魔法の森。とても薄暗く、キノコの胞子によって視界が悪くなっている森である。
そんな薄暗い森の中に、二人の女性がいた。一人は黄色いロングヘアーが目を引くかもしれないが、何より胸がデカイ。もう一人は深緑色のボブカットで、こちらの胸は控えめだ。決して貧乳ではない。
「そっちの準備はどう?」
「大丈夫。みんな様々なところに巣を作ってくれたから」
「そう。こっちも上々よ」
黄色髪の女性が手を上げると、巨大蜂ランゴスタと、巨大な羽虫ブナハブラが近寄ってきた。
一方で緑髪の方には、足元に蟻のような生き物やカブトムシのようなものが寄ってきた。これらはそれぞれ、とある世界ではオルタロス、カンタロスと呼ばれている。
「あら? 貴方が使役しているアルセルタスはどうしたのかしら?」
「あの子は狩りの最中。多分、適当に動物でも食べてると思う」
緑髪の女は肩を竦めて答える。黄色髪の女性は「そう」とだけ言うと、顔を上げる。木々の隙間から空が見えた。
彼女達はある者から命令を受け、それを果たす為にある準備をしていたのだ。
「しばらくしたら、みんな暴れられるわね」
「一思いに空を飛べる……。まるで宴だね」
「では、始めましょうか?」
「勿論!」
いま、一つの脅威が動き出そうとしていた……。
早苗と護は妖怪の山を散策していた。最近、「巨大な虫が人を襲う」という情報があったからだ。人間だけでなく、天狗も襲われたという。敵に回すと面倒な事になると言われるほど強い天狗ですら、被害を受けたのだ。これはただ事ではない。
「巨大な虫、か……。想像したくもないな」
「芋虫みたいなものだったら、全力で逃げます!」
「おいおい。俺だってお断りだぞ」
そんな事を言いつつ、木から降りる護。早苗は空を飛んで見ていたが、やがて地面に足をつける。
「さて、一旦戻るか?」
「そうですね。蜂みたいなものが沢山飛んでいますし、準備を整えてから行きましょう」
「丁度、霖之助さんに作ってもらったのもあるしな。それも使ってみるか」
二人は警戒しながら神社へ戻ろうとしていた。その時だった。
突然、ガサガサッ!と茂みが揺れる。
「「っ!?」」
一瞬の間の後、巨大な虫が護たちへ襲い掛かった!
「おおっと!? いきなりのお出ましかよ!」
「凄く……大きいです」
「言ってる場合か! 逃げるぞ!」
その虫は、人よりも大きいカブトムシのような生き物だった。鎌のような橙色の爪、顔を覆うかのような巨大な角、そして巨大な体を支える四本の細い足。
その名は、アルセルタス。徹甲虫とも呼ばれるモンスターである。アルセルタスは爪を上げて、相手へ威嚇する。
一方護と早苗は、大急ぎで逃げ出した。準備も整っていないうちに現れた巨大虫。むやみに戦うよりは逃げたほうがいい。そう考えたからだ。
だが、アルセルタスは二人を獲物と見たのか、羽音を響かせて追いかけてきた。もし巨大な角で刺されたら……。護は背筋が寒くなった。
「護さん、前!」
護が前へ視線を戻すと、目の前には巨大な木がある。大急ぎで横へ飛び込む。
それと同時に、アルセルタスはそのまま突っ込んできた。角はその木の幹を貫く。
「大丈夫ですか!?」
「なんとかな。それより……」
大木を見ると、アルセルタスが角を引き抜こうと四苦八苦していた。その間抜けな姿に声が出ない二人。
「これって、もしかしてチャンス?」
「に、逃げましょう!」
その隙に、さらに早く走る二人。アルセルタスが幹から角を抜いたころには、既に遠くへと逃げ出していた。獲物を逃してしまったアルセルタスは、少し残念そうに空を飛んだ。
守矢神社、護の部屋。そこで護はある物を磨いていた。
それは幻想郷の魔法使い、霧雨魔理沙の持つ八卦炉と形は同じだが、彼女が持つ物は白黒なのに対して、護が磨いているものは茶色と白だ。
これは、香霖堂と言う店の店主、森近霖之助が作った『八卦炉試作タイプ』である。魔理沙のために作っていた物だったが、性能上問題があったために店の倉庫で眠っていたのだ。
ならば修理すれば使えるのでは無いかという護の提案によって作られたのが、この『八卦炉・試』である。太陽の光を浴びせて熱を蓄え、護の中にある僅かな霊力を注ぐ事によって巨大な熱線を放てるのだ。
護はこの技を、魔理沙のマスタースパークに習って、『マスターファイアー』と名付けた。シンプル過ぎる気がするが気にしない。
「よし。熱は十分に蓄えられてる。弾幕は撃てないが、能力を使って戦おう。あんな敵が人里に来たら……まずい」
だが、早苗ですら驚いてしまうということは、今まであんな生き物は居なかったという事だ。どう対策すれば良いのだろうか?
「影夜とアイツに、協力を呼びかけてみるか……」
彼は、二人の仲間にも助けを求めようと決めた。一人は、前に戦った相手である十六夜影夜。そしてもう一人は……ずっと前に戦った、赤髪の男だった。