────翌日。スマホのアラームに設定している音ゲー曲の爆音で目が覚める。
「おわあぁ?!うるせぇ!設定したの誰だ!……一昨日くらいの俺やん」
サイドテーブルに置いてあるスマホを手に取り、アラームを止める。
眠けまなこに目薬をさして目を覚まさせて、ボケーッとしながらベッドを降りる。
顔を洗い、着替えてから髪を束ねた所で腹が減った。そういや昨日の夜、食べ損ねたっけな……。
本当に何も無いのかとリュックサックをひっくり返せば、カロリーなメイトっぽい固形の食べ物が出てきた。なんで昨日気づかなかったんだ?
これで足りるとは思わないが、ないよりかはマシだ。とりあえず腹に入れる。
とりあえず、レース場に向かおう。道中の自販機で飲み物くらいは買おうか…。
──────
「……早く着きすぎたな、これ」
道中で買ったボトル入りのミックスジュースがおいしい。まだレースは準備中であり、今日走りに来たのであろうウマ娘と、おそらくそのトレーナーであろう人々がちらほらいるくらいだ。
とはいえ、寮に戻るにも微妙な時間だ。それにしても、お腹すいたなぁ……。
昨日の夜食べてないのがデカいからか、くるるるると腹が鳴った。
「はぁ……」
「今、お腹の音が聞こえたけど……大丈夫〜?」
「え……あ」
「あ」
話しかけられて振り返れば、駅で出会ったあの大きなウマ娘が居た。
「駅の!トレーナーさんだったんだ〜!」
「新人だけどね」
トレーナーバッジを見る。羽織ったロングコートの胸ポケットにつけているやつだ。
「そうだ!さっき、お腹の音が聞こえたけど、お腹すいてるの〜?」
「うん、まあ……昨日食べ損ねて」
「それは大変!おやつに持ってきたおにぎり、食べて食べて〜!」
「いいのか?」
そうすると、彼女はどこからともなく大きなおにぎりを取りだした。綺麗な三角形で、俺の顔くらいの大きさがある。マンガかな?
しかし、これはありがたい。ありがたく受け取る以外の選択肢がない。何より、こう、米特有の美味しそうな匂いが……
「うん!お腹が空いたら元気は出ないからね〜」
「ありがとう。それじゃ、いただきます」
受け取って、ひとくち。
美味しい。本当に美味しい。おそらく塩むすびなのだが、塩加減が丁度いい。それに、おそらく出汁で炊いているのだろうか?ほんのり昆布の風味がある。そもそものお米だって甘みがあって良い。凄く考え抜かれてある。
「ボーノ?」
美味しい美味しい、と食べていると、彼女はそう聞いてきた。ボーノ、Buono。イタリア語で「美味しい」とか「素晴らしい」とかいう意味。
返答は勿論。
「ボーノ!」
「えへへ、やっぱり喜んで食べて貰えると嬉しいの!」
「美味しいものは美味しいからね」
「分かってくれて嬉しい!こうやって分かってくれる人にトレーナーになって欲しいって思ってるんだけど、皆よく分からないって……」
俺はどちらかと言うと食べるのが好きな方だが、トレーナーの中には、「完璧な栄養バランスなら味とかどうでもいいいい」という人もいる。確か、姉の友人の担当トレーナーがそうだった。あの人苦手。
「だから、えっと〜……もし……」
「いい匂いだー!!わ、おにぎり!!」
「うおお?!」
彼女がなにか言おうとした瞬間、桜色の髪のウマ娘がこちらへと駆け寄ってきた。近くに来たところで、キキーっと急ブレーキ。
「わわっ、ウララちゃん!びっくりしちゃった〜」
「アケボノちゃん!ねえねえ、ウララにもおにぎりわけてもらっていい?」
「いいよ〜!はい、どうぞ☆」
「わーい!!」
大きなウマ娘……ヒシアケボノは、桜色の髪のウマ娘……ハルウララに快く、その大きなおにぎりを渡した。いやどこからそれ取り出してるの?
