個性泥棒のヒーローアカデミア   作:M.T.

21 / 131
個性泥棒の決勝戦

『さぁいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここに決まる!!決勝戦!!これまで凄まじい戦いを見せてきた爆破野郎爆豪!!対!俺正直こっち応援したい!!糸巻!!』

 

『私情を挟むな』

 

プレゼントマイクの私情ダダ漏れな実況に相澤が呆れる。

紡が靴を脱いでリングに上がると、クラスメイト達は二人の試合で盛り上がっていた。

 

「なあ、この試合どっちが勝つと思う?」

 

「んー…糸巻じゃね?アイツ、轟との試合の時ヤバかったし。ありゃ勝てねーって思ったわ。爆豪も凄かったけど、個性の相性運に助けられた部分もあるじゃん?」

 

「確かに」

 

切島、瀬呂、蛙吹が言うと、尾白が少し考えて言った。

 

「…俺は正直爆豪が勝つと思う」

 

「どういう事だよ尾白?あれだけすげー技ブッ放てる奴、流石に誰も勝てねぇだろ」

 

「だからだよ。俺、USJで糸巻さんと一緒だったから知ってるんだ。多分だけど糸巻さん……」

 

尾白が心配そうに紡を見ると、緑谷が納得した。

 

「…そうか、そういう事か」

 

「え、どういう事なの緑谷!?」

 

A組の生徒達がどちらが勝つか予想している間にも、試合は始まろうとしていた。

 

 

 

『爆豪対糸巻!!今、START!!』

 

「先手必勝!」

 

紡は、開始の合図と同時に爆豪に突進した。

すると爆豪は、紡を爆破しようと右腕を前に出す。

 

「死ィ……」

 

だが紡は、素早く距離を詰め爆豪の爆発する右手を軽くいなし右フックを放つ。

爆豪は紡の拳をギリギリ見切って右手の爆破の勢いで身体を少し後ろに逸らして拳を避けた。

 

(コイツ…速え……!!)

 

「チッ……!」

 

爆豪は、そのまま紡の脇腹を爆破しようとする。

だが紡は、爆発の勢いを利用して身体を大きく回転させると爆豪の背に回し蹴りを叩き込む。

 

「っのやろ……!」

 

「野郎じゃない」

 

『カウンタァアアアーーーー!!決まったぁーーーー!!糸巻渾身の回し蹴りーーーー!!』

 

「すごい、紡ちゃん爆豪君を押してるよ!」

 

「あの二人は両方接近戦のセンスの塊だけど、個性無しでの攻撃力と機動力の高さなら糸巻さんの方が若干上だ。かっちゃんはそれを爆発の勢いを微調整する事で補ってきてる。でも糸巻さんはかっちゃんの攻撃パターンを知ってるから、かっちゃんが爆発を起こしたタイミングでそれを利用して攻撃に転じているんだ。だけど問題はここからで…「怖えよ」

 

緑谷がブツブツ言っていると、瀬呂がツッコミを入れる。

 

「けど…糸巻の奴、さっきから何で個性を使わないんだ?」

 

紡が個性を使ってこない事に対し、A組のほとんど全員が疑問に思っていた。

すると爆豪も個性を使わない紡に痺れを切らしたのかキレ散らかして爆発の勢いで突進する。

 

「おいコラホウキ頭!!テメェ早よ個性使えや!!」

 

「…………」

 

「俺には個性を使わずに勝てるってか!?あぁ!?舐めプしやがったら殺すっつったよなぁ!?」

 

爆豪は、連続で紡に爆破を浴びせる。

紡はそれを避け続け、爆豪が右手から大きめの爆発を放つと身を屈めて避けた。

否…

 

 

 

「っ………ゲホッ、ガフッ…」

 

紡は、膝をついて激しく咳き込んでいた。

たまたまこのタイミングで膝をついたおかげで爆発を喰らわずに済んだのだ。

紡は全身から滝のように汗を流し身体は小刻みに震えていた。

 

「…………は?」

 

攻撃を避けたにもかかわらずダメージを負っている紡に対し、爆豪の方も理解が追いついていないのか唖然としていた。

 

『あれ!?煙幕で微妙に分からなかった部分もあるが…今避けたよな!?糸巻、謎のダメージ!!』

 

それを見ていた尾白は、不安そうに紡を見ながら言った。

 

「使わないんじゃない。使えないんだ…!」

 

「どういう事!?」

 

すると、準決勝で紡と戦った轟が説明をする。

 

「アイツ、俺との試合で大技放っただろ。多分、あれで許容量超えてたんだ。一度底をついたらそう簡単には元の調子には戻らねぇ。二つ持ちのアイツなら尚更だ。たった一時間程度じゃ、あの技を放った分の消耗は回復出来ねぇよ」

 

「じゃあ紡ちゃん今相当無理してるって事?」

 

「多分な」

 

「ケロ…」

 

クラスメイト達は、心配そうに試合を見守る。

紡の個性は使いすぎると命に関わるため、もはや勝敗より紡の身体の方が心配だった。

だが爆豪は、紡の体力が底を尽きかけている事などお構いなしに爆発を浴びせる。

初めは上手くいなしてカウンターを叩き込んでいた紡だったが、次第に疲労が積み重なっていき次々と爆発を喰らう。

 

