「うわぁ~!」
「ここが、旧都の最大の特徴でもある大通りさ。ほとんどの奴らはここを通るんだ」
勇義はナナシを連れて地霊殿へ向かっていた。身長差もあって、親子に見えるだろう。ナナシは勇義に手を引かれながら、幻想郷とはどういう場所なのかを聞いていた。
「じゃあ、幻想郷は妖怪とか神様がいる世界ってこと?」
「いや、そればかりではないさ。ちゃんと人間とかも生活してる。まぁ、中には人間との共存を理解せずに襲い掛かるヤツもいるけど」
「そうなんだ~……ん?」
すると、上から何かが凄い勢いで落ちてきた。
それは桶だった。ナナシは首をかしげながら、中をのぞこうとする。すると……緑髪の少女が飛び出してきた。
「ばぁーーーっ!」
「うわぁぁぁぁ!?」
大きな声が聞こえたのですぐに振り返る勇義。そこには、腰を抜かしているナナシと、よくパルスィなどと遊んでいる知り合いがいた。
「なんだ、キスメじゃないか」
「やっほー、勇義」
「ナナシ、安心しな。この子はキスメ。さっき言った妖怪ってヤツだ」
「び、びっくりしたぁ~」
「あはは、見たこと無い子だったから、ちょっと悪戯しちゃった」
「こいつはナナシ。幻想郷に来たばかり……なのか?」
埋まっていたと言うことは、かなり前から幻想郷に居たことになる。だがナナシは幻想郷の事を知らない。来たばかりと言えるのだろうか?
「この世界の事は知らないから、来たばかりで良いんじゃない?」
「そうかい。んで、さとりに挨拶するためにこれから地霊殿へ行くんだ。キスメも来るかい?」
勇義の誘いに、うーんと考えるキスメ。しばらくすると、何かを思い出したかのように申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん。これから、ヤマメと遊ぶ約束をしてるんだ」
「それだったら仕方ないか。じゃあ、あたし達で行ってくるよ」
「じゃあね、キスメ」
「またね、ナナシ」
お互いに手を振って、別れようとする。すると、キスメはまた何かを思い出したように注意をしてきた。
「さとりのペットにもみくちゃにされないでね?」
そう言うと、上へシュルシュルと昇っていった。
「ペット……?」
「さとりは地霊殿にたくさんの動物を飼っている。中には妖怪も混じってるけどな」
「たまに、案内された人に悪戯するらしいからな。気をつけろよ」
「わ、分かった」
「そんな心配するなって! キスメよりも、ちょこっとヤンチャなだけだからさ」
それでも、ナナシは不安だった。そうして旧都を抜けて少し歩くと、大きな館が見えてきた。
「凄く……大きいです…………」
「このデッカイ館が地霊殿さ。開けてもらうにはペットの誰かがいればいいんだけど……お、いたいた。お燐ー!」
「にゃ~!ってことで、ここにいるよ」
「ね、猫が喋った!?」
「あ、この姿のままだったか。ほいっと!」
二つの尻尾が生えた猫はナナシの反応を見て納得すると、くるりと宙返り。その時に猫は煙に包まれ、着地した頃には人間になっていた。
「おぉ~!」
「と言うことで自己紹介。あたいは火焔猫燐。種族は火車さ」
「僕はナナシ。えっと……何者なんだろう?」
「え?種族が分からないのかい?」
「そうなんだよ。実は…………」
勇義が記憶喪失のことについて話すと、お燐は納得した顔になる。彼女はナナシに「付いて来な」と言い、地霊殿の中を案内する。ちなみに勇義は、案内をお燐に任せて帰ってしまった。
ここだけの話、お燐がペット達に悪戯をしないように命令していたので、ナナシは少し安心していた。
「本当はお空も説明したいんだけど、今は仕事中だからねぇ。さあ、ここがさとり様の部屋だよ」
どうやら話をしてる間に到着したらしい。ステンドグラスのような廊下に、一際大きな扉がある。
「言っておくけど、さとり様の能力は・・・いや、実際に見たほうが早いか。さとり様、新入りを連れてきました」
『……入りなさい』
少女の返事がすると、ゴゴゴという音を立てながら扉が開かれた。
「貴方が新入りのナナシさんですね。私は古明地さとりといいます。よろしくお願いしますね」
「あ、はい(お燐さんが言っていた、さとりさんの能力……。なんなんだろ?)」
「私の能力が気になりますか?」
「え?」
ナナシは目を丸くする。簡単な返事をしただけなのに、なぜ思っていたことが分かるのだろうか?
