勇義とさとりは驚いていた。それもそうだろう。突然何者かがカイザーに斬りかかったと思えば、それは鎧を纏っていたナナシだったのだから。
ナナシは刃になった腕を振るって元に戻すと、二人のもとに駆け寄ってきた。カイザーが攻撃をしないのは、先ほどの斬撃がかなり効いたのだろう。
「二人とも、大丈夫?」
「大丈夫だけど、アンタ、その鎧をどこで手に入れたんだい?」
「これ、僕の能力みたい。『体を武具にする程度の能力』っていうみたいだ」
「ナナシさん。貴方から微かに妖力を感じます。貴方は妖怪ですか?」
「うん。どうやら僕は、剣に魂が宿った付喪神らしい」
話を聞いたさとりは、少し考える。付喪神というのは「神」という文字が入っているが、せいぜい魑魅魍魎(要するに雑魚)ぐらいの力しかないのだ。それなのに、ナナシからは尋常じゃないほどの力を感じる。妖力でもない、得体の知れない何か……。それがナナシから感じる。
すると、立ち直ったカイザーが拳に炎を纏わせて襲い掛かってきた。狙いはもちろん、ナナシだ。
「小僧……貴様だけは確実に殺す!」
「ナ、ナナシさん!」
「ナナシ!」
後ろから襲ってきたテオから守ろうと、勇義とさとりが動き出す。しかし、二人が動く前にナナシが動き出した。
光と共に、カイザーの拳は板のような物に防がれた。ナナシが睨みつける。
「危ないなぁ。二人に当たったらどうするんだよ?」
ナナシは、腕を大剣『エピタフイディオン』に変形させて攻撃から身を守ったのだ。突然腕が変形したのを見て、二人は状況に追いつけずにいる。
そんな二人を気にせずに、今度はナナシが黒い雷のようなものを放出しながら、カイザーに襲い掛かる。
「その剣……やはり、貴様は龍殺しの力を持っているのか!?」
「その通り! さあ、大人しく斬られな!」
「そう易々とくらうかぁ!」
大剣はかなりの重量を誇る武器の一つだ。それによって強力な一撃となるが、動きが遅くなってしまう。小さな体格のナナシにとっては、それを振るうことすら難しくなる。
何が言いたいのかというと……、ナナシが決めようとしてた一撃を簡単に避けられたのだ。さらに運の悪いことに、刃が地面にめり込んでしまい抜けなくなってしまった。力をコントロールして腕を変形させてしまえばいい話なのだが、混乱していたナナシにとって、それは出来る話ではない。
「し、しまった! ぐっ……抜けない!」
「今度こそ息の根を止めてやる! 死ねぇ!!」
「そんな事させると思ってるのかい?」
口の炎を溜め込み、火炎放射を浴びせようとするカイザー。そこを、勇義が殴って止めた。
「ぐぅぅぅ! 星熊勇義、貴様ぁ……!」
「私達を忘れてもらっちゃぁ困るんだよ」
「ナナシさん、慌てないで。剣を別の形に変形させれば良いのです」
「わ、分かった!」
さとりにアドバイスを受けたナナシは深呼吸をして、目を瞑って別の武器をイメージする。再び暖かい力が腕を駆け巡っていき、一方が刃に、もう一方には不思議な紋章が彫られてる腕が現れた。
その名は片手剣、『破龍剣【邪絶一門】』。双剣の【真絶一門】より威力は落ちるが、己を守りながら手数で攻めていく武器だ。しかし、片手剣ならば盾が付いている筈だがナナシの腕には、盾らしきものが無い。何故か?それは後に明らかになる。
「殴るのは良いが、我輩にはコレがある!」
「ま、また爆発!?」
「吹き飛べぇ!」
カイザーは、身体から赤色の粉塵をばら撒くと、地面を軽く蹴る。
その瞬間、大爆発が発生し、爆炎は勇義を包み込んだ。
「ぬがぁぁぁ!」
「勇義さん!」
「小娘。貴様は我が炎で灰にしてくれる!」
さとりの目の前に、炎の渦が迫る。さとりは弾幕で炎の勢いを殺していくが、カイザーはさらに炎の勢いを強くした。
