女帝の独占力   作:明石しじま

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サブタイトル入れてみました&今回少しギャグ寄りにしてみました


#5 七転八倒入学式、上から見るか下から見るか[前編]

「皆、おはよう。朝早くから集まってくれてありがとう。いよいよ一年の幕開けとなる入学式の準備に本格的に取り掛かる次第となった」

 

「今年も、生徒会だけでなく、職員の方々や一般生徒、学外の方まで大勢の人の協力を頂いている」

「我々生徒会は、全体の指示系統を司ることになっている。その責任は重いが気負うことはない。皆には期待している。共に立派な式を作り上げよう!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 早朝、授業が始まる前に生徒会の面々が集まっていた。

 今回の集まりの目的は、一つ。来る入学式の最後の大詰めを前にして、生徒会長直々に檄を飛ばすことだった。会長の檄を聞いて気を引き締めた生徒会の者たちは、午後から一層働くことになる。

 

 

 

「業者から教科書届きました! とりあえず2Fの空き教室に運びます!」

「連絡入りました! 今年は○○商社さんからも花束を贈っていただけるとのことです!」

「おい! 教室の席割りが抜けているぞ!」

 

 

 あちらこちらから準備の声が止まらない。スケジュールは器材の搬入や仕入れなどの下準備をなんとか終えて、いよいよ本格的な設営が始まったところに入っているところだ。生徒たちは、この準備期間の間は座学を終えた後の時間を使って準備にあてることになる。

 エアグルーヴはこの春にクラシック期に入る。トレーニングもしたい所ではあるが、流石にそう時間は割けないと、この時期は皆筋肉が衰えない程度に抑えることになるのだ。

 

 

 

 ───────────────────

 

 ―思い返すと、自分が学生だった時も準備を手伝わされていたな。

 

 トレーナーは、自身が担当している、とある新入生用の資料を作成し終え、最終チェックをしているところだった。チェックをしながら自分の学生時代を少し振り返っていた。

 

 体育祭や式典、文化祭など一般の学校でも規模は違えど、こういったイベントは存在する。

 自分が学生の時は、式典なんて参加している身からしたら正直退屈この上なかった。新入生だった時はそりゃ緊張したしワクワクしたが、上級生になってみれば校長の話がいつも以上に長いとか、この後の勧誘で部活にどれくらい入れられるかとか、そんなことばかり考えていた。

 

 だが、こうして迎え入れる側の身になってみると、案外小さな非日常を感じ悪くないと思える。そりゃ教員側だって生徒の手前だらしないことは出来ないし背中が痛くなってしまうが、特にこのトレセン学園に来る新入生に妥協してここに来たものはいない。だからか皆嬉しそうに校門をくぐってくるので、こちらも嬉しくなる。

 

 

 最も、俺たちトレーナーにとっては式では無く、彼女たちの脚に目が行ってしまうが。

 

 

 現在新入生を判断する材料は入学試験でのタイムくらいなもので、余程の才能持ちでないとこの段階ではあまり差がない。

 通常の受験のように入学前から対策ができれば変わるだろうが、ことウマ娘のレースとなると事情は変わる。

 

 まず道交法の問題で、ウマ娘は公道を一定速度以上で走ることを禁じられている。ウマ娘専用レーンであれば一方通行でのみある程度力を入れて走れるがこのようなコースは全国にはまだ無い。よってまず自主練がやりにくい。

 

 では所謂私塾に当たるものはないのか? 結論から言うとそれも無い。トレセン学園のような規模の組織でないとまずコースの確保ができない。仮に確保できても管理コストが高い芝を用意するのが特に困難であり、地方トレセンですら、芝コースを揃えてない所がある状態だ。

 

 これらの理由で結局、個人での特訓などやりようがなく結局自分で基礎体力を鍛えるくらいしか入学前の差別化ができないのである。

 

 

 よってトレーナー達は職業病から入学式よりも選抜レースを早く見たい、と思ってしまうものだし以前の俺もそうだった。

 だから式典の準備も普段と違う仕事に四苦八苦しながらもさっさと自分の担当を終わらせること以上のことはしない。

 

 

 だが今年は少し目線が変わった。変わらざるを得なかった。

 

 

 ―エアグルーヴ、忙しそうだが大丈夫なのかな……

 

 

 そう、俺の今の担当が生徒会の、しかも副会長ときている。よって自然と式典の準備にも目を向けざるを得なくなった。

 エアグルーヴが学園の責務を果たしているのに準備も程々に呑気に新入生のデータを眺める、なんてわけにもいかない。

 

 少しでも負担を減らしてあげたい。だが力仕事でウマ娘に敵うわけもないし、会計に影響が出るような大きな仕事にこちらから今さら手を出すわけにもいかない。では何が出来るだろう。

 

 

 ―……雑用するしかねえ! 

