ナナシは、暗い世界を彷徨っていた。「ここは一体どこなのか?」という疑問が浮かぶが、それに答える者は居ない。
ただ、今の自分はひたすら何かに向かって歩いているという事しか分からなかった。
すると目の前に、鏡のようなものが現れた。何かが映っている様なので覗いて見ると、返り血を浴びた男が片手剣と思われる武器を使い、モンスターを殺している姿が映っていた。
モンスターが絶命した瞬間、鏡の表面は暗くなり、そこには武器だけが残った。そして、その武器もしばらくすると光の粒となって消えてしまった。
「……行こう」
どうやら、この先には自分が知りたい何かがあるようだ。おそらくさっきの様なシーンが何度もあるだろう。血飛沫がある映像が、延々と続くのだろうか? だが行かないと、自分が何者なのか分からないままだ。
覚悟を決めて、さらにナナシは暗闇を歩き続けた。
歩き始めて少しばかり経つと、再び鏡が現れた。映っているのは戦火に覆われた街のようだ。
一人の若い男が槍を持って、巨大な蟹に叫んでいる。その男が影に覆われると、鏡は真っ赤に染まった。赤い鏡面に白い槍だけがのこり、光となって消えていく。
ナナシは吐きたくなる気持ちを堪え、歩き始めた。
次は雨が降っている峡谷。そこにはハンマーを持った女性と、傷だらけのモンスターが相対していた。
モンスターは女性を睨みつけるが、女性は狂ったような笑みを浮かべている。そして、動くことも出来ないモンスターに向かって、武器を振り下ろした。
その瞬間に鏡は黒くなり、またハンマーだけを残して映し出している。
いつもどおり光となって消えた。
様々な映像が流れる暗闇を、ナナシは歩き続けた。そこには様々な人間が映っている。
使命の為に武器を振るう者、快楽の為に振るう者、生き残る為に振るうもの、守るために振るう者。
その人間たちがどうなったかは分からない。それに、自分が何者なのかすら分からない。それでもナナシは歩き続ける。
そして、もう限界だと思い始めた時、今までの中でも一際大きい鏡が現れた。その鏡には青銅色の鎧がポツンと映っている。
巨大鏡の周りには、小さな鏡があった。
「何だろう……?」
少しずつ近づいて、鏡に触れようとする。その瞬間、全ての鏡が光りだした。ナナシは思わず目を閉じる。
目を開けるとそこには、『たくさんのナナシ』がいた。
右腕が無い者、少女の姿をしてる者、目が前髪に隠れている者……。全てが、ナナシの姿をしていた。
やがて、自分に一番近い距離にいる『もう一人の自分』が口を開く。
《僕たちは人間のような姿をしているが、人間ではない。当然、君もね》
「分かってる。だけど、自分が何者なのかは分からなかった》
《僕たちは大昔、人間を襲うモンスターに対抗するために作られた。人間とモンスターとの戦争が始まると、僕たちは戦場にかり出される事が多くなった》
「それが、さっきまで僕が見ていた映像……」
《そう。傷付いた姿をしてる者が多いのは、その戦争で持ち主が死に、武器である僕達が壊されたからだ》
でも、と『もう一人のナナシ』が続ける。
《君は持ち主が息耐えても、誰にも見つかることなく埋まっていった。やがて幻想郷に流れ着き、君という自我が強くなった。やがて……》
「今の僕の、この身体が作られていったんでしょ?」
《中々鋭いね、君は。幻想郷で言うならば、君は付喪神という種族だ。古い道具に魂が宿った妖怪だよ》
『もう一人のナナシ』が、そっと耳打ちする。後ろにいた大勢のナナシは、嬉しそうな顔をしていた。
《君の本当の名は、エピタフイディオン。主を守る盾となり、立ちはだかる物を両断する大剣。本当の名を知った今なら、君は僕達、龍殺しの武器の力を受け取れる》
その瞬間、声が聞こえた。「やった」「真実を思い出せた」「今なら任せられる」等々……。大勢のナナシ達が、嬉しそうに踊りながら、ナナシに吸い込まれていく
《君は、大昔の武器の力を扱えるようになった。それで、幻想郷に襲い掛かるモンスター達から、みんなを守るんだ》
「ありがとう、もう一人の僕……」
《思い出してくれて、ありがとう…………本当の僕》
ナナシの視界は、真っ白になっていった。
目が覚めると、体が重い感じがすることに気がついた。まだ目覚めたばかりなのでぼんやりとしか見えないが、カイザーが勇義とさとりに攻撃しようとしてるのが分かる。
やらせはしない、今度こそ戦う!
そんなことを願った瞬間、不思議な力を感じた。体の血液が暖かくなるような不思議な感覚。暗闇で見たもう一人の自分を思い浮かべると、自分の体に青銅色の鎧が現れた。
「出来る……。この力を使ってイメージすれば、僕は戦える!」
今度は、双剣をイメージしながら両腕に力を流し込む。すると、手首から先は深緑色の刃が現れた。不思議なことに、その武器の名前が頭に出てくる。
封龍剣【真絶一門】。大昔、龍を討つために作られた双剣である。
その剣で、ナナシはカイザーに斬りかかった。その瞬間、赤と黒が混じったような稲妻が剣から流れる。
「ぬぐああぁっ!? この感じ……貴様ぁぁぁ!」
カイザーは忌々しげに睨み付ける。しかし、そんな事は知ったことではない。
「僕は今、自分の事を知った。僕は……旧都を守ってみせる!」
目の前の敵を倒すために、ナナシは前へと進みだした。