白斗と魔理沙は、風が吹き荒れる森の中を進んでいた。白斗は魔理沙の手をしっかりと握って、吹き飛ばされないようにしている。
魔理沙は、帽子が飛ばされないように片手で抑えながら白斗の方を見た。彼の目は、今まで見てきた口調が乱暴ながらも優しい目ではなく、獲物を狩る虎のような目つきをしていた。その迫力に少し驚きつつも、勇気を出してある事を聞いてみた。
「なぁ、白斗?」
「ん? 何だ?」
「白斗は、外の世界にいた頃何をしていたんだ?」
白斗の足が止まる。虎のような目に僅かな迷いが生まれ、少しばかり人間さを感じさせた。
白斗は迷っていた。話すべきだろうか。自分が外でやってきたことを。今まで、ずっと他人に迷惑をかけるようなことばかりしてきた事を……。
しばらく迷っているうちに、ふと、あの悪友の言葉を思い出した。
『話したくても話さないんだったら、自分が悶々とするだけだと思う』
自分よりも背が少し小さいくせに、妙な部分で自分より強かった悪友、護。彼の言葉が、今の迷いを打ち消してくれた。
白斗は息を少しだけ吐くと、魔理沙に過去を打ち明けようとした。
「俺は―――――」
「白斗、後ろだ!」
いきなりの事で驚きながらも後ろを振り返ると、紫の髪で目を隠した男がナイフを振りかぶっていた。
魔理沙は思わず目を瞑った。どう考えても、血が噴出する光景しか思い浮かばなかったからだ。
しかし、一向に白斗の悲鳴が聞こえてこない。むしろ、目を瞑る直前に何かが砕けるような音が聞こえた気がする。恐る恐る目を開けると、そこには驚くような光景があった。
「なっ……!」
「おいおい、ナイフなんざ振り回してたら危ねえじゃねぇか」
白斗の腕が変わっていた。爪は鋭くなり、腕が鱗で覆われている。よく見ると、白斗の頬にも鱗があった。
「白斗、お前のその腕……」
「そうさ。これが原因で、俺は蔑まれてきた。見ての通り、化け物だろ?」
「貴様、その腕はティガレックスか!」
紫髪の男は驚きながら、睨みつける。どうやら白斗の能力で男のナイフを砕いたようだ。
「そういうお前も、かなりヤバイ能力を持ってるんじゃないか? 刃が紫色になってたぞ。もしかして、毒か何かを使ってるんじゃないか?」
「ふっ。俺の名はポイズン。もっともこれは偽りの名だが、名前の通り毒を使う。貴様が砕いたナイフは、俺が抽出した毒を結晶化させたものだ」
「毒を結晶化かよ。危ねえな……」
魔理沙は未だに信じられなかった。白斗も能力者だとは思わなかったからだ。もしかしたら、白斗が護と仲が良かったのも、能力ゆえに蔑まれてきたという共通点があったかもしれない。もっとも、それだけではあそこまで仲が良くなるわけではないだろうが。
再び前へ視線を戻すと、ポイズンが密かに、また毒を抽出してナイフを作ろうとしていた。
「白斗、またナイフが作られてるぞ!」
「オラァッ!」
「クソッ、そう易々と受けるか!」
白斗はポイズンからナイフを叩き落とそうとする。しかし、後ろへ飛び退いて再びナイフを作り上げた。そこから木へと飛び移り、飛び掛ってきた。
しかしポイズンは気付いていなかった。白斗とは違う場所から、魔理沙がミニ八卦炉を構えていたことを。魔理沙は静かに、その技の名を呟く。
「マスタースパーク」
「ん? ……ガアアァァァ!?」
「うおっ!? なんて太いレーザーだよ!?」
「私の十八番だぜ、白斗。さっきの急襲、私も巻き込まれていたかもしれないんだ。思う存分やり返させてもらうぜ!」
「舐めるなよ、人間風情がぁ!」
「「っ!」」
土煙の中からポイズンが突っ込んでくる。狙いは、マスパを放った魔理沙だ。放たれる殺気によって動けない魔理沙。
そこへ白斗は、魔理沙に大声で叫んだ。
「魔理沙、耳を塞げ!」
魔理沙が耳を塞いだ瞬間、体がビリビリと震える。音量は抑えられてるものの、確かに聞こえた。獣とは比べ物にならないくらいの、大轟音を。
それだけではない。耳を塞いでなかったポイズンは、白斗の叫び声を聞いた瞬間吹き飛んだ。ナイフも砕かれ、柄の部分は落としてしまった。植物が生い茂る森の中で探すのは困難だろう。
「グッ……ハッ……」
「おー、こいつぁ凄いな。全力でやったらここまでなのか。さて、愛用のナイフは無くなったぜ? どうするつもりだ?」
「……ふふふっ。俺の得物はナイフだけではない。このような応用もできるのだ。『デス・レイン』!」
ポイズンは、身体を軸に回転しながら指先から毒液を放つ。雨のように降り注ぐ毒によって辺りの植物が枯れていく。そして、その内の一滴が白斗に当たってしまった。
「ガッ!? ゲホッゲホッ! うぅぅ……」
「白斗!」
「安心しろ。すぐには死なない毒だ。じっくりと苦しみながら死んで行け。さて……次の標的はお前だ、女ぁ!」
「やっべ!」