 

 

 そう結論付けた俺は意気揚々と部屋を出て仕事を探しに行くことにした。

 

 

 

 ────────────────────

 

 てくてくと校内を歩いていると、ポスターを張り替えているマーベラスサンデーに出会った。マーベラスサンデーはこちらを見ると、ぱぁっと顔を明るくさせてあちらから話しかけてきた。

 

「マーベラース☆エアグルーヴさんのトレーナーさんだねっ! 元気よく歩いてるけど、どうしたの?」

 

「おう、マーベラス! 何か仕事を探してるんだが人手が足りなかったりしないか?」

 

 

「わぁお! その心意気、とってもマーベラスだねっ☆いいよいいよそういうの!」

「入学式は一生に一度の奇跡の出会い! スーパーでグレートでビューティフルなマーベラス☆! そのために会場を彩る皆の姿もまたキラキラなマーベラスなんだよね☆きっと当日も、いーっぱいのマーベラスが集まってくると思うんだ! これってもはや天の川だよね! 宇宙だよね!」

 

 相変わらず底抜けに意味が分からないマーベラスサンデーだが一緒にいるとこちらも明るくなってくる。そして自信たっぷりに話す不思議な話を聞いていると、本当に世界にはマーベラスが満ちているような気がしてきた。

 

 

「そんなトレーナーさんにははいっ! これで窓ふきをお願いしたいんだっ! トレーナーさん身長高いから、あたしとっても助かっちゃう!」

 

「窓ふき? 分かった、俺に任せてくれ!」

 

「ありがとう~~! あたしとってもマーベラスだよ★そしたら、あたし他の仕事やってくるね! あははっ! あははははっ☆!」

 

 マーベラスサンデーは嬉しそうに走り去っていった。何だか良く分からんがマーベラスだったなら何よりだ。よし、早速窓ふきを始めよう。

 

 

 

 脚立を使ってすいすいと窓を拭いていく。流石にそれでも高いところは拭けないと思ったら、貰った道具の中にハーネスや命綱まで入っていた。

 思っていた以上に本格的で少々面食らったが、同梱されていたマニュアルの取り付け方を見ながら取り付けたらうまく出来そうだ。これはこれでマーベラスなのだから問題はない。そのまま作業を続行する。

 

 しばらく作業をしていると、真下に生徒会の後輩を引き連れたエアグルーヴを見つけた。

 

 

「おーい、エアグルーヴ!」

 

「ん? トレーナーの声が……っておい!? 何故貴様そんなことをしてるんだ!」

 

「何故? 理由を聞くのは野暮だぞエアグルーヴ。これも全部より純度の高いマーベラス★を生むためだよ。式がマーベラスで満たされる為なら、こんな苦労などなんてことは

 

 

「目を覚ませ!!!!」

 

 

 

 言い終わる前に肩をがしっと掴まれてぐわんぐわんと激しく揺さぶられることになった。

 

 

 

「うう……はっ!? 俺は何を……?」

 

 

 シェイキングされた頭を押さえて苦しんでいると、やがて意識がはっきりし始めた。

 記憶はしっかりあるはずだが、どこか夢を見ていたような不思議な心地だ。

 

「はぁ……はぁ……どうせマーベラスサンデーの説法を聞いてしまったのだろう。目が座っていて正直恐ろしかったぞ。得体が知れない表情をしていた」

 

「そ、そうか……すまなかった」

 

「全く、貴様は影響されやすいのだからよくよく気をつけておけ」

 

 よほど焦らせてしまったらしい。申し訳ない気持ちがあるが、今のトレーナーにはそれよりも言いたいことがあった。

 

 

「エアグルーヴ。準備が忙しくなる前に一つ言わせてくれ」

 

「いいか、レースのためにも、無理はするなよ。困ったらすぐに俺に言え。いくらでも手伝ってやるし、何かあったらトレーナー権限でどうにかしてやる」

 

 

 トレーナーはとにかく念を押しておきたかった。エアグルーヴは他の娘と比べてもセルフコントロールが上手い印象がある。

 だが、本当に疲れているときというのは実は本人より周りの方が正確に見抜いたりすることがある。そもそも生徒会内で処理している細かい準備をずっと続けているのだ。普段よりも大分無理をしている様に見えて、心配で堪らない。

 

 

