気を取り直して中距離を見る。やはり激戦区なのもあってか、出走人数が多く数回に分けてのレースとなっている。そりゃ48人走とかなんて無理あるもんね。
改めて言うが、中距離〜長距離はかなりの激戦区だ。クラシック三冠やシニアの三冠は、どれも中距離〜長距離。『三冠』を狙うウマ娘達は大いのだから、必然的に競争率は高くなる。ちなみに、次点でマイルも競争率は比較的高めだ。ティアラがあるしね。
1走目の結果は、1着から順にテイエムオペラオー、メイショウドトウ、それからえーっと……確か名前はハッピーミークだったっけ。テイエムオペラオーは強かった。しかし、それにしっかりと追い縋るメイショウドトウもなかなかのものだ。
ハッピーミークがゴールした時、近くにいた女性トレーナーが「パワーが少し抑えめすぎましたか……」と呟いていたので、彼女が担当なのだろうか。
2走目は、なんというか……『圧倒的』の一言に尽きる感じだった。1着から、ナリタブライアン、ダイワスカーレット、ウオッカ。なのだが、ナリタブライアンがあまりにも強過ぎた。4バ身差だっけ?模擬レースで出すような差じゃないだろ。
ダイワスカーレットもウオッカも、将来有望で名前も聞くウマ娘達だ。そんなふたりが霞むくらい、ナリタブライアンが強いのだ。
……そんな衝撃を感じた直後の3走目。
位置へとつくウマ娘たちを見てみる。その中にふと、あの白いもふもふ下影が見える。ビワハヤヒデだ。
なんとなく目立つよなあとか、余計なことを考えていると、また目が合った。今度は、係の『位置に着いてください』のアナウンスで逸れたが。
スタートの合図、ウマ娘達が飛び出す。まず、先頭はミホノブルボン。スタート手前の坂を駆け登り、後続から距離をとっていこうとする。
それを許さないと走るのはナイスネイチャ。圧力……というかまなざし?牽制?ちょっと判別し辛いが、牽制していることには変わらない。
それから進んで、レース中盤も終わる頃。ふとビワハヤヒデの方を見る。彼女は中団前方から、力を温存するように走っている。
そして、最終コーナーに差し掛かる直前、彼女は速度を上げた。完璧なコーナリングをもって、前を走っていたうま無達を抜かしていく。一気に前へ躍り出て、ナイスネイチャの牽制も何処吹く風と、ミホノブルボンに追いついた。
残り200メートル。その瞬間、彼女は先頭へと立った。逃げ切ろうと速度を上げたミホノブルボンをものともせず、1バ身くらいの差で差しきった。なるほど、とても計画的な走りをしている。
着順は、ビワハヤヒデ、ミホノブルボン、ナイスネイチャの順だった。
─────
それから、もう一走ぶんだけ中距離と、長距離のレースが二走あって、やっと模擬レースが終わった。
周囲を見るに、トレーナーはウマ娘のスカウトをしようと、ウマ娘はトレーナーを探そうと賑やかだ。
俺もとりあえず行こうかな、と立ち上がった瞬間、後ろから声をかけられた。
「あ、トレーナーさんがいましたいました。」
「ほんとだ!トレーナーさーーん!」
「お疲れ様だよ〜☆」
振り向けば、ハルウララにアグネスデジタル、ヒシアケボノがそこにいた。
「そっちこそ、お疲れ様。というか、俺は見る側だったからそっちの方が疲れてそうだけど……」
「つかれ?ううん!楽しかったからつかれてないよ!」
「そ〜そ〜☆模擬レースだけど、ボーノだったよ!」
「あたしも、すっきりしたというか、おかげで走れましたからお礼をばと……」
「ともかく、お疲れ様。」
ハルウララがにぱっと笑い、ヒシアケボノもボーノと笑う。アグネスデジタルは何かすっきりした感じの表情だ。
「それでね?トレーナー!わたしたちね、トレーナーにけ、け……けーやくしてほしいなって!」
「あ、え、俺?!」
「うん!」
割と突然過ぎてびっくりした。いやまあ、トレーナーである以上担当は持つつもりだったけども。
いやそれはいいにしても、3人って行けるのか……?
