私、十六夜影夜の目覚めは早いです。この紅魔館の主であるレミリア・スカーレット様にお仕えする以上、様々な仕事をこなさなければなりませんから。
しかし、そんな私の目覚めは……義理の姉である咲夜姉さんよりも早いのです。なぜなら……
「何やってんだ姉さぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
咲夜姉さん(以降、姉さんと略します)が、今日も下着姿で私の布団に入っています。そう、『今日も』です。
仕事の時や公衆の面前ではクールビューティーな雰囲気を見せる姉さんですが、私の自室や、私と二人っきりの時は凄くデレデレになるのです。これは、世間で言う「ブラコン」という類なのでしょうか……。
「あら、おはよう。影夜♪」
「言ってるよね!? 『俺もいい歳だから勝手に布団に潜り込むのはやめて』って昨日の夜も5回ぐらい言ったよね!?」
「あら? 私には『毎朝下着姿で』って言ってるかと……」
「言ってないよ!? 下着の『し』の字すら言ってないよ!?」
「大声を出すのはやめなさい影夜。お嬢様を起こすにはまだ早い時間よ」
「その原因を作ったのはアンタだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私、お嬢様や妹さまの前では敬語(のつもり)ですが、自室だと口調が変わってしまうんです。内弁慶ですかね?
とにかく、こんな感じで朝が始まります。
「それじゃあ、今度はパチュリー様のところへ紅茶をお願い」
「はい」
お昼です。瀟洒モードに戻った姉さんの指示で、私はパチュリー様のいる図書館へ向かいます。
「失礼します、パチュリー様。紅茶をお持ちしました」
「……ご苦労様。もうちょっとしたら読み終わるから、少し待っててちょうだい」
「かしこまりました」
ふと見ると、司書である小悪魔さんが抱えていた本の山を崩しかけている!? 私は迅竜の能力を使って、素早く崩れ始めた本を受け止めました。
危なかったです。埃を被ってる本を崩したら、喘息気味のパチュリー様に害となるところでした。それに小悪魔さんも怪我をするところでしたね。
「大丈夫ですか?」
「いえ! だ、だ、大丈夫です!」
「なら良かったです。気をつけてくださいね?」
「はい!」
小悪魔さんの顔が妙に赤いですねぇ。紅霧異変で共闘して以来、小悪魔さんは私に会うたびに顔を赤くします。
その反応に、もしかしたらと思ってしまいます。しかし私も正直分からないのです。小悪魔さんが恥ずかしがりやなのかもしれません。ですが彼女のアプローチを無視するわけにもいきません。
……そもそも私は、お嬢様に拾われる前までは、人として愛されたことなどありません。
いや、たった一人だけいましたが、私を認めない人間によって……。おっとっと。危なく昔の感情が蘇るところでした。一言でいうならば、私は『他人を愛する心』が分からないのです。
さて、暗い話はここまでにして、小悪魔さんにも紅茶を差し入れなければ。
「どうですか? パチュリー様も読書を終えたようですし、少し休憩なさっては?」
「……良いんですか、パチュリー様?」
「……時には休憩も必要よ」
「ありがとうございます!」
小悪魔さんはパァァァと笑顔を輝かせ、紅茶のもとへひとッ飛び。喜んでくれて何よりです。
……そろそろお掃除の時間ですね。
「私はこの辺で失礼いたします。カップなどは後で片付けておきますので」
私は重いドアを閉めて、長い廊下を歩くのでした。
今の時間は夜です。特に語ることも無いので、この時間までの行動は省略させていただきました。
私は今、お風呂にいます。『従者は常に清潔であれ』という姉さんのお言葉のもと、1日の汗をここで流します。
「ふぅ~……。やはりお風呂は良いですねぇ」
ガラガラガラ
……ん? なぜ引き戸が開いたのでしょう? いくら姉さんといえど、私のシャワータイムには乱入しないはずです。
「あれー? 誰かいるー?」
「り、鈴姉さん!?」
もう一人の姉とも言える人、美鈴姉さんが入ってきました。普段は丁寧な口調ですが、やはり私の時だけタメ口です。
それよりも! なぜ鈴姉さんが入ってくるんですか!?
「まだ入ってなかったんですか!?」
「今晩担当の妖精に任せておいたから、今の私はお風呂タイムなのだ~」
「なるほど……って、何気なく私に抱きつかないでください!」
自然な流れで、私の腹に手を回す鈴姉さん。背中には豊満ともいえる女性の象徴ががががががが!
「当たってます! 当たってますって!」
「当てているのだ~」
むふー、という声を発して私にその……胸を押し付ける鈴姉さん。私の身体は恥ずかしさで熱くなっていきます。
ガラガラガラ!
「やらせないわよ、美鈴!」
「ね、姉さん!」
これはチャンスです! 姉さんに助けを…………
「影夜に抱きつくのは私よ!」
救いの船は沈んだよチクショウ!っていうか抱きつくのは私って、アンタは毎朝抱きついてるだろうがぁ!
「毎朝、咲夜さんは影夜に抱きついてるじゃないですか! 咲夜さんばかりズルイです!」
「うるさいわよ! その無駄な脂肪の塊をぶら下げて誘惑するんじゃない!」
「そんな発言をしてるから、一時は霊夢にPADを勧められるんですよ!」
「言ったわね! 人が気にしてることを!」
私の存在を忘れて、(主に胸で)口喧嘩をする姉さん二人。っていうか、何気なくメタ発言っぽいことを言いましたよね?
とりあえず、この隙に逃げましょう。三十六計逃げるにしかずです。
場所は変わって私の自室。私は寝る前に、護さんから借りたある漫画を読んでます。
「……ふぅ、明日はこの続きを読むことにしますか」
私は、時を止める吸血鬼が主人公に向かってナイフを大量に向けるシーンで、本を閉じました。いつか私も、ナイフを持ってあのようなポーズをしてみたいですね……。
きっと明日も、姉さんが潜り込んで私が叫ぶことから始まるでしょう。ですがこれで良いんです。私にとっては幸せな日常ですから。
では皆さま、おやすみなさいませ。