「いっただっきまーーす!おーいしーーー!」
パクパクとおにぎりにかぶりつき、あっという間に食べきってしまった。俺まだあと3分の1くらいあるのに。早い。
ハルウララは、「ごちそーさま!」と満点の笑顔で言う。口の周りについた米粒を拭うと、突然こちらを見た。
「あー!きのうにんじんプリン捕まえてくれたひとだ!トレーナーさんだったんだね!」
「え?ああ、新人トレーナーだけど……」
「すごいすごーい!またあえた!!今日のレース、ウララがんばるから見ててね!」
テンションが高い、というよりも根っこから明るいのだろう。ニッコニコでそう話してくるのを断るなんて選択肢は思い浮かばず、頷いた。
「やったー!!ね、アケボノちゃんも走るんだよね?」
「うん、芝の短距離で出走するよ〜☆」
「ウララはね、ダート走るよ!頑張るんだー!」
「そうか、それじゃあ、ふたりともしっかり見ておかないとな」
『──お知らせします。短距離に出走される方は伝達がありますのでお集まりください。場所は……』
「あ、集まらなきゃ!それじゃあ、あたしはちょっと行ってくるね〜!」
「あ!そんな時間?!忘れてた!ウララ、ライスちゃん迎えに行ってくる!」
「いってらっしゃい」
そうして、ドタバタと2人ともかけていった。
────
ヒシアケボノからもらったおにぎりを食べきった後、未だ準備中のターフを立って眺めることにした。理由はなんとなく。朝練があるからなのか、いつの間にか人も増えている。
手元のスマホに登録された生徒一覧(自作)と見合わせながら、ウマ娘達を見る。
「あそこにいるのは……ダイワスカーレットだっけ。かのスカーレットブーケの血を引く女傑。ライバルのウオッカとの競り合いが凄いんだよな」
「そうそう、やるかやられるか、食うか食われるかな競り合いを繰り広げる2人の間に入れるウマ娘ちゃんなんていない、完璧な空間が出来るんですよねぇ」
「ライバル以上の何かを感じるんだよな」
「わ か る。わかるマンが大爆発で……」
ふと気がつくと、隣にいた桃色の髪のウマ娘といつの間にか会話に発展していた。お互いにハッとして顔を見合わせる。
「君は昨日の……あの後無事生きて帰れた?」
「あ、は、ひゃい!おかげさまでなんとか。トレーナーさんだったんですねぇ」
「新人だけどね。生きててよかったよ」
「いやぁ、死ぬかと思ったところ助かりましたよ……。ところでもし、トレーナーさんって同志……?」
「多分。とはいえ、今のとこ推しはちょっと前の世代が多いけど」
昨日、アニメグッズのショップ前で出会った娘だ。彼女はアグネスデジタル。ウマ娘達を間近で見るために入学したらしい。
話しているうちに、割と意気投合していた。
「いや〜、まさかこんな所で出会えるとは……」
「マイナーだからなぁ。……そういや、君は走るの?」
「あ、あたし?!い、いやまぁ、マイル距離を走るには走りますが……その……」
「?」
デジタルの話を聞くと、彼女は「ダートと芝とどっちも捨てきれない中途半端が、素敵なウマ娘ちゃんたちと走ってもいいのか」ということを悩んでいるらしい。
確かに、大体のウマ娘はダートか芝かのどちらかになる。
しかし、彼女はどちらも走れてしまう、走るよう努力してしまう。
「……それ、中途半端なんかじゃなくて、ひたすらに最高なんじゃないの?」
「ほへ?!」
「戦場を選ばずに走れるなら、どっちも全力でやる方が礼儀じゃないかなって俺は思うけど……」
推しが同時にPUされたなら、どちらも引く。それがファンの流儀ってもん(※個人の感想です)だ。
欲は上手い感じに加工しつつ全面に押し出していけって姉も言ってた。
「……!」
「選べないなら選ばなくていいと思うし、ほら、推しが何人もいても優劣があるわけじゃない……よね?」
デジタルはこくんと頷く。そして、何かを決意したような眼差しでコースを見た。
「……あたし、走ってみます。どっちも、しっかり全力で」
「ああ、いいと思うよ」
「そうと決まれば、あたし、ちょっと準備行ってきます!」
─────
さて、そろそろレースが始まる。いつの間にか沢山人が集まっている。まあ、そりゃそうか。
最初は短距離からだったっけな……
長さ調節が両極端…