カイザーから放たれる熱と、弾幕を放っているせいで、さとりには疲労がたまっていく。段々炎が近づいていき、さとりも危機感を感じていた。
「はあっ!」
すると、さとりの目の前に光の壁みたいな物が現れ、さとりを炎から守った。
「お待たせ!」
さとりが右を見ると、左腕を発光させて何かを展開しているナナシがいた。
「ナナシさん、それは……?」
「片手剣の能力なんだけど、どうやら盾の代わりに結界を張るみたいだね。それじゃあ行くよ!」
ナナシは刃に、赤と黒が混じった稲妻を纏わせる。そしてその刃をカイザーの腹に突き刺した。
その稲妻は、龍から忌み嫌われしもの。カイザーにとっては毒も当然だった。
「ぬぐぁぁぁ!まだだ!まだ我輩は倒れん!」
「あっ、そう。それなら、しつこくやってやるよ!」
再び身体を切り裂き、キックをお見舞いする。さらに腕を元に戻し、アッパーをくらわせた。
だがカイザーもやられっぱなしではない。ナナシの腕を掴むと、そのまま捻るようにナナシを宙に浮かばせた。そして足に熱を纏わせると、宙で回転しているナナシの腹にその灼熱の蹴りを打ち込む。高く放り上げられたナナシに、カイザーは火炎放射を放った。
「あっちぃぃぃぃぃ!」
「ふっ。このまま……ぬ?」
カイザーは足に何かがいるのを感じた。そこに目を向けると、服が所々焦げている勇義がカイザーの足にしがみついていた。
「な、何をする! 放せ!」
「動きは止めた! さとり、叩き込みな!」
「了解です!」
さとりが勇義を踏み台にして光弾を放った。しかし、疲労のためにその威力は低下してしまっていた。カイザーは手で軽く払う。
「ふん。そんなもので我輩を殺せると思ってるのか?」
「何言ってるんですか? 私と勇義さんは、今の状態では殺せると思ってません」
「何?」
「そこで問題だ。高く放り投げられた石が、馬鹿デカい岩になって自分に落っこちてきたらどうなる?」
「っ!!」
カイザーは、咄嗟に上を見た。そこから何かが落ちてくる。
それは、腕をエピタフイディオンに変形させて振り下ろそうとする、ナナシの姿だった。重い物体が高いところから落ちてれば、そのエネルギーはとても大きくなる。
「いっけぇぇぇ!」
「ぐっ、こんなもの!」
腕を交差させて身を守るとするが、ナナシはどんどん力を込めていく。やがてその腕は斬りおとされた。
「ぐああああああっ!? 腕が、腕がぁぁぁぁ!!」
「これで終わりだ!」
カイザーの顎に蹴りを当てるナナシ。カイザーはそのまま、仰向けに倒れた。
ナナシは腕を片手剣に変え、刃を喉に突き刺そうとする。しかし、勇義がそれを止めた。
「止めな。もう、コイツは死ぬ」
「ふっ……ふふっ……。まさか我輩が敗れるとは……。小僧、貴様のその力は我等にとって非常に危険な物。お前を殺そうとする者が、次々と来るだろう。覚悟……するんだな」
カイザーはそう言うと、そのまま目を閉じ、二度と起きなかった。
その日、幻想郷に雨が降った。僅かな間とはいえ猛暑が続いていた時には、まさにグッドタイミングといえるだろう。
人里では、老若男女ほとんどの人間や妖怪が、家から飛び出て雨が降ったことを喜んだ。ある子供は服を脱いで全身で雨を浴び、ある老人は天に向かって「ありがたや」と呟いている。
リオと霊夢も外へ出ていて、その雨の心地よさを感じていた。
「終わったみたいね」
「そのようだな……」
「こんな大規模な異変を起こす敵を止めるなんて、その解決者は何者なのかしら?」
「さあな。ただ、一つだけ言えることがある」
「なに?」
「そいつはきっと、俺たちと共闘する日が来るかもな」
「何で分かるのよ」
「お前と同じさ。勘だよ。勘」
霊夢は、リオの言葉に苦笑いしながらも、雨による涼しさを味わう事にした。