第二話にしてガバを連発する作者がいるらしい。
黛さんの声が放課後の教室に響く。
「好きです!付き合ってください!」
「えぇ……」
俺は困惑していた。
自分のゲーム機の画面の中の美少年に向かって告白をする黛さんの姿を見て、俺はとても困惑した。
黛美玖は焦っていた。
自分のゲーム機の画面の中の美少年に向かって告白をする姿を隣の席の男子に見られて、美玖はとても焦っていた。
どうしてこうなった?
美玖は、一番の親友である高梨葵を教室で一人待っていた。彼女は生徒会に所属しており、今日は用事がある、直ぐに済むから待っていてほしいと頼まれていた。何もしないでぼーっと待つことに退屈を覚えた彼女は、ゲーム機を取り出して、今ハマっている乙女ゲームをやり始めた。
なぜ乙女ゲームだったのか?
美玖は、かなりヘビーな乙女ゲームユーザーであった。その容姿から男子からのアプローチを受けることも多いのにもかかわらず彼氏がいないのは、彼女が、はっきりと言ってしまえば二次元の男にしか興味がないからである。そのくせ、そのオタク趣味がばれて友達を失うことも怖いので、親しい友達ーー高梨のようなーー以外には趣味について話したことがなかった。
猫をかぶっていたのである。
なぜ告白をするような事態になったのか?
美玖がやっていた乙女ゲームは佳境に入っていた。ストーリーが終盤に差し掛かり、彼女の推しの好感度も上々、あとは告白するのみであった。彼女は興奮した。もうすぐ推しは私のものだ、これを乗り越えた先にはCGイラストという名の甘い桃源郷が待っているはずだと。このような理由によって、彼女は和賀がいつの間にか教室に入ってきていたことに気づかないまま、あふれ出る興奮に身を任せゲーム内の告白のセリフを叫んでしまったのである。うん、仕方ないよね。だって尊いもん。
「……何、してんの?」
俺がそう問いかけると、黛さんの肩が面白いほどに跳ねた。
実は俺黛さんが告白をする前から、話しかけるタイミンクを図ってそばにいたのだ。ただ、自分のゲーム機を見つめる黛さんは、明らかの様子がおかしかった。なんだか鼻息が荒いし、やけにソワソワしていて、時々不気味な笑い声のようなものをこぼしていた。
もう直接的に言ってしまえば限界オタクと化していた。
それでも黛さんがそんなわけがない、きっと体調でも優れないのだろう。そう考えて声をかけよう近づいたら黛さんが大声で愛を告白。ゲーム機の画面には美少年が映し出されていたというわけである。
正直ドン引きであった。
いや、俺だって乙女ゲームをプレイする人を非難したいわけではないよ?ただ、教室で一人残って二次元の美少年に愛の告白大声でかますってどうなの?流石にひいてよくない?
「………」
さっきから黛さんは黙ったままだ。うつむいていて表情は見えない。やっぱり限界化していても恥ずかしいのだろうか。フォローするか?できるわけなくね?ていうか沈黙ってこんなに気まずいものだったんだね。そりゃあ俺と話す人いないわけだわ。つれぇ。
俺が一人で落ち込んでいると、黛さんが顔を一気に上げた。
「このこと、誰にも言わないでね!?」
このこと。このことというのは、黛さんが乙女ゲーの限界オタクだってことでいいのだろうか。
「………ああ」
言う訳ないよね。てか言える訳ないよね。B級ゾンビみたいな返事しかできないのに他人の暴露話などできるはずもないのである。する相手もいないのである。
「そっかぁ、よかったぁ…、というか、なんで和賀君がここにいるの?」
「……忘れ物」
「そっかー」
冷静そうにしゃべってるけど、未だにこの人顔真っ赤なんですけど。さっきの件の弁明なんかがない辺り、触れてほしくないということだろうか?まあ怖くて触れられないけどさ。
とりあえず口封じとかの展開はないようでほっと一安心だな。一安心というか、なんか黛さんと対面して話しているのにあまり緊張していない。限界オタクだと知って親近感がわいたのだろうか?なんか俺って浅ましいな…。
そんな感じで二人して黙っていると教室のドアががらりと開いた。
「ごめん美玖お待たせー、帰ろー…って和賀君?」
「あ、葵」
同じクラスの高梨 葵か。髪は明るい茶色のポニーテール、目元はまつげが長く目じりが切れ長だ。薄く化粧をしているのか、顔立ちがはっきりとしていてクールそうな印象を受ける。顔をちゃんと見るのは初めてだ。
「二人して何やってんの?」
さて、どうやって答えたものかな。…などと俺は考えない。なぜなら、何も答えることができないからだ。そもそも、知らない人相手にいきなり返事なんてできるはずがない。よってこの場合は、俺がどのようにこの場を穏便に去ることができるかということを考えなければならない。しかも言葉を発することなく。
不可能である。
