地底世界。地獄の跡地、旧地獄とも言われ、人々に忌み嫌われし妖怪たちが住んでいる。
しかし、必ずしも危険な場所ではない。
確かに土蜘蛛や橋姫が住んでいたりするが、危害を加えなければ結構いい人達だったりする。
人々から旧都と呼ばれているこの場所は、鬼達が毎日のように居酒屋でドンチャン騒ぎするため賑わっている。最近では、地上の人間たちも「あれ?実は地底も案外悪くない場所なんじゃね?」と言う者がいるくらいである。
…………話を戻そう。
そんな旧都を、星熊勇義はブラブラと歩いていた。特にすることも無く、「何か面白いことは無いかなー」と考えていた。
しばらく歩いていると、旧都から離れた場所にたどり着いた。そこは草一本すら生えていない場所で、岩が転がっているだけである。
「ん? ありゃ何だ?」
地面から何かが出ているのが見えた。勇義は気になり近付いてみる。そして、その埋まっていた物を見て驚く。
「なっ!? 人間の体じゃないか!」
見えていたのは、人間の背中の部分。勇義は急いで、自慢の怪力で岩をどかして地面を掘ると、その人間らしきものを引っこ抜いた。
見た感じは幼い少年で、白い髪をしている。一瞬老人かと思ったが、肌がシワだらけで無いことから少年と分かった。
しかし、汚れた感じからかなり長い間埋まっていたようだ。生きてる確率は低いだろう。
「こりゃあ多分死んでいるだろうね。どれ、丁寧に埋葬でもしてやるか」
埋葬してやろうと思い、少年を持ち上げようと触れた途端、勇義の表情は驚きに染まった。何故なら、その少年が僅かに動いたのだ。
「う……うぅん…………」
「あんた、生きてるのかい!? おい!しっかりしな!」
生きているのなら話は別。体を大きく揺さぶり、大声で呼びかける。
しかし少年は、呼吸をするだけで目を覚ます気配が無い。
「しょうがないねぇ。旧都まで運ぶか」
溜め息を吐いた後、勇義は少年を背負って、歩いてきた道を引き返すのだった。
「……で、その子を連れて来たわけ?」
「そういうことさ。いやー、生きてるとは思わなかった」
はっはっは!と大声で笑う勇儀を睨みつける女性の名は、水橋パルスィ。
「だからって、なんで私の家に連れてくるのよ!」
「まぁまぁ落ち着けって、パルスィ。あんたの家には治療道具とか置いてあるんだからさ」
最近のパルスィの役目は、地底に来る途中足を滑らせて落ちて怪我をした者を手当てしてやることだ。その為に、包帯や消毒液が多めに置いてあったりする。
勇義の言う事が正論なためにパルスィが唸っていると、布団で眠っていた少年が目を覚まし始めた。
「うぅ……ん?」
「全く、私は面倒事が増えて大変だというのに暢気に目なんか覚めて、妬ましいわね」
「ここ……どこ?」
「地底世界の、パルスィの家さ。アンタの名前はなんていうんだい?」
「名前? …………僕は、誰?」」
厄介な事になった。どうやら少年は記憶喪失のようだ。パルスィは頭を抱える。
すると、勇義は腕組みをしながら首を傾げた。
「地面に埋まってたことに関係があるのかねぇ?」
「埋まってた!?」
「旧都のはずれを歩いていたら、埋まってるのを見つけたんだ。言わなかったか?」
「言ってないわよ! 『コイツを手当てしてやってくれ』っていきなり言ってきたじゃない!」
「あー、そうだったか。参ったねこりゃ! あっはっは!」
そんな勇義に、パルスィは怒る気力すら湧かなかった。
一方、少年は見たことも無い二人の女性を見て……
「?」
コテンと首を傾げていた。彼から溢れる幼い雰囲気が、やけにパルスィの胸をキュンキュンさせた。実は、彼女は子供好きだったりする。
「(そんな純粋な目で私を見ないで!妬ましいから!っていうか、胸がキュンキュンしちゃうから!)」
「えっと……?」
「パルスィよ」
「え?」
「私の名前。これから、貴方はこの世界で暮らして行くかもしれないんだから、名前は覚えた方がいいでしょ?」
「あ……うん!」
満面の笑みで大きく頷いた。パルスィと仲良くなれそうだと思うと、勇義も自然と笑みが浮かんできた。
「アタシの名前は星熊勇義だ。気軽に勇義と呼びな」
「うん! 僕は……あ、名前が無いんだった」
「ナナシで良いんじゃないか?」
「ほえ?」
「名前が無い→名無し→ナナシ! どうだ、いいだろ?」
「案外シンプルね……」
「ナナシ……僕の名前! ありがとう、勇義!」
自分の名前が決まり、大喜びするナナシ。そんな純粋な笑顔に、パルスィと勇義は微笑んだ。
「で、結局ナナシをどうするわけ?」
「旧都を案内しつつ、地霊殿へ行こうと思う。その後はナナシの家探しだ」
「地霊殿?」
「この地底世界の管理人が住んでる場所さ。アンタのことを紹介しないとね」
「なるほど~」
「飯を食ってから行こうか。という訳でパルスィ、昼飯よろしく!」
「私の家で食べるつもりかい、アンタらは!!」
パルスィの家から、拳骨の音と笑い声が響いた。