「ふぅ……」
地底にある橋で、パルスィは溜め息をついていた。川には情けない自分の顔が映っている。
「どうしちゃったんだろ、私……」
それは3日前のことである。
「くっ!数が多い!」
旧都へ続く大きな橋付近で、小型モンスターが大量発生していた。地面から勢いよく出てきては、妖怪や人間を吹き飛ばす。時には上半身だけ身体を出し、火を吐いてくる始末だ。
このモンスターの名は、溶岩獣(ようがんじゅう)ウロコトル。
一匹の脅威は大した事ないが、今は群れで攻撃を仕掛けてきているため侮れない。このままでは旧都に入り込むのではと思ったパルスィは、ウロコトルを駆除しようと奮闘していた。
「カタカタカタカタ……」
一匹のウロコトルが嘴を鳴らして威嚇する。するとパルスィを囲むようにウロコトルが全員出てきた。
「一斉に火を吹いて片付けようってわけ?」
苦笑いをするパルスィ。しかし、その顔には余裕がある。
「どうやら、こんな私にも応援してくれる奴がいるみたいよ!」
すると、一匹のウロコトルが痛みを感じて地面から飛び出した。
「これ以上はやらせないよ!」
手でピストルの形を作り、ウロコトルを睨みつけるナナシがいた。
「コイツはちょっと特別でね? 様々な弾丸を発射できるんだ。例えば、これとかね!」
手首をカクンと曲げて、すぐに戻す。そして指先をウロコトルに向けると、そこから火が吹いた。
「『氷結弾』、凍りな!」
ドンッ!ドンッ!という発砲音と共にウロコトルの身体に着弾しては、氷が弾け飛ぶ。慣れない急激な冷たさに、ウロコトルが死ぬのも時間の問題だ。
「私がトドメを刺してあげる。『グリーンアイドモンスター』!」
パルスィがスペカを唱えると、ウロコトルを取り囲むように緑色の弾幕が張られる。その弾は全てウロコトルに命中し、完全に動かなくなった。
「いえーい! ナイスコンビネーション!」
「正直言って危なかったわ。あんたの姿を見てなかったら諦めてたわよ」
「えへへ……」
少しだけ頬を赤くして照れるナナシに、パルスィは微笑んでいた。
旧都の一角にある、やや大きめの家。そこにナナシは住んでいた。
「うむむ……。もうちょっと急いで持ち帰れば良かったかなぁ?」
何やってるかと言うと、倒したウロコトルの解剖をしていた。少しでもモンスターの生態を研究し、異変解決などに役立てようと思ったからだ。
しかしウロコトルの腐敗は思ったよりも早く、たとえ解剖したとしても、どのような行動をするのかが分からない以上、立ち回りは不利だろう。
「どうせなら、そのモンスターを尾行しちゃえば……」
「あんたは夢中になると周りが見えなくなるから、あっという間に食べられるわよ」
「うわぁっ!? い、いつの間にいたのさ、パルスィ!」
「『どうせなら~』の辺りからよ。それにしても、変わった生き物よね。これ」
「うん。妖怪とは違う、人間以上の存在と言ってもいい生き物……モンスター。謎だらけだよ」
「地上でもかなりの数がいるらしいわよ。あんた一人じゃ研究も大変なんじゃない?」
そう。まだモンスターは未知数だ。まだ発見されてない個体がいるかもしれないし、これからどんどん別世界から幻想入りしてくるだろう。いくらなんでも、一人で研究するのは無理がある。
「うん……。モンスターの研究は永遠かもね」
「じゃあさ、私や勇義とかで手伝ってあげようか?」
「え?」
「大抵は暇だから私たちも戦い方を学べる、あんたは研究が進む。一石二鳥じゃない?」
「なるほど~!」
満面の笑みでうなずくナナシ。しかし、その次の発言がパルスィに衝撃を与えた。
「ありがとうパルスィ! 僕、パルスィのこと、大好きだよ!」
そして今に至る。きっとナナシは「親友として」という意味で言ったのかもしれないが、あまり異性と接した事のないパルスィにとって、「大好き」発言は心をときめかせた。
「あれは異性としてではなく、友達として好きという意味よね……。うん! そうに違いないわ! でも……」
悶々とする気持ちに、パルスィは悩み続けた・・・・。
とある居酒屋では、ナナシがジュースを飲んでいた(居酒屋に子供を連れてくる妖怪もいるので、ジュースを出せるようにしてるらしい)。
「はぁ……」
「よっ、ナナシ! そんな溜め息ついてどうしたんだい?」
ジュースの入ったコップを片手に溜め息をついていると、勇義が話しかけてきた。
「あっ、勇義。うん……。ちょっとね……」
「悩みがあるんだったら相談してみな。聞いてやるからさ」
ナナシは少し黙ると、意を決したように話し始めた。
「僕ね、パルスィに会うと、心が苦しくなる……のかな?」
「なんで疑問系なんだい……」
「でもパルスィに会わなくなると、もっと心が苦しくなるんだ! これって、病気かな?」
「…………」
勇義は感じた。ナナシはパルスィに恋している。だけど精神がまだ幼い故に、恋心に気がついてない。教えてやるべきか迷った。教えてあげたいが、まだ幼いナナシに恋が分かるだろうか?
それに、このまま教えるのはつまらない。どうせなら自分で気がつかせてあげよう。
「ナナシ。それは病気なんかじゃない。ある条件を満たすと現れる現象さ」
「そうなの?」
「ああ。死にはしないから安心しな」
「そっか~」
「(二人とも頑張りな。互いに頑張れば、結ばれるはずだ)」
勇義は心の中で二人に応援しつつ、思いっきり酒を口に流し込んだ。