俺に答える気がないと悟ったのか、黛さんがゆっくりと高梨さんの方を向いて口を開いた。
「あのね、葵…、ばれちゃった」
「あー…、ばれたかー…」
なんだか二人の会話がおかしい。高梨さんは黛さんの秘密を知っていたのだろうか。そういえば黛さんは高梨さんのことを名前で呼んでいるな。この様子だと、この二人だけの秘密といったところだろうか。
俺が考えを進めていると、高梨さんが俺の方を向いた。
「和賀君、どこまで見たの?」
どこまで。それはまあ…なんというか。
「……最後、まで」
こうとしか答えようがなかった。具体的なことを口にすれば黛さんがかわいそうだったということもある。
「だから教室でするのはやめなさいって言ったのに…」
「だって…我慢できなくて…」
今更だが補足すると、わが校ではゲーム機の持ち込みは許可されていない。流石にね。まあ、待ち時間や休憩時間などを携帯ゲーム機でつぶす生徒はそれなりにいるのだが、黛さんみたいな感じでやる生徒は見たことがない。当たり前か。
「でもっ、和賀君は黙っててくれるって!ね!」
「…ああ」
さっきも言ったが、俺には人の暴露話など不可能なのである。不可能なのだが、高梨さんはそうは思ってくれないらしい。なんかめっちゃこっちを見てくる。何ならにらんでくる。怖い。超怖い。
「本当なの?」
「……本当だ」
クッソ、絶対信じてないわこれ。察してくれよ。俺が超絶コミュ障で、こんな暴露話ができるわけがないと推理してくれよ。陽キャの得意分野だろそれ。いや、まあ俺がしゃべれないのが悪いんですけど。ほんと俺って…。自己嫌悪に沈む俺をよそに高梨さんはとげのある口調で言った。
「何か証明が欲しいわね」
証明だと。そんなものすぐに思いつくわけがない。思いついたとしても、口に出せない。無理だ。終わった。これはもう土下座して許しを請うしかない。俺が覚悟を決めていると、黛さんが何やらうれしそうな顔で口を開いた。
「そうだ!いい証明があるよ葵!」
「いい証明?」
「そう!和賀君にも乙女ゲームをやってもらえばいいんだよ」
何を言っているんだろうこの人。俺は素でそう思った。高梨さんも最初きょとんとした顔をしていたが、ふと思案気な顔になると「なるほど」とつぶやいた。
「和賀君に乙女ゲームをやってもらって、もしも和賀君が美玖のことをばらそうとしたら和賀君が乙女ゲームをやっていることもばらすぞと脅すというわけね」
「そうだよ!そうすれば和賀君も従わざるを得なくなるんじゃない?」
「…まあそんなリスクを背負ってまで言おうとは思わないか…。分かった。それで手を打ちましょう。」
なんだか勝手に話がまとまっているな。まあ、俺が話をまとめる段階に参加することなどないが。つまり、俺は黛さんの秘密を洩らさないという証明のために乙女ゲームをプレイし、その事実をこの二人に握られるということだろうか。正直乙女ゲームには興味のきの字もないわけだが、ほかならぬ黛さんの提案である。断るなどありえない。
「…わかった」
「よかった!じゃあ和賀君、おすすめのゲームがあるんだよ。……」
そこから、黛さんの乙女ゲーム講座は30分ほど続いた。びっくりした。いやほんとに。とりあえずおすすめのものからやってみろというお達しをいただいて、スマートフォン版をその場でダウンロードさせられた。なんだか話を聞いただけでおなかいっぱいである。高梨さんは、少し驚いていたように見えた。ただ、そのあとは溜息を吐いていかにも呆れた顔をしていたが。
とはいえ、俺もやられっぱなしってわけじゃない。いや、事実的に言えば十分やられっぱなしだったが、というかいつもそんな感じだが、今回は俺にも狙いがあったのだ。まあ俺は全く口出ししていないだがそれはそれだ。棚ぼた?僕まだ17歳だから分かんなーい。
この乙女ゲーム…、これを黛さんが好いているということはつまり、黛さんの好きな男どもがたくさん登場しているということだ。これを使って、黛さんの好きな男のタイプを調査してやる。黛さんが二次元の男にしか興味がないということを思い知らされて、俺は大いに打ちのめされたがまだ終わったわけじゃない。
二次元の男を体感して、自分をそれに近づける。恋敵は乙女ゲー。確かに難局ではあるが、せいぜい利用してやるぜ…!
まあ御察しの通り、この時の俺は黛さんとお近づきになれて舞い上がっていたのだが、乙女ゲームの素晴らしいストーリーと男どものあまりのカッコよさにすっかり打ちのめされ、そもそも自分はコミュ障のどうしようもない男だということを再認識してへこむまでに大した時間は必要なかった。
「プロットも時間もろくに無い…こんな状況を切り抜ける策がまだあるのかい?」
「あぁ、あるぜッ!たった一つだけ策はある!」
「その、策とは…」
「エタるんだよォー!スモーキー!」
「わぁ〜ッ、なんだこの男ーッ」
※頑張ります。エタりません。