ネイチャの恋は叶うのか??
恋のダービー、その結末は???
真相究明回です。
「…は?」
ザザーン…ザザーン…
遠くでさざ波の音が聞こえる。
沈みゆく太陽に照らされた海面は、それこそ黄金のようにキラキラと輝いていて…
「…いや、ちょっと待とうかマヤノ」
アタシは思わず頭を抱える。
「…あんただって今日の2人の様子は見てたでしょ?」
そう、あれはまさしくデートだった。
水族館とか遊園地とか、そういうあからさまなデートスポットにこそ言ってなかったけど、一緒に買い物を楽しむのもまた、一つのデートの形だ。それに…
「…それにマヤノ、あんたも見たでしょ?あのふたりの最後のやり取りを…」
そう、確かにトレーナーさんは言っていた。
大切な人にプレゼントを買いにいくと。そして、それにマックイーンさんが微笑みながら頷いて…
「そこだよネイチャちゃん!」
とそこでマヤノが横やりを入れてくる。
「ねぇ、ネイチャちゃん!もう一度よく思い出してみて!!
…その大切な人がマックイーンさんだって、ネイチャちゃんのトレーナーさんは一度でも明言した?」
...............
.........
...
「…え?」
…確かに、マックイーンさんはプレゼントを買いに行こうと言われて肯定した。
でも…言われてみれば、それはマックイーンさん自身がその大切な人であるということの肯定ではない。
…むしろ文脈を考えれば、プレゼントを買いにいくという行動それ自体への肯定であって…
(…あれ?)
そう考えると、不思議なことがたくさんでてくる。
例えば、マックイーンさんは今日一日トレーナーさんのことを、「ネイチャさんのトレーナーさん」と呼び続けていた。
まぁ、実際それは事実なんだけど、もし仮に自分が恋人だったとしたら、果たして自分はそんな呼び方をするだろうか。
恐らくはNOだ。何が悲しくてせっかくのデート中に、通称で呼ばなければならないのかと思うし、何よりもまず「ネイチャさんの」トレーナーさん、だ。
そんな他の女のものであるとでも言わんばかりの名前で、自分は恋人の名前を呼ぶだろうか?
まだある。
最初にマックイーンさんが「今日はよろしく」と言った時に、トレーナーさんは「それはこっちの台詞だよ」という感じの返しをした。
無論これはよくある常套句だから、別にそれ単体だとおかしいわけではないけど、この挨拶をする前に確かトレーナーさんは、「ごめんね、急に呼び出して」と言ってはなかっただろうか?
もしそうなら先の返しは、文字通りマックイーンさんに急に何かを頼んだトレーナーさんが、それにも関わらずよろしくと言われた為に、こちらが私用で呼び出したのだから、むしろこちらから礼を言わせてくれてという意味にもならないだろうか?
(…あれ?あれ?)
考えれば考えるほどに不思議なことは出てくる。
そもそもマックイーンさんはアタシの個人的な友達であって、トレーナーさんは面識こそあっても付き合いはないはずだ。
別にアタシだって四六時中トレーナーさんと一緒にいるわけでもないけど、もしあの人がマックイーンさんと会っていたなら、どちらかの口から必ず話題が出るはずだ。
…いや、もちろん秘密で付き合っていたならそんなものは出なくて当然だろうけど、一目惚れでもない限りは確実に単なる友人である期間が少なからずあるはず。
その間なら多分確実に二人の内のどちらかは相手のことを話題に出すはずだけど、そんなものはこれまでどちらからも一度たりとも聞いたことがないし、一目惚れなら流石にアタシが気づくだろう。
それに今日の買い物の内容だ。
大切な人のプレゼント探しが目的だったようだけど、その割には割りと安いお店ばかりに入っていた気がする。
これでもしマックイーンさんが恋人だったとしたら…まぁ確かにプレゼントは気持ちだろうけど、それでも良家のお嬢様に何か送るのなら、多少は品物にも品質を気にするはず。
そう考えると、無論入っていた店にあったものがガラクタばかりだったわけではなく、むしろアタシからするとなかなか良いものが揃ってると思うような店ではあったけれども、お嬢様に送るにはいささか安物すぎはしないだろうかと思うのも事実。
…いや、待って?
