護は逃げながら、どうやって影夜に対抗するか考えていた。柱の陰に逃げようとすると、その場所へナイフが投げられて道を封じられる。
いっそのこと能力の一つである熱線を放とうと思ったが、幻想入りした頃にやってしまったあの出来事を思い出したので止めた。もし放ったら、この館に大きな被害が出てしまう。
ナイフを投げながら追いかけてくる青年、影夜はかなり鍛えられた戦士であるようだ。というのも、ナイフが地面から生えているような光景にもかかわらず、飾られている壷や絵画には傷一つ付いていない。しっかりと計算した上で投げているのだ。
「(かといって、弾幕や接近戦もなぁ。アイツ他にも手段を隠してるだろ)」
「大人しく降参すれば、命は助けましょう!」
「そう言われると、なおさら降参するわけにはいかねぇな!」
「なら、これで終わりです!」
「っ! (これはヤバイな)」
目の前に広がるのは、先ほどとは倍以上の数のナイフ。円状に広がるナイフ全てが、護に降り注ぐ。避けようとする頃には間近にナイフが迫っていた。
「しまっ……!」
やがて護の姿は、銀色の刃に埋もれていった。それを見た影夜は勝利を確信する。これほどの数はさすがに避けきれないだろう。そう思い、ナイフを回収しようと近づいた……その時!
「やれやれ、こんなに投げるなんて……。お前、マジで殺す気だったのか?」
「っ!?」
そこには、全身を鎧化させた護の姿があった。その足元には弾かれたナイフが落ちている。影夜は急いで飛び退き、護を睨みつける。
「最初っからこうすれば良かったなぁ。いやはや、この能力に感謝だぜ」
「くっ! ならば!」
なす術がないはずの影夜は、護に襲い掛かった。護は両腕を交差させてその攻撃を防ぐ。見ると、影夜の腕にはブレードのようなものが生えていて、目は赤く輝いていた。
それと同時に、強い力も感じる。護は、確かめるために問いかけた。
「その腕……能力者か?」
「えぇ。この能力を使うと、全身が色々と強化されるんですよ。異形の姿になってしまいますが……ね!」
「ぐっ!」
脇腹を思いっきり横蹴りする影夜。衝撃で揺らいでしまい、防御する姿勢が崩れてしまった。
そこからブレード状の腕で斬りつける影夜。護は横に転がって体勢を立て直し、飛び掛ると同時に顔を殴った。
「ぬぉらあっ!」
「フフッ」
すると、護の拳は影夜を貫いた。しかし血が出るというようなことは無く、逆に全身が霧のように消えていった。
すると、今度は後ろから斬撃がきた。そこにはブレードを展開している影夜が。
「いつの間にっ!?」
「言ったでしょう? 全身が強化されると。瞬発力も、当然強化されますよ」
「さっきのは残像ってわけかい!」
「さぁ、高鳴ってきましたよ!」
二人の拳がぶつかり合う。影夜が斬りつければ護が防御し、攻撃した隙を狙って蹴り返す。
影夜はすぐに、床に刺さっているいくつものナイフを蹴り飛ばす。矛先は護。だが、鎧化した拳によって全て粉々に砕かれた。
影夜の黒い光弾が放たれる。しかし護はそれを避けると、腕を前に突き出す。
「ふふふっ。腕を出してどうするというのです? まさか、腕が伸びるとかではないですよね?」
「まさか。俺は普通の人間だぜ? そんな事は出来ねえよ」
「鎧のようにできる貴方を、普通といえます?」
「言っておくが、避けないでくれよ? この廊下だけに被害を留めておきたいからな」
「……は?」
その瞬間、影夜は感じた。自分のいる廊下がやけに暑いことに。そして護の体の周りから、橙色の煙が漏れていることに。
「ま、まさか……爆発!?」
「着火」
刹那、熱風と轟音が廊下に響いた。影夜はすぐに廊下を駆けて逃げ出す。ジリジリと肌が焼かれていく。だが、何とか逃げ出すことに成功した。腕のブレードを引っ込めて、廊下に広がる炎を眺める。
影夜は勝ち誇っていた。原因は……この爆発にある。
「(これほどの爆発、きっとあの男も済まないでしょう。私の速さを舐めていましたね)」
「お前、俺の頑丈さを舐めていたみたいだな」
「何っ!?」
振り返ると、炎の中から鎧が現れた。腕以外を戻した護の目付きは、鋭いものだった。影夜は、何故かその場から動けない。
「やれやれだ。勢いでやったものの、ここまで凄いとは思わなかったぜ」
「それが、あなたの能力ですか……」
「まぁな。さて、これでお前にトドメを――――」
「そこまでよ」
幼いながらも凛とした声が聞こえた。見ると、そこには蝙蝠の翼を生やした少女がいた。近くには咲夜もいる。
「お嬢様! 姉さん!」
「影夜、護との戦闘、ご苦労だったわ。貴方の実力は健在ね」
「恐縮です」
「さて、と。私の名はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主であり、見ての通り吸血鬼よ」
「………………」
「聞きたいことは分かるわ。何故咲夜たちが貴方の来訪を知っていて、影夜だけが知らなかったのか。そうでしょう?」
「お、お嬢様はご存知だったのですか!? それに姉さんも!?」
「ごめんね影夜。実は貴方以外みんな知っていたの」
「姉さん……どうして?」
「詳しいことはちゃんと話すわ。でもその前に……」
レミリアが廊下のほうに目をやる。それを見た護と影夜は、顔を青くした。
「廊下の掃除、貴方たち二人だけでやりなさい」
「「……はい」」
二人はガックリと肩を落とす。その光景に、咲夜は苦笑いしていたのだった。