前のマヤのものにどこか似ていたから…
「…ごめん、ネイチャちゃん。
みんながみんな、マヤみたいになんでもわかるわけじゃないってこと位、とっくの昔に知ってたはずなのに、今回マヤはそれを忘れてた。
…ホントに、ホントにごめん」
そう言ってマヤは頭を下げ続ける。
…そうだ、そんなことはそれこそトレセン学園に入る前からマヤは分かってた。
あの頃、世界が灰色に見えた頃、マヤは周りの人に聞いたことがある。
「どうしてみんな、こんな灰色の世界で楽しそうにしていられるの?」って。
そして帰ってきた答えは全部一緒。
「キミは何を言っているんだ?」
そう、マヤが質問をした人は全員、そもそもマヤの質問の意味がわかってなかった。
灰色の世界?それは何のことだ?世界はこんなにも色鮮やかに、光輝いているじゃないか
それがみんなの解答で、その時にマヤは「わか」った。
じぶんがわかるからって、みんながマヤと同じようにわかるわけじゃない。
だからこそ、その点にだけは以前から気をつけて来たんだけど…
「…マヤね、嬉しかったんだ」
そう、それこそが今回の失態の原因
「…マヤね、実はネイチャちゃんが話してくれる前から知ってたんだ。ネイチャちゃんが、ネイチャちゃんのトレーナーさんのことが好きなこと」
「…!」
それを聞いて、さっきまで反応を示さなかったネイチャちゃんが、わずかに目を見開く。
だけど、それを無視してマヤは続ける。
「あっ、誤解しないでね?もちろん誰にも言ってないよ?
でも、この間の有マ記念で、なんとなくね、わかっちゃったんだ」
そう、前々から随分仲が良いなって思ってたけど、確信したのはあの時。
ネイチャちゃんが、一着でゴールして、ネイチャちゃんのトレーナーさんの腕の中で大泣きしてる時に、マヤはそれがわかっちゃったんだ。
「…だからね、ネイチャちゃんが告白したって聞いたとき、マヤは嬉しかった。
あんなに頑張ってたネイチャちゃんが、ようやく好きな人と結ばれるんだって思って、嬉しくて嬉しくてたまらなかった」
でも、ネイチャちゃんは告白の返事が不安で不安でたまらないみたいだったから…
「...だからマヤは今回のことを提案した。ネイチャちゃんの不安を和らげるために、ちゃんとネイチャちゃんのトレーナーさんも、ネイチャちゃんのことを想っているよ、ってことを見せてあげるために。
だからこそ…」
マヤは再び頭を下げる
「…ごめんね、ネイチャちゃん。
ネイチャちゃんを傷つけて」
そう、許しを乞う。
夕日を浴びて、マヤ達の陰が長く長く伸びていていく。
海辺だからか、どこか遠くからさざ波の音が聞こえてくる。
そんな静かな空間の中で、ネイチャちゃんは口を開く
「………分かった。」
そして続ける。
「…あんたが本気でアタシのことを考えていたことは…よく分かった。
だから、その件については許してあげる」
そう言われて顔をあげると、仕方がないなって顔をしたネイチャちゃんが苦笑している。
「…それにさ、もしマヤノが今回何もしなかったとしても、遅かれ早かれこの結果はアタシの知るところになったんだよ。
…それならマヤノに責任なんてあるわけないよね」
そう言って笑うネイチャちゃんは、確かにいつものネイチャちゃんで…
しかし
「…でもさ」
ふっとネイチャちゃんの表情が曇る
「…それでも、アタシが失恋しちゃったのは…事実なんだよね」
そう言ってうつ向くネイチャちゃんの目に涙が溢れてくる。そして
「アタシは…これから一体どうすれば…」
再び泣き出しそうになったから…
「…それなんだけどね、ネイチャちゃん」
マヤは口を開く。
そう、今ここにマヤがいるのはまさしくそれについて話す為だったから…
「…ネイチャちゃんはね、別に失恋なんかしてないよ?」
実際ウマ娘の持久力ってどのくらいなのでしょうか。
長距離レースで3200mがあるくらいなのですから、
種族としての持久力の平均は、その±1㎞位にありそうですよね。
どちらかと言うと、長く走り続けるのって種族として苦手そうですし…
…あ、でもそう言えばBNWの誓いで駅伝的なことしてましたよね?
…やはり人間は、ウマ娘に勝つことはできないんでしょうか?
(なおフラッシュ未所持)