そう言えば今日二人が入ってた店って、なんかアタシ好みのものが多くなかった?
二人を尾行している時に、あっこれ良いな~、とかなかなか良い趣味してるな~、とか思うタイミングが妙に多かったような…
(…あれ?…あれれ?…あれれれ?)
そうやって、色々考えてると今まで考えて来たことが180°逆の意味を持ってくるような気がする。つまり...
「…もしかして、トレーナーさんとマックイーンさんって…」
…付き合ってない?
…それじゃあトレーナーさんがプレゼントを渡す大切な人って?
頭に特大のクエスチョンマークをいくつも浮かべながらそこまで考えたアタシを見て、マヤノがため息をつく。
「...やっぱり全然気付いてなかったんだね…」
そして呆れたような顔で言うのは…
「だからさっきマヤ謝ったじゃない。
マヤのわかるがみんなにわかるわけじゃないこと忘れててごめんって。つまり…
…解説しなくてごめんって」
呆気にとられるアタシに、マヤは苦笑する。
そして…
「…じゃあ、誤解もとけたことだし、ここからはマヤは退場させてもらおうかな?」
そんなことを言い出すから…
「…は?え?…あのマヤノ、それってどういう…」
「ネイチャーッッッ!!」
…その声を聞いて、慌てて問い詰めようとしたアタシの動きがピタリと止まる。
(…え?…うそ!?)
そして慌てて振り向いたアタシの目に映ったのは…
「ト、トレーナーさ…」
「すまなかったぁぁぁっっっ!!」
「うぇぇぇっっっ!?」
振り向いた瞬間に、見事な空中3回転半のひねりを入れて宙に飛び上がり、そのままの勢いで、見惚れるほど完璧な五体投地を決めて、頭から地面に着地した、トレーナーさんだった。
「い、一体どうし…」
たの?と聞きたかったが、そんなアタシの目の前で土下座をするトレーナーさんの頭に、べちょっとバナナの皮が墜落する。
…あぁ、要するにバナナの皮で滑って転んだだけか…
…といつもの調子で納得しかけるけど、それでもトレーナーさんがアタシに土下座してるのは変わらないし、それを一切解こうとしないのも異常だ。それに…
「ど、どうしたのトレーナーさん!?」
よく見ると、トレーナーさんの体はボロボロだ。
あっちこっちが泥だらけで、溝にでも落ちたのか
ズボンの裾も盛大に汚れている。
また、植木鉢でも落ちてきたのか、髪の毛にも少し土がついているし、
よく見ると頭からも少しだけ血が出ている。
トレーナーさんが不幸体質なのは知っているし、
それでしたけがの治療も何回もしたことがあるが、
それでも異常だ。
それはまるで、トレーナーさんが自分の身に降りかかる不幸をすべて無視してここまで走ってきたことを暗示しているみたいで…
だけど、それに動揺するアタシにトレーナーさんは
「本当に本当に本当にすまない!ネイチャ!
俺は…俺は君のトレーナー失格だ!!」
なんて号泣し続けるから話が進まない。
いったいこれはどうすれば良いんだろうか、とアタシが途方に暮れかけた時だった。
「…ようやく見つけましたわ。こんなところにいたんですのね、ネイチャさん」
「…マックイーンさん」
トレーナーさんがやってきた方向からマックイーンさんが歩いてくる。
その立ち姿は、相変わらず気品にあふれる美しいものだったから…
(…)
そんな彼女とまともに目が合わせられない。
なるほど、確かに誤解だってことは分かったけど…
(き、気まずい…)
今更どの面下げてアタシはこの人の顔を見れば良いんだろうか…
そう俯くアタシに…
「…あのですね、ネイチャさん」
「…!!」
つかつかと歩いてきてアタシの目の高さまでしゃがんだマックイーンさんが言ったのは
「…私は今日、あなたのトレーナーさんに、あなたにあげるプレゼントを選ぶのを、手伝ってくれないかと言われただけです」
そんなことを言い出すものだから
「…うそ」
そう思わずつぶやくアタシの様子を見て、やれやれとマックイーンさんは首をふる。
「噓ではありませんわ。
自分では女の子が何を喜ぶのかわからない、だからこそ申し訳ないんだが、ネイチャに送るプレゼントを選ぶのを手伝ってほしい…そう頼まれたから、今日一緒に出かけたんですわ」
そう言いながら、マックイーンさんは立ち上がる。
「そもそも私がこの方とお付き合いするわけがないじゃないですか。
私この方があなたのトレーナーであること位しか知りませんわよ?それでもどうしてもと頼まれたからこそ、今日は一緒にいたのですわよ?」
それに、とマックイーンさんはつぶやく。
「ネイチャさん。
あなた、この方のことお慕いしているのでしょう?」
「はいっ!?」
いきなりとんでもないことを言われてアタシは思わずマックイーンさんの方を見てしまう。だって…
「ア、アタシマックイーンさんにそんなこと一言も…」
「あら?あなた自覚がなかったのですか?」
そう言うとマックイーンさんは意外そうな顔をして続ける。
「あなたが自分のトレーナーに好意を抱いていることなんて、トレセンでは一般常識ですわよ?」
なんて言い出すものだから…
「うぇぇぇっっっ!?」
とアタシも変な声が出てしまう。
(…え!?うそ!?アタシの好意ってそんなにバレバレだったの?)
