意識を失ったあと、リオは大きな川の前に居た。
「ここは?」
「気が付いたかい?」
振り返ると、大きな鎌を持った女性が居た。彼女は時々リオの店に来るので知っている。
「小野塚小町……。という事は、俺は死んだのか?」
「惜しいね。アンタは今、生と死の間を彷徨ってここに居る。ここは三途の川の、生者の岸辺さ」
小町曰く、生者の岸辺から向こう側に渡ってしまうと、死者の岸辺に行ってしまい、その先にいる閻魔によって審判を下されるという。いわば死者になってしまうのだそうだ。
小町の話を聞いていたが、ふと、彼女の後ろにある岩が気になった。そこから緑色の髪が少しだけ見えている。
「なあ、小町。後ろにいるのは誰だ?」
「あぁ、この子かい? どうしてもアンタに会いたいっていうからね。……ほら、出てきな」
すると、岩陰から女性がそっと出てきた。その女性を見て、リオは驚く。
「リオ……」
「っ! お前……レイアか?」
「うん!」
「レイア…………レイアぁぁぁぁ!」
リオは、嬉しさのあまり涙を流してレイアを抱きしめる。彼女の名前はリオレイア。リオが幻想入りする前、彼とレイアは夫婦だったのだ。
しかし、密猟者の手によって、大事な妻と生まれるはずだった子供を失ってしまった。まさか、こうして再会できるとは思ってもいなかったのだ。
すると、レイアよりも濃い緑色の髪をした少女が現れた。
「感動の再会は、いかがでしたか?」
「……誰だ?」
「申し遅れました。私の名前は四季映姫・ヤマザナドゥ。幻想郷などで閻魔をやっております」
「アンタに話があるってことで、ここに来たんだ」
「俺に?」
「彼女の貴方に対する愛は、非常に深いものです。本当は生き返らせてあげたいのですが、そう簡単に死者を生き返らせるわけにはいきません。そのかわり、私は別の方法を考えました」
「私が、リオの武器になろうと思うの」
「なっ!?」
「リオ。さっきまで戦っていたモンスターは、リオの能力だけでは勝てない。仲間と協力するのも大切だけど、リオも強くならなくちゃ勝てないと思うの」
「だからって……」
「私はリオと一緒に居たいの。その為にはこうするしかないの。お願い、リオ!!」
「ぐぬぬぬ……」
目を閉じてしばらく唸った後、リオはゆっくりと目を開く。そして映姫に頭を下げた。
「……お願いします」
「よろしいのですね?」
「はい」
「分かりました。すぐに転生の手続きをします。貴方が目覚める頃には、レイアは生まれ変わってるでしょう。ご健闘を祈ります」
「さあ、そろそろアンタの魂は元の肉体に引っ張られる頃だ。早く霊夢たちに加勢してやりな!」
段々と目の前がぼやけていく。するとレイアが近寄り……
「んっ……」
「っ!?」
「また、会おうね♪」
リオにキスをした。最後の言葉を聞いた瞬間、目の前は暗くなった。
護と白斗の目の前には、巨大な竜巻があった。それは、ディグルのように獲物を狙うような動く竜巻ではない。動きはしないものの、二人の足は徐々に竜巻へと向かっていく。
「ぐっ! 吸い込まれる!」
「と、とにかく風に逆らって走れ! でないと巻き込まれるぞ!」
しかし、吸い込まれていたのは護と白斗だけではない。霊夢、魔理沙、早苗、リオまで吸い込まれていた。
「リオさん! リオさん! 目を開けてください!」
「早苗、早く逃げるぞ! あの竜巻はヤバイ!」
「リオ! いい加減目を覚ましなさいよ。空の王者なんでしょう!?」
必死に呼びかける早苗を、魔理沙は引き離す。それとはすれ違いに、霊夢がリオを起こそうとする。しかし、徐々にその吸引力は強くなっていき、逃げ切るのも時間の問題だ。
霊夢は、札を自分の足元にばら撒いて、あえて自分の足を拘束した。そしてリオの身体に覆いかぶさる。
「(これで大丈夫……)」
しかし、現実は非情で、拘束の札がどんどん剥がれていく。やがてそれらが全て剥がれると、霊夢は尻餅をついた。それと同時にリオの身体も竜巻の中へと消えていった。
「そ、そんな……」
「う、嘘だろ…………」
「リオぉ!」
全員が絶望する。あの竜巻によって、リオはボロ雑巾のようにズタズタにされるだろう。そうなって助かる確率は、ほぼゼロに近い。
もうリオは死んだ。そう思ったときだった。
「グアアァァァッ!?」
フウジンの声が聞こえた。竜巻は止まり、着物はバッサリと斬られている。そして、その切り口は燃えていた。
そして、苦しむフウジンの後ろには、男がいた。その男を護達は知っている。モンスターでありながら人間と共に生きる事を決めた男……火渡リオだ。
「リオレウスッ! 貴様ぁ!」
「火渡リオ、ここに復活。行くぞ、レイア!」
《うんっ!》
リオは、レイアが剣の姿になった
「無駄だ。それも我が風で……ぬあぁぁっ!?」
「リオにばかり美味しいとこ取りされてたまるかよ!」
「ようやく命中しやがったな。どうだ? 電気を纏わせた石ころの威力は?」
フウジンが振り返ると、鎧化した護と、石ころを片手でポンポンと軽く投げている白斗がいた。護は熱線を、白斗は石ころに雷属性を付加させて投げたようだ。
すると、さらに背後から衝撃が来た。さっき振り返ったせいでリオの光弾が当たったのだ。よろめいた瞬間に、リオが手の平に炎の球を作って近寄る。