「あ、もしや人数について心配してる感じですよね?」
「ま、まあ」
「そこは、チームを興す形はどうかな〜?って感じなんだよね〜」
「チーム」
この学園には、いくつかのウマ娘達のチームがある。
例えば、チーム『リギル』。学園最強と名高いチームであり、かの生徒会長であり"皇帝"シンボリルドルフを初めとする、トンデモな実力や才能を持ったウマ娘達が所属する。
チーム『スピカ』も名前を聞くチームだ。ステイヤーが多く、また、自由さの強い雰囲気のチーム。しかし、それでもゴールドシップやメジロマックイーンをはじめとした有力で強豪なウマ娘が所属している。
他にも『シェルタン』や『ステラ』、『シリウス』『ポルックス』などなど。どのチームも、少なくとも1度以上は大きな功績を残したことのあるチームだ。そんな中に、新人トレーナーが新たにチームを興す、と……?
いや、別に嫌なわけじゃない。不安はあるが、それ以上に嬉しい。理由はわからずとも、頼られるのは嫌いじゃない。
だが、確か。
「……チームって、結成には最低でも5人以上のメンバーが必要なんじゃ?」
「そこなんですよねぇ……」
デジタルが、うーんと悩む素振りをする。
確か、チーム『カノープス』は現在4名のウマ娘が所属している。しかし、結成当時はもっといたとかなんとかどっかの記事で読んだ覚えがある。
「……チームメンバーを探しているのか?それなら、私も入れて貰えないだろうか」
その声の方を見れば、葦毛のもふもふした髪のウマ娘、ビワハヤヒデがいた。彼女に声をかけていたであろうトレーナー達を制止しつつ、こちらへと来る。
「わー!ハヤヒデさんだ!トレーナー、チームメンバーがふえるね!」
「うんうん!歓迎だよ〜☆」
「あ、ありがたいし歓迎だけど……」
どうして俺のとこなんだ?という疑問がまっさきに上がる。ビワハヤヒデほどの実力があるなら、リギルやスピカも夢ではないと思うのだけども。
「なんだ?私では不満か……」
「そういう訳じゃないよ。歓迎だけど、こうなると、あと一人足りないって話で……」
咄嗟に言葉が出た。ビワハヤヒデは「そういうことか」と納得してくれた。グッジョブ俺!いやまあ実際、あと一人足りないんだけど。
ちなみにデジタルが死にかけているのを堪えているのが視界の端に見えるが、そこはそっとしておこう。今までしっかり耐えていたのが偉いよ……。
と、ふとドタバタとした足音が聞こえてきた。足音はこちらへと向かっている。
「ん?」
「そこのトレーナーさん、突然ですが問題です!」
「へ?」
「人体において呼吸するための臓器の名前は!」
「
その空色の髪のウマ娘は、駆け寄るなりいきなりそう言ってきた。戸惑っていると、その娘はくるっと来た方向を向いて、彼女を追いかけていたであろう女性に向かって言い放った。
「と、言うわけでですね。こちら先程お話しましたトレーナーさんです!この方の興すチームに入るので、お話はお受けできませんってわけです」
「そう……分かったわ……」
女性はそれだけ言うと、とぼとぼと去っていってしまった。トレーナーバッジがついていたので、彼女……セイウンスカイをスカウトしようとしていたのだろう。
「ふう。ってことで、よろしくお願いしますよっと、トレーナーさん?」
「あ、え?う、うん?」
「やったね、トレーナー!これで5人揃ったよ!」
「だね〜☆」
「ハッ!そ、そうですね!これで新興チームの条件は満たしましたね!」
「だな。これから、よろしく頼む」
「ぼちぼちやっていきましょーね」
周囲からの視線を感じる。これは、どう足掻いても後に退けない。仕方ない、俺も男でトレーナーだ。腹を括ろうか!
「分かった。やるよ……改めて名前を聞かせてくれ」
「ハルウララ!がんばるよ!」
「ヒシアケボノだよ〜!ボーノボーノ☆」
「アグネスデジタル、やや、やりまひゅっカンジャッタ……」
「ビワハヤヒデ。よろしく」
「セイウンスカイですよー」
「
こういうわけで、新人トレーナーである俺は、チーム『フォーマルハウト』を興すこととなった。
それが、後に歴史に名を刻むチームになるとは……俺どころか、この場にいた誰も知らない。
ということで、次回各チームの紹介回みたいなものを挟んでから本格始動します。