「『グレイソーマタージ』!」
早苗がスペルカードを唱える。そこから赤と青の光弾が星の形を作るように現れ、やがて花の形になるように広がっていく。夜空の月光と蛍の活性化による発光、そして弾幕の鮮やかさが、この森をより一層眩しくさせた。
「なっ!? 人間がこんな技出せるなんて、ありえねぇ!」
「残念ですが、目の前に起こっているのは本当です!」
「ちっ! 面倒くせえ!」
彼はその場から跳躍して切り抜けようとする。しかし、早苗が追いかけながら、星の形になるように並んだ光弾を撃ってくるために、隙間が埋まって行く。最初は雷球を飛ばして相殺して行くオウガだったが、やがてその隙もなくなってきた。
「(こうなりゃ、無理矢理押し切るしかないな)」
オウガは自分の身体に雷を纏い始めた。さらに、周りには雷球を漂わせて身の守りを完全にする。そして……そのまま弾幕の中に突っ込んだ。
「どぉりゃあぁぁ!」
「だ、弾幕の中に突っ込むなんて、あなたは無茶苦茶ですか!?」
彼の纏う雷が、弾幕を次々と打ち消して行く。早苗は、まさか突っ込んでくるとは思わなかったために、慌ててその場から逃げようとする。
しかし、高低差の激しい山で育ってきた彼にとって、距離をつめることは難しくない。さっきよりも高くジャンプして、一気に追いついた。
「あ…………」
「今度はこっちの番だ」
近距離で雷球を早苗に当てたあと、吹き飛ぶ前に彼女の首を掴んで引き寄せる。引き寄せたあとは掴む力を強くして、首の骨を折ろうとする。
「ぐ、ぐぐ………!」
「じっくりと苦しみながら死んでいけ」
だが、早苗とて伊達に長い間戦ってきたわけではない。彼女はオウガが自分を見ている隙に、弾幕用のお札を3枚ほど足元にばら撒いた。鮮やかな色合いを出すことなく、黒い煙と共に爆発音が響く。
足元をやられたオウガは、その衝撃の強さにゴロゴロと転がるばかり。やがて体勢を立て直すと、そこにはお札を構えた早苗が居た。
「はあっ!」
札を投げ飛ばし、そこから更に弾幕を展開する。オウガが札を避けても、そこへ回り込むかのように光弾が迫る。木の枝に飛び移ろうとしても、早苗が飛んで接近戦をしてくる。弾幕を放つ前に距離を詰められる事など、妖怪退治でもよくあったことだ。その時のために、彼女は格闘もそれなりに出来るのである。
「ハァ……ハァ……。舐めてたぜ。この俺、知らない内にお前を見下してたかもしれないな」
「人間は無限の可能性を秘めている。そう思いませんか?」
「そうかもしれないな。なら、これで相手してやるよ!」
そう言うと、オウガは雷光虫をいつもよりも大量に呼び寄せ始めた。段々と彼の身体は碧色に光っていく。その眩しさに、早苗は手をかざして目を守ろうとする。やがてバチバチと音が激しくなってくると、ついにその光は最高潮に達した。
「オオオォォォォォォォォォォン!!」
狼のような声を上げると同時に、彼に落雷が生じた。思わず目を瞑る早苗。目を開けるとそこには、姿の変わったオウガがいた。額からは角が生え、尻尾のような物まで生えている。逆立った髪はパチパチと音を立てている。さらに、彼の身を守るかのように雷まで発生している。
「超帯電モードで……行くぜオラァ!」
「っ! は、早い!」
オウガは駆けると同時に雷を拳に送り込む。早苗も急いで後退しようとするが、大きめの石に躓いて尻餅をついてしまう。こればかりは運が悪かったと言うしかない。
無双の狩人はそれを逃さない。拳を振り下ろした。碧色に光るそれは、早苗の巫女服を焦がすのに十分過ぎた。口の中に酸っぱい物が込み上げてくる。追い打ちといわんばかりに彼女の身体は蹴り上げられる。
「っあぁ!」
「容赦しねえ。今度はこれでもくらっときやがれぇ!」
大きめの雷球を作り出し、早苗に向かって放たれる。早苗は、これ以上の攻撃を危険と察して、結界を張ろうとした。
そこへ、大きな影が早苗の前に現れた。
「これ以上はやらせない!」