衝撃の事実に困惑するアタシに、
マックイーンさんは情け容赦のない現実を叩きつける。
「本当のことですわ。見れば分かります。
…気付いていなかったのは、あなたのトレーナーさんと、一部のそもそも恋愛が何かよく分かっていない子位ですわ」
そう言われて、アタシは絶望する。
(…言われてみれば)
以前テイオーとマーベラスも、アタシがトレーナーさんのことを好きなことではなく、告白をしたことに驚いていたような…
「…アタシ、もうお嫁に行けない…」
そう真っ赤になるアタシに
「ですからね?
例え私がこの方に好意を抱いていたとしても、絶対にそれを本人に伝えたりはしませんわ。
あなたに顔向けできませんですもの」
マックイーンさんはそう言って微笑みかける。
「あなたの想像は完全なる誤解なんですよ、ネイチャさん」
そうマックイーンさんが締めた瞬間だった。
「そうなんだネイチャ!
俺は明日の為に君の友達のマックイーンさんに買い物に付き合ってくれるように頼んだんだ!それを誤解させてしまって本当にすまない!!」
そう言ってトレーナーさんがアタシの方を見る。
そして
「本当は明日渡す予定だったんだが…ここまで来たら今渡すべきだよな!」
そう言ってトレーナーさんは懐から何か取り出し
「受け取ってくれ、ネイチャ!」
アタシの方に差し出す。
受け取ったそれ、何かが入ったプレゼント用にラッピングされた箱をアタシが開けると、そこに入っていたのは…
「…コップ?」
それは、ピンクと青のシンプルなマグカップだった。
一見なんの変哲もない二つのコップだったから、なぜこんなものを?とアタシが思った瞬間だった。
(…あ)
それは表面に書いてあった。
シンプルな二つのマグカップ。その表面にはだけど、白い文字でアタシとトレーナーさんの名前が書いてあって…
気づいた瞬間にアタシの胸はカッと熱くなる
「…これって…」
そう問いかけると、トレーナーさんは頷く。
「…あぁ、ペアカップだ。
…まだネイチャは学生だからな。
指輪を渡せないならせめて、と思ってね」
それは、アタシの勘を肯定するもので…
ザザーン…ザザーン…
遠くからさざ波の音が聞こえる。
太陽はもう殆ど沈みかけているのだが…ゴールデンアワーというのだろうか?
湖面に反射した黄金の輝きが、あたりを照らし、周囲は全て黄金の光に包まれている。
そんな中で、アタシはずっと聞きたかったことをトレーナーさんに訪ねる。それは、あの日の続き。
一週間前に聞きそびれた告白の返事で…
「…トレーナーさんは
…アタシと…付き合ってくれるの?」
もらったペアカップを抱き締めながらアタシはそう問いかける。
もしかしたら夢なんじゃないかって、この黄昏時に見る幻なんじゃないかって
だからこそ、アタシを抱きしめるトレーナーさんの体はとても暖かくて…
そうやって抱きしめられてると、涙が出るほど嬉しかったから…
「…あぁ!
こちらこそ、よろしくな!ネイチャ!!」
次回、また時間軸が飛びますが後日談です。