「トレーナーはそんなに万能な資格では無いだろうが……まぁその心配は受け取ってやる。だが会長の前で弱いところは見せられん。精一杯やってやるさ」

 

 だが、エアグルーヴはそう強がるだけだった。その後ろは何やらきゃあきゃあと盛り上がっていたが当の本人はあまり真剣には受け取っていないようだった。

 

 

「…………とにかく、疲れたらすぐに周りに言え、いいな?」

 

 

 そういって俺は作業を再開させた。気づけば沈みかけている夕日が目の前の窓に映っていた。

 

 

 

 ────────────────────────

 

「エアグルーヴ先輩! 今の先輩のトレーナーさんですよね!?」

 

「困ったらすぐに俺に言え、ですって! いいなぁ、あんな心配してくれるパートナーが居るなんて!」

 

「……ふん、あいつは最初からああだった。無駄にこちらに来てやたらと声をかけてくる。走りのことだけ見てればいいものを」

 

「またまたー、先輩そういって尻尾私たちに当たるほど揺れてるじゃないですか。まんざらでもないんでしょう?」

「……たわけ! いい加減無駄口叩いてないで、仕事を続けるぞ!!」

 

「はーい」「あーあ、怒らせちゃった」「あれ絶対てれかくし……ひゃあ! ごめんなさい!」

 

 

 

「やはり式典というのは年の節目を迎えるのには必要だな。最近では式次第も縮小する動きも多いと聞くが、勿体ないと思ってしまうよ」

 

 トレーナーとエアグルーヴが会話をした翌日。

 生徒会のメンバーは、昨日に引き続き書類の決算に追い込まれていた。

 

 その中でもシンボリルドルフは一際うず高く積まれた書類を。いつにも増して手際よく処理しながらも、この労働に既にどこか達成感を持ち始めてすらいる。

 

 

 トレセン学園の入学式は、一言でいうとその規模はデカい。

 まず学園そのものが歴史があることが一点、学園の特殊性により、式の様子が新聞の一面を飾るほど注目度が高いことが一点、中等部・高等部を一括でくくり一つの式にしていることが一点。

 以上の理由より式当日はマスコミも多く入る。数々の電報にはその歴史を物語るかのように各界隈の重鎮が名を連ねることになる。

 

「会長。私含めて周りはまだそんな感慨に浸る暇はとてもありませんよ……」

 

「こういうことは楽しんでしまうのが一番さ。座食逸飽というのも悪くはないがいずれ飽きる。今頑張って為したことが、後々大きなことに繋がっていくと考えたらレースとはまた違った喜びがあると思うがね」

 

「会長はやはり見えている世界が違いますね」

 

 エアグルーヴはそう苦笑しながら自分の仕事を進めていった。

 

 だが書類仕事に慣れているエアグルーヴでさえ、流石に眉間にしわが寄り始め疲労の色を隠せなくなってきた。昨日トレーナーに言われたことも少し引っかかっていたのか、少し作業の手を止めた。

 少し休もうにも自分より多く仕事をこなしている会長を見ると自分からは言い出しにくかったため、別の手段をとることにした。

 

 

「会長、一回グラスワンダーに会いに校庭に向かいます」

 

 

 グラスワンダーは美化委員であり、今回の入学式の入り口を飾る花々の管理を担当している。その花の中には自分が趣味で育てている花たちもある。作業が順調かどうかを確かめるついでにその様子を見て癒されようという作戦である。

 

「ん、どうした? 性急だな。出かける前にコーヒーでも飲んで一服したらどうだ? そんな立腹したような顔をしてはいけないよ」

 

 会長は流石の洞察力を生かし疲労を見抜いていたが、こう言ってしまっては引けない。

 

「お気遣いありがとうございます。ですがまだ仕事が残っていますので、いったん失礼します」

 

 エアグルーヴはそう言い残して退室した。

 

 

「…………今日は少し自信があったんだが」

 

 シンボリルドルフは、さり気なく混ぜた渾身のギャグに今日も笑ってくれなかったエアグルーヴの背を、少し折れた耳で見送っていた。部屋にいた生徒会員によると会長のその後の仕事は少しペースが落ちていたそうだ。

 

 

 普段は会長のギャグに気づいた後、すぐに反応できなかった自分を恥じてしまうところだが、今回は忙しさのあまり、後から駄洒落だと気づくことすらしなかった。

 だが逆に調子を崩さなかったお陰で、エアグルーヴはその足取りが変わることなく校庭にたどり着くことができた。

 

「あら、エアグルーヴさん。お疲れ様です」

 

「ああ。お疲れ様。進捗を聞きに来たんだが、うまく進んでいるか?」

 

