ディグルと戦い終わった護たちは、さらに森の奥へと進んでいた。進めば進むほど風が強くなり、歩く事すらままならない。
やがて、通信札から神奈子の声が聞こえてきた。
《ここから先に、強い力を感じる。どうやら自ら手を下そうと、地上に降りたようだ》
「嵐を起こしている張本人が、この先にいるんですね?」
《そうだ。これだけ大規模に気候を操れるなど、神に近いレベルの者だ。気をつけてくれ》
「分かりました。……みんな、聞いたか?」
「神のレベルかよ……」
「大丈夫だって! この4人で止めてやれば勝てるはずだぜ!」
「魔理沙さんの言うとおりです! それに、霊夢さんも加わってくれれば5人になれます!」
「お前ら……。よっしゃ! やってやるか!」
「みんな、そろそろだ! 凄い気迫が伝わってくるぜ……!」
奥からひしひしと、言葉に出来ない「何か」が伝わってきた。きっとこの奥に異変の黒幕がいるのだろう。
すると、何か爆発するような音が聞こえてきた。早苗と魔理沙は知っている。この音は、弾幕ごっこで弾が互いにぶつかると爆発する音だ。
「もしかして、誰かがすでに戦っているのか!?」
「急ぐぞ!」
奥に入ると、そこは小高い丘だった。そこでは着物を着た白髪の男が、扇子を片手に霊夢と戦っていた。霊夢が封魔針を投げるが、男が扇子を振るった瞬間、針は勢いを失って落ちてしまった。さらに扇子が振るわれると、上空から水の弾丸が霊夢に降りかかった。
「霊夢さん!」
「霊夢っ!」
早苗と魔理沙は光弾を発射して、水の弾丸を相殺する。護と白斗は、目の前でふわふわと浮いている男を睨んだ。
「ほう? この男二人は、人間でありながらもモンスターの力を感じるな。何者だ?」
「誰が敵に能力を教えるかよ!」
「テメェこそ、何者だ!」
早苗と魔理沙、さらに霊夢も睨みつける。男は手を広げて大きく笑った。
「我が名はアマツマガツチ! 与えられし名はフウジン! この大嵐を司る者なり!」
いま、嵐をしずめる為の戦いが始まった……!
フウジンは身体を低く構えると、自分を取り巻く風を利用して護との距離を詰めた。護は瞬時に鎧化して、攻撃を防ごうとする。
「その甲殻は……。成る程、人間でありながらモンスターの力を受け入れているとはな」
「随分と余裕じゃねえか。ドラァッ!」
詰め寄られて少し焦った護だが、すぐに木を取り直してフウジンの顔を殴ろうとする。しかし……
「甘いな」
「え?」
「己の体を見よ」
護が自分の腹を見ると、フウジンの拳がめり込んでいた。鎧化で生じるグラビモスの甲殻はひび割れていて、気付けば地面を転がっていた。
「ぐああああっ!」
「グラビモスは水に弱い。我の拳にかかれば、造作もない事よ」
「護! この野郎、これでもくらっときやがれぇ!」
白斗が石ころを持って、ティガレックスの腕力で投げる。最初は勢いよく飛んでいたそれは、やがてさっきの霊夢のように勢いを失って、フウジンの前で落ちた。
「くっ! かなり勢いよく投げたつもりだぞ!?」
「我が風の前では、いかなる物も受け付けぬ。飛べ」
「白斗っ! 逃げろ!」
「あ? ……うぉわぁぁぁぁぁ!?」
フウジンはいきなり向きを変えて、白斗に突進してきたのだ。体当たりによって身体が浮かび、フウジンの操る風にって高く飛ばされてしまった。
かなり高く飛ばされた白斗は、目の前にどんどん地面が近づいてくるのが分かった。白斗は冷や汗を流しながらも、能力を発動して大きく振りかぶる。
「ドォォラアッ!!」
「ぬうっ!?」
「やっと体勢を崩したな。俺の拳を舐めんなよ!」
白斗は拳を地面に叩きつける事で、叩きつけられる衝撃を和らげた。その衝撃は凄まじく、フウジンはいきなりの揺れに手を地面につける。
その隙を狙って、護が拳を鎧化して殴った。フウジンは防ぐ術も無く地面を転がり、白い着物を汚していく。
それでも立ち上がったフウジンは、神々しい叫びを上げた。
「これが私の力だ!!」
早苗と魔理沙は、ボロボロになっている霊夢に駆け寄った。
「霊夢! しっかりしろ!」
「ぐっ、情けないところを見られちゃったわね……。でも、ありがとう」
「霊夢さん。あの男は何者ですか?」
「さっきも言ってたでしょ。あの男こそが、今回の異変の黒幕よ。しっかし、ビックリしたわ……」
「何があったんです?」
霊夢が苦虫を噛み潰したような顔で、衝撃の言葉を口にする。
「いきなり、龍の姿から人間になったのよ。目の前で」
「はあ? 人間になるどころか、なったのが龍?」
「信じられないかもしれないけど、目の前のものを見て信じられない?」
魔理沙が辺りを見回すと、空には暗雲が立ち込め、雷は轟き、強い風によって木々が大きく揺れていた。もし彼女が言っている事が本当ならば、人間になっても龍の技を使えているということになる。
それはそれで、とても規格外だった。様々な異変の黒幕よりも厄介な相手が、今は白斗と護に立ちはだかっている。
一方早苗は、倒れている別の存在に気付き、急いで駆け寄った。
「リオさん! 大丈夫ですか!?」
「うぅっ……。この声は……護と一緒にいる巫女か?」
「早苗です! しっかりしてください!」
リオの状態はあまりにも酷かった。服はボロボロで、髪よりも赤い血が肌の色を変えてしまっている。背中にある翼もボロボロで、とても飛べたものではない。さらに、彼の口からは血が垂れていて、顔は青ざめている。
「俺のようなモンスターには、必ず弱点が存在する。俺は水の攻撃が嫌いなのだが……今回の相手は、相性が悪過ぎた。護の能力も、水の攻撃に対しては大ダメージを受ける……」
「これ以上喋ったら危険です! 血が止まらなくなります!」
「構わん……。どっちにしろ、俺は血を流しすぎた。護に伝えろ。奴は炎の攻撃に弱い。俺の炎攻撃を嫌っていたからな・・・」
「れ、霊夢さん! 治癒の札を! このままではリオさんが!」
「チッ。すまねぇな霊夢、レイア…………」
リオは暗雲に向かって手を伸ばし、そのまま意識を手放した。