どうぞ!
・・・・・・
5年後
「お~いネイチャ!こっちは大体終わったぞ~!」
そう声をかけられたアタシは、ふと回想から目覚める。
そして、目の前の古いペアカップをもう一度眺める。
(…懐かしいな)
そう、あれはまだアタシがトレセン学園にいたころのお話。
今の夫、トレーナーさんに告白した時の話だ。
そんなことを思っていると、廊下から彼の足音がする。
「そっちはどうだ~…って、
…それは」
「…えぇ、懐かしいでしょう?
あなたがアタシにくれた最初のプレゼントよ」
そう言うと、この人は少しだけ申し訳なさそうな顔をする。
「あぁ~…本当にあの時はすまなかったな、ネイチャ」
そう言いつつ、この人は顔をかく。
…そう、結局この人が日曜日まで待って欲しいと言ったのは、その日がアタシとこの人が正式にトレーナー契約をした日だったからだ。
あの時は忙しかったのと、アタシも動揺していたのとで、そのことをすっかり忘れてて、マヤノ達には随分迷惑をかけたものだけど…
「…良いのよ、結局今こうして一緒になれたんだし。
それに…」
そう言ってアタシはお腹をなでる
「…もしかしたら、あれがあったからこそ、この子がいるかもしれないんだし…」
そう言うと、この人も感慨深げにコップを眺める。
「…そうだな」
実を言うと、今ではもうアタシ達はこのコップを使っていない。
と言うのも、去年の暮れあたりに、片方のコップの持ち手が取れてしまったからだ。
でも、結局アタシもこの人もこのコップを捨てていない。
それはかつて、確かにアタシ達の仲を取り持った祝福のペアカップだから…
「よし!それじゃあいよいよ引っ越しは明日だ!ちゃんとそれも段ボールに入れといてくれよ!!」
しばらくペアカップを眺めていたこの人だったけど、そう言うと残りの段ボール詰めの作業があるのか、また別の部屋に行ってしまう。
そう、アタシ達は明日引っ越す。
アタシがトレセンにいた頃からこの人が住んでいて、アタシの卒業と同時に同棲を始めたこのアパートから、アタシ達はついに新天地に旅立つのだ。
それは彼の仕事の都合であると同時に…
(…)
アタシはまたもう一度だけ自分のお腹をなでる。
そこには確かに、新しい命がある。
…そう、この子の為にも、三人では少々手狭なこの部屋から、アタシ達は引っ越すことを決めたのだ。
(…正直)
不安はある。
この先始まる新生活が、一体どんなものなのか、
初めての子育てがどんなものなのか、未だに実感がわかなくて、とても怖い。
(…でも)
アタシはもう一度だけ二つのペアカップを眺める。
青とピンクのペアカップは、片方は持ち手が取れ、もう片方も少しだけ塗装が剥げているけれども、それでもその二つは今、確かにアタシの手元にあるから…
(…きっと大丈夫よね?)
そう微笑み、アタシはペアカップを段ボールの中に詰め、テープで止める。そして…
ドンガラガッシャーン!!
「うわぁぁぁぁっっ!?」
「ちょっと!大丈夫~!?」
そう言いながら、アタシは夫の悲鳴を聞いて、
慌てて部屋まで駆けていく。
どうせ、いつもの不幸体質なんだろうけど、
それがどこか愛おしかったからこそ…
(まったく、仕方がないな~)
そんな風に半ば呆れながら、
恐らくは、急に崩れてきた段ボールに埋もれたのであろう、
自身の夫を助けに行く。
…あぁ、そうだ。
そんな騒がしい毎日でも、この人となら、
きっと一緒に歩いていける、そう思ったから…
…テープで止められた段ボールの中では、ピンクと青、ふたつのペアカップが鈍く光っていた。
ちなみにトレセン学園を卒業してからどうなったのか、
ということに関しては、マヤちゃんとネイチャさんしか考えてないです。
他のメンツは情報量が少なすぎるので、
作者でさえも想像できないというのが本音です。
でもきっと、
それぞれの地で、それぞれの幸せの形を掴んでるんじゃないかと作者は想像していますよ。
※実は本編にはほとんど登場していないにも関わらず、
ゴールドシップだけ例外だったりするのですが、
そのお話はまた機会がありましたらということで…