トレセン学園のトレーナーとウマ娘のささやかな日常 作:中司春菜
服はその人の想いを示すこともある。
服は時として着た人の行動すら変えてしまう。
ウマ娘、それも競争ウマ娘なら立場や想い、行動すら変えるであろう服といえば勝負服なのは言うまでもない。
なら、それ以外の服を着た時、彼女たちはどんな姿を見せてくれるだろうか?
トレセン学園に所属するウマ娘は学生でもあり、当然授業に出席している。その間トレーナーが暇かというとそうではない。URAや学園に提出する書類など主に事務処理が大量にある。担当ウマ娘たちの前日のトレーニング内容及びその結果に関する所感などもまとめておく必要がある。共通トレーニングの内容なんかはコピペでいいだろうが、所感や評価は別々だし10人いれば一人5分で書いたにせよ1時間近くはかかる。
「そういえば、」
とあるトレーナー室。小柄な女性トレーナーは朝礼後に渡されたURAの名前入り封筒があることを思い出し、その中身を出す。一読した後、時計を見ればちょうど昼休みに入ったところ。彼女は机の上の固定電話の受話器を取ると、校内放送にあわせて書類に名前が書かれていたウマ娘を呼び出すことにした。
「ちょっと!校内放送で呼び出すなんて、あんた何考えてるのよ!」
トレーナー室に入ったとたん外面完全放棄でダイワスカーレットは言い放った。ある意味いつもどおりなので気にせず話を続けよう。
「特に変わったことしたつもりはないんだけど?」
「まるでアタシが何かやらかしたみたいじゃない!携帯で呼び出せばいいじゃないの」
「うーん、優等生が学校内で携帯いじるのは良くないかなーって」
「そ、それはそうだけど。で何の用?」
スカーレットが話を聞く気になったみたいなので、封筒を見せつつ話を始める。
「URAからスカーレットにというか、正確には近くの警察からの依頼ね。今度行う交通安全と特殊詐欺対策のイベント時に1日署長さんをやって欲しいそうよ」
「なんであたしに」
「具体的な選定理由はあまり書いてないけど、今年クラッシク級に上がる子の中で有力なウマ娘であり、品行方正な優等生ということで選ばれたようね」
一応書かれていたことに推測を含めてスカーレットに返事をする。
「それ受けた方がいいの?」
「URAに官公庁も絡む依頼だしね。それにこういう仕事はウオッカちゃんとかはなかなか来ないだろうし」
良い子なんだけどねあの子。でもファッション不良というか、なんというか少なくともお役所受けは今一つな気がする。
「ウオッカに来ないのは別にいいけど、それ理由になる?」
別にいいと言いつつ、少なくとも少しは気にしてそうだけどそれは突っ込まないことにしよう。
「少なくとも今期組のウマ娘では官公庁系の依頼はあなたが一番最初よ。つまり一番評価されてるウマ娘はあなたということじゃないかしら?」
彼女が気に入りそうな言い回しを選んで答えていくと
「わかったわ、引き受けたらいいんでしょう?」
「そうそう、じゃあ詳細はこの中の書類を見てね」
こうしてダイワスカーレットの1日署長さんが決まったのでした。そしてこの件で少しばかりことが起きるのは、その時はまだわからないのでした。
ダイワスカーレットの1日署長さん当日。彼女もトレーナーとしてついて行き、
「スカーレット、勝負服も青系だし婦警服もよく似合うわね」
「ふふん、もっと褒めなさい」
とスカーレットの服装をほめていたら、
「ではトレーナーさんもお着換えを」
「ほえ?」
「ダイワスカーレットさんが一人では不安なのでトレーナーさんと一緒ならとご連絡ありましたので」
「えぇ!」
こうして彼女も着替えさせられるのでした。
警察署近くのイベント広場。
「それでは本日の1日署長を務めていただく、トィンクルシリーズクラシック級競争ウマ娘ダイワスカーレットさんと、そのトレーナーさんの登場です!」
結局着せられてしまった彼女。髪型と似たようなスタイルな上に背が低めの為まるで、
「なんか姉妹みたい」
と周りに言われて苦笑する羽目に。そして挨拶が終わるとチラシにちょっとしたグッズの入った袋を配って回る。
「道を渡るときは横断歩道で左右をよく確認してから渡ってくださいね」
そして一人の子供連れの老婆の前まで来ると、
「ウマ娘さんや、一つ頼まれてくれんかの」
「えっ?」
「孫をちょいと抱き上げてくれんかのと思ってな」
不思議そうにしつつも断る理由が特にないのでスカーレットは子供を抱きあげる。それを見ていたのか、その後数人抱き上げることに。
「ウマ娘さんやありがとうの。これでこの子も健やかに育つじゃろうて」
孫を抱き上げてもらった老婆は礼を言うと去って行く。
「抱き上げてほしいって、どういうことなのかしら?」
「一種の縁起担ぎよ。お相撲さんとかウマ娘って神道にかかわりあるし、神馬として神のお供とされるしねウマ娘」
とトレーナーが答えた時、先ほどの老婆の悲鳴と急発進するエンジン音が。慌てて二人が駆け寄ると、
「あのバイクにカバンを」
「ひったくりね、許せない!」
「ちょっと、スカーレット!」
トレーナーが止める間もなく、スカーレットはバイクを追いかけ始めた。トレーナーが追いかけれるはずもなくスカーレットの姿はあっという間に消えて行った。
その後、パトカーがトレーナーを乗せて現場に着いたとき、どういう手段を使ったのか(バイクにあるどう見ても蹄鉄な傷は見ていない、見ていなんだから!)スカーレットは犯人を捕らえた後だった。幸いにもスカーレットも犯人もケガがなく、老婆には再び感謝されるものもイベントは混乱したし、警察での事情聴取もあり大変な目に合うのでした。
そして翌日、一般紙とスポーツ紙を読み始めたトレーナーは頭を抱えるのでした。そして同じ頃、
「よっ、スカーレット署長!」
「なに言ってるのよ!ウオッカ」
反射的に言い返したスカーレットだったが、ウオッカの見せてきた新聞を見て黙りこくる羽目になる。その新聞には
『お手柄ダイワスカーレット署長!ひったくり犯を逮捕!』
とでかでか見出しで書かれていたのだから。そしてしばらく彼女の二つ名が『署長』になったのは言うまでもない。