「おっせぇ!!」

 

「ぎぁっ…!!」

 

爆豪が爆発を浴びせると紡は踏ん張りが利かず吹っ飛ぶが、何とか体勢を立て直して再び爆豪に立ち向かう。

紡と爆豪の試合はそれから1時間以上続き、一瞬で勝負が決まる試合がほとんどだった中最長の持久戦となっていた。

試合が長引けば長引くほど紡は疲弊していき、力の差は開き続ける一方だった。

 

「もう……1時間だぞ…」

 

「もうやめてくれよ…俺、見てらんねぇよ…」

 

爆豪の攻撃を喰らってボロボロになっていく紡を心配した観客達の中には、これ以上の試合の続行を望まない者も少なくはなかった。

すると、一人の観客が立ち上がって叫ぶ。

 

「おい!もう降参してくれよ!!ここまでやりゃあもう十分だろ!?今年負けても次があるじゃねぇか!!」

 

「そうだ!!これ以上続けたら死んじまうよ!!アンタらも早く止めてくれよ!!」

 

ミッドナイトとセメントスに試合をやめさせるように言う観客もいたが、紡は何度でも立ち上がり試合は続行した。

だが、ボロボロになっていく紡の身を案じたセメントスは小型マイクでミッドナイトに声をかける。

 

『ミッドナイト、これ以上は流石に危険です。試合の勝敗がどう転ぼうと、彼女の身が保ちません。止めますか?』

 

「…………」

 

セメントスに尋ねられたミッドナイトだったが、試合を続行する事を選んだ。

 

『おいおいマジかよ……』

 

『今騒いでる奴は何も分かってねぇ。ここまで上がってきた奴がそう簡単にギブアップできるわけねぇだろ』

 

『そりゃま…そうだがよ……』

 

あまりにも一方的な試合が続き、初めはノリノリで実況していたプレゼントマイクも口数がだいぶ減っていた。

一方、「早く降参してくれ」と訴える観客達に、相澤は呆れ返っていた。

 

「どうしたホウキ頭ァ!!テメェの本気はそんなもんじゃねぇだろが!!瀕死のザコに勝って一位になっても意味ねぇんだよ!!本気で来いや!!完膚なきまでに叩きのめしてやらァ!!」

 

「っるさいなぁ……わかってるよ!!」

 

個性を出さずに一方的にやられている紡に対し、爆豪は激励とも取れる言葉をぶつけた。

紡が再び立ち上がって特攻を仕掛けると、爆豪は爆発を浴びせる。

 

「死ねぇ!!!」

 

だが爆豪が爆発を浴びせた直後、紡の左アッパーが飛んできて爆豪にヒットした。

 

「ぐっ……!?」

 

アッパーをモロに喰らった爆豪は、軽く退け反った。

 

『またしてもカウンタァーーーーーー!!いいぞ糸巻!!そのままやったれ!!』

 

1時間ぶりに紡の反撃が決まったので、プレゼントマイクのテンションが再び上がる。

紡は右腕を盾にする事で直撃を免れ爆豪の技が決まった直後にアッパーを叩き込んでいたのだ。

 

「テメェ……」

 

「っつ……」

 

爆発を直接喰らった右腕は表皮がズタズタになっており、爆発の衝撃で肩が外れたのかダランと垂れ下がっていた。

そして次に紡が取った行動に、観客達は思わず血の気が引いていた。

 

「うっ…!?」

 

「おい、嘘だろアイツ……」

 

『糸巻、何と外れた右肩を自分で嵌めやがったー!!よーやるな!!痛くねぇのかアレ!?』

 

紡は、嵌ったばかりでボロボロの右腕を何とか動かす。

 

「ったた……よし、ちゃんと動く…まだまだここからだよ、爆豪…!!」

 

「…いいぜ。かかって来いよ。今度こそブッ潰してやる糸巻!!」

 

紡が体勢を立て直すと、爆豪はニィと口角を上げいつものあだ名ではなく名前で紡を呼んだ。

 

「っつぅ……物を大量に編むのは時間かかるし集中力も要るんだ。1時間も()()()()悪かったな…」

 

紡がそう言うと、紡の身体からザワザワと黒い糸が出る。

 

「爆豪…これが最後だ。先に言っておくけど、モロに喰らったら痛いじゃすまないぜ」

 

「上等だホウキ頭ァ!!」

 

二人は、次で決めようと思ったのか渾身の大技を放つ。

 

 

 

 

「死ねぇ!!『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』!!!」

 

「『針刺嶄(パルチザン)』!!!」

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォオオオオオオオン!!!