雷球はその影によって遮られ、弾けた。早苗は知っている。まるで岩のようにゴツゴツしたその鎧は……護のものである。
オウガは驚いていた。護は、今居る場所から少しばかり離れていた場所にいた筈だ。それなのに早苗を庇う事が出来たということは、かなりのスピードでここまで来たということだ。それも、雷球がぶつかる直前に鎧化したのだろう。
「(やはり違う。今まで俺は、鎧化した腕を鈍器のように振るっていた。だが今は、俺と一体化してるような感じだ。自分の腕と同じなのに、なんで気付かなかったんだ)」
「なぁにブツクサ言ってんだ! 俺の攻撃を止めたってことは、お前と二回戦目をやるのかい!」
「その通り。俺からやらせてもらう!」
護が一瞬で鎧化を解除すると、オウガに拳(鎧化)を叩き込む。だが、超帯電モードで筋肉が膨張しているのか、少し怯む程度だった。それでも護は攻撃を止めない! 今度は手の平に力を込める。
「これでどうだ!」
「熱っ! くそ、ここまでとはな!?」
「『マスターファイアー』!」
護の十八番である『マスターファイアー』。普段は射程距離が長いが、今放ったのは違った。熱線の長さはいつもよりも短いものだ。
これは出力を少し抑えたもので、機関銃ほどではないが連射も出来る技だ。オウガは熱線がいくつも飛んでくる状況に、冷や汗をかいていた。
というのも、オウガは体毛を使って自身の電気エネルギーを溜め込んでいる。その体毛が燃やされて無くなったら、不利な状況になってしまうのだ。さすがにそれだけは避けなくてはならない。
「ちっ! どらっせぇい!」
「ぬおっ!?」
オウガが尻尾で護の手をはたく。その隙に腹に拳を入れる。今の彼は鎧と一体化してるような状態なので、衝撃がよりダイレクトに伝わる。「ぐっ」とうめく声が出そうになるが、何とか踏みとどまる。すると今度は、爪を鋭くして顔面を狙ってきた。
「っ!」
「テメェの鎧の弱点っ! それは、関節や目などの甲殻が薄い事だ!」
「ぐぅおおおおお!」
何とか甲殻が厚い手で受け止めるが、少しばかり甲殻に刺さる。さっきも言ったように、皮膚と一体化してるような状態だ。痛みが殺気よりも強くなる。その場で護はうずくまる。
「ぬぐぅ…………」
「さぁ、これで終いだ!」
動けないところを突いて、尻尾をなぎ払う。その勢いはとても強くて、大木はへし折るほどだ。尻尾は護の首を狙っている。骨を折られたら、ジ・エンドだ。
早苗は駆けた。護は何かチャンスを狙っている。でなければ、あんな風にジッとしているわけがない。見れば彼は、腕を上げようとしているではないか。痛くてたまらないはずなのに頑張って上げようとしている。
「ぐっ、ぐぐぐ…………早苗?」
「お手伝いします、護さん。私だって役に立てるんですから」
「それじゃあ、一緒に行くか!」
「はい!」
オウガが爪を突き刺そうとする。しかし、二人は大きな声で叫んだ!
「「マスターファイアー!!」」
「何ぃっ!?」
巨大な熱線が現れる。二人が唱えたからなのか、いつもよりも巨大で、熱いものに感じた。オウガはその美しさに見惚れ、動きが止まってしまった。そして敗北を悟ると、小さく笑みが浮かんだ。
「やれやれ……。人間ってのは、本当に分からない生きもの―――――」
オウガはそのまま炎に飲み込まれ。やがて、大地にひれ伏した。
満月の夜の下、二人は神社への帰途についた。
「すぅ……すぅ…………」
「寝てしまったか。もうちょっとだからな」
護は、少しだけドキドキしていた。背中に当たる豊満な胸、髪の毛から香る優しい匂い、幸せそうな寝息……。よくぶっきらぼうだと言われる護も、こうしてドキドキする事があるのである。
ふと、空を見上げる。そこには道を照らすのに十分な光を放つ月があった。その時、早苗が何かを呟いた。
「ん……、護さん……」
「ありがとう、早苗。お前が俺を受け入れていなかったら、きっと暗闇しか見れなった。お前は光だ。これからもよろしくな、早苗……」
鈴虫の声が響く山の中を、護はゆっくりと進むのだった。