東方竜人帳   作:G大佐

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2015年9月1日、大規模編集


人になる訳

 ここは幻想郷のどこかにある屋敷。この地には人間は住んでいない。

 そんな人間が居ない場所に、二人の女性が居た。一人は、八雲紫。幻想郷の創設にも関わったと言われているスキマ妖怪である。もう一人は八雲藍。紫の式神であり、普段は結界の管理などをやっている。

 紫の手には大きな袋が握られている。中には青空のように澄んだ色をしている宝玉、吹雪のような荒々しさを出しながらもどこか美しさを感じさせる宝玉が入っていた。

 

「紫さま、幻想郷での猛暑騒ぎは、地底に突然現れた付喪神とさとり妖怪、星熊勇儀によって解決されたそうです」

「報告ご苦労様。付喪神のほうも気になるけど、一番は犯人ね。犯人はまたあの鳥頭?」

「それが……龍だそうです」

「……なんですって?」

 

 紫は怪訝な表情を浮かべた。幻想郷にとって龍とは、神に値する存在である。仮に外の世界から来た龍だとしても、神や妖怪などの避難先である幻想郷を危機に陥らせて、何をしたいのだろうか?

 

「この間の嵐の異変と同じように、強大な力を持った龍ではないかと」

「そう……。付喪神のほうはどうなの? 脅威になるかしら?」

「いえ、人間や妖怪などに対してはかなり友好的だそうです。しかし龍を討ち倒したそうですから、もし不穏な動きが見られれば警戒するつもりです。……それと、さとり妖怪からこのような物を頂きました」

 

 藍が紫に渡したのは、赤い宝玉だった。ロウソクとは違い、山火事のような荒々しい炎を感じさせる。受け取った紫は、少し真面目な表情になってしばらく黙り込んだ。しかしすぐに藍に言った。

 

「とりあえず、中に入りましょうか?」

 

 

 

 

 屋敷の居間に入ると、二人は向かい合うような形で小さな卓袱台に座った。卓袱台の上にはさっきまで持っていた宝玉入りの袋が置かれている。藍は素早くお茶を淹れて紫に差し出すと、自分も座った。

 ズズゥーっとお茶を飲んだ後、紫は口を開く。

 

「ねぇ藍。ここ最近、龍による異変や騒動が多くないかしら?」

「そうですね。嵐の異変、突然の猛暑……。これらに関する黒幕がいるのならば、厳重に警戒する必要があるかと」

「良い判断だと思うわ。ところで藍。この間、人里で焼き鳥屋をやっているリオと、守矢神社に居候している護が話しているのを盗み聞きしたのだけれど……」

「また貴女はスキマを使って……」

「話は最後まで聞きなさい。なんでもリオがいた世界では、龍などのことを『モンスター』と呼ぶらしいわ。護や影夜、白斗なんかは、人間でありながらモンスターの力を持ってしまった珍しいケースなのだそうよ」

「『モンスター』……。外の世界の言葉ですか。それで?」

「もともとリオは、その世界にいるモンスターだったらしいの。あぁ安心しなさい。異変の黒幕とは違うわ。それらに比べたら力は劣るらしいから」

 

 はぁ、と少し気の抜けた返事をする藍をよそに、再びお茶を飲む紫。一息つくと再び話し始めた。

 

「彼はもともと人間の姿ではなかったらしいのよ。でも不思議じゃない? 人の姿をしていないものが人の姿になるなんて、犬がいきなり人間になったようなものよ」

「不思議でしょうか? 多々良小傘などのような付喪神は、数こそ少ないですが擬人化してる者がいますよ」

「それでも耳とか尻尾とか名残は残るでしょう? リオには、それが無いの」

「では何故?」

「リオから感じたのよ。……この宝玉と似たような力を」

 

 バッ!と藍は後ろへ飛び退く。その宝石に危険な力があるかもしれないのだ。当然の反応ともいえる。

 紫は「安心しなさい」と言うと、袋から宝玉を取り出しながら説明する。

 

「この鋼のような色をしている宝玉は鋼龍の宝玉。嵐を拡大させていたクシャルダオラの宝玉よ。そしてこの澄んだ色の宝玉は、天空の龍玉。異変の黒幕アマツマガツチのものよ」

 

 ふぅと溜め息をつくと、静かに言う。

 

「今は龍の肉体が無くなって力は弱まっているけど、もしこの力が他の力と反応を起こしたらどうなるかしらねぇ?」

 

 つまり紫はこう言いたいのだ。

 

 

 幻想郷に溢れる多種多様な力が、宝玉の持つ力に干渉したのではないか?

 そして、干渉してしまった結果が擬人化なのでは?と。

 

 

「で、ですが! あの巨虫襲撃の黒幕はどうなるのでしょうか? 彼女らは宝玉を持ってませんでしたよ?」

「群れを持つモンスターは、長い年月を生きた固体が統率者になるそうよ。おまけに彼女らは『人間を殺す』という強い意志によって動いていたわ」

 

 藍は納得した。ようは付喪神と同じ感じだったのだ。

 相手は長い年月を生き、歪んだ形であるが強い意志があった。もしそんな者に、大きな力を持った存在が力を分け与えて人間の姿にさせたら・・・。

 藍が考えているうちに、紫は懐から博麗印のお札を取り出した。お札にはよく分からない文字が書かれているが、まぁ「封印用」と書いてあると言っておこう。宝玉1個ずつにお札を貼っていく。

 なんでも、この宝玉が体内にあるときは膨大な力があったのだという。龍の命が途絶えると力も落ちるようだ。しかし、場合によっては危険な代物になるという事にかわりはない。

 

「この力を悪用されないように、封印しておかないとねぇ」

 

 札を貼り終えると、袋を戸棚に入れてまた札を貼った。宝玉に貼ったものより効果は薄いが、そこらの雑魚妖怪に破れるようなことは無いだろう。

 

「藍、強い力をを持つモンスターが現れたら充分に警戒しなさい。もし異変を起こそうものなら……」

「霊夢や守矢の巫女に頼めばよいでしょうか?」

「他にも、モンスターの能力を持つ護たちにも頼むことにするわ。さ、行きましょう。地底に現れた付喪神にも会ってみたいわ」

「御意」

 

 二人を屋敷を後にする。屋敷に結界を張ると、紫は誰にも気付かれずに呟いた。

 

「もし神に近い力を持つ龍が幻想郷を滅ぼそうものなら、その時は…………全力を尽くしてやるわ」

 

 その時の紫の目には、強い覚悟が宿っていた。

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