2017年11月26日 大規模編集
過去話:早苗と護の出会い
あれは、俺が中学生だった頃の話だ。俺の両親は転勤族で、各地を転々としていた。あの時は長野にやって来たんだ。
「今日から一緒に勉強する事になった生徒だ。自己紹介頼むぞー」
「……白石護」
「えっと、それだけか?」
「……あぁ」
俺は、この時から異常な力のせいで気味悪がられ、俺の性格は少し歪んでいた。転校した時も名前ぐらいしか紹介しなかった為、周りから蔑むような視線を受けたが気にしなかった。
その日は、結局放課後まで誰も話しかけてこなかった。休み時間に「アイツ、根暗な性格だよな」とか「同じクラスとか最悪だわ」っていう声が聞こえた。コソコソ言わずに堂々と言えよ、鬱陶しい。
誰も居なくなってから俺は教室を出た。みんなは部活に行ってるみたいで、野球部の掛け声や吹奏楽部の楽器の音が聞こえる。
すると、廊下に設けられてる水道で髪を洗っている女子がいた。その時に見てしまった。
髪を伝って流れる水が、黒く染まっていたのを。
「おい」
「ひゃわぁっ!? な、なんでしょうか……?」
「何やってんだ」
「えっと、これは……」
「…………」
「!?!?!?!?(うわぁ! なんで近づいてくるんですかぁ!?)」
「……墨汁の匂いか」
「え?」
「とりあえず、墨汁を落とせよ。俺は墨の匂いが嫌いなんだ」
「は、はい……」
女子は、さっきよりも荒い手つきで墨汁を落とし始めた。墨汁が落ちるとそこには、綺麗な緑髪をした女子がいた。
「へ、変ですよね。他の子はみんな黒髪とか茶髪なのに私だけ緑だなんて」
「そんな事ねぇよ。むしろ綺麗な髪じゃん。勿体無ぇよ、変な髪だと言うのは」
すると、下校を告げるチャイムが鳴った。
「おっと、そろそろ帰るかな。それじゃあな」
「あの!」
「ん? あぁ悪い。俺の名前は白石護、3年B組だ」
簡単に名前とクラスを告げて、俺は昇降口まで歩いて行った。
「あの人が、転校してきた……」
数日後、みんなからの視線を受けながらの休み時間だ。次の時間は別教室での授業なので、その教室へ歩いていたのだが……。
「迷ったな、こりゃあ」
校舎の構造になれていないため、すぐに迷子になった。しばらく廊下をうろついてると……
『キャハハハハ!この子、マジ泣きしてやんの!』
『こんな校則違反するような子にはお仕置きよね~!』
「苛めか……。本当に腹が立つ」
俺は、自分達と違うという身勝手な理由で個人を陥れるのは嫌いだ。友達だと思っていたのに裏切られた……。憎たらしいあいつの声が聞こえる。
『俺は……テメェなんかのような化け物とは友達なんかじゃねえ!』
トラックにはねられたのにピンピンしていた俺。あの時、無意識に鎧化してしまっていた。俺の姿を見たあいつは、怯えながら俺から離れていき、挙句の果てには「白石護は化け物だ」という噂を広げやがった。
「……イライラするな」
気付けば、俺はイラついた雰囲気をMAXにしながら声のするほうへ向かう。そこには2、3人の女子が、一人の生徒を囲んでいた。
「……!」
囲まれてる生徒は数日前にであった子で……髪の毛に墨汁をかけられていた。周りの生徒は、止めるどころか無視したり、笑って見ている。
……俺の中の何かが切れた。
ガラガラガラ、ドン!!!
「何やってんだ、テメェらはぁ!!!!!!」
『ゲッ! あの人、3年生じゃん!』
『やべぇよ……。どうすんだよこれ……』
「そこの女子生徒……。この子に何をした?」
「そ、それは……緑髪に染めてたので、校則違反だと……」
「それが墨汁をかけることに繋がるのか? あぁ? 言っておくが、こいつの緑髪が地毛だということを俺は知っている。校則違反ではないはずだ」
2年生は、歯をガチガチと鳴らしながら震えている。そこへ、授業を担当する教師が入ってきた。
「すいません、遅くなりました……って何ですかこれは!? 護さん、説明してくれますか!?」
「良いでしょう、じゃあ墨汁掛けられてる子と、囲んでいる生徒もご一緒に」
「分かりました。東風谷、竹下、山中、錦。指導室に来なさい」
その後、緊急の集まりが開かれた。生徒会や2年生担当の教師たちは、知らないところで苛めが起きていた事にショックを隠せていなかった。虐めていた生徒達は2ヶ月に及ぶ停学処分になったそうだ。と言うのも、いじめっ子の保護者はかなりのお偉いさんらしく、面倒事にしたくなかったのだろう。
「あの、ありがとうございました」
「良いって。あんな奴らを見てると、黙っていられなくなるからな」
「私、東風谷早苗といいます!良かったら、私の家は神社なのでぜひ来てください!」
「あぁ、約束だ」
しかし、その約束は叶わなかった。
なぜなら……親の転勤が、また決まったからだ。
旅立ちの日、もうそろそろ出発時間だ。
そこへあの子が……早苗が走ってくるのが見えた。
「お見送りに来ました!」
「ごめんな……。結局、約束を守れなかった……」
「大丈夫です!また会えるって、信じていますから」
にっこりと微笑むが、僅かな寂しさも混じっている。親の方から、出発するぞと急かされた。
「早苗、約束だ! 絶対にまた会いに来てやる! その時まで俺のこと……忘れないでくれよ!」
「…………はい!」
バックミラーに写った早苗の姿は、すぐに小さくなった。段々と、視界がぼやけてくる。
「ぐっ……うぅっ……ぐすっ……」
無愛想な化け物にも友ができたという喜びと別れの悲しみに……涙を流さないわけにはいかなかった。