 

 

 

 

 

爆豪は身体を勢いよく回転させ観客席にまで及ぶ大爆発を、そして紡は巨大な黒い針山を出した。

爆豪の爆発によって、会場には爆音が鳴り響き全員の視界が光と煙に包まれる。

 

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!一方糸巻は、最後の最後に取っておいた切り札で応戦!!果たして、勝負の行く末はーーー!!?俺は正直糸巻に勝ってほしい!!』

 

『…もういいよお前』

 

私情ダダ漏れのプレゼントマイクに、相澤はツッコミを入れるのも面倒になっていた。

 

 

 

「…っ、はぁ…はぁ………」

 

煙幕が晴れると、リング上には爆発でダメージを負いボロボロの紡、そして大量の針が掠り無数の切傷を負った爆豪が立っていた。

紡は、フラフラの状態で爆豪に一歩歩み寄ると、手を伸ばして軽く爆豪の身体を押した。

そして、力尽きたのかそのままリングに倒れる。

 

『糸巻、最後の力を振り絞って爆豪に追い討ちーーー…って、押しただけ!?そして倒れたー!!決勝戦を制したのは、やはり爆豪かー!!?』

 

「頑張れぇええーーー!!負けるなぁあああーーー!!」

 

「そ、そうだ!!頑張れ!!立ってくれ!!」

 

「勝ってくれ糸巻ーーーーー!!!」

 

一人の観客が声を上げると、それを皮切りに大勢の観客達が紡に激励の言葉を投げかける。

だが、紡が立ち上がる事はなかった。

 

「紡ちゃん!!」

 

「無理もない…ただでさえ無理をしてリングに立っているのに、あんな大技を放ったんだ。もう戦う事は出来ないだろう」

 

「アイツ、1時間もよく戦ったよ…もう十分だろ……」

 

クラスメイト達は、負けが確定した紡を讃え立とうとしない紡を誰も責めなかった。

試合を見ていたほとんどの者が、紡の敗北を確信していた。

紡がリングに伏し疲労が限界に達したのかガクガクと拳を震わせていると、ミッドナイトが駆け寄ってくる。

 

「糸巻さ……」

 

「大、丈…夫……まだ……負けてない……!」

 

そう言って這いずる紡だったが、これ以上の試合の続行は不可能と判断したミッドナイトが勝敗を言い渡そうとする。

だが……

 

 

 

「『縮め』」

 

紡がそう言った直後だった。

 

 

 

「うぉあ!?」

 

突然、爆豪の身体が後ろへと引き寄せられる。

爆豪は踏ん張って場外を免れようとしたが、引き寄せられる勢いが止まる様子は無かった。

爆豪の背からは、紡特製の糸『編羅紅練(あらくね)』が伸びていた。

 

「……最初の回し蹴りの時…仕込んでた……蹴られた時に背中につけられたらいくら気をつけてても防ぎようがないだろ………」

 

「テメェ…靴を脱いでリングに上がったのは、俺に確実に糸を仕込む為か…!!」

 

「へっ、そゆこと……」

 

『なぁーーーー!?爆豪の身体が糸で引き寄せられていくぞ!?糸巻、初めからこれを狙ってたのかーーー!!』

 

『お前は気付いとけよ』

 

プレゼントマイクは驚いていたが、糸は観客席や実況側からなら目を凝らせば見えるように張られていたため相澤が呆れ返る。

初めから紡の策にかかっていた事を悟った爆豪は一瞬悔しがるが、すぐに打開策を思い付いたのかニィと笑うと両手を後ろに伸ばす。

そして、両手の掌から爆発を放ち引っ張られる勢いを殺しにかかった。

 

「甘めぇよボケカスァ!!!俺が場外になるよりテメェがオチる方が早えっての!!」

 

爆豪は、両手を爆発させ自分の身体を前に推し進める事でリング上に留まった。

そこからは二人の粘り合いが始まり、二人は雄叫びを上げて勝つために全力を振り絞った。

 

「「うぉおぉおおぉおおおぁああああああああぁああああああ!!!!」」

 

そして…

 

 

 

 

 

ズリッ

 

 

 

「はぁ…はぁ………」

 

爆豪の足が僅かにラインを超えた直後、紡は『編羅紅練(あらくね)』を解除した。

一部始終を見守っていたミッドナイトは、左手を挙げて勝敗を言い渡す。

 

「爆豪君、場外!!よって糸巻さんの勝ち!!」

 

『決まったーーーー!!70分にも及ぶ戦いがついに決着!!!以上で全ての競技が終了!!今年度雄英体育祭1年優勝はーーー…A組糸巻紡!!!!』

 

結果を言い渡された紡は、気が抜けたのかそのまま意識を失った。

試合が終わると、紡はすぐに担架で運ばれた。

惜しくも敗れた爆豪は、運ばれていく紡を悔しそうに睨んでいた。

 

「何だよ……何が瀕死だ……クソ強えじゃねぇかよクソが…!!」

 

爆豪は、瀕死にも関わらず死力を振り絞って自分に本気を出させさらに打ち負かした紡に対し、否でも自分との距離を認めざるを得なかった。

こうして、雄英体育祭の1年の部は宣誓通り紡の優勝で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 




針刺嶄(パルチザン)
炭素鋼でできた糸で針山を作って攻撃する技。
強靭な硬度を誇り、防御も兼ねる。
硬度の限度は切島の硬化と同程度。
余談だが見た目が完全にウニ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告