「ええ、予定通り花壇から植え替えているところです」

 

「そうか、植物は場所を変えるだけでもストレスになる繊細な存在だ。せめて傷つけないようにしてやってくれ」

 

「ふふふ、エアグルーヴさんのその優しさ痛み入ります。このグラスワンダー、誠心誠意努めさせていただきますね」

 

 

 その頼もしい言葉の通り、皆一生懸命にかつ丁寧に花を植え替えている。そして花たちは今日も綺麗に咲き誇っている。これならば気持ちよく新入生を迎え入れられるだろう。

 だが少し、ほんの少しだけ気になるところがあった。

 

 

「心強いな。ありがとう。……今年はタンポポが随分少ないな」

「!?」

 

 

「特に育てているわけではないが例年はもう少しあったような気が

「エアグルーヴさん、生徒会の方々はご多忙と存じます。そんな方々にお時間をとらせるわけにはいきません。ここは私にお任せください」

 

 

「そ、そうか? もう少し見ていきたいと思って「ここは私にお任せください」……分かった」

 

 気になるといっても特に問題があるわけではない。ちょっとした雑談のつもりだったが、グラスワンダーの妙に強い圧に押しきられて、言われるがまま別の場所に移動した。

 

 

 ついでに他の場所も見回りしてしまおうと歩を進めていると

 

 

「おーエアグrrrrrrrrrrrr―ヴじゃん! もうじき侵入生がやってくんな! アタシワクワクすっぞ!」

 

「入学してくる者たちを侵入者扱いするな」

 

 無駄に巻き舌を取り入れながら、片手にマグロを抱えたゴールドシップが話しかけてきた。

 

「そのマグロはなんなんだ」

「アタシ大道具係だからさー。これならクギも打てるし腹減ったらそのまま食えるじゃん!」

 

 相変わらず会話が出来ている気がしない。まともに付き合ったら負けだと言わんばかりに目をそらし続けてもゴールドシップは気にせずに話しかけてくる。

 

 

「ん──? どしたん目を合わせないで。ゴルゴル星では目を合わせない奴は極刑で山に捨てられちゃうんだぞ?」

 

「そうか! お前はゴルゴル星の真向いのグルグル星の住人だったのか!」

 

 

「だれがグルグル星だ!!!」

 

 

 耐えきれなくなったエアグルーヴはゴールドシップを黙らせようと襲い掛かった。

 だがこういう時のゴールドシップは異様に速く、結局今回も結局捕えることができなかった。

 

 

 その後もエアグルーヴは、新入生向けに謎の薬を用意していたアグネスタキオンを捕まえたり、見栄えのいい作業風景を模索していたスマートファルコンとカレンチャンに真面目にやれと雷を落としたり宙に浮いた板を動かして作業していたマンハッタンカフェにかける言葉が見つからなかったりと、あちらこちらで体と口を動かしつつ奔走することになった。

 結局、生徒会室に戻るまでに想定よりも大幅に時間を使ってしまった。

 

 

 

「遅れてしまい申し訳ありません。会長。只今戻りました」

 

「お帰りエアグルーヴ。みんなの様子はどうだったかな?」

 

「……彼女たちの個性の強さを再認識できたような気がします。どっと疲れました……まだ書類を片づけていた方が疲れなかったかもしれません」

 

 エアグルーヴは心底参ったような顔でそう言い残し、作業に戻っていった。

 だがなんだかんだ言って多少はリフレッシュになったのか、その後のエアグルーヴの作業は周りより少し速かったという。

 

 

 

 その日の準備も無事に終え、エアグルーヴはクタクタになりながら帰り支度を整えた。今日のメニューのノルマは準備前に終わらせている。すぐに部屋に帰って寝てしまおうと学園内を歩いていると、大工作業をしているトレーナーに会った。

 

 

「エアグルーヴ、お疲れ様。今日も疲れた顔してるな……しっかり休めよ?」

 

 

 

 そう言ったトレーナーは右手に釘、左腕に一口かじられたマグロを抱えていた。

 

「うわああああぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 昼のゴールドシップを思い出し、今日最後の大声を出すとそのまま逃げるように寮に帰っていった。

 

 

「……ドップラー効果?」

 

 エアグルーヴの叫び声に対しそう冷静にコメントを残したトレーナーはそのまま自分の仕事を再開させた。

 

 どうやらトレーナーは、あの後ゴールドシップから「味に飽きたからやるわ」といってマグロを譲り受けたらしい。なおきちんと腐る前にトレーナーとオグリキャップが食べきったという。

 




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