本当なら箒を使って逃げるべきだが、あいにくと風が強いため、箒は持ってきていない。しかし、このくらいならば弾幕ごっこの方がもっと避けづらい。なにせ後ろから光弾が来ることもあるのだから。
魔理沙は毒液をしゃがみながら、ジャンプしながら避ける。そしてスペルカード名を唱えようとする。
「『スターダスト――――」
「させるかぁっ!」
その瞬間、魔理沙の目の前が白くなる。実は、ポイズンはあるモンスターが人間に化けている姿なのだ。その名は、ゲリョス。毒怪鳥とも呼ばれるモンスターで、名前の通り毒液を吐いたり撒き散らしたりするモンスターだ。
その中でも厄介なのは、頭のトサカを使った閃光だ。魔理沙が受けた攻撃はこれである。もっとも、人間の姿になっているポイズンの場合、指に力を込めて指パッチンをしたのだが。
「ぐっ、ううっ。目がぁ……目がぁ…………!」
「貴様には手痛い一撃を受けたからな。その数倍の苦しみを与えてやろう」
ポイズンはニヤニヤとした笑みを浮かべながら毒をゆっくりと作っていく。きっと今までよりも濃い物を作っているのだろう。魔理沙は未だに目が見えないが、自分に危機が迫っている事は何となく分かった。
「(白斗……)」
「さらばだ、女。溶かされながら死んでいけ」
「クソっ……!」
魔理沙は悔しくて歯を食いしばる。しかし、突然声が聞こえた。
「誰がやらせるかよ、ボケがぁぁぁぁ!!」
「なっ、貴様なぜ……グアアアア!?」
「な、何が起きたんだ? その声、白斗か?」
ようやく見えるようになってきた目で前を見ると、毒を受けていたはずの白斗がポイズンの顔を鋭い爪で切り裂いていた。
白斗の顔は、もはや言葉では言い表せないほど恐ろしい形相だった。口の端から血が流れてるものの、構わずに蹴りをポイズンの腹に打ち込む。
魔理沙は今度こそスペルカードを唱える。
「白斗! 今からスペルカードを唱える。だから避けろ!」
「あいよ!」
「ぐっ、うぅぅぅ…………ハッ!」
「『スターダストレヴァリエ』!」
赤、青、緑と色鮮やかな光弾がポイズンを狙う。今で弾幕ごっこを知らなかったポイズンは、ただ呆然とするしかなかった。そのまま光に飲み込まれていった。
決まったと喜ぶ魔理沙。しかし、白斗はまだ前を睨み続けてる。そして……
「よくもやってくれたな、人間ごときが!」
「なっ!? まだ動けるのかよ!?」
「ここからは俺の出番だ。魔理沙、少し耳を塞いでな」
「ま、またアレか? 分かったぜ」
「また叫ぶ気か? もう受けないぞ!」
叫び声で吹き飛ばされるなら、遠くから攻撃すればいい。そう思ったポイズンは、遠くへ離れて毒液を発射する。
「今度はこっちを全力でやるぜ! ゴアアアアアアアアアア!!」
その瞬間、辺りに電気の壁のような物が発生し、毒液を蒸発させてしまった。これには魔理沙も驚くしかない。
「えっ、なんでそんな事が出来るんだよ!?」
「俺の能力の一種なのか、こうやって辺りに電気を発生させる事もできる。これで何人のチンピラ共が黒コゲになったことやら……」
そう言う白斗の目は、どこか悲しげだった。きっと、さっき話そうとしたことはとても勇気がいるものだったかもしれない。だけど魔理沙は、そんな彼に対して恐怖の感情は起こらなかった。
「何だその力は……知らない! 俺は知らないぞ! ティガレックスは雷を受け付けないんだ!」
「んなこたぁ知るかよ。常識だと思っていたものが覆される。それは……万国共通だと思うぜ?」
白斗は小石を拾い上げる。そして、腰が引けているポイズンに向かって思いっきり投げた。
「馬鹿な! この俺が負けるなんて、ありえな―――――」
そこに、一輪の赤い花が咲いた。
戦いが終わり、白斗はずっと立っていた。その茶髪は雨に濡れてしまっている。
「白斗。さっきまで毒になっていたのに、何で動けていたんだ?」
「あ? 近くにあった草をむしって食ったんだよ。魔理沙の実験に付き合ってたおかげで、その草が解毒作用を持つことはすぐわかった」
「そ、そうだったのか。ところで、あの能力って……」
「見たろ? 俺の腕が化け物になるのを。これのせいで、俺は周りから避けられた。唯一俺と親しくしてくれたのは、護だけだった」
白斗の顔は寂しげだ。きっと、彼は孤独を恐れているのだろう。
「私は、怖くなかったぜ」
「え?」
「化け物って言うのは、心まで冷酷になってしまった奴のことだ。白斗が優しいのは、私は良く知ってる。白斗……お前は化け物じゃないんだぜ?」
「…………初めてだよ。護以外にそういうことを言われたのは」
「さぁ、早く行こうぜ! とっとと異変を終わらせるんだ!」
「ははっ。そうだな!」
二人は笑うと、さらに奥へと進んでいった。その時、白斗は静かに呟いた。
「まさか、護と同じことを言われるなんて思わなかったぜ。魔理沙……」