「燃えろ」
「がっ、ギヤァァァァァァァ!!」
炎で顔が焼け爛れ、ぬかるんだ地面を転がるフウジン。そして立ち直ると、彼は完全に怒っていた。
「オ……オォ…………ウオオオォォォォォ!」
「キャッ!?」
「か、風が強くなった!?」
「もう許さんぞ、人間ども……。我の全ての力を持って、切り刻んでくれる!」
フウジンは飛ぶ。完全に姿が見えなくなったところで、護たちは不審に思った。
「どこだ?」
「逃げたわけじゃないよな?」
「これは……上からよっ!」
『『っ!!』』
上を見た瞬間、圧縮された水が護たちを襲った。大急ぎでジャンプをして避けると、さっきまでいた場所が、深く抉れていた。嫌な汗が背中を流れる。
さらに、さっきは護たちから見て縦の方向に発射されたのが、今度は横から迫ってきた。
いち早く危険を察知した男3人は、それぞれ早苗、霊夢、魔理沙を抱きかかえて後ろへ飛び退いた。
「フウジンの野郎、上から俺たちを狙ってやがるな?」
「大方、俺たちのスタミナ切れを狙ってるんだろう」
「どうするのよ。あいつを倒さない限り、この嵐は治まらない。私達がやらないと幻想郷が危機を迎えるわよ」
全員が悩む。護と白斗は、例え能力を使っても飛ぶことは難しい。早苗は強風の中を飛ぶのは無理だ。魔理沙は箒を持ってきていないし、霊夢は身体がボロボロだ。
風の音が支配する中、その静寂を破ったのはリオだった。
「俺が行く」
「なっ!? 正気か、リオ!」
「この嵐を飛ぶことなんて無茶です!」
「なに、俺は元の世界では『空の王者』と呼ばれてたんだ。大雨を飛んだこともある」
「……しょうがない。俺は能力で熱線を飛ばしてみる。上手く落とせよ?」
「じゃあ、私も手伝うぜ!」
「では私は、二人のサポートをさせていただきますね!」
「おいおい。じゃあ俺はあれか? 大声で叩き落すってか?」
皆が、それぞれ自分が何をやるかを言っていく。そんな中霊夢は、自分だけ何も出来ないような状況に苛立っていた。どうすれば良いか考えるうちに、ある考えが浮かぶ。
「リオ。私も行くわ」
「なっ!?」
「霊夢さん、そんなボロボロでどうするんですか!」
「確かに空を飛ぶのは難しいわ。でもね、私は博麗の巫女よ。異変解決が仕事。何も出来ないっていうのは、我慢できないの!」
リオは、霊夢の目を見つめる。そこには無謀というものは無く、勇気があった。リオは静かに頷く。
「分かった。俺が抱きかかえて飛ぶ。お前が最大の技をブチかませ。良いな?」
「もちろんよ!」
「よし、作戦開始だ!」
リオは、霊夢を抱きかかえてひたすら上を目指して飛ぶ。顔面に雨粒が当たって痛いが、それでも彼は突き進んだ。
そして、風に乗っているフウジンのもとへ辿りついた。
「来たか。だが、すぐに叩き落してくれる!」
「……そろそろだ。霊夢、俺はとにかく避け続ける。絶対に当てろよ」
「分かったわ」
「何をゴチャゴチャ言っている! 我が嵐に飲み込まれるが良い!
フウジンは指先で水球を作ってリオへ投げる。しかし、リオはそれを容易く避けた。
リオは、ふと自分の翼の調子がいい事に気がついた。きっと三途の川から帰ってくるときに、小町か映姫が治療してくれたのだろう。ありがたい話である。
「霊夢、まだか!」
「あともうちょっと! もう少しで霊力が溜まる!」
「そこだぁっ!」
ちいさな水のレーザーが、リオの頬を掠る。霊夢の髪の毛も数本、宙に舞った。しかし飛ぶ力は衰えない。リオの血が、霊夢の手を少しだけ染める。
霊夢はさらに込める。自分の中でも最大だと思うそのスペルカードに、込める。
「ええい、ちょこまかと! これで終わらせてくれる!」
「放てるわ!」
「よし、今だ!」
フウジンが水のレーザーを発射する直前に、その名は唱えられた。
「『夢想天生』!!」
大量の札が舞い、それらが神秘的な光を放ちながらフウジンを狙い打つ。波のように襲い掛かる弾幕に、飲み込まれるしかなかった。
「ぬっ! ぐっ……ぐぬぬ……があああああああ!」
「強力な一撃によって落ちていけ」
「後は任せたわよ、みんな」
フウジンの悲鳴を聞いた護たちは、互いに頷きあう。
「ぐうううっ! だが、風を使えば……」
「やらせねぇ! ガアアアアアアアア!」
「グフゥッ!?」
風を使って浮かぼうとするフウジンに、白斗が大声を使って体制を崩した。
「魔理沙!」
「おう!」
「「くらええぇぇぇぇ!」」
さらにそこへ、護の能力による熱線と、魔理沙のマスタースパークがフウジンを襲った。
「ぐうっ! 馬鹿な! この私が落とされるなどありえん! あってたまるかぁ!」
「あり得ないことがあり得てしまう。それが此処、幻想郷だ」
「あ……あぁ…………空が……。あの空が見え……る…………」
フウジンは空へ手を伸ばしながら、地面に叩きつけられる。そしてそのまま息絶えた。
すると、さっきまで暗雲に覆われていた空が、青くなった。
「久しぶりの青空だな」
「あぁ。なんとか、神奈子さまの依頼も達成だ」
「あっ、見てください! 虹が見えますよ!」
一方リオは、美しく光る剣に語りかけた。
「……戻ってきてくれてありがとう。これからよろしくな、レイア」
《うん。よろしくね、リオ》
こうして、大嵐の異変が終わったのだった…………。