「私の能力は『心を読む程度の能力』なんです。だから、あなたが何を考えているのかは、お見通しなんですよ?」
さとりは自虐気味にそう言うと、少し不安になりながら、サードアイでナナシの心を読んでみた。
しかし、その心を読んだ瞬間、さとりは心の中で驚いた。
「へぇ~! 幻想郷って、そんな能力を持つ人もいるんですね!」
「(えっ、怖がらない? まさか、今言ってることは本心なの!?)」
さとりは戸惑った。今まで出会ってきた者は、ほとんどこの能力を忌み嫌ったのだ。「だったらコイツと話すのは止めよう」という考えを呼んでしまった悲しみは、今でも忘れられない。
「私の能力は、あなたの考える事を何でも分かってしまうんですよ!? ……気味悪くないのですか?」
「だって、それでさとりさんは、脅迫とかをやりましたか?」
「そんな事ありません!」
「よかった。能力を悪用してないんだったら、僕は怖がりませんよ(でも、勇義から聞いた弾幕ごっこって奴だったら、勝つのは難しいかもなぁ)」
さとりは唖然とした。戦いたくないとかではなく、勝つのは難しいと思っているのだ。そう考える者は初めてだ。思わず笑みがこぼれてしまう。
すると、黙ったままのさとりを見かねたナナシは、不安そうな顔で尋ねた。
「あれ? どうかしましたか?(何か変なこと言っちゃったかな・・・?)」
「クスッ。大丈夫ですよ。そういう風に言ってくれる方を初めて見ましたので」
「そうなんですか~。怒らせちゃったかと思いましたよ」
安心したように息を吐くナナシ。そんな彼を見てまた小さく笑い、話を進めることにした。
まず最初に、ナナシはどんな妖怪なのか聞いてみることにした。しかし……
「え?自分が何者なのか分からない?」
ナナシは記憶喪失なのでどんな妖怪なのか分からない。
見た目は人間のナナシだが、どこか不思議な力を感じたため、さとりは「妖怪の類ではないか」と思っている。
「はい。幻想郷という名前も、初めて知りました」
「しかし、土に埋まっていたとなると、まず人間ではないことは確実ですね」
「そうなんですか?」
「はい。しかし残念ながら、妖怪には様々な種族があるために、貴方が何者なのかは分かりませんが」
「あう~……」
「しかし、きっといつか思い出すでしょう。辛抱するしかありませんね。……おや、もうこんな時間ですか」
さとりは近くにあった振り子時計を見る。すでに長針は夜の時間帯を指していた。かなり長い間話し込んだのだろう。
「この時間になると、大通りが賑やかになるのです。ナナシさんも見て行かれたらどうですか?」
「そうですね。勇義に頼んで、見てみようかと思います」
「では、私はある仕事を片付けなければならないのでここでお別れです。お燐ー!」
お燐に、出口まで送ることを命令する。ナナシは礼を言うと、さとりはニッコリと笑いナナシを見送った。
「あれ?」
「どうしたんだい?」
「今、視線を感じたような……気のせいかなぁ?」
「急ぎな、ナナシ! 大通りって賑やかになると、混雑することでも有名なんだよ!」
「あ! 待ってよー!」
お燐が、祭りへ急ぐかのように走ってしまう。ナナシは慌てて、彼女の後を追いかけた。
その後ろでは、さとりと同じ、しかし青色のサードアイを持つ少女がいた。さらに、その目は閉じてしまっている。
「お姉ちゃんをあんなに楽しませる人、久々に見た気がするな~。私も久々にお姉ちゃんに会いに行こうかな~」
その少女は笑いながら、さとりのいる部屋へと向かう。しかし、途中で汗を何度も拭った。
「……地底がいつもより暑い気がするのは